Fairlight CMIという楽器をご存知でしょうか?これは世界初のサンプリング・マシン(サンプラー)であり、私、個人的には高校生時代(30年ほと前ですね)、とっても憧れた機材。今ではシンセサイザにおいてサンプラーは、もっともありふれた音源ですが、当時、生音を録り込んだデータに音階がつけられるという発想は画期的でした。
またオーストラリア製で1,200万円もするという話だったので、手が届かないどころか、現物を見たこともない代物でしたが、グリーンモニターに3D画像で映し出されるサンプリングデータの波形と、それをペンライトで操作するユーザーインターフェイス、そして近未来的なデザインに憧れたのでした。
そのFairlight CMIを再現するiPhone/iPadアプリ「Fairlight CMI」が、昨年3月にリリースされていたのですが、私自身が大怪我での手術・入院からようやく復帰しつつあった時期で、その存在を全然キャッチしておらず、知ったのはそれから半年以上経ってから。「音楽方丈記」などのブログサイトで詳しく紹介されていました。価格が1,200円とiPhone/iPadアプリとしてはやや高めだったこと(いや冷静に考えれば安すぎる価格ですね、当時の1万分の1の価格ですよ!)と、ちょっとタイミングを逃したなという思いから、買わないまま、ちゃんと調べないままでおりました。
が、先日行った「シンセバー」(以前「TR-808やLinnDrum、Simmons…80年代ドラム音源30種を忠実に再現するSPARK」の記事でも紹介した、サウンドデザイナー/クリエイターで日本シンセサイザープログラマー協会理事でもある齋藤久師(@hisashi_saito)さん主催するビンテージシンセをテーマにしたイベント)で、ホンモノのFairlight CMIに初めて遭遇することができました。残念ながら、すでに壊れていてそれ自体は動作しなかったのですが、やっぱり迫力はありますよね。
Fairlight CMIといえば、Art Of Noiseの各楽曲や教授のアルバム「音楽図鑑」などでも有名ですが、やはり忘れてはならない存在がTPOでしょう。そのTPOのメンバーである岩崎工さん、安西史孝さんが、シンセバーにいらして、当時を振り返って語ってくれたのですから、感動ものでした。
また、そのシンセバーで、主催者である齋藤久師さんと玉山詩人(@Fumito_Tamayama)さんが、壊れたFairelight CMIを前にして、二人羽織(!?)で実物さながらの音で演奏していたのですが、その音を出していた正体こそがiPad版だったのです。これは、買わねばと思い、その場でApp Storeにアクセスしてダウンロード購入。円高が進んだためなのか、値下げがあったのかよくわかりませんが、850円になっていました。
買ってみて初めて気づいたのは、それがホンモノであること。ご存知の方からは、「今さら何を言ってるんだ!」と怒られそうですが、このアプリはFairlight CMIの開発者であり、Fairlight Instruments Pty Ltdの創設者であるPeter Vogel氏が開発したもの。かなり忠実に再現してあるだけに、楽器としての演奏機能はもちろん、自分の声などをサンプリングすることもできるし、波形表示機能、シーケンス機能など、数多くの機能を持っていて、結構、複雑なアプリなんですよね。
もっとも850円のこのアプリで、1,200万円のFairlight CMIの全機能が使えるわけではありません。Pro版というものが存在しており、それを4,300円で購入するか、差額である3,450円をアプリ内課金によって支払うことによって、ユーザーインストルメントセットの作成・編集、シーケンサでのデータ作成・編集、WAV・AIFFからのボイスデータのインポートなどの機能が追加されるようになっています。
とはいえ、ライト版である850円のアプリでも、かなり遊ぶことは可能。何といっても面白いのは、オリジナルのFairlight CMI VerIIに収録されていた全音色が、このアプリにも収録されているということです。これを鳴らしてみると、結構、あれ?どこかで聴いたことのあるサウンド……というのがいろいろ鳴ってくれます。
シンセバーの終了後、二人羽織をしていた玉山さんに、どの音色を使っていたのか、ちょっと教えてもらいました。すると「中でも使える音色はHUMANS 1 #22に入っているSARARRですね、いろいろな曲で使われている、いかにもFairlight CMIのサウンドですよ」とのこと。具体的には「Appetite」(Prefab Sprout)、「Moments In Love」(Art Of Noise)、「Close To The Edit」(Art Of Noise)ほか多数で使われているとのこと。後で、改めて聴き比べてみると、確かに使われていますね。
また「いわゆるブラス系のオケヒットですが、BRASS I #17の中に入っているTREVHORNも、まさにという音ですよ」とのこと。こちらも、80年代のサウンドで本当によく聴く音ですが、「Beat Box」(Art Of Noise)、「Owner Of A Lonely Heart」(Yes)などなどで使われています。そう、昔この音が欲しかったんですよね。
CoreAudioにもCoreMIDIにも対応していますから、Mobile Keysなどに繋いで演奏してもいいし、iU2などでより高品位な音で利用するのもいいですよね。80年代のサンプラーサウンドを試したいのであれば、ぜひ使ってみることをお勧めしますよ。
ところで、このFairlight CMIのアプリ、7月11日にアップデートされ、名称が変わってしまいました。権利関係の問題なんですかね、Fairlight CMIからPeter Vogel CMIとなったのです。機能や音などを含めアプリとしては微妙なバグFIXのほか何も変わっていないのですが、社名をFairlight InstrmentsからPeter Vogel Instrumentsに変更したことに伴い製品名変更のようです。個人的には、Fairlightのままでいてほしかったところなのですが、まあ仕方ないですね。