808、909、303の音を忠実に復刻。Roland AIRAがベールを脱いだ!

現在のDJ、ダンスシーンで欠くことのできないサウンド、それが30年前のRoland製品であるTR-808TR-909といったドラムマシン、そしてベースマシンのTB-303、さらにはSH-101SH-2System100などのRolandビンテージシンセサイザです。これまで国内外の数多くのメーカーがこれらの音に似せた機材やソフトウェア音源を出してきましたが、本家であるRolandは長年沈黙を続けてきました。

そのRolandがついに、これらの機材を当時の音そのままに再現するとともに、現在の音楽シーン、スタイルにマッチする形に生まれ変わらせた機材、AIRAとして2月14日に発表しました。すでに1月からネット上にはティーザー広告が流れていたので、気になっていた人も多いと思います。そのAIRAをちょっとだけ見てきたので、わかった範囲での概要について紹介してみたいと思います。

ついにベールを脱いだRolandのAIRAシリーズ、4機種


そのAIRAのプロモーションビデオ、YouTube上にはいくつか上がっていましたが、まだまったくご覧になっていないという方は、まずはこれを見てみてください。

なかなかグッとくるビデオですよね。ここにも映っていますが、AIRAはシリーズ製品となっており、具体的には
TR-8(RHYTHM PERFORMER)
TB-3(TOUCH BASSLINE)
VT-3(VOICE TRANSFORMER)
SYSTEM-1(PLUG-OUT SYNTHSIZER)

の4つ。型番からもなんとなく想像がつく通り、TR-8はTR-808やTR-909をベースにしたドラムマシンであり、強烈なパンチ力を持ったアナログのドラムサウンドを出すことができます。


TR-808やTR-909のサウンド、操作感を再現するとともに現代のマシンへと仕立て上げたTR-8 

また、TB-3はTB-303のサウンドを再現するものですが、太い低域の効いたベースサウンドを奏でるマシン。VT-3はボコーダーやAUTO-TUNE的なボーカルサウンドを作り出すマシンで、BOSSのVTシリーズをDJ・ダンスシーン向けに進化させた機材。そして、SYSTEM-1はSH-101やSH-2、System100などのアナログシンセ・サウンドを再現できるマシンですが、PLUG-OUTという、ちょっとこれまでになかったユニークな考え方を使い、PCとの有機的な連携を可能にしたキーボードとなっています。


TB-303の図太いベースサウンドを再現したTB-3

このAIRAを開発したのは、従来のRolandの製品開発とは一線を画す、社内カンパニーのRPGカンパニー。ゲームのことでも、プログラミング言語でもなく、Roland Professional Groupの略とのことですが、少人数で独自の製品企画、開発を行っている組織のようです。


TR-808やTB-303などの音源を復活させてほしいという声は世界中から集まっていた

そのRPGカンパニーの高見眞介さんに話を聞いてみました。

TR-808やTB-303など復刻してほしい、という要望は以前から、世界中から数多く寄せられていましたので、そのニーズの強さは十分すぎるほど認識していました。そうした要望に対して、Rolandとして、どういう形で製品にしていくのがベストなのかずっと模索していたのです。それを実際の製品として生み出していこうというプロジェクトが1年半近く前に立ち上がり、昨年7月から社内ベンチャーのような形のRPGカンパニーとして組織化されて動き出し、今回ようやく発表できる段階にこぎつけました」と話す高見さん。


30年が経過し、TR-808などの音をRolandとしてしっかり残すという社会的責任も高まってきていた

確かに、TR-808やTB-303の中古市場を見ると、最近その価格は爆騰ともいえる状況で、おいそれと手が出せるものではなくなっています。というのも、30年もの時間が経っているだけに、壊れてしまった結果、2台、3台のマシンを組み合わせて部品を補い合いながら1台のマシンに仕立て上げているからなのですが、だからますます憧れのマシンになっているのも事実です。


AIRAという新たなブランド名で製品化に取り組んだ

その一方で最近、KORGやArturiaなどが、アナログ製品を続々と登場させるので、Rolandがどんな製品を出すのか、私自身も非常に楽しみにしていたのです。でも、どんなアプローチでAIRAを製品化をしたのでしょうか?

TR-808などの実機を数多く用意しつつ、アナログ、デジタルの両面で、いろいろな検討を繰り返し行なってきました。その結果、たどり着いたのがACBAnalog Circuit Behaviorというものでした」(高見さん)。


従来の機材のアナログ回路を元にACBという手法で回路の復元に取り組んでいった

ACBって何??と聞いてみると、かなり深い答えが返ってきました。
やはり、PCMを中心としたデジタルサウンドは、従来のアナログ音源と比較すると音やフィーリングが異なるのは事実です。それは実機を触って音を聴けば誰もが認識するところであり、普通に音をモデリングしようと思っても、アナログと同じフィーリングは得られません。一方、TR-808の音というのも、5台、6台並べてみると、それぞれの音はトンデモないほど違うんです。やはりコンデンサの容量低下などアナログ部品の経年劣化によって、個体ごとに違った変化をしてきいるのです。とくに印象的だったのは、つまみでピッチのコントロールができないカウベルですら、それぞれで音程が変わってしまっており、別の機材で音を聴かせると『これは俺の808の音ではない!』と言われてしまう可能性がありました。ここがアナログの難しさでもあるんです。さらにTR-909に至っては、生産した年代ごとに開発現場、生産現場で回路や部品をいじっているために大きく3世代バージョンが存在していて、それぞれで音が違いいます。しかも、それが経年劣化をしてきたため、中古の機器の状態によってまったく違う音になってしまっているのです」と高見さん。
なるほど、確かにアナログの場合、そうなりますよね。そこで行き着いた結果がACBだったというのです。

他社さんが808や303の音をモデリングしたり、アナログ回路をそっくり再現した機器などを出しています。我々としても、いろいろな手法にトライしましたが、現状ある808の音をモデリングしても意味がありません。でも、手元には当時のオリジナルの回路図もあるし、オリジナルの材料が何かも分かっています。さらに、設計図には書かれていない特別なやり方というノウハウも残っています。その辺は、当時開発したエンジニアが、まだ社内外にいるというのが最後の砦でもあり、いろいろとヒアリングをしていったのです

その結果、たとえば『808の一部のマイコンチップでオーバークロックをしていた』などの証言も得られ、そうした話を元に復元をしていきました。その際、最終的に選んだのがACBという手段。これはアナログ部品の挙動から忠実にモデリングを行うという手法であり、それを基板と同じように回路として復元していくというもの。単に音が似ているのではなく、回路特有のクセ、ある意味、悪い面も含めて、オリジナルを再現しているのです。その結果、TR-808のキックの回路を作るだけで1か月も要してしまいました。それでは間に合わないということで、社内のDSPのスペシャリストを集め、クラップ担当、スネア担当と振り分けて、開発していきました。ここでは、あえてTR-808に思い入れのある人は入れず、オリジナル回路に忠実に作るということに専念したのです。その結果の音を多くのミュージシャンにも聴いてもらいながらチェックしていったのですが、いい音に仕上がりました。『アナログがきもちいいね』というのが、やればやるほど分かってきます」と高見さんは満足げに語ってくれます。

その悪いクセともいえるTR-909独特の現象の一つが、スネアとハンドクラップを同時に鳴らすとフェージングが生じてしまう点です。
実は、そんなことが起こるって、我々も知らなかったのですが、齋藤久師さんにチェックしてもらった際、スネアとハンドクラップを同時に鳴らして『ちゃんとできてるね』って指摘されて知ったんですよ。同様にTB-303のシーケンサでは、高音方向へのみトランスポーズできるという仕様でした。ACBでオリジナル通りに再現していたので、その仕様までが再現されてしまったのです。将来は改善したいポイントではありますが、本物と同じように動作することには驚きました」と高見さん。

というわけで、登場したAIRAの4製品。15分程度見せてもらっただけでなので、私もまだ全然理解できていないのですが、TR-8を見てすぐに思ったのは、オリジナルのTR-808とは形も大きく違うし、パラメータの数がずいぶんと増えているという点です。


パラメータを見てみると、オリジナルのTR-808にはないものもいろいろある

たとえばキック、スネア、タム、リムショット、ハンドクラップ……とそれぞれにあったレベルというツマミがフェーダーボリュームになっただけでなく、たとえばキックにはオリジナルにない、COMP、ATACKといったパラメータが追加されています。
現在のダンス、DJシーンでTR-808を使っている方々も、そのまま使っているのではなく、やはりエフェクトと組み合わせています。とくにキックやスネアにコンプは必須であり、これでパンチを出しているため、使いやすい形で1パラメータで済むコンプを搭載するとともに、ATACKでアタック感を高められるようにしています」(高見さん)とのこと。


カウベルやハイハットにもTUNEやDECAYといったパラメータが追加されている

そのほかにも、オリジナルのTR-808にパラメータが一切なかったハンドクラップのディケイやチューニングノブが搭載されています。もちろん、これらのパラメータも、単にデジタル的に搭載したのではなく、アナログ回路上での改良を加えた上で、ACBを使ってモデリングしているため、妙なデジタル臭さが出てこない、アナログ特有のクセで音作りができているのが特徴です。ちなみに、そのモデリングにおいてはアナログサウンドを再現するために32bit/96kHzでの処理が行われているとのこと。この辺も従来のデジタル機器とは大きな違いといえそうですね。


AIRAシリーズ、横に並べると高さもピッタリそろっているのもポイント 

また選択する音色の変更でTR-808だけでなく、TR-909としても機能するようになっているのですが、オリジナルのTR-808、TR-909にはなかった機能もいろいろと搭載されています。その一つであり、AIRAシリーズ全体に共通する特徴として挙げられるのがSCATTERというもの。SCATTERとは「分散させる、まき散らす」という意味の英語ですが、この機能を使うことで、できあがったビートをリアルタイムにサンプリングするとともにスライスして入れ替えたり、グチャグチャにかき混ぜて差し替えたり、ブレークビーツにしたりできるというもの。リアルタイムにパフォーマンスプレイできるけれど、シーケンサのビートやテンポが崩れないというのがスゴイところでもあります。
さらにリバーブやディレイ(実際にはSpace Echoをほぼモデリングしたものや、フランジャー、ビットクラッシャーなども選択できる)という2系統のエフェクトも用意されており、これをスネアだけにかけるとか、ハイハットとシンバル、タムにまとめてかける……といった設定もできるようになっています。もちろん、外部エフェクトを活用することもできますが、かなり使えるエフェクトが標準搭載されているため、これ単体で現在のシーンに合った音作りがすぐにできる、というのも嬉しいところですね。

次にTB-3を見てみましょう。これはオリジナルのTB-303の原型をまったく留めない、新しいユーザーインターフェイスになっていますが、音を出してみると、まさにTB-303の図太いサウンドが飛び出してきます。赤と緑に光るタッチスクリーンで鍵盤を弾くように入力することや、ステップ入力もできるし、連続可変つまり長いポルタメントなども、直感的に入力できるようになっているのが面白いところです。個人的には、TB-303オリジナルのシーケンサの入力って、なかなか難しかった記憶がありますが、これなら、かなり使いやすそうです。


エフェクトの搭載などによりTB-303単体ではさせなかった、さらに強力な音も出せる

でも、音色を選んでいくと、オリジナルのTB-303とは違うというか、さらに、ぶっとい音、鋭い音なども出てくるのです。確かに、いろいろな制作現場、ライブにおいてもTB-303も、そのまま使っているのではなく、エフェクトを介して使っていますし、中にはDevilfishのような改造型TB-303がありますが、そうした感じの音がTB-3本体から出てくるのです。
TB-303の音の復元だけでなく、その回路をいじったACBも使っています。まあ、Devilfishそのものを再現したというわけではないのですが……、それと同じようにディストーションを入れたり、リバーブを入れたりと、エフェクトとも絡ませながらのサウンド作りをしています」と高見さん。

ただパネルを見てみると、EFFECTというツマミが1つあるだけで、どうやってエフェクトを選べばいいのか、よくわかりません。が聞いてみると、エフェクトを選んで使うのではなく、エフェクト込みのプリセットが用意されており、音色に応じたエフェクトの調整ができるようになっているとのことでした。

TB-3、TR-8を含め、AIRA全体に共通するのは、液晶パネルがない、という点。階層構造になっていないので、昔のアナログ機材と同様に、ボタン、ツマミ操作だけで直感的に使えて分かりやすいというのも大きな特徴となっています。この辺のユーザーインターフェイスはかなり、工夫しながら作っているようですね。

このTR-8とTB-3を用いて高見さんが実演してくれたのは、ちょっと驚くべき機能でした。PC上で動かしたTraktorとTR-8とTB-3をMIDIで接続。ここでTraktorを再生させると、そのテンポに同期する形でTR-8やTB-3を鳴らすことができ、その場で、リズムやベースサウンドを加えていくことができるのです。


TracktorとTR-8、TB-3をMIDI接続して、同期プレイを見せてくれた

また前述のSCATTER機能をTR-8、またTB-3で行うと、オリジナルのテンポを壊すことなく、過激にサウンドに変化を与えることができてしまいます。しかも、難しい操作がまったくなしに、既存の楽曲にどんどん手を加えていけるというのは、DJシーンに革命を起こすのでは、と感じるものでした。

できれば、ビデオでそれをお見せしたかったのですが、現時点でのビデオ撮影はNGということだったので、また改めてということにしましょう。


ボーカルを自在にいじることができるVT-3

続いて、VT-3はBOSSのVT-1のDJ・ダンスシーン向けバージョンとのことで、マイク入力のボーカルに対して、音を過激にいじっていくというものです。中央にある丸いツマミによって9つのキャラクターの音を選択できるようになっており、たとえばAUTO PITCH 1を選ぶと、AutoTuneのクリマチックモードのような動作をしてくれます。

また左のPITCHパラメータでボーカルのピッチを変えたり、FORMANTで声質の調整も可能であり、マイク入力に対してリアルタイムにいじることができるため、かなりいろいろな楽しいプレイができそうですよね。


MIDI入力はないが、マイクからのピッチ検出ができる

またVOCODERというのがあるので、これを試してみると、まさにボコーダーサウンドを出すことができます。ただし、リアパネルを見ても、ここにはMIDI入力がないので、鍵盤で音程信号を与えられるわけではないようです。

鍵盤操作はできないので、従来のボコーダーを求める方にはやや物足りない点はあるかもしれませんが、VT-3ではマイクからのピッチを拾って処理できるため、より簡単に使うことができるようになっています。このボコーダー、厳密には回路構成がやや異なるため、ACBとは呼んでいないのですが、VP-330の回路をほぼ再現しているので、レガシーサウンドを求める方には十分納得のいくサウンドになっていると思います」と高見さんは解説してくれました。

さらにピッチ検出を使ってBASSでは声を元にシンセを演奏できるようにしていたり、LEADではテルミンサウンド風の音での演奏を可能にしているほか、MEGA-PHONEではハウリングを起こすギリギリの感じのメガホン・サウンドを出していたり、RADIOではAMラジオ風な音を演出することができます。もちろん、VT-3にもSCATTER機能が用意されているので、さらに面白い音作りができそうですね。


発売は5月になるが、これまでにないコンセプトを備えたシンセサイザ、SYSTEM-1

そして4つ目のSYSTEM-1は現在のDTM、DAWとの連携させるためのレガシー音源として、さらに一歩踏み込んだ面白いコンセプトの製品になっているようです。

オシレータ部分にはRolandが得意とするSuperSAWの波形を持っているのはもちろんですが、これまで他社でもあまり見たことのないSuperSquareという矩形波を重ね合わせた波形も搭載し、かなり分厚いサウンドを出すことができるようになっています。


オシレーターにはSuperSAWに加え、SuperSquareも搭載

また従来通りのモノフォニックの音源として使えるだけでなく、ユニゾンモード、ポリモードというものも用意されており、ポリモードにすると最大4音まで同時に出すことが可能になっています。またクラッシャーによって波形をデジタライズしてから組み合わせるといった機能も搭載し、従来のアナログシンセ単体では不可能だったサウンドもいろいろ扱えるようになっています。

そして、最大の特徴が前述のPLUG-OUTというものです。
ACBは、最新のデジタル技術によってアナログ回路を部品レベルからモデリングしているわけですが、このモデリング自体はPCで行うことも可能です。そこで、ソフトシンセとしてACBを実現したものも同時に作りつつ、まったく同じ音をハードウェアであるSYSTEM-1でも出せるようにしたのです。つまり、PC内で動作するプラグインサウンドを、ハードウェアであるSYTEM-1へ持ち出すという意味でPLUG-OUTという言葉を用いており、DTM環境においてもライブ環境においても同じ音で使えるようにしてあるのです」と高見さん。

この辺は、実際に使ってみないと、本当に同じ音なのか、使い勝手に違いがあるのかなど、見えない部分もありますが、非常に楽しみなところではあります。


TR-8にはアナログのパラアウトはないが、USB経由で高品位にパラアウトすることが可能

ちなみに、4機種ともUSB端子は搭載しており、PCとオーディオ、MIDIでの連携は可能になっています。たとえばTR-8はミックスアウトに加え2系統のインディビジュアル・アウトが搭載されています。さらに、制作用としてUSB経由で各音色ごとに個別にパラ出力できるので、DAWと組み合わせて音を加工したり、バラバラのトラックでレコーディングして、さらに加工するといったことも可能なようです。

ぜひ、改めて実機を入手して試してみたいところではありますが、やはりみなさん気になるのは価格だと思います。

高見さんに確認したところ、いずれもオープン価格になるとのことでしたが、それぞれの店頭での予想価格は
TR-8 …… 52,000円前後
TB-3 …… 32,000円前後
VT-3 …… 22,000円前後
SYSTEM-1 …… 60,000円前後

とのこと。SYSTEM-1のみ、発売が6月ごろになる見込みですが、それ以外は3月中の発売とのことなので、かなり楽しみですね。


暗いところに置くと、LEDによる光がかなり映えるデザインになっている 

なお、国内での初お披露目は、3月1日に恵比寿ガーデンプレイスで行われるSynthBarになるとのこと。ここでは前出の齋藤久師さんなどによるAIRA各機器を使ったライブパフォーマンスが見れるほか、実機を触ることもできるとのことですから、気になる方は出向いてみてはいかがでしょうか?

【製品情報】
TR-8製品情報
TB-3製品情報
VT-3製品情報
SYSTEM-1製品情報
【関連情報】
AIRAサイト
SynthBar

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