以前はソフトシンセメーカーであったフランスのArturia(アートリア)。最近はSPARK LEのようなドラムマシンを作ったり、MICROBRUTEのようなアナログシンセを作るなど、面白い製品を次々と開発していましたが、またトンでもない発想の面白い製品を出してきました。それが、4月4日に国内で発売となる(一部ではすでに出荷されているようですが……)、BEATSTEPという標準価格17,800円の製品です。
パッと見は、パッドやノブのついたUSB-MIDIコントローラのように思えるのですが、これは内部にマイコンを搭載し、スタンドアロンで動作する立派なシーケンサなのです。もちろん、単に昔のシーケンサを復活させたというわけではなく、PC上のDAWと連携させたり、iPadやiPhoneとつないで利用できると同時に、MIDIシンセサイザ、さらにはアナログシンセサイザでも利用できる、まさにオールマイティーな現在の最新シーケンサとなっているのです。非常に多彩な機能を装備したBEATSTEPについて紹介してみましょう。
Arturiaが発売したオールマイティー接続のステップシーケンサ、BEATSTEP
BEATSTEPはPCのキーボードと比較して、やや小さく薄い機材です。見ると分かる通り、ここには16個のノブと16個のパッドが装備されているほか、大きなノブが1つ、各種操作をするためのボタンが8つ搭載されています。
PCのキーボードより一回り小さいサイズ。しかもかなり頑丈でしっかりした構造
電源はUSB端子からの供給となっており、PCと接続してPCの外部デバイスとして利用できるのはもちろん、USB用のACアダプタから供給すればBEASTEP本体のみで利用することが可能です。また、Lightning-USBカメラアダプタでiPadやiPhoneからも供給しての動作が可能な低消費電力設計の機材となっています。
まずは、開発元のArturiaが全体を紹介するビデオを作っているので、ご覧下さい。
なんとなく雰囲気は伝わるのですが、BEATSTEPで何ができるのかが、いまひとつピンと来ないかもしれません。そこで、少し整理していきましょう。
BEATSTEPには、シーケンサモードとコントロールモードというのがあるのですが、特徴的なシーケンサモードから見ていきます。
これは16個並んだパッドを利用する16ステップのシーケンサとなっており、青く光っているところがオン、光っていないところがオフで、左上から右下へ2列分を繰り返す形になっています。そう、いま話題のRolandのAIRAなどと基本的なコンセプトは同じですよね。
ノブにもステップ番号が割り当てられており、これで音程を調整する
また各ステップの音程は上に並ぶ16個のノブで調整していきます。ここもアナログシンセサイザ、アナログシーケンサの感覚なわけですが、デフォルトのクロマティックのスケールだけでなくメジャースケール、マイナースケールなどを選択すれば、ある程度は音程を作りやすくなります。
もちろん、テンポは自由に設定できるほか、必要に応じてステップの動きを逆回転にしたり、ランダムにできるほか、デフォルトでの1ステップ=4分音符を8分音符、16分音符、32分音符に設定することもできます。
MIDI経由でKORG Volca Bassと接続したところ、BEATSTEPのシーケンサで鳴らすことができた
では、このシーケンサで何を鳴らせるのでしょうか?それが、まさにオールマイティーで、まずはMIDIを使ってハードウェアのシンセサイザを鳴らすことが可能。試しに、KORGのVolca Bass、Volca Keyを使ってみたら、バッチリ動いてくれました。
Lightning-USBカメラアダプタ経由でiPadとUSB接続して演奏。電源供給もiPadからできる
またiPadとLightning-USBカメラアダプタで接続した上で、シンセアプリを起動すれば、それをコントロールすることが可能です。Arturiaが出しているiMiniやiSEMはもちろんのこと、Garagebandの音源でもCubasisの音源でもなんでもOKですよ。
PCとUSB接続すれば、PC上のソフトシンセをコントロールすることも可能です。MacでもWindowsでも、ソフトシンセはDAW上のプラグインとして使うことが一般的なので、わざわざシーケンサ機能があるものを外部からコントロールするというのも、ちょっと妙な気もしますが、これが結構使えるんですよ。
やはりDAWのピアノロールなどで入力してできるフレーズと、ステップシーケンサでできるフレーズには自ずと違いがでてきます。ボタンとノブの操作で作っていくサウンドには独特のノリがありますからね。
リアルタイムにシーケンスパターンを入れ替えて演奏していくのもいいですし、その演奏をMIDIデータとしてDAW側で記録していくのも手です。この際、BEATSTEPはMIDIクロックのスレーブとして動作するので、バッチリ同期もしてくれますよ。
そして、すごいのはBEATSTEPにはアナログシンセサイザをコントロールするためのCV/GATEの端子も用意されています。最近のアナログシンセブームでCV/GATEをコンピュータからコントロールするニーズは高まっていますが、手ごろな機材ってあまりないですよね。でも、BEATSTEPなら、それが簡単にできてしまうのです。
CV信号、GATE信号をアナログシンセサイザに送ってコントロールすることもできた
試しに以前購入した同じArturiaのMICROBRUTEに接続したところバッチリ動作してくれました。ただし、KORGのMS-20miniなど一部のアナログシンセサイザはOCT/VではなくHz/Vの仕様であるため、音程コントロールがうまくいかないようですね。
※追記
MS-20miniの場合はMIDI入力があるので、ここに接続すれば使えます。
Monotribeはファームウェアを2.1にアップデートすることでCV/GATEの入力が可能になります(片側が4極、反対が2極×2というやや特殊なケーブルが必要となりますが)
左サイドにGATE出力、CV出力、そしてMIDI出力、USB端子が並んでいる
そしてBEATSTEPで組んだシーケンスデータはMIDI、USB、CV/GATEへと同時に出力されるため、いっぱい接続しておけば、それらが別の音で同じようになるのも面白いところですね。
以上の通り、BEATSTEPはスタンドアロンのステップシーケンサとして威力を発揮する機材ですが、ステップシーケンサとしての機能はBEATSTEPの半分の側面に過ぎません。そう、前述のとおり、BEATSTEPにはシーケンサモードだけでなく、コントロールモードというものもあります。こちらは、その名の通り、BEATSTEPのノブやパッドをコントローラ(コントロールサーフェイスとかフィジカルコントローラなんて呼ぶこともありますね)として使うモード。
先ほどのArturiaのデモビデオでも最初はコントローラモードとして動作させていましたが、デフォルトではパッドがノート(MIDIキーボードでいうところの鍵盤)に割り当てられているので、これでシンセサイザやドラムを演奏することが可能です。
またAbleton liveなどを用いてサンプルをトリガーするのに、このパッドを割り当てれば演奏の幅も大きく広がり、DJプレイ用の機材としても大きな威力を発揮するはずです。この際、16個並ぶノブをフィルターのカットオフやレゾナンスに割り当てれば、さらに演奏できるサウンド作りも自在になってきます。
コントロールモードでは各パッドで演奏をしたり、ノブでパラメータをいじることができる
コントロールモードといっても、シーケンサ機能が消えてしまうわけではないのもBEATSTEPのすごいところです。プレイボタンを押すと、シーケンスモードで組んだシーケンサが動き出し、その状態でフィルターをいじったり、エンベロープ、ボリュームなどの設定をいじりながら、サンプルをトリガーしていくこともできるわけですから、工夫次第でさまざまなことができそうです。
でも、そのコントロールモードで使う各ノブやパッドの機能はどのように割り当てればいいのでしょうか?これについては、専用のアプリケーションがMac用、Windows用とそれぞれ無料でダウンロードできるようになっているので、これを使えば簡単です。
無料配布されているBEATSTEP用の設定ソフト。Mac用、Windows用がある
たとえばノブには、コントロールチェンジだけでなく、NRPN/RPNの割り当ても可能。パッドにはノート、コントロールチェンジ(当然オン/オフのスイッチですが)のほかに、MMC、そしてパッチ変更も設定できるようになっています。
さらに、この画面を見ると分かる通り、シーケンサモードの設定もPCから行うことができ、この場合、五線譜表示となっているから、思い通りの音程を設定することもできるわけです。
細かい機能はまだまだいっぱいあって、書ききれない感じですが、ハードウェアのシーケンサってやっぱり楽しいですね。コンパクトな機材ではあるけれど、とっても頑丈で、しっかりした作りである点もうれしいところです。
発売元であるフックアップに聞いてみたところ、Arturiaの生産数がまだ少なく、世界的に取り合いの状況。国内入荷分の在庫もなくなってしまっているとのことなので、楽器店の店頭などで見つけたら早めにキープしておくのが得策かもしれませんね。
※追記
PCのMIDI出力先としてBEATSTEPが見え、ここに出力すると、MIDIそしてCV/GATEにも信号が出力されます。そのためUSB-MIDIインターフェイスとしてはもちろん、USB-CV/GATEインターフェイスとしても利用できるので、アナログシンセユーザーにとっては、それだけでも十分な価値がありそうです。
【関連情報】
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