いつかはメジャーデビュー。そんな夢を持ってDTMに取り組んでいる人も少なくないと思いますが、2年前にボーカロイドPとしてメジャーデビューした八王子Pさんは、多くの人にとっても憧れの的なのではないでしょうか?先日、その八王子Pさんの自宅スタジオに行って、制作環境などをいろいろと伺ってきたのですが、話を聞いていて、とっても親近感を持ったのは、八王子Pさん、実は楽器が弾けなかったということです。
「楽器は弾けないけど音楽を作りたい」、「演奏は全然上手じゃないけれど曲作りをしてみたい」、という思いからDTMを始めた人は少なくないはず。八王子Pさんもまさにそんな一人だったそうですが、今も曲制作はSONARのピアノロール画面を使ってマウスで1つ1つ音符を入力していくのだとか……。その辺の詳細や、実際に使っている機材や音源などについて、いろいろと聞いてみました。
--八王子Pさんが、DTMを始めるようになったのはいつごろだったんですか?
八王子P:父が工業高校の教師をしている関係もあって、物心ついたころから、自宅にパソコンがあり、なんとなく遊んでいました。ただ、DTMに興味を持つようになったのは高校のときですね。高校に入ってできた友達がバンド系のヤツらが多く、それが一つのキッカケになっています。
--高校のころは軽音に入っていたとか?
八王子P:バンドというのに興味はあったのですが、友達からはバンド関連の愚痴ばかり聞かされていて、バンドって大変そうだなと思うようになり、敬遠していたんですよ。ただ、彼らからはいろいろな音楽を教えてもらい、さまざまなジャンルの曲を聴くようになりました。そうしていくうちに、テクノ系を知り、いろいろと掘っていくうちに、こういう打ち込みサウンドを作ってみたいなと思うようになったんです。これならパソコンでできそうだし、バンドに入らず、一人でできるから都合がいいんじゃないか、って。ただ、初めて少し触ったのが高校2年の冬。受験と重なったので、本格的にやることはできず、実際にDAWを買って本気で使うようになったのは大学に入ってからですね。
--どんなDAWを使ったんですか?
八王子P:最初に買ったのはSONAR 3でした。また、それと同時にRolandのオーディオインターフェイス、UA-4FXを揃えました。ハードシンセなどがあればよかったのかもしれないけど、当時はお金も無かったし……。だからハード機材を買うことなど、はなから考えていませんでしたね。ちょうど、中田ヤスタカさんなど、全部ソフトシンセで曲を作るという方も出始めたころだったので、これでいいだろう、と。SONAR搭載のソフトシンセをいろいろと駆使したほか、フリーウェアのSynth1などを入手しては使ってましたよ。
--そのころは、まだVOCALOIDもないころですよね?
八王子P:初音ミクが発売されたのがその直後だったんですよ。もともとニコニコ動画は好きで、できた当初からずっと見ていたし、ボカロもその流れで自然と初期のころから知ってはいました。ただ、当初は特にこれを使おうという気持ちは持ってなかったんですよ。
--では、SONARを使ってどんなことを?
八王子P:そのころは、まだDTM系の情報も少なく、そもそもどうやって音を出せばいいのかすら分からず苦労していました。また音楽理論もまったく知らないし、子供のころにピアノを習ったわけでもなく、何の楽器も弾けないので、すべてが試行錯誤でした。本当に感覚で耳コピして、音符を入力しつつ、「こういう展開になる曲は多いな」、「ここの音がぶつかると気持ち悪いな」なんて考えながら、すべて独学、感覚で作っていました。作っていたのはインストのクラブミュージックばかりで、正直コードワークなども必要ないものでした。その入力方法、実は今もまったく変わらないのですが、ピアノロール画面でポツポツとマウスで1音ずつ入力しているんです。
--リアルタイム入力などは使わずに?机にあるキーボードは??
八王子P:はい、すべて1音ずつマウスでステップ入力ですが、慣れると結構速いんですよ。あ、このKORGのキーボード、結構初期のころに買ったんです。キーボードないとDTMができないのかと思って(笑)。これはソフトシンセの音色チェックに使っています。コントローラ機能とかもまったく使ってないし…。それにしても初めてピアノロールに出会ったときは感激しましたよ。だって、縦軸が音階、横軸が時間で、楽譜がまったく読めない自分でも、感覚的に読めて扱えるんですから…。ピアノロールがなかったら、今の自分はないですね(笑)。そのようにして完成させた曲を当時、muzieというサイトに投稿していました。1,000再生もされれば、すごいほうだったのですが、掲示板などで反応があったときには嬉しかったですね。
--なるほど、ニコニコ動画への投稿前にも作品作りをしていたわけですね。
八王子P:そんなときに、衝撃を受けたのがryoさんやKzさんの作品です。アマチュアで、こんな高いレベルの曲を作る人がいるのかと…。そして、いつか自分も作ってみたいと思うようになりました。それまでインストをやっていたのも、自分に歌モノなんて作れるわけないという思いがあったからなのです。ボーカルのあてもないし、レコーディング環境もない。でも、こうした作品を聞いて、ボカロを使えばできるのでは……と思うようになったのです。
最初にニコニコ動画にUPして大ヒットとなったエレクトリック・ラブ
--そして、エレクトリック・ラブになるわけですか?
八王子P:ニコ動へのUPは敷居が高いように思っていました。muzieのように気軽にUPはできないな、って意識があり、これだというものができたらUPしようと決めていました。だから、それまで何作か作っていたんですけどね。そして大学3年のとき、2009年12月にエレクトリック・ラブをUPしたのです。そうしたら、物凄い勢いで再生が増えていき、10日間で10万再生。嬉しいと思う一方で、訳が分からない感じでした。それまで1,000再生くらいしかなかった世界だったので、今までは何だっただという思いとか……。
2作目のSweet Devil
--その後も続々とヒットを飛ばしていきました。
八王子P:一作目は本当にラッキーだったと思いました。その分、2作目は一番プレッシャーに感じました。一発屋として思われたくない、完成度を上げたいけど次作発表まで間が空きすぎるのもまずいだろう、間髪入れずに即発表というのもダメだろうし……なんて自分なりにいろいろ考えて、Sweet DevilをUPしたのです。自分の中では最低1万再生という目標を持っていたのですが、比較的すぐに2、3万になって、ホッとしました。その後は固定のファンも付いてくれるようになり、比較的安定して作っていけるようになりました。
--話は飛んで、現在ですが、いまはどんな機材、環境で作っているのですか?
八王子P:その後SONARをアップデートしていき、今はSONAR X1です。オーディオインターフェイスはRMEのFireface 800を使っています。いまでも基本はこれだけの構成です。ソフトシンセはそれほど多くのものを使っているわけではないのですが、Sylenth1というシェアウェアが好きで、よく利用しています。また、reFXのNEXUS2もよく使うものの一つです。あとはNIのKOMPLETE5に入っているMASSIVEやBATTERYとかです。
--ループ素材集とかは使わないのですか?
八王子P:ある程度使うこともありますが、基本は打ち込みでソフトシンセを鳴らしています。ドラムもBATTERYなどを鳴らしていますよ。
--エフェクトのほうはいかがですか?
八王子P:こちらは、SONAR付属のSonitusのEQやコンプ、ディレイが使いやすいので、これを使うことが多いです。また、リバーブはSONAR X2でもバンドルされたOVERLOUDのBREVERB2を買って使っています。これがいいんですよ。あとは、H2Oというフリーのコンプをよく使っています。これ、バッキバキのベースや、アタック感の強いスネアを作り出すのにいいんですよ。音を整えるのではなく、エフェクトとして使ってますね。ときどき、こうしたフリーのプラグインを漁ったりしますが、結構楽しいんですよね。
--最後に、DTM初心者やこれからDTMを始めたいという人に、アドバイスなどいただけませんか?
八王子P:楽器が弾けなかったこともあり、DTMを始めた当初はとても戸惑いも多かったので、同じような立場の人にはぜひ頑張ってもらいたいです。楽器が上手であるに越したことはありませんが、楽器が弾けなくたって音楽は作れるんだ、ということをみんなで証明して、盛り上がっていけたらいいなと思います。
--ありがとうございました。
【関連サイト】
八王子P OFFICIAL WEBSITE
Plug::8
【関連ツール】
Cakewalkサイト
SONAR X2 PRODUCER製品情報
LENNAR DIGITAL Sylenth1
八王子P待望のNEW ALBUM「ViViD WAVE」が
2013年7月17日にTOY’S FACTORYからリリース
既に発表されている『HORIZON』『Dream Creator』をはじめとした新曲はもちろん、
昨年シングルがリリースされている『fake doll』も収録!
JKT画像を手がけるのはTNSK氏 、初回盤にはわかむらP氏によるMusic Videoを収録。
New Album「ViViD WAVE 」
2013.7.17 Release
初回盤(DVD+CD)TFCC-86441 ¥3,000(tax in)
通常盤(CD)TFCC-86442 ¥2,300(tax in)