アニソン制作もアイドル楽曲プロデュースもCubaseで行う ~ YUMIKO

今月からの新たな試みとして、DTMステーションSteinbergとのコラボレーションによるアーティストインタビューを連載していきます。その第一回目は、先日、TVアニメ「カードファイト!! ヴァンガード レギオンメイト編」の新エンディングテーマ曲「Get back yourself」でデビューしたシンガーソングライターのYUMIKOさん。

デビューといっても、アニソンの世界においては、長い実績を持っているYUMIKOさん。「ひぐらしのなく頃に解」「ヘタリア」「うみねこのなく頃に」「神のみぞ知るセカイ 」「GON -ゴン- 」「ちゅーぶら!! 」……といった数多くのアニソンの作詞・作曲をしてきた方なので、ご存じの人も少なくないと思います。そんなYUMIKOさんは、Cubase VST5時代からのCubaseユーザーとのことなので、どんな使い方をしているのかなど伺ってみました。

作詞・作曲家であり、ボーカリスト、プロデューサでもあるYUMIKOさんにお話しを伺いました
撮影協力:Being Music School



--YUMIKOさんのこれまでの活動を見ると、アニメ関連が非常に多いですが、アニメ関係をはじめたのはどういう経緯だったのですか?

YUMIKO:大学卒業後、即、フリーの作曲家というわけにはいかなかったので、一度OLとして働いていました。といっても着メロを制作する会社で選曲や制作に携わっていたんです。そのころは自分で曲を書いて、ライブ活動をしていたのですが、今でもお世話になっているフロンティアワークスのプロデューサーの岩田さんから「『ひぐらしのなく頃に』のキャラソンを作っているんだけど、参加しないか?」と声をかけてもらったのがきっかけ。確か2007年ごろだったと思いますが、そこからアニメの世界に入っていきました。アニメの音楽制作に関わることについて、とてもワクワクしたのを覚えています。


「夢は一生音楽をやっていたい」というYUMIKOさん 

--確か、YUMIKOさん、結構以前からのWindowsでのCubaseユーザーでしたよね?もう、アニソンを始めたころにはCubaseだったんですか?

YUMIKO:はい、Cubaseを使いだしたのは大学のころです。一番最初はミュージ郎を買って、そこにバンドルされていたCakewalkを使ってDTMを覚えました。その後、今も仕事を一緒にしている作編曲家の原田アツシさんにCubaseを勧めてもらって、使いやすそうだな……と思い、購入したんですよ。確かCubase VST5だったと思いますが、それ以来、ずっとCubaseですね。CubaseSXの時代、Cubase5、Cubase6.5、そしてCubase7と、途中、アップデートしなかったバージョンもいくつかありますが、結構買ってますよ(笑)。


Cubase VST5の画面(藤本の資料より)

--Cubase VST5って懐かしいですね。私はリットーミュージックでCubaseのガイドブックをずっと書いてきましたが、スタートはCubase VST5でした!これまでCubaseもずいぶん進化してきましたが、どんな使い方をしてきたのですか?
YUMIKO:やっぱり、当初はMIDIが中心でした。音源も最初は外部音源であるSC-88Proを使っていましたが、だんだんソフト音源になっていきましたね。いま使っているのはCubase 6.5なんです。Cubase 7もすぐに買ったものの、仕事が落ち着いたらゆっくりアップデートをしようと思いつつ、いまだ机の上にかざってあります……(笑)。最近は、HALion Sonic SEでほぼ事足りていますね。

--ええ?テレビで流れている曲、みんなHALion Sonic SEで鳴らしているということ?
YUMIKO:いいえ、私は作詞・作曲担当で、アレンジはMIKE(野村真生)さんなど、アレンジャーさんにお願いするため、その作曲用の音源としてHALion Sonic SEを使っているんです。これも専用のテンプレートができているので、使う音色もだいたい決まっています。キックやSEなどはオーディオで突っ込んだりしますが、打ち込みはMIDIでメロとコード、ベースやストリングスを入れていく感じです。そこに仮歌を録音してデモを作成し、アレンジャーさんに渡しています。

--なるほど、Cubase、そんな使い方をされているんですね。となると、オーディオ機能はあまり使っていないんですか?

YUMIKO:アニソンとはまったく別に、2011年ごろから名古屋のアイドルグループ「BOYS AND MEN」の楽曲プロデュースという仕事をしています。ここでCubaseがとにかく大活躍していて、ボーカルの録りや編集などオーディオ機能をフル活用しています。


名古屋に持っていく出張レコーディングセット

--楽曲プロデュースって、なかなかイメージがしづらいのですが、実際どんなことをしているのですか?
YUMIKO:最近、制作期間が非常に短くなってきていて、1曲2週間で完パケすることも少なくないんですよ(笑)。まずは、作曲のコンペを出すところからスタートし、曲が決まったらMIKEさんなどアレンジャーさんにアレンジの発注をします。早いと3日程度で上がってくるので、その間に歌詞を仕上げておき、上がってきたアレンジデータをCubaseのトラックへ流し込みます。そして別トラックに仮歌をレコーディングするんです。ウチでもレコーディングできるよう、簡易的なスタジオにしてあるのですよ。

--YUMIKOさんが仮歌を?

YUMIKO:男の子のアイドルグループなので、ちゃんと男性ボーカリストに歌ってもらってます。協力してくれるボーカリストさんが近所にすんでいるので、朝でも夜中でも「すみませーん!」って来てもらって、すぐレコーディング(笑)。これももちろんCubaseを使ってレコーディングしていて、それを持って名古屋に行くんです。


レコーディング機材はリュックに入れて出張へ 。「かる~い!」

--名古屋にはそのレコーディングデータを渡しておくのですか?
YUMIKO:レコーディング機材一式持って新幹線で行くんですよ(笑)。Cubaseを入れた、このノートPCと、オーディオインターフェイスのUR28Mをリュックに入れて持っていきます。本当にミニマムなセットですが、軽くて便利ですよ!これでメンバーのボーカルを録ってくるんです。

--ASUSのCore i5マシンなんですね。レコーディングスタジオでProToolsで……というのではなく、このCubaseとUR28Mでボーカル録りを?

YUMIKO:はい、最初はスタジオを使っていましたが、データ受け取り後の整理などにものすごく時間がかかることや、メンバーのみんなは1日何本ものレギュラー番組を持っていたりするので、レコーディングスタジオに移動して……というのがなかなか困難で。なので今は、マネージメントする事務所の部屋にスタジオをセッティングをして1人ずつ録っています。、ここで大きな威力を発揮してくれるのがVariAudioです。


ボーカルは録ったその場でVariAudioでエディットしていく 

--VariAudioをかなり活用しているんですね?

YUMIKO:いま、VariAudioがなかったら、仕事ができません!といっても過言ではないです(笑)。時間がない中でのレコーディングだからこそ、録ったその場から、VariAudioを使って調整していくんです。本当は1人1日くらいかけて録音したいところですけれど、やはりスケジュールの問題がありますからね……。とはいえ、一方的に録音するのではなく、本人にも聴かせながら、どう見せたいか、聴かせたいかをすり合わせていくのです。1人1人の想いがちゃんと、ファンの人に届くように、気持ちが入るように。「もうちょっとカッコよくしたい」というのであれば、「じゃあ、もっと表情つけてやってみようか?」といった具合にキャッチボールをしながら進めているんですよ。そうした意味でも、すぐに調整して確認できるVariAudioの威力は大きいですね。また、メンバーが13人もいるので、Cubaseの管理で重要なのが、レコーディングトラックに、メンバーの一人ひとりの名前を付けること。そうすると録音されたデータ一つ一つに名前が入っていくので「Recording389 え?誰の歌?」みたいなことにならない。単純なことではあるけど、こうやっておくと、後で間違えないですからね。


YUMIKOさんが楽曲プロデューサーとして手がたBOYS AND MENのアルバム

--その後のミックスやマスタリングはどうしているんですか?

YUMIKO:その先の作業はスタジオにお願いしています。もちろん最終の調整は立ち合いますが、データ自体はいったん私の手から離れることになります。エンジニアさんは通常ProToolsで作業するので、Cubaseの全ボーカルトラックをWAVで書き出して渡していますね。この書き出しにおいて、結構便利なテクがあるんですよ!

--どんなことなんですか?ぜひ、教えてください!

YUMIKO:ボーカルトラックって、細切れのイベントになりがちですが、それらをすべて選択した上で、Audioメニューの「選択イベントから独立ファイルを作成」を選ぶんです。これによって1本のオーディオデータとしてつながるので、書き出しにおいても分かりやすいんですよ。また、処理が完了したトラックは、こうやってつなげた上で、色付けをしておけば、完了したって分かるから便利ですよ。

飛び飛びのボーカルを選択した上で、「選択イベントから独立ファイルを作成」を選ぶと… 

すべてがつながって1つのオーディオイベントに変換される

--なるほど、トラックを管理するという意味で、よさそうですね。ところで、今回「カードファイト!! ヴァンガード レギオンメイト編」のエンディングテーマ『Get back yourself』でのデビューということですが、アニソンの世界でずっと活躍してきたYUMIKOさんが“デビュー”というのもちょっと妙な気もしますね!裏方から表舞台に立つと、やはり違いはあるものですか?

YUMIKO:これまでは、プロデュースであれば、彼らをどう見せていこうか、アニメの楽曲であれば、どうやってその世界観を表現していこうかと、もがいていましたが、自分でやるとなると、自由度が高くなるんですよね。「これをやったらダメ」という縛りもなく、逆に縛りがなさすぎて苦しかったというのが正直なところですかね(笑)。だから、いろいろと悩んでしまって、初め全然書けなくて…。4曲くらい書いて納得いかなくて、結局締切ギリギリになって追い込まれ、MIKEさんから「今日もらわないと間に合わないよ!」と言われてから、「Aメロまでできました!」、「サビできました!」……って細切れに作って渡して、なんとか間に合わせたんですよね(汗)あはは。
 

裏方での仕事から、今回はアーティストとしてデビューしたYUMIKOさん
--今回の作品でもCubaseを使っていたんですか?
YUMIKO:そうですね。作曲の工程でCubaseを使っているほか、コーラスのレコーディングにもCubaseを使っています。メインボーカル録りは、スタジオで行ったのでProToolsだったのですが、そのプロジェクトが24bi/48kHzとなっていたので、うちでもCubaseを24bit/48kHzに設定した上でコーラスを録った後、エンジニアさんにWAVで渡しています。今回の作品は、自分が何をやりたいか見直すいい機会にはなりました。

--今後の活躍、期待しています。ありがとうございました。
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アーティストインタビュー YUMIKOさん(Steinbergサイト)