初音ミク登場後、早い時期に「サイハテ」を発表し、一躍有名になった小林オニキスさん。作曲家と活動をする一方、週刊アスキーで連載を持ったり、デザイナーとしても仕事するなど、幅広く活躍しています。
以前、浜松での行われたイベントでオニキスさんと話をしたとき、FL STUDIOを使っているということを聞いたのですが、どうやって曲を作っているのかなど、とっても興味があるところ。先日、連絡してみたところ、すぐにお会いすることができたので、インタビューしてみました(以下、敬称略)。
--そもそも、オニキスさんの音楽との出会いや、作曲するようになった経緯などを少し教えてもらえますか?
オニキス:とくに楽器を習ったりということはないのですが、幼稚園のころから音楽を聴くのは大好きでした。子供番組の中でBeatlesやLed Zeppelinなどが流れていて、興味を持ったんですよね。それがBeatlesであることなどは、小学校に入ってから知るわけですが、父親のラジカセを使ってラジオを録音したりしていました。でも、実際に楽器を手にしたのは高校2年のときです。田舎住まいだったので、近所に楽器屋もなかったので、通販で初めてエレキギターを買ったんです。音楽の授業をまじめに聞いていなかったのもあり、理論はまったくわからないし、コードもまったく知らない。弾き方も全然分からなかったけど、ギターを手にしたその日に、1曲できちゃった。
--それって、すごいですね。やっぱり天才なんですか??
オニキス:曲ができたっていったって、メロディーだけですよ(笑)。その後、独学でコードを覚えたりしていき、かなり経ってから、最初に作った曲が6/8拍子であることが判明したくらいですからね…。
--バンドとかは?
オニキス:とってもやりたかったんですが、周りに楽器をやってるヤツが誰もいなくて高校時代はできませんでした。だから、ギターを使って、ひたすら曲を貯めていきました。もっとも作品として完成したというわけではなく、メロディーラインと簡単なコードをつけるだけ。また譜面も書けないから、基本的には頭の中に記憶していくのと、ときどきラジカセに録音するくらい。歌詞は1曲書いたことがあるけど、どうにも恥ずかしくてね(汗)。だから、結局メロディーだけですよ。その後大学に入って、バンドを組んだんだけど、それで大きな勘違いをしちゃったんです。
--勘違いとは?
オニキス:高校のころは世の中のアマチュアのレベルというのを全然知らなかったんです。で、大学に入ってライブハウスに出るようになり、周りを見ると、大したことないな、と思っちゃった。それが大きな間違いだったんだけど、これは行けるんじゃないかと根拠のない自信を持ってしまったんですよね。もちろん、その後うまく行きませんでしたよ(汗)。一方、大学は人文学部だったのですが、周りに美術学部の友達がいっぱいいた影響もあり、バンドのCDのジャケットやフライヤー、ホームページなどをデザインすることを身につけました。結果的には、こっちが仕事につながりました。
オニキスさんデザインのTシャツ、ボーカロイドストアにて発売中
--デザイナーとして就職したんですか?
オニキス:バンドは4年までやって解散。そのころはプロになることも夢見ていたのですが、そう簡単にいくわけもなく、一方で知人を通じてデザインの仕事が来るようになり、フリーのデザイナーとしてやっていました。バンドはいつか再開したいと思いつつも、人が多いとやはり大変だというのを痛感しました。バンドを組もうとすると、意見が合わなかったりで、始まる前に解散。そんなことを繰り返していましたね。そうした中、インターネットが広まってきたのです。それを見て、これは何か大きな変化があるんじゃないか、それを使えば活路が開けるんじゃないかと思うようなりました。その後、上京したものの、中途半端な腐った2年間を過ごしていました。そこでVOCALOIDと出会ったんです。
オニキスさんの初音ミクを使った最初の作品である、サイハテ
--2007年の初音ミクですね。
オニキス:はい、ネットのニュースで知り、その後YouTubeで曲を聴くようになってい、これはいいかも、と2007年10月に購入しました。その上京後の腐った2年間にも曲だけはどんどんできていったんですが、なにせアウトプットする手段がなかった。ただ、バンドを組むのはいろいろと面倒だし、ボーカルだけ探すにしてもいろいろと大変。VOCALOIDを使えば、バンドを組まず、誰の手も借りずに一人で完結できるのでは、と思い、興奮しました。また、初音ミクを買うちょっと前にFL STUDIOを購入したんですよ。
--なぜ、またFL STUDIOを?
オニキス:昔友達がFL STUDIOの前身であるFruity Loopsを持っていて、それを触ったことがあり、その存在を知っていたのがひとつの理由。また見た目がカッコいいじゃないですか。このカッコよさというのも大きかったですね。そして何より、安かった(笑)。
--FL STUDIOというと、テクノとかダンス系の曲を作るためのツールというイメージが強いですが、オニキスさんの曲は、それとはまったく違うものですよね。
オニキス:FL STUDIOのシンプルな使い方は、16マスあるブロックにリズムをはめ込んでいくドラムマシン的なところからスタートするのですが、あえてそれを使わず、ピアノロールで組んでいきました。ピアノロールで8小節ずつつくり、それをソングに並べて作っていくんです。リズムマシンで打っていくより、そっちのほうが使いやすし、より自然な雰囲気で曲を作っていくことができるんです。
--音源は何を使ったんですか?
オニキス:FL STUDIOにバンドルされているサンプル音を使っただけですよ。
--ソフトシンセではなくて?
オニキス:はい。まあ、そもそもFL STUDIOの使い方がよくわかっていなかったというか、これはサンプラーだと思っていたので…。FL STUDIOにはかなり膨大なサンプル音が入っているので、いい音を探して、それを配置してピアノロールで音程をつければ、すぐに演奏することができます。とってもシンプルだし、その方法だと、処理もとても軽いんです。こんなことができるDAWってほかにないじゃないですか。だから、曲の作り方の基本は今でも変わらないですね。最近は各種ソフトシンセを購入してインストールしたものも使っていますが、重くなってしまうんですよね……。一方、入力もMIDIキーボードなどは使わず、すべてピアノロールでマウスを使って直接描いています。もちろん、FL STUDIO同梱のサンプル音以外にも、サンプリングCDなどを買って使うようにもなりましたよ。お約束のカエルカフェの音源とか……。いいサンプル音を入手したら、それだけでいい曲ができるような気がするじゃないですか(笑)。
--じゃあ、サイハテもそうやって作っていたんですね。どのくらいのトラック数で構成していたんですか?
オニキス:そうですよ。トラック数的には50くらいです。ただ、50トラックすべてが鳴っているというわけではなく、1つのサンプル音で1トラック使うから、多くなっただけ。たとえば、クローズハイハットとオープンハイハットでも違うトラックという具合ですから。サイハテは一番最初の作品だったから、音源もすべてFL STUDIO同梱のものです。たとえばLegacyのEffectsに入っているEX_EHなんて音は効果音として結構使っているので、分かりやすいと思います。効果音とか環境音ってとても好きなんですよ。最近は自分で録るようにしています。
--どうやって録っているんですか?
オニキス:いつもKORGのMR-2を持ち歩いているので、これでいろいろな音を録っています。これにRolandのバイノーラルマイク、CS-10EMを使っているのですが、結構使いやすくていいですよ。街中の雑踏だったり、交通量の多い道路だったり、いろいろ。それをFL STUDIOに入れて使っているんです。
--ところで、そのFL STUDIOの音をモニタリングしたり、レコーディングするためのオーディオインターフェイスは何を使っているんですか?
オニキス:今はRMEのFiraface UCを使っています。でも当初はオーディオインターフェイスなんて使わず、PCのサウンド機能だけで使っていました。それができてしまうのもFL STUDIOの魅力だと思いますよ。ASIOの設定とか何も知らなくてもすぐに曲が作れてしまうんですからね。もっとも、いま、サイハテ聴くと、ひどいミックスであることがよく分かりますが(汗)。また、最近知人を通じて、防音ブースをもらったんですよ。だから、これを部屋の中に設置して、使っています。中はとくに特殊な機材などは入れていませんが、モニタースピーカーはそう買い換えるようなこともないだろうと、Genelecの限定カラーのものを奮発して購入しました。また、BlueのRobbieというマイクプリアンプをギター用に使っています。これをFL STUDIOをコアにして使っているわけです。
--ほかのDAWを使ったりはしないのですか?
オニキス:スタジオで作業する際にはProToolsを使ったりしますが、やっぱり使っていて直感的で扱いやすいのはFL STUDIO。当初使っていたバージョンはオーディオ編集などがしにくかったですが、現在使っているFL STUDIO 10はこの辺もすごくよくなっています。とにかくカッコいいし、触っていてフレーズが浮かんでくるのはFLなので、今後もずっとこれを使い続けていくつもりですよ。
--参考になるお話をいろいろありがとうございました。
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