CubaseでもSONARでも、ProTools、SingerSongWriter、StudioOneでも、DAWを購入するといろいろなソフトシンセが同梱されているので、すぐに使うことができて便利ですよね。でもDTM中級者、上級者ユーザーになると、標準の音源では物足りなくなり、市販の音源を購入して使っています。「標準の音色だけでも多すぎて、使いきれてない…」なんて思うかもしれませんが、やはり市販されているものは、音のクオリティー、機能、使い勝手などで標準のものとはいろいろと違いがあるのも事実です。
今回取り上げてみようと思うのは、昨年10月に発売されて、人気のあるアコースティック・ドラム音源、FXpantionのBFD3です。155GB(ロスレス圧縮によりHDD使用量は約55GB)という莫大なサンプリング容量を持つ音源ですが、それだけに標準音源とは違う非常にリアルなサウンドで鳴らせるのが特徴です。実際、どんな音源なのか、初心者でも使えるものなのか、紹介してみたいと思います。
BFD3という名前からも分かるとおり、これは初代BFD、2代目BFD2に続くバージョンで、進化にともなって機能、性能が向上するとともに、収録するドラムの音色も増えてきて、ついに155GBもの大きさにまでなっています。「なんで、そんなに大きいの?」と疑問に思う方もいると思いますが、それはドラムの生音をスタジオで1つ1つレコーディングしているから。しかも数多くのマイクを立てて、それぞれ別々の音として録っているために、膨大な容量になっているのです。
インストーラのサイズとしても55GB程度あるのですが、DVD10枚組…なんてことになると大変。そうならないように、BFD3のパッケージにはメディアとしてUSBメモリーに収録されたインストーラが入っていて、これでインストールするんですね。またUSBメモリーなしのダウンロード版も提供されているようです。
やはりサンプリング音源は、リアルさが命。BFD3も、そこにこだわっているわけで、世界的にも名の知れたL.A.のOcean Studiosとメリーランド州のOmega Recording Studiosで、このBFD3用に、数週間をかけてレコーディングされているそうです。BFD3にはトータルで119個のピース、7つのキットが入っており、それらを自在に組み合わせて使うことができるのですが、以下にあるのが、そのBFD3による音のデモです。
かなりリアルなサウンドだと思いますが、「DAW付属のドラムと何がどう違うの?」というと、ピンと来ない方もいるかもしれません。そこで、Cubase 7.5付属のHALion Sonic SE2とBFD3で同じフレーズを鳴らしてみたので、聴き比べてみてください。
どうですか?HALion Sonic SE2は「Stereo GM Kit」をBFD3のほうは「Pop 106bmp JM」というプリセットを選び、どちらもそのままの状態で同じ8小節のフレーズを鳴らしています。聴いてみると、音のクオリティーにかなり違いがあるのがわかりますよね。YouTubeの音なので、少しリアル感が薄れた気がしますが、Cubaseから直接出る音を聴くと、BFD3のほうは、まさに生音、という感じなんです。
また一つ一つの音のサンプリング時間が非常に長いので、リバーブを掛けているわけではないのに、シンバルなどは音の減衰時間がかなり長いのも面白いところです。
さらにドラムにベース、ピアノを加えた状態で聴き比べてみましょう。今度はHALion側は「Dry Standard Kit」、BFD3側は「Blues 119bpm JM」に設定し、やはり初期設定のまま音を出しています。
これは、先日USTREAM番組の「DTMステーションPlus!」でのデモ演奏用に、作曲家の多田彰文さんが作ってくれた曲。ピアノはHALion Sonic SE2のピアノ音で鳴らし、ベースはオーディオトラックを鳴らしています。ドラム部分はMIDIで打ち込んだものをまったく同じようにHALion、BFD3と順番に鳴らしています。
ただし、BFD3はMIDIノートの配列がGMとは異なっていたので、CubaseのMIDI Map機能を使って、ノート番号の入れ替えだけは行っています。聴いてみるとわかりますが、BFD3は、すごくリアルな音であるのと同時に、ドライな音というか、加工されていない音という気もしますよね。
もちろん、この辺はいくらでも自由にいじることができるのが、BFD3の面白いところであり、DAW標準音源との決定的な違いともいえるものです。
まずすぐにできるのは、ドラムキットの入れ替え。たとえば、「このシンバルを別の音に変えたい」と思ったら、クラッシュだけで15種類も収録されているので、Zildjanのもの、Paisteのものなど、音を聴きながら簡単に変更することが可能です。
また「スネアをもう少し大きく、ハイハットはやや小さめに」なんてレベル調整はミキサー機能で自由自在だし、「ハイタムのピッチを少し上げたい、スネアのダンピングをちょっとキツめに」なんてことだって簡単にできてしまいます。
さらに、すごいというか、不思議に感じてしまうのは、マイキングです。スネア、タム、キック、ハイハット……とそれぞれをマイクで拾っている風になっているのですが、たとえばスネアをソロにして、ほかをミュートしたとします。ところが、そうしたとしても、シンバルやキック、タムなど、それぞれの音がある程度入ってくるのです。そう、スネアを拾っているマイクが別の音も拾っている、というわけなのです。もちろん、まったく鳴らないように調整することも可能ですが、スタジオでのレコーディング状態を完全な形で再現してくれるんですよね。
レコーディング好きなマニアにとってはかなり楽しいシステムだし、ドラムのマイキングがどうのようになっているのか学習するのにも、非常に役立ちそうですよ。もちろん、初心者ユーザーは、とりあえずそんなところはいじらなくても大丈夫なので、最初は無視していてOKです。
そのほか、各パーツごとに自在にエフェクトを掛けられるのも楽しいところ。BFD3内に、コンプ、EQ、リバーブといったものはもちろん、コーラス、ディストーション、フェイザー、フランジャー、フィルター……と、これでもかというほどのエフェクトが内蔵されており、個別に設定することができるのです。インサーションエフェクトとして掛けるし、センドエフェクトとして全体に掛けることも可能。この辺も突き詰めていくと、まさに世界に一つだけの自分のドラムセットが作れるわけです。
ここで気になるのは、そんなに大容量のデータを同時にたくさんならして、マシンパワー的に大丈夫なのか、という点。起動時にサンプリングデータの読み込みに長い時間待たされてしまったら、やる気も幻滅ですからね…。ところが試してみると、これがサクサクと動き、軽いんですよ。155GBものデータを扱っているとは信じられない感じです。
この仕組みの詳細については、BFD3輸入元のメディアインテグレーションのページに開発者インタビューが公開されているので、そちらをご覧いただくといいのですが、アタック部分はメモリーから読み出し、そのほかはHDDからのストリーミングを利用していたり、複数のCPUによるマルチスレッディング・プロセスに最適化するなど、最新技術をふんだんにつぎ込んでいるので、実現できているようです。
実売で35,000円するものではありますが、これだけのパワーを持ったドラムが入手できるなら、とても安いと感じました。ちなみに、BFD3はスタンドアロンで動作させることができるほか、Windows/MacでVST、RTAS、AU、AAXのそれぞれのプラグイン環境で使うことが可能になっています。
【関連サイト】
FXpansion BFD3製品情報
BFD3 2016 MARCH MADNESS (最大44%オフキャンペーン:2016年4月15日まで)
【価格チェック】
Amazon ⇒ BFD3 USBメモリー版
サウンドハウス ⇒ BFD3 USBメモリー版
Amazon ⇒ BFD3 アップグレード・ダウンロード版
サウンドハウス ⇒ BFD3 アップグレード・ダウンロード版