ポケミクで起きるグランドループ問題を解決するPocket DI

最近では空前の大ヒット機材となっている学研・大人の科学の「ポケット・ミク」。eVocaloidによるボーカルを単体で鳴らせ、USBでPCと接続すれば、eVocaloidのコントロールができるだけでなくGM音源が鳴り、XGフォーマットのエフェクトも使えるなど、多くの機能を搭載しながら4,980円という価格は衝撃的で、いまだ品薄状態が続いているようです。

そのポケミクや以前紹介したeVY1シールド、単体で音を出すとキレイに聴こえるのに、オーディオインターフェイスを経由させると“ブーン”というハムノイズが出て困っている人も少なくないのではないでしょうか?実はこれ、グランドループと呼ばれる現象で結構難しい問題なのです。それを回避する方法が登場してきたので、紹介してみたいと思います。

ポケット・ミクの出力にPocket DIを組み合わせることでグランドループを回避



以前、eVY1シールドを使った際、かなり大きなハムノイズが乗って、ちょっと問題に感じました。これはポケミクを使った際にも、eVY1シールドほどでないにせよ、結構あったため、「これが楽器メーカーの楽器と、専業メーカーでない機材との違いなんだろうか……」などと勝手に思っていました。

そのハムノイズの音というのは、以下のような感じのものですね。ヘッドホンで聴くと、激しいノイズが分かると思います。

かなり耳障りであり、これで音を鳴らし続けるのはかなり辛いレベル。ところが、条件によってはまったくノイズが感じられないことが両機種ともにあって、不思議に思っていました。たとえば、ポケミクを電池で動かしてアンプに繋いだり、ヘッドホンで聴く場合は、非常にクリアな音だし、eVY1シールドでもヘッドホンで聴く分には、問題がないのです。

ところが、これをオーディオインターフェイスを使ってレコーディングしようとしたり、オーディオインターフェイスをヘッドホンアンプ替わりに使ってモニターしようとすると、すごいノイズが発生してしまうんですよね。

これまで、あまりそんなトラブルを経験したことがなかったので、困っていたのですが、調べてみたり、人に聞いてみた結果、原因がハッキリ分かりました。これ、グランドループと呼ばれる問題だったのです。


PCにポケット・ミク、オーディオインターフェイスをUSBで接続して別々に使う分には問題は生じない

グランドループという言葉、聞きなれない方も多いと思いますが、これは「グランド(アース)への経路が二つ以上ある時に発生するノイズ」で、グランドが一周してしまうと先ほどのようなノイズが発生現象のことを指してます。

ポケット・ミクとオーディオインターフェイスをオーディオケーブルで接続した瞬間、グランドループが構成される
つまり、ポケミク、オーディオインターフェイスをそれぞれPCとUSB接続しているだけでは問題ないのですが、ポケミクとオーディオインターフェイスをオーディオケーブルで接続すると、グランドが一周する結果起きるんですよね。

その辺の事情に詳しい、beatnic.jp武田元彦さんに伺ったところ「グランドループとは本来、配線の輪ができることが、トランスの2次コイル同様の役割をして、外部からのノイズをもらうことを意味しています。でも、ポケミクとオーディオインターフェイスをつないだときに生じる現象は、ループさせた結果、USBからくる電源ノイズの影響を受けるためのもので、原因は少しことなるのですが、総称としてグランドループと呼んでいます」と教えてくれました。

なるほど、USBケーブルとオーディオケーブルというまったく関係ないケーブルではあるけれど、グランド信号は同じであり、それがループしている結果、そんなノイズが発生してしまうんですね。


QUAD-CAPTUREのリアパネルにはGOUND LIFTというスイッチが用意されている 

こうした問題を回避するために、オーディオインターフェイスのメーカーも、工夫をしています。Rolandの場合、QUAD-CAPTUREに「GROUND LIFT」というスイッチを設けており、これをこれを「NON」から「LIFT」に切り替えることで、ループを遮断できるようになっているんですよね。


QUAD-CAPTUREのGRAUND LIFTの構造上、ポケミクの問題は解決しなかった… 

では、これを使えば、ポケミクのグランドループ問題が解決するのかというと、そうはいきませんでした。というのは、QUAD-CAPTUREのGROUND LIFTスイッチで遮断できるのは、オーディオインターフェイスの出力側であって、入力側は無関係。またTRSといわれる3接点を用いた際のSLEEVE部分だけで、その意味でもここでは用を成さないんです。

もちろん、オーディオインターフェイスで録音するのではなく、外部のリニアPCMレコーダーなどで録音すれば、グランドループ問題は回避できますが、やはりPCで直接レコーディングできると、いろいろ楽なんですよね……。

で、行き詰ってしまったのですが、そんな状況を見て、即、行動に出たのが前出の武田さん。beatnic.jpは、KORGのMonotronを基にしたMIDIシンセや重低音少年というベースシンセモジュール、また学研のSX-150mkIIをMIDI化するキットなど、さまざまなユニークな製品を開発する小さなメーカー。そのbeatnic.jpが、このグランドループ問題を解決するための機材、Pocket DIなるものを開発し、即、発売を開始したのです。

本来DI(ダイレクトボックス)は電子楽器とミキサーの間のインピーダンスのマッチングのために使われるものですが、このPocket DIは、USBなどで接続してPCで動かす前提の楽器のグランドと、PCのデジタルグランドとを分離するために設計しました。またプロ仕様を意識して出力端子もミニではなく標準ジャックを採用しています」と武田さん。試しに使ってみると、先ほどのノイズが嘘のように消えてしまいました。皆無とは言わないまでも気にならないレベルのノイズになります。

 

仕組みは至って簡単です。入力と出力の間にトランスを一つ入れているだけ。トランスによってグランドを完全に遮断することができるので、グランドループから解放されるのです。電池も使わないので、扱いも簡単です
ということで、自作系の人なら作ることも簡単のようですね。

Pocket DIの中身はトランスを1つ入れているだけの単純構造ではある
 

実際、武田さんも現在のところ家内制手工業による手作り生産。需要が多ければ外部委託も検討するとのことですが、標準価格は3,200円(税別、送料別)と手ごろなので、私も1つ購入させてもらいました。ちなみに、このトランスの価格をネットで検索してみると1個700円。それが2個に基板にケース、ジャック……と積算してくと自分で作ったほうが高くつきそうな気がするほどですよ……。


Pocket DIを使うことでeVY1シールドの問題も完全解決 

こうしたグランドループを切るためのトランスを使った機材、グランドリフト切断スイッチなどを搭載したDIはありますが、結構高価なものが多いようです。そうした中、3,200円という価格で、Amazonでの購入も可能なので、困っている方にとっては大きな救いになるのではないでしょうか?

【価格チェック】
◎Amazon(CRIMSON ARTS) ⇒ Pocket DI

【関連サイト】
Pocket DI製品情報
beatnic.jp

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