9月20日、東京・原宿にあるニコニコ本社にて、ちょっと変わったDTMのイベントが行われるとともに、その内容がニコニコ生放送の公式番組として放送されました。イベント参加費2,000円という有料イベントではありましたが、40人を超える参加者で会場は満席。放送のほうも1,000人以上が視聴する人気番組となったようです。
このイベントは、人気ボカロPであり、実はプロの作編曲家、アレンジャー、プロデューサーでもある、「とく」さんと、千本桜などの映像作品の制作で有名な「三重の人」さんの2名が出演し、DAWを使ってボーカルのレコーディングをしよう、という内容のもの。そのDAWにはFL STUDIOが使われたのですが、私の書いた本「BASIC MASTER FL STUDIO」がテキストとして使われるらしいということだったので、ちょっと遊びに行ってきました。
もともと、この企画、ニコニコ本社の担当者が「DTM関連のイベントを企画してみたい」とDTMマガジンとアイディアを話し合っている中で生まれたそうです。そう、この担当者自身がFL STUDIOユーザーということもあり、まずはFL STUDIOで何かできないかと、FL STUDIOの発売元であるフックアップにも話を持ちかけて企画実現に至ったのだとか……。
ご存知の方も多いと思いますが、「とく」さんと「三重の人」さん、これまでにいろいろなコラボ作品を作っているようで、このイベント中にもそうした作品の一つ、初音ミク&SeeUの「ASTEROiD」(ニコニコ動画:sm18227521)がビデオで紹介されました。しかし、今回「三重の人」さんは、映像クリエイターとしてではなく、「歌い手」としての参加です。
一方、「とく」さんは普段Mac&Logicという環境で音楽制作をしているそうですが、今回はWindows&FL STUDIOでの音楽制作。実はFL STUDIO自体を使うのは今回が初めてだったそうなのですが、本番前に「BASIC MASTER FL STUDIO」を真剣に読んでくれていたとか…。でも、さすがプロ。番組中はFL STUDIOを使いこなしていました。
では、そのレコーディングについてちょっと紹介してみましょう。まず使っていたのはDELLのノートPC(Windows7-64bit、CPU:Corei5 M580 @2.67GHz、メモリ:8.00GB)にFL STUDIO 10をインストールしたマシン。
これに、iCONのUSBオーディオインターフェイス、CUBE 4 nanoを接続したという環境です。CUBE 4 nanoは昔のMac miniのような形状の機材で、アナログ・デジタル合わせて計4入力/4出力、およびMIDI入出力を持った定価19,950円の機材。
さらにCUBE 4 nanoのマイク入力に、ボーカル用のコンデンサマイクを接続してのボーカルレコーディングです。参考までの紹介しておくと、使ったコンデンサマイクはsE Electronics社のsE X1(定価23,100円)のもので、その背後に同じsE社のProject Studio Reflextion Filter(オープン価格、実売21,000円前後)というリフレクションフィルターが設置されているという環境。
「とく」さんによれば、自宅でボーカルを録る場合、どうしても部屋の反響音が気になるけれど、リフレクションフィルターがあるとマイクで拾う音が劇的によくなるとのことです。
さて、FL STUDIOのトラックに予め用意しておいた千本桜のカラオケを入れて、いざレコーディング。このままだとキーが低くて歌いにくいため、+5半音上げる調整を行います。これはFL STUDIOのトラックでの調整であり、音質的にもまったく問題ありません。
さて、ここまでカラオケの音もPAを使って会場にモニターされていたのですが、これからは本番。そのモニターがマイクへと回りこむとまずいので、「三重の人」さんはヘッドホンでモニタリングで歌うことになります。「とく」さんからは会場のみなさんに、「ここからは静かにしてね。笑うなら、レコーディング終了後に!」とう指示が出て、いざレコーディングへ。
ここで会場に響くのは、「三重の人」さんの生の歌声だけ。そう「カラオケ」は聴こえないし、リバーブなどのエフェクトもまったくかかっていない地声です。「とく」さんは、公開処刑と言っていましたが、まさにそんな感じ。でも、それを熱唱し、歌い切ると会場からは拍手喝采となっていました。
この作業を数回繰り返した先は、プロデューサである「とく」さんによる神業。数回歌ったトラックからいいところをつなぎ合わせていくコンピングを行うとともに、予め用意しておいたCelemony Melodyneを使ったコーラスパートと重ね合わせます。また、単純に重ね合わせると低域が出すぎてしまうため、各ボーカルトラックからEQを用いて低域をバッサリと切り落とし、高域を中心としたキラキラ音にします。さらにコンプレッサを掛けて音圧を上げるとともに、ディレイを使って音に厚みを付けていきます。
伸びのあるボーカルサウンドへと見る見る変化していくわけですが、リバーブは一切かけていなかったようです。EQ、コンプ、ディレイなどすべてFL STUDIOの標準搭載のものが使われていましたが、最終的にできた曲が再生されると、公開処刑時とはまったく違うプロによる完成されたサウンドに、会場からは驚きの声が上がっていました。
このPCのDTM環境は今後も当面ニコニコ本社に常設しておくそうです。また、DTMのイベント&番組もさまざまなテーマを取り上げながら、レギュラー化していく考えだそうですから、どんな内容になっていくか楽しみですね。