DJ-Techが行きついたデジタルとアナログの融合スタイル

PCDJ製品をいろいろと発売しているDJ-Tech。以前はDJ mouseといった低価格でユニークな機材で一世風靡したメーカーですが、その後はPCDJ用のさまざまなコントローラやiCubeシリーズというiPhone/iPod touchなどを直接鳴らすことができる小型PA機器(アンプ内蔵スピーカー)など、多岐に渡る製品を出しているところです。

国内では、フックアップがDJ-Tech製品を扱っているのですが、先日そのフックアップの担当者から、携帯に電話がかかってきて「突然なんですが、今日DJ-Techの人たちが来日しているんで、インタビューにきませんか?」とのこと。ちょうど、時間が空いていたのと、最近のPCDJの動向などをがよくわからなくなっていたので、半分勉強のために話を伺いに行ってきました。対応してくれたのは、DJ-Techのテクニカル&マーケティング・ディレクタのアレシオ・フォティ(Alessio Foti)さんです。
先日お話を伺った、DJ-Techのアレシオ・フォティさん



--DJ-Tech製品、以前からいろいろと目にしていましたが、改めてこの会社の概要について教えてもらえますか?

アレシオ:当社はワールドワイドに展開していますが、香港にある会社で2006年の設立です。DJというものをテーマに一般ユーザーからプロまで幅広く製品を提供していますが、一貫しているのは、「よい品質の製品を非常に安い価格で提供する」ということです。


DJ-Techの最初の製品、DJ  mouse

--香港の会社だったんですね。知りませんでした(汗)、アメリカの会社なのかと勝手に思い込んでいました……。当初、DJ mouseって非常に面白い機器を出されていましたよね?
アレシオ:はい、スタートはDJ mouseからでした。これは、完全にエントリーユーザー向けに作ったもので、それとほぼ同時にDJ keyboardをリリースし、大ヒットとなりました。そこから、少しずつ製品ラインナップを増やしていき、2008年にはワイヤレスで操作できるDJコントローラのMIX Free、また同時期にターンテーブルなども作るようになり、世界中のユーザーに広く受け入れられていきました。いわゆるDJ機器とは少しコンセプトは違いますが、やはり同じ時期にCD ENCODER 10という製品をリリースし、これが今でもよく売れているんです。
--日本国内で、そんなもの、扱っていましたっけ?

アレシオ:これはPCなしで、CDを入れればMP3にエンコードされるという製品であり、どちらかというと新興国などで売れている製品。そのためPCの普及している日本ではもともと販売していませんね。こうしたエントリー製品を出す一方、2009年ごろからは、プロ、セミプロ向けにMIDIコントローラを作るようになりました。具体的にはiMix、Reloaded、Dragon TWOといった製品ですね。

--そのあたりの製品から、全然追えていなくて……。いろいろなメーカーがPCDJ用のコントローラに参入し、高機能化、低価格化も進んでいきましたよね。
アレシオ:当初は単なるコントローラでしたが、その後オーディオインターフェイスを搭載したり、コンピュータのソフト側の機能に合わせて、いろいろな操作子、機能を追加していきました。ただPCDJがプロからエントリーユーザーまで広まって、一般的になっていくのと同じタイミングで、アナログ機器が再び注目されるようになり、当社でもターンテーブルを出すようになっていきました。

--なるほど、DJ-Techって、完全にPCDJの会社だという認識だったのですが、アナログ製品も出しているんですね。
アレシオ:ターンテーブルに関しては、2011年にリリースしたものがSL 1300 MK6が現行製品で、基本的にはアナログプレイヤーですが、USB接続もできるようになっています。もっとも、現在ターンテーブルの主要部品を作る会社は世界中でもわずかに残っているだけで、競合他社も含め同じ部品を使っています。実際、現在の部品はトルクも非常に安定していて、安心して使えます。ただ、部品が同じだけに、普通に作ったのでは埋もれてしまいます。そのため差別化を図るため、たとえば普通に平置きして使うだけでなく、縦置きポジションで使えるようにしたり、スタート・ストップのためのボタンをポジションに合わせて2つ用意するなど、他社にない工夫をいろいろとしています。こうしたことが、世の中のアナログ回帰のキッカケにもなったと自負しているところです。
USB端子を装備したターンテーブル、 SL 1300 MK6
--国内でもアナログ回帰というような話は耳にしますね。
アレシオ:これは世界的な流れで、日本でもそうした動きがあると聞いています。先日、日本のDJショップの方とお話した際も、「最近は、ターンテーブル2台とDJミキサーのセットで、トラディショナルなDJを始める若い子が増えてる」とおっしゃっていました。アナログのセットがあればPCがなくてもDJができますし、何よりもそんな機材が部屋にあるとカッコイイですしね。
--そういえば、最近のこうしたターンテーブルとPCDJを組合せた使い方も出ていますよね。タイムコードを利用しているということを聞いたことがあるのですが、この辺はどうなっているんでしょうか?疎くてスミマセン……。

アレシオ:DVS(Digital Vinal System)のことですね(笑)。DVSはレコードにタイムコードを記録したもので、音で聴くと「ピロピロピロ~」という感じですが、スタートから**分**秒**経過した、ということが、この音として記録されている情報からすぐにわかるようになっています。これをオーディオインターフェイス経由でPCに受け渡すことで、PCDJソフトが同期して動くため、レコードそのものは変えることなく、PC上のさまざまな音楽ライブラリをプレイできるわけです。このため操作自体はターンテーブルで行う昔からのアナログDJプレイそのものでありながら、楽曲はPC内のデータを利用できるため、従来のように膨大な数のレコードを持ち歩く必要がなくなるのです。まさにアナログDJプレイとデジタルDJプレイのいいとこどりですね。

ハイブリッドなスクラッチミキサー、DIF-1S(左)と SL 1300 MK6(右)

--なるほど、DVSってそんな仕組みになっていたんですね。これならば、旧来のスタイルのままPCDJが利用できる、と。

アレシオ:いま多くのコントローラメーカーがDVSに対応するとともに、TRAKTORやSERATO、Decakadanceなどソフトウェア側も対応し、DVSはスタンダードとなってきています。さらにアナログフィーリングですべてを使いたいという人に、アナログミキサーも流行ってきていますね。DJシーンにおいては、まさにアナログへの原点回帰が世界的に起こっているのです。そうした中、我々が新製品としてリリースした2チャンネルのスクラッチミキサー、DIF-1Sは、DVSを使ったデジタルのコントロールにおいても、またすべて完全なアナログDJにおいても使えるハイブリッド・ミキサーとなっています。

DIF-1Sを中心においた接続例。PCDJ用にも使え、従来からのアナログスタイルでも使える

--ハイブリッドというのはどういうことなのでしょうか?

アレシオ:多機能にするのではなく、とにかくシンプルにというコンセプトで開発したのですが、DVSの信号が来ているときは、オーディオインターフェイスへ信号を送り、アナログレコードの音が来ているときは、そのままミックスしてオーディオ出力する形になっています。また、耐久性という面を高めるため、交換可能なフェーダーとしてAudio Innovate社製の非接触型VCAフェーダー、Mini innoFADERが標準で搭載しています。また細かいところですが、ACアダプタではなく、直でAC接続できるようにしているので、現場においてもトラブルなく使いやすいようになっています。

inno FADER miniを標準で搭載

--ん??ということはデジタル機器への接続を可能としつつも、この機材本体としては、完全にアナログ機器ということですよね?

アレシオ:その通りです。現在のニーズを突き詰めていった結果、アナログになった、と(笑)。またEQもすべて高性能なものをアナログで搭載しているので、ぜひ音を確認いただきたいところです。これだけの内容を、日本円で定価23,100円で発売できたというのはかなり画期的なことだと自負しております。

最近のDJ機器事情について丁寧に解説してくれたアレシオ・フォティさん

--なるほど、いろいろと勉強になりました。ありがとうございました。
現在国内ではポータブル簡易PAシステムのiCubeといった製品も発売されている
【関連情報】
フックアップ
DJ-TECH

モバイルバージョンを終了