1万円強のDAW、Music Maker MX搭載のボーカルエディット機能

最近、さまざまなソフトに「élastique」という機能、名称を見ませんか?「エラスティック」と発音するのですが、これはドイツ・ベルリンにあるzplane社のタイムストレッチ・ピッチシフトエンジンの名称で、これがさまざまなソフトに搭載されています。

具体的にいうとCubaseACIDLiveKONTAKTFL Studio、Reaper……。zplaneのサイトにいくと、全部ではないものの、採用しているアプリケーションの一覧を見ることができます。アプリケーションによって、エンジンのグレードや利用法はいろいろですが、高価なソフトでの使い方のひとつがボーカルエディットでしょう。

ボーカルエディット用に用いられるélastique



ボーカルエディットとは、ボーカルトラックを解析して、ピアノロール風に表示させた上で、ピッチ補正を行ったり、タイミングをズラしたり、声質をいじったりするというもの。ただ、この機能を搭載しているソフトって結構高いんですよね。

そんな中、このボーカルエディット機能を搭載しつつ、かなり安い価格設定のソフトがあります。それがドイツMAGIXのDAW、「Music Maker MX Producer Edition(以下、Music Maker MX)」です。ご存知の方も多いと思いますが、これはマスタリング用途などで使われていたり、マニアユーザーも多い「Samplitude」、「Sequoia」のエントリー版に位置づけられるソフトで、通常版の実売価格が12,000円弱というもの。国内では、AHSが販売代理店として扱っており、これまで、Music Maker、Music Maker 2、Music Maker 3とアップグレードしてきて、昨年末にMusic Maker MXとなった製品です。

12,000円弱で入手できるMusic Maker MX Producer Edition
低価格とはいえ、DAWであるだけに、MIDI、オーディオ、エフェクト、ソフトシンセ、ミキシング、マスタリング……と一通りの機能を備えているわけですが、今回注目したいのは、その中の「エラスティック・ピッチ」という機能です。

これを使うと、ボーカルをかなり自由度高くエディットすることができます。自分の声で歌ったトラックをエディットするというのはもちろんのこと、VOCALOIDで書き出したWAVファイルのピッチを補正したり、ちょっと声色をいじるなど、いろいろな使い方ができます。

最新のMusic Maker MXに搭載されているエラスティック・ピッチも従来のバージョンのMusic Makerに搭載されていたエラスティック・ピッチも機能的にはほとんど変わっていないようです。いま検索してみたら、Music Maker 2用にAHSが作ったビデオを見つけたので、ここに掲載しておきます。これを見ると、どんなことができるか、だいたいイメージできると思います。

ためしにVOCALOID3 結月ゆかりをベタ打ちしたデータをエラスティック・ピッチで見たのが下の画面です。
※エラスティック・ピッチの話とは直接関係はないですが、結月ゆかりにはPさん達が作ったMusic Maker MX用のプロジェクトファイルが収録されてます。


VOCALOID3のWAWを読み込んで、エラスティック・ピッチを起動

オレンジ色の細い線がピッチの動き、ピアノロール上にある四角い箱型のものが、推定される音階です。ペンツールなどを用いてオレンジ色の線を自分で描くこともできるし、細かいピッチの揺れはそのままに、四角い箱だけを上下させて音程を変化させることもできます。


四角い箱だけをドラッグして音程を下げてみた 

またキーとスケールを設定して「チューニング」というボタンをクリックすると、そのキーに合うように自動的にオンチを補正してくれます。その際、ピッチの揺れまで直して、機械的なサウンドにしてしまうのか、そうした揺れは残した状態で補正するのかは「ピッチ コンツァー」という設定でできるようになっています。

「チューニング」ボタンを押してピッチ補正
また「ハーモナイザー」を使うと、3度高い音や5度高い音を加えてハーモニーに仕立てることもできます。「コード」を設定ボタンをクリックすると「メジャー135」、「メジャー146」、「マイナー136」……といった選択項目があります。たとえば「メジャー146」を選択すると元の音=1に加えて4度高い音、6度高い音が追加されてハーモニーになるわけです。いわゆるピッチシフトと違い、声質を変化させないので、よりハーモニーっぽく聴こえるのがポイントですね。

ハーモナイザー機能を用いて4度と6度高い音を追加
またフォルマントコントロールを動かすと、女性ボイスを男性ボイスに変えたり、男性ボイスを女性ボイスに変えるなど、声質をいじれるのも面白いところです。

専用ソフトであるCelemonyのMelodyneやSONARのV-VOCALと比較すると(両ソフトともエンジンはélastiqueではない)、精度・機能の面でかなわない点はありますが、それでも12,000円のソフトに入っている一機能であると考えると、驚くほどの性能です。ある意味、このエラスティック・ピッチのためだけにMusic Maker MXを買っても損はないのではないでしょうか?

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