プロミュージシャンの自宅スタジオや、著名ボカロPの作業部屋などに行くと、よく見かけるドイツRMEのオーディオインターフェイス、Fireface。ちょっと高価ではあるけれど、気になっているという人も少なくないと思います。Fireface UCXやFireface UFXなど、いくつかのラインナップがありますが、現在の主流製品はUSB/FireWire両対応のものとなっています。
先日、発売元のSynthax Japanの担当者と話をしたとき、ちょうど9月20日からキャンペーンを行うということを伺ったので、このタイミングで、ハイエンドオーディオインターフェイスのFirefaceとはどんなものなのかを改めて紹介してみたいと思います。
一般的にコンピュータ関連の製品というのは製品寿命が短く、長いものでも2、3年、短いものだと1年以内に新製品が発表され、製品価値も下がっていくものです。ところが、やはりヨーロッパの製品だからなのでしょうか、RMEの製品は長寿命であるというのが大きな特徴だと思います。
たとえば、Firefaceシリーズとして最初にリリースされたFireWire接続のオーディオインターフェイス、Fireface 800は2004年に発売された製品なのに、現在でも現行製品として人気がありますからね。単に販売されているというだけでなく、中古市場で調べても15万円程度で流通されており、価値が下がっていないのが分かります。ビンテージのアナログシンセならともかく、デジタル機器で価値が下がらないというのは珍しいケースではないでしょうか?
また数多くのメーカーが発売するオーディオインターフェイスの中で、もう一つ特徴的なのは、そのユーザー層です。プロを含むハイエンドのDTMユーザーが多いのは分かるとして、DTMとは縁の薄いと思われる60歳前後の年配者が多いのです。そう、再生する際の音質の良さからPCオーディオと呼ばれる分野において絶大な人気を誇っており、国内ユーザーの半数近くがPCオーディオ用途なんだとか……。本来レコーディング用に作られたオーディオインターフェイスが再生のみに使われているというのは、ちょっともったいない気もしますが、耳の肥えた方々にも納得いく音だ、ということなんでしょうね。
Firefaceシリーズはいずれもオープン価格ではありますが、実売でUCXが155,000円前後、UFXが240,000円前後。UFXはやはり敷居が高そうなので、ここではUCXを中心にDTMの視点から見ていきましょう。
写真を見ても分かる通り、1Uのハーフラックサイズの機材で、18IN/18OUTを装備する24bit/192kHz対応のオーディオインターフェイスです。なんでこのサイズで18IN/18OUTもあるのか不思議に感じる方もいると思いますが、ちょっとしたトリックがあります。アナログは8IN/8OUTですが、S/PDIFのコアキシャルの入出力が2IN/2OUT、さらにADATのデジタル入出力が8IN/8OUTとなっているため、合計で18IN/18OUTとなるわけです。
ちなみにマイクプリ装備の端子はフロントの左側にある2つとなっており、アナログ出力のうち7ch/8chはフロント右のヘッドホン出力という構成になっています。もし、これではアナログ入出力が足りないという場合は、ADAT/アナログの変換器を追加するか、30IN/30OUTでアナログを12IN/12OUT装備するFireface UFXを選択する、ということになります。
以前、AV Watchの連載記事でFireface UCXのレビューを行ったことがありましたが、測定結果を見て、非常に高音質であったのと同時に、オーディオのレイテンシーが極めて小さいというのが特徴でした。改めてWindows8-64bitマシンにUSB接続をし、24bit/96kHz動作時の実測値で見たところ、3.17msecという値。これは数多くのオーディオインターフェイスを比較した中でもトップクラスですね。
細かい話になりますが、DAWなどで表示されるレイテンシーの値は、ドライバが返してくれる理論値であり、実際のレイテンシーはそれより大きい値になります。これをどこまで詰められるかは技術力ということになるのですが、RMEはその点で非常に優れているというわけです。
もうひとつFirefaceの大きな特徴は、TotalMixというPCの画面で操作するミキシングコンソールを備えており、まさに大型コンソールさながらな機能となっているのです。おそらく、「スゴイ、カッコイイ」と思う人と「わぁ、難しそう」と思う人に二分されるのではないかと思いますが、使ってみると非常に自由度が高く、「これがオーディオインターフェイスなの?」と感じるほど、いろいろなことができてしまいます。
画面を見ると分かる通り、ミキサーが3段重ねになっていますが、上段が入力ミキサー、中段がPCから見た出力先、そして下段が出力ミキサーとなっており、それぞれ独立してコントロールできるのです。
たとえばCubaseから見ると、計18chの出力先があるわけですが、これが物理的にそのまま各チャンネルに出力されるわけではなく、一旦中段のミキサーへと届くわけです。そして、その信号がパッチャーを経由して出力へと届くわけですが、そのパッチャー画面がこちらです。
そのどの信号をどこに出力するかを自在にパッチングすることが可能で、たとえばDAWを再生しながら、出力先を変えて聴き比べたり、スピーカーへはバラバラに出力されている信号をヘッドホンにだけはすべて同時に送ってミックスするといったことも可能です。
このTotalMixというミキサーのコントロールが画面でマウス操作で行えるほか、リモコン操作も可能になっています。直販価格17,800円で販売されているAdvanced Remoteというオプションのリモコンを接続することで、音量コントロールやDIM操作、スピーカーAとスピーカーBの切り替え、キューをヘッドホンへ出力する、設定を保存したスナップショットの呼び出し……といったことが簡単にできるようになります。このAdvanced Remoteがあると、かなり操作性が向上しますね。デフォルトで、各ボタンへの機能が割り振られていますが、これらは自由に設定し直すことも可能になっています。
このリモコン操作できる機能の中で使ってみてちょっと面白かったのがTalkbackです。Talkbackとはレコーディングスタジオでコントロールルーム側とブース側で話をするための機能であり、自宅のDTM環境で使うということは、まずないとは思うのですが、なんかすごいスタジオにいるような気分を味わえますよ(笑)。自宅であっても、たとえばボーカルを風呂場で録るなんていう場合、使えるかもしれませんね。
最後にFireface UFXについても少し触れておきます。前述のとおり、30IN/30OUTが可能で、アナログ入出力も12IN/12OUT備える1Uラックマウントというサイズのオーディオインターフェイスなわけですが、ここには他のオーディオインターフェイスにはない、非常に便利な機能が装備されています。それがDURecという名前のダイレクトUSBレコーディング機能です。
これ、オーディオインターフェイスに入ってくる信号をPCのDAWにレコーディングするのと並行して、フロントのUSB端子に挿したUSBメモリーにも同時にWAVでレコーディングするという機能なのです。つまり、仮にDAW側でトラブルがあって、うまくレコーディングできなかったとしても、このUSBメモリーにもバックアップが録音されるため、安心という機能なのです。
まあ、個人のDTMユーザーが使う機能ではないかもしれませんが、ライブをマルチでレコーディングするというような場合、こうした機能があると安心ですよね。
以上、RME Firefaceについて、概略を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?他社のオーディオインターフェイスと比較すると、高価なのは事実ですが、それ相応の価値があることは間違いない機材だと思います。中古でもなかなか価格が下がらない機材でもあるので、買おうと考えているのであれば、Advanced Remoteが付属する今がチャンスかもしれませんね。
【関連サイト】
RME Fireface UCX製品情報
RME Fireface UFX製品情報
Fireface UFX・UCX AR+製品情報
【関連記事】
AV Watch 藤本健のDigital Audio Laboratory
第450回:RMEのオーディオI/F最上位「Fireface UFX」を試す
第505回:USB/FireWire対応のRME「Fireface UCX」を試す