11月14日のInterBEE 2012に合わせ、YAMAHAとSteinbergはCubaseの新バージョン、Cubase 7および、ミッドレンジグレードのCubase Artist 7を12月5日に発売すると発表しました。これまで2年置きのバージョンアップだったCubaseは、やや間隔を詰めての新バージョンリリースとなりました。Elements以下、AI、LEといったバージョンは現時点では見送られているようです。
新機能の目玉はコードトラックの搭載であり、Singer Song Writerをかなり意識したのでは…と思われる内容ですが、SSWとはややアプローチも違い、なかなか強力なものとなっています。またVOCALOID機能が搭載されるということはなく、年明けに発売予定のVOCALOID for CubaseはCubase 6.5とともにCubase 7にも適用できるとのことです。なお、国内流通価格は従来の実売79,800円から大幅に値下げし59,800円になる模様。下位のArtist 7は従来同様の39,800円据え置きのようです。では、そのCubase 7の新機能について、もう少し具体的に見ていきましょう。
Cubase 7の最大の特徴とえいるのは、コードトラックの搭載です。直接「Am、D7、G…」といったように入力できるし、鍵盤を弾くと自動認識して入力したり、さらには、画面で選択して入力することも可能。もちろん、dimやSUS4といった展開やonベースも入力可能となっています。
で、このコードトラックは何に使うのか。一番単純なのは、コード進行のガイダンスとして流すことが可能というもの。実際の曲に適用するかどうかは置いておいて、確かにガイダンスとしてコード演奏してくれると便利そうですよね。
もちろん、インスペクターでギターやピアノなど音色を指定できるだけでなく、各楽器の振る舞いで、つまりギターを選べばギターのストロークのような演奏ができるようになっています。
また、これを元にMIDIトラックに適用させてシーケンスデータを生成するといったことも可能です。
このコードにおいては「Chord Assistant」なるユニークなアドバイス機能も搭載されています。たとえば「BbとAm7の間に何かコードを入れて展開したい」といったときに指定すると、お勧めコードをアドバイスしてくれるのです。オーソドックスなものだけでなく、意外な展開をアドバイスしてくれるので、単調かなと思ったときに使うのも面白そうです。
さらに、このコードトラックが威力を発揮するのがオーディオトラックに対してです。たとえばボーカルを録音しておいたとします。これを今回機能強化されたボーカルエディタであるVariAudio 2.0で開くと、メロディーが解析されてピアノロール風に表示されるのは従来どおりです。
ここからコーラスパートを生成する場合、従来であれば、とりあえず全体を3度上げて、適合しない音をひとつずつ修正する……という手法をとるのが基本でした。しかし、Cubase 7では、予めコードトラックを入力しておくと、「ハーモニーボイスを生成」という機能で一発でコーラスパートができてしまうんですよね。なかなか画期的だと思います。さらに、サンプルエディターウィンドウ上で、VariAudioで解析した複数のボーカルトラックを色別に表示させることも可能になったので、全体を俯瞰して編集することが可能になっています。
次に、大きく変わったミキサーコンソールについても見てみましょう。「MixConsole」という名前に変わった、このミキサー、最大の特徴は画面表示を自在にカスタマイズ可能になったことです。
画面左側には、ちょっと見慣れないリスト一覧が表示されていますが、これは各トラックの名前。その名前の頭にあるスイッチをオン/オフすることでミキサーとして表示させたり消したりすることが簡単にできます。また特定のトラックだけを固定表示させて、ほかはスクロールできるようにする、といった使い方も可能になりました。何十というトラックを扱っている場合、必要なところだけを表示できると使いやすくなりそうです。
また従来からもできましたが、EQやセンド、チャンネルストリップ、インサーション……など縦方向において必要な部分だけを表示させる機能もさらに使いやすく進化しています。
そのチャンネルストリップも大きく強化されています。全チャンネルに5つのエフェクトが搭載されています。具体的には、ゲート、コンプ、EQ、サチュレーション(チューブおよびテープ)、リミッターのそれぞれ。これらはプラグインではなく、予め搭載されているもので、必要に応じて順番の入れ替えなども可能です。
また、これまでないユニークな機能としては、「VST Connect SE」というものも搭載されました。これはネットを介してのレコーディングを可能にするというもの。つまり東京でレコーディングしているけど、ボーカリストは大阪にいる……といった場合でも、ネット越しにリアルタイムにレコーディングできるというものです。海外でサービスされている「digital musician net」と近いもので、netduettoとは違うアプローチのもののようです。
つまり、ネットでセッションしようというのではなく、Cubaseのバックトラックを遠隔地でモニターしながら、歌ったり、演奏したりすると、バックトラックとドンピシャのタイミングでDAW側に録音できるというもののようです。ネットでのレイテンシーの補正は自動的に行ってトラック上に録音されるみたいですね。
【追記】
InterBEE 2012会場でお披露目されていたCubase7のデモを見てきたところ。VST Connect SEについて、さらに詳しいことがわかりました。まずこれはVSTプラグインとして使うものであり、相手先はCubase7にバンドルされている別アプリケーション、「VST Connect SE Performer」というものを使います。したがって、Cubase7を2本買うことなく、使うことができるようです。上の写真が単独起動するVST Connect SE Performerです。リアルタイムでオーディオ伝送するようですが、24bit/96kHzのWAVファイルなどが使えるのか、MP3などを使うのかについては、まだ不明です。詳細が分かったら、またレポートしたいと思います。
そのほか、プラグインのほうも強化されています。こちらの目玉はロシアのVoxengoというブランドの64バンドEQ、「CurveEQ」の搭載。これは自在に使えるスプラインEQなのですが、面白いのが解析機能です。つまり、自分の気に入っている音をこれで解析すると、その音色キャラクターがEQパラメータとして設定できるので、自分でその音を再現できるようになるのです。好みの曲のギターイントロや、キックのサウンドを自分で作り出したいというときに、使えそうですよ。
こうした数々の機能が搭載されて、大幅な値下げがされてしまうのだから、最近購入した人からは怒りの声も聞こえてきそうではありますが、11月14日以降に購入した人は、無償アップグレードが適用されるとのこと。Cubaseの場合、これまで内外価格差が指摘されており、海外からの輸入版を使う人がかなりいましたが、これでほぼ解消されるのではないでしょうか。
【追記】
Cubase 7へのアップグレード価格が発表されていました。以下のとおりです。
なお、申し込み受付は11月下旬開始予定で、12月上旬以降に発送とのことです。
対象バージョン | 価格 | 購入方法 |
Cubase 6.5 | ¥14,800 | スタインバーグバージョンアップセンター(送料別) |
Cubase 6 | ¥19,800 | スタインバーグバージョンアップセンター(送料別) |
Cubase 4/5 | ¥24,800 | Steinberg Online Shop(ダウンロード) |
Cubase Artist 7 | ¥24,800 | Steinberg Online Shop(ダウンロード) |
Cubase Artist 6.5 | ¥29,800 | Steinberg Online Shop(ダウンロード) |
Cubase Artist 6、Cubase Studio 4/5 | ¥34,800 | Steinberg Online Shop(ダウンロード) |
あ、もちろん、UR28Mのようなオーディオインターフェイス、CMCシリーズのようなコントローラなどのハードウェアはそのまま使えるので、その点での心配はいりませんよ。