SoundFontって知ってますか?ずっと20年近く昔から存在するものなのですが、なぜか多くの人から軽視されてきたというか、相手にされないままだったサンプラーの音色フォーマットのことです。
サンプラーも今はハード音源よりも完全にソフト音源が主流の時代。KONTAKT、HALion、SampleTank、BATTERY……いろいろな音源がありますが、標準のフォーマットってないですよね。ある程度お互いで読み込めるようにはなっていますが、ユーザーとしては扱いづらいところ。そんな中、やっぱりもう一度注目すべきはSoundFontだと思うんです。ご存知ない方のためにも、改めて紹介してみたいと思います。
SoundFont、これはその言葉どおり、音=音色を文字のフォントのように扱おうという概念のもので、SoundFontを読み込むことで簡単に音色が変わるようにしようと策定されたフォーマットのこと。もともと米E-MU SYSTEMSが開発したものなのですが、同社がSoundBlasterのメーカーである、シンガポールのCreative Technologyに買収されていたことから、Creativeのフォーマットとして広がっていきました。
私が知っている限り、SoundFontが最初に使われたのは、1994年に登場したSoundBlaseter AWE32というWindows用(というかメインはMS-DOS用)のサウンドカード(ISAバスという拡張スロットの規格でした)。ここにEMU8000というE-MUが開発したDSPが搭載されており、これでSoundFontが使われていたんですね。そう、SoundFontファイルを読み込むと、まさにプレイバックサンプラーとして使うことができたのです。
でも、「PCのサウンドカードなんて……」とDTMの世界においても完全にバカにされていた時代。ものすごい技術が搭載されていたのに、誰にも相手にされませんでした。その後、さらにブラッシュアップされたSoundBlaster Live!(このときPCIバスになりました)が1998登場。「これだ!」と思って、当時、私もリットーミュージックから「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」なんて本を出したりもしたんですけどね……。あんまり分かってもらえなかったのか、全然売れませんでしたね。
もっともSoundBlaster Live!自体はすごく売れまくったサウンドカードでした。でもターゲットは完全にゲーマーの方々。これを楽器として、サンプラーとして使おうなんていう人はごくごく少数でした。その後E-MUブランドでAudio Production Studio、さらにはE-MU 0404やE-MU 1820mといったオーディオインターフェイスが発売され、これらでもSoundFontが採用されましたが、ここでもあまりパッとしなかったというのが実情ではないでしょうか……。残念ながら最近はCreative製品でもSoundFontの名前を見かけることはほとんどないし、E-MU製品も事実上、姿を消してしまったようです。
※修正
E-MU 0404やE-MU 1820mなどはハード的にはSoundFontに対応していませんでした(チップは対応しているのですが)。読者の方からの指摘で気づきました。一方、その後に登場したEmulatorXというソフトがこれに対応しています。詳細記事を以前AV Watchで書いています(第146回:驚異のソフトウェアサンプラー、EmulatorX Studio)ので興味のある方はどうぞ!
そんな不遇なSoundFontでしたが、当初はE-MU自身もSoundFontライブラリとして、E-MUの名機であるProteusの音源を丸ごとSoundFont化したものを発売するなどしたため、私も入手し、今でも愛用しています。そう、これを読み込ませれば、Proteus-1とかProteus-2そのものに変身してしまうわけですからね。
【追記】
ここで取り上げたE-MUのSoundFontライブラリのCD-ROMはすでに発売完了ということで、入手することができませんが、同じものが「Digital Sound Factory」という海外サイトにてダウンロード販売を行っています。私の愛用しているPROTEUS-1やPROTEUS-2はそれぞれ$19.95となっています。
そもそもサンプラーって、どこのメーカーのどの製品でもやっていること自体にそれほど違いはありません。サンプリングしたデータにループポイントを設定し、音程を設定するとともに、必要に応じてエンベロープやフィルタの設定を行い、さらに音階ごとにサンプリングデータを切り替えたり、レイヤーを設定したり……といったことを行っています。だからこそ、単にWAVファイルやAIFFファイルを読み込むだけでは、うまくいかないわけですが、SoundFontはこの辺を細かく定義し、規格化していたんですよね。
このようにSoundFont自体はとてもいい規格であったけれど、肝心のミュージシャンたちにはほとんど知られないままの存在だったのです。でも、SoundFontがオープンな規格となっていたこともあり、草の根的にジワジワと広がっていきました。そう、まずはSoundFontのライブラリがフリーウェアとして数多く広まっていったのです。検索すれば膨大なライブラリが見つかるはずです。
たとえばMUSFさんのサイト「Today’s SoundFont」では、MUSFさんが見つけたフリーのSoundFontを一覧にし、それぞれについての解説もつけているので、結構参考になると思います(ここは拡張子sf2のSoundFontだけでなく、WAVをベースにしたsfzという拡張子のライブラリも扱っています)。実際探してみるとGB級のフリーのSoundFontなんてのも結構あるようですね。
で、そのSoundFontのデータは何で利用できるのか?昔は前述のようなハードが必要だったわけですが、今のCPUならソフトサンプラーでOKなんですねHALion4でもKONTAKT5、BATTERY3でも標準でサポートしているので、これらを利用するのがひとつの手。
でも、そんな高級なサンプラー持ってない!という人もいるでしょう。そんな方にはフリーウェアもいろいろありますよ。もっとも著名なのはCakewalkがフリーで配布しているsfz。Windowsユーザーなら、これは入手しておくべきですね。また、ProdyonのPhenomeというのもなかなかいい音源です。ほかにも探すといっぱいありますよ。
Macユーザーならbismarkさんのbs-0あたりがお勧め。$50のシェアウェアになってしまいますが、同じくbismarkさんのbs-16なら16マルチティンバーで使うことができます。
さらにiPhone/iPadでもbs-16iというのが出ており、私も愛用しています。このbs-16iについては、以前もDTMステーションで「外部音源としても利用可能な、超強力iPad用国産ソフトシンセ、bs-16i」、「実はサークルの後輩だった!? bs-16iの作者」なんて記事で取り上げているので、読んでいただいた方も多いのでは…と。
探せばほかにもいっぱいのソフト音源、ライブラリがあると思います。ぜひSoundFontを積極的に活用してみてはいかがですか?
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