1月19日、Apple store, Ginzaで「iOSアプリケーションでシンセサイザー・ミュージックの魅力を再発見しよう」というイベントが開催されました。これは松武秀樹さんがアナログシンセの面白さを伝えるというもので、なんと今回、私も司会進行役として参加させていただきました。
そのイベントで学習素材に使ったのは松武さんプロデュースのiOSアプリ、TANSU Synthです。「TANSU Synthってどうやって使えばいいのかさっぱり分からない…」なんて人もいると思いますが、私自身もいろいろと勉強になったで、そのセミナーの内容を簡単に紹介してみたいと思います。
説明するまでもありませんが、松武秀樹さんは、YMO第4のメンバーとしても知られる作曲家、編曲家、プロデューサー、シンセサイザー・プログラマー。もちろん、日本シンセサイザープログラマー協会(JSPA)の会長としても、みなさんよくご存知かと思います。
その松武さんがApple Storeのシアターに持ち込んだのは、YMO時代にも使っていた大きなアナログシンセサイザー、MOOG Modular III-c。通称「タンス」と呼ばれる、このシンセサイザーを使った松武さんの演奏からイベントはスタートしました。
何百個も並ぶツマミや数多くのパッチング。何をどう操作しているのかと、みなさん真剣に見ていたわけで、今回はその種明かしをしてもらったのです。
「タンスにはいろいろなモジュールが入っていますが、主要要素はVCO、VCF、VCA、それにLFOとEGの5つです。それを1つずつ抜き出して作ったのがiPhoneでも動くTANSU Synthであり、これを理解できれば、どんなシンセサイザーだって使えるようになりますよ」と松武さん。会場のみなさんに尋ねてみると、半数近くはTANSU Synthを持っているようでしたが、使いこなせている人はまだ少ないようです。そこで1つずつ順に簡単な使い方を教えてもらいました。
まずはVCO。「これは発振器であり、シンセサイザーでの音作りの源です。三角波、ノコギリ波、パルス、ホワイトノイズ、ピンクノイズといろいろな音が出るので、試してみてください。FREQで音程を変えることもできますよ」(松武さん)。
さらにVCOの出力をVCFに突っ込みます。「ここでFREQ(フリケンシー)、RES(レゾナンス)を動かしてみると、いろいろと変化しますね、たったこれだけを理解するだけで、多くのシンセの音作りができてしまいますよ」という松武さんの説明に驚いていた人も多かったようです。試しに、画面上部にあるLOGIC BOXからYMOの「LOOM/来たるべきもの」で採用されているのとソックリな無限上昇音やランダムピコピコサウンドなどをVCFを通すことで、音色が大きく変わっていくことも実証してくれました。
さらに、LFOの出力をVCFに突っ込んで、音色がLFOの周期に伴って変化させられること、LFOのスピードや波形を変えることで、そのニュアンスも刻々と変わっていくことをデモしているとき、会場のみなさんの表情はかなり真剣になっていました。
その後、1曲のデモ演奏を経て、後半戦はシーケンサ部分の使い方です。普通シーケンサというとピアノロールや譜面入力、数値入力といったものを想像しますが、ここに搭載されているのはアナログシーケンサ。なかなか直感的にイメージが沸かない人も多そうなので、ここではホンモノのタンスを用いて、まずはどんな演奏ができるのかを実演してもらいました。
そう、ツマミを使って音程を決めるというものなのですが、「ドレミファソラシド」とするだけでも音程合わせに一苦労。操作ミスで高いド音程が大きく外れてしまうと、会場からは笑い声も出てきます。それと同じことがTANSU Synthでもできるわけですが、やはり細かく音程を調整するのは大変。そこで、例題として松武さんが用意したのが、蒸気機関車の「シュッシュ、ポッポ」という音作りです。
そう「シュシュ」で2拍、「ポッポ」で2拍、繰り返して計8拍で作っていくのですが、「シュ」はレベルを一番絞った低い音、「ポ」は一番上げた音を表します。ただし、ここではシーケンサの出力をVCOに入れて音程をいじるのではなく、VCFに入れるのがポイント。そう、フィルターの具合で、「シュ」と「ポ」を表現しようというのです。
ちなみに、VCOはピンクノイズに設定し、自分の気に入った音程に設定。またVCFのFREQとRESも好みに合わせればOKです。
さらに蒸気機関車っぽくするには、もうひとつポイントがあります。それはEGをVCAに突っ込み、エンベロープのコントロールをすることです。ATTACK、DECAYともに最小の設定になっていると「チュッ・チュッ・ツッ・ツッ」という感じでまったく迫力がありません。そこで、それぞれを上げて、ちょうど中央あたりに持ってくるとどうでしょう。
会場からも「おぅ!」という声が聞こえてきましたが、まさに蒸気機関車の音になるんですよね。
何の設定もされていない状態から約5分で、蒸気機関車の「シュッシュ、ポッポ」が完成です。文章で読んでいてもピンと来ないかもしれませんが、実際に触ってみると、これだけでもかなりシンセの音作りの勘所がわかるようになると思いますよ。
会場に来れなかった方も、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
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