先日の記事「eVocaloidを搭載したヤマハの次世代音源デバイス、NSX-1の衝撃」の記事で紹介したヤマハのIC、NSX-1。その発表の同日、秋葉原にある会社、スイッチサイエンスから、小さな基板型の歌う音源ボード、eVY1 Shield(eVY1 シールド)という製品が発売になりました。これは、まさにNSX-1を中枢に据えた歌うハードウェアです。
同社のネット通販サイトから売り出されたのですが、私が気づいたときには、すでに売り切れ。半分、手作業での生産ということもあり、売り切れたり、在庫があったりと、しばらく入手困難な状況となりそうですが、先日、スイッチサイエンスにお願いして、1つだけサンプルをお借りしてみました。これが想像していた以上に面白い製品だったので、ビデオも使いながら紹介してみたいと思います。
写真を見てもわかる通り、eVY1 ShieldはSDカード4枚分程度の面積の基板で、その上にさらにNSX-1を中心に据えた3cm四方の基板が2階建て構造で取り付けられた製品です。ここにUSB端子(MicroBタイプ:Androidスマートフォンなどでよく使われているタイプ)と、ステレオミニのジャックが取り付けられた、むき出しの基板なわけですが、これでいて立派な音源モジュールとなっているのです。
正確にはこれが「eVY1 Shield(ピンヘッダ無し) 」(9,450円)で、もうひとつ「eVY1 Shield(ピンヘッダ有り) 」(9,870円)という2種類の製品があります。
いずれも機能・性能的にはまったく同じものですが、「ピンヘッダ有り」はArduino(アルデュイーノ)という、最近話題の小さなマイコンボードに取り付けられるよう足長ピンソケットをサイドに付けたタイプです。このArduinoに取り付ける拡張ボードのことを「Shield」と呼ぶので、eVY1 Shieldという名称になっているんですね。
説明はともかく、まずは、これを私の手元で鳴らしてビデオに撮ってみたので、ご覧ください。
どうですか?これがNSX-1チップの実力の一端というわけなのですが、何がどうなっているのかを、少し解説してみましょう。
まず、ここではeVY1 ShieldをUSBケーブルでWindows PCと接続。するとドライバ不要で、MIDIデバイスとして見えるので、ここを出力先としてCubaseからスタンダードMIDIファイルのデモデータを再生させているのです。
もちろんMacに接続しても、ドライバ不要でMIDIデバイスとして見ることができ、同じようにMIDIシーケンサから鳴らすことができますよ。
聴いてお分かりのとおり、eVocaloidによる歌声とBGMが流れていたわけですが、これらはすべてeVY1 Shieldから出ている音です。MIDIの1chがeVocaloidによる歌声で、2~16chがXG音源という構成ですね。かつては1台5万円以上したXG音源が、こんなコンパクトになって、しかもボーカロイドとセットになってしまったのですから感慨深いですよね。ちなみにXG音源部分の同時発音数は63音とのことです。
ビデオの冒頭で、私が指でボタンに触っていましたが、これはリセットボタンで、eVY1 Shieldを初期化するためのもの。通常は触れないものですが、このボタンを押したり、電源を入れたとき(USB電源を接続したとき)に4つのLEDがピラピラと光るので、ここを紹介したかっただけです(笑)。
その後、曲に合わせて基板上の4つのLEDが点滅していますが、赤が歌声が出ているときに点灯。オレンジはキック、黄色がスネア、緑がシンバルで点灯するようになってるみたいですね。
この製品の名称や歌声からもわかるとおり、歌声ライブラリとして使われているのはVY1のeVocaloid版であるeVY1です。ご存じのとおり、これは日本語の歌声ライブラリであるため、「We wish you a Merry Christmas」を歌っているのは、無理やりなジャパニーズEnglish。とはいえ、なかなかスマートに歌わせていますよね。
でもVOCALOID使いの方なら、「これ、どうやって歌詞を入力しているんだ?」と疑問に思うところでしょう。公開されているデモデータを元にして調べてみました。すると音程は、MIDI ch1でノートデータを送っているのに対し、歌詞は歌わせる前に、MIDIシステムエクスクルーシブデータ(SysEx)として転送しているんです。
たとえば「こんにちは」と歌わせる場合、発音前にこの歌詞を転送しておくのです。その後に「ドレミファソ」と鳴らすと、それに合わせて歌ってくれ、そのまま演奏を続ければ、同じ歌詞が繰り返される形になるのです。だから、その先を歌わせるためには、改めてSysExで次の歌詞を転送してやる必要があるわけです。
ちなみにNSX-1自体は日本語をそのまま理解はしてくれないため、eVocaloidの発音記号で転送する必要があります。この発音記号、PC用のVOCALOID Editorで自動変換されるものと同じなのかなと思っていたら、どうも少し仕様が異なるようです。この辺の詳細については、ヤマハからNSX-1やeVY1のマニュアル、仕様書が公開されているので、これを確認してみてください。
続いて、もう一つ別のデモのビデオをご覧ください。
NSX-1におけるeVocaloidの発音はモノフォニックだと聴いていたのですが、これ、どう聴いても和音を歌ってますよね!? どうやらピッチシフトが使われているようですが、この辺の使い方も、仕様書のほうを読み込んでみようと思っているところです。また詳しいことがわかったら改めてレポートしてみたいと思います。
ところで、このeVY1 Shield、単にNSX-1のチップが搭載されているわけではありません。2階建て構造の上にあるハンダ付されたボードの裏側を見せてもらったところ、ここにマイコンチップとROMが搭載されていました。そう、電源を入れると、このマイコンチップが動いて、NSX-1にeVY1の歌声ライブラリを読み込ませているんですね。
つまり別の見方をすると、eVY1 ShieldはあくまでもeVY1専用の機器であり、ほかの歌声ライブラリを利用できるわけではないのです。また、先日のNSX-1の記事にも書いたRAS=Real Acoustic SoundとeVocaloidは排他的な関係になっているため、RASを使うことはできません。この辺は、購入する上で理解しておく必要がありそうですね。
以上、NSX-1チップを搭載した小さな音源、eVY1 Shieldについて紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?個人的にはかなり物欲を刺激されるデバイスですね。PCとの接続だけでなく、Arduinoと組み合わせたガジェットなんかを自作できたりすると、さらに楽しくなりそうです。
ただ中には「基板むき出しのまま使うのは……」と思う方もいると思いますが、スイッチサイエンスによると、これを収納するアクリルケースの開発を検討中とのこと。購入するなら、ぜひケースも合わせて欲しいところですね。
ちなみに、スイッチサイエンスは、「はんだづけカフェ」を運営している会社として電子工作ファンの間では知られている会社。海外の自作キットの販売などを中心に、取扱い点数は1,200品目くらいあるのだとか……。
話を伺いに行ったとき、オープン前の「はんだづけカフェ」で、女性の方が「eVY1 Shield(足長ピンソケット付き) 」への足長ピンソケットのはんだづけを着々と行っていました。まさに手作業での生産ですよね。大変だとは思いますが、ぜひ多くのDTMファンのために、いっぱい生産していただければと思ったところです。
なお、eVY1 Shieldは11月3日、4日に日本科学未来館+タイム24ビルで行われる「Maker Faire Tokyo 2013」で展示、販売されるとのことです。それに向けて、着々と生産をしているとのことだったので、そこで実物を見てGETするというのも手ですよ!
【追記】(2014.4.17)
eVY1シールドの出力をPCのオーディオインターフェイスで録音しようとすると、激しいハムノイズ(ブーンとかジーという音)が載るケースがあります。そのため、先日、TwitterでS/Nがあまりよくないという旨のツイートをしましたが、正確な表現ではありませんでした。この現象、eVY1シールド本体が原因というわけではなく2つのUSBデバイスをPCに接続し、その機器間をオーディオケーブルで接続することで、グラウンドループことが起きてしまうためです。これを回避するためにはグラウンドループを解除できるタイプのオーディオインターフェイスを用いるか、PCではなく別のレコーダーで録音するなどの手段を用いることでノイズをなくすことができます。
【関連サイト】
eVY1 Shield(ピンヘッダ無し)販売ページ
eVY1 Shield(ピンヘッダ有り)販売ページ
スイッチサイエンスのWebサイト
はんだづけカフェ
NSX-1に関するヤマハのプレスリリース
【資料・マニュアル】
eVY1、NSX-1に関する仕様書、マニュアルなど
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