何かと話題になることが多い80年代のドラムマシン。RolandのTR-808やTR-909は定番ですが、Linn ElectronicsのLinnDrum、E-mu SystemsのDrumulator、ドラムマシンではないけれどエレドラとして当時一世風靡したSimmonsのSDS……、私もYMO世代ですから、高校・大学時代、こうした機材に憧れたものの、高くてなかなか手が出せなかった思い出があります。
ご存知のとおり、これら80年代に作られたドラム音源は今でもさまざまな音楽制作に用いられて、中古市場でも結構な高値で売買されています。ヤフオクあたりを見ていてもいい値段がついているし、そもそも数も限られていますしね。
でも個人的には、最近そんなドラム音源に触れる機会が何度かあって楽しんでいます。サウンドデザイナー/クリエイターで日本シンセサイザープログラマー協会理事でもある齋藤久師(@hisashi_saito)さん主催の「シンセバー」なるイベント(?)に毎月出席させていただいていて、そこで現物に触れて音を出すことができるからです。先日もRolandのTRシリーズがズラリと並んだり、LinnDrumが登場するなど、毎月テーマを決めてビンテージ音源が登場し、当時の音楽を流したりしているんですよね。
確かにTR-808あたりだと、プラグイン音源でそれを再現しているものも数多くあります。ただ、その多くはサンプリング音源となっているため、アナログ音源であるTR-808の音作りまで踏み込めるものは限られてきます。さらに、もっといろいろな音源をとなると、なかなかないな……と思っていたら、フランスのArturiaからかなり興味深いドラム音源が出ていたんですね。SPARKというこのソフト音源、昨年展示会などで見て、なんとなく知ってはいたもののコントロールサーフェイスとセットで定価68,250円と結構高価だったこともあって、あまり興味の対象にならずに素通りしていました…。が、先日これのソフトウェア部分だけを切り出した「SPARK Vintage Drum Machines」という製品が定価14,700円(実売で12,000円ちょっと)で出ていたんです。
気になったので、取り寄せてみたところ、これ、スゴイ音源でした。ご存知のとおりArturiaはこれまでもMOOG ModularやProphet5、JUIPTER-8、ARP2600……といったビンテージシンセをソフトウェア技術で再現してきたメーカー。TAE(TRUE ANALOG EMULATION)テクノロジーという同社のアナログ回路をシミュレーションする技術で、回路から復元しているため、単にビンテージシンセをサンプリングしたというものとは抜本的に違うのが同社製品の大きな特徴です。
このSPARK Vintage Drum MachinesもまさにTAEを使ってアナログ回路をシミュレーションして音を作っているんです。もっとも、80年代だってすべてがアナログドラムというわけではありません。LinnDrumだったり、TR-909の金物、また以前紹介したTR-707などはPCM音源が使われておりそこに当時のアナログ回路が組み合わさって音が作られていたわけですが、その辺までを忠実に再現しているのです。
で、具体的な音源はというと、以下の30種類。
Roland TR-808 | Roland TR-909 | Roland CR-78 |
Linn Electronics LinnDrum | KORG Mini Pops 7 | Roland TR-606 |
Ace Tone Rhythm Ace FR-2L | Roland TR-707 | Roland TR-727 |
KORG KPR-77 | DrumTracks | Simmons SDS |
E-mu Drumulator | Boss DR-55 | Maestro Rhythm King MRK2 |
Oberheim DMX | Linn Electronics Linn 9000 | KORG DDM 110 & 220 |
E-mu SP-12 | CASIO VL Tone and SK-1 | CASIO RZ-1 |
Kawai R-100 | YAMAHA RX5 | Roland TR-626 |
YAMAHA MR10 | Roland R8 | Pulsator |
Micromatix | Phatwerk | Dirty 909 |
ただ、メニュー上では商標権の問題からか、ダイレクトにその名称が使われているわけではなく、TR-808はDR-808、LinnDrumはLynn Dreamといった具合いで、それっぽい名称に置き換えられています。
またご覧になってお気づきの方もいると思いますが、すべてが80年代というわけではなく、Rolandの前進であるエース電子工業のRhythm Ace FR-2Lなどは1970年に作られたものだそうですから、年代的にはもう少し広いようですが…。
SPARK Vintage Drum MachinesはWindowsおよびMacで動作するスタンドアロンの音源としても使えるし、VST、RTAS、AUで動作するプラグインとしても使えます。また単なる音源ではなく、ドラムマシン機能も備えているので、自分でプログラミングすることも可能です。
パターンを組んでいき、それを並べてソングに仕上げることができるので、なかなか使いやすいですよ。プラグインとして組み込んだ場合には、このドラムマシン機能とテンポも合う形で同期してくれるので、下手にDAWのシーケンス機能を使うよりも、効率よくドラム部分を入力することができますね。
またドラムマシンとしての音量バランスを専用ミキサーで行うことができるほか、スネアはTR-808、ハイハットはLinnDrum、タムはSimmons……なんていう組み合わせができるのも面白いところです。
現物と並べて音を聴き比べているわけではないので、その再現性がどのくらいなのか確実なことはいえませんが、これを聴いている限り、非常に近いように感じました。またプリセット音色の製作者クレジットを見ると「By:N.Ubukata」と出ているので、あの生福の生方ノリタカ(@ubieman)さんが音作りに関わっていらっしゃるようです。
先ほど
生方さんにTwitterのDM経由で聞いてみたところ「アナログシミュレーションはシンバル系以外、かなり実物に肉薄してます。TR-909などは実物より“いい音”のセッティングをデフォにしてますよ。シンバル系はコームフィルター無いので、完全再現は無理でしたが……」というコメントもいただけました。もっとも音作りにはかなり苦労されていたようですが、ユーザーとしてはこうした音が手軽に再現できるというのは嬉しい限りですよね。