オリジナルPODよりも高性能だったMobile In/Mobile POD

先日も紹介したiPadやiPhoneをLine 6のギターアンプシミュレータ、PODに変身させてしまうツール、Mobile In(ハードウェア)とMobile POD(ソフトウェア)。すでに購入して使っているという人も少なくないと思いますが、その出音はまさにPODそのもの。本家、LINE6が作っているので当然なのかもしれませんが、レイテンシーも少なくギタリストにとって、とても気持ちよく使えるツールになっています。

Mobile Inは入力専用のオーディオインターフェイスとなっているのに対し、PODを実現しているのはアプリであるMobile POD。実はこのMobile POD、大阪とインドネシアのバリで作られていたって知ってました?開発を担当したのは、Line 6のソフトウェア設計事業部・主任技師のロブ・ランプリー(Rob Rampley)さん(以下敬称略)。先日、そのロブさんとお話することができたので、Mobile PODの実力に迫ってみました。

Mobile PODの開発者、ロブ・ランプリーさん



--具体的にMobile PODの話の前に、ロブさんの経歴について簡単に教えていただけますか?
ロブ:私自身、ソフトウェアの開発を20年以上していますが、最初はALESISにいたのです。当初はサウンドデザイナーとしてスタートし、その後少しずつ中身を開発するプログラミングへと移っていきました。具体的な製品としてはQuadraSynthQS6などに携わっていました。ALESISには約7年間在籍していましたが、その後半はアナログとデジタルのハイブリッドのシンセサイザ、Andromeda A6を担当していました。Andromeda A6はあまりにも巨大なプロジェクトで、正直なところ完成しないのではないかと思ってましたよ(笑)。そのプロジェクトの中で、私はASICと呼ばれる専用のカスタムチップのプログラミングを行っていました。

--そうしたプログラミングはどのようにして身につけたのですか?
ロブ:ほとんどが独学です。アセンブラやC言語などを使いながら手探りで開発しつつ、徐々にノウハウを蓄えていった感じですね。そうした中、1999年にLine 6に移籍しました。

--どんなキッカケで転職したのですか?
ロブ:当時、ALESISではFast Forward Designsという外部の会社と組んで製品の開発を行っていました。私も各製品を開発する際、そのFast Forwardといっしょに行っていたのですが、ここにはまさに天才エンジニアといえるマーカス・ライルMarcus Ryle)という人がいました。彼はもともとOberheimMatrix12などを作っていた人物。その後Oberheimをやめて、OEM開発を行うそのFast Forwardを作ったのです。ALESISのADATなどもマーカスの企画・開発ですね。そのマーカスが後に自らのブランドで製品を発売するLine 6を設立したのですが、私もその後、縁あってLine 6で働くことになりました。もちろん私にとって師匠のような存在ですから、また一緒に働くことが出来るのを嬉しく思っています。
LINE6の前進、Fast ForwardではALESIS製品などの開発を行っていた
--なるほどLine 6というのはそういう背景のある会社だったのですね。実際ロブさんは、Line 6に入ってどんなことをしていたのですか?
ロブ:当初はGuitarPortという製品へ、PODのDSPを移植する作業をしました。ここではWindowsやMacでのアプリケーション開発で、その後もずっとGuitarPortの開発に携わっています。またGearBoxの開発も行ってきました。当初はWindows版、その後Macにも対応させましたが、その過程でVSTRTASAudioUnitsと各種プラグインを出しましたね。PropellerheadRecordReasonで使用できるLine 6 Ampの開発も私が担当しており、ついさっきまでバグフィックスなどを行っていました。そのほかXboxとPlaystation用に出したGuitar Heroというゲームのサウンド部分の開発も行いました。日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは大ヒットした音ゲーです。実は、その開発を京都で行っていました。
ロブさんが開発担当のGearBox
--なぜ、ロブさんが京都に?
ロブ:妻が日本人なので6年前に日本に来て、当初都内に1年、その後京都に引っ越し、京都で開発をしていました。さらに妻の実家である大阪に引っ越したのですが、その後、妻がバリで仕事をするようになったため、今はバリを中心に大阪と行ったり来たりという生活ですね。いまのインターネット時代、ネット環境とパソコンがあればどこでも開発はできますから(笑)。

--さて、ここから本題ですが、ロブさんがiPhone、iPad用のプログラミングをするようになったのはいつからですか?
ロブ:今年からですよ。マーカスが今年の春にMobile In/Mobile PODのアイディアを出してきたので、そのソフトウェア担当として私が取り組むことになり、大阪とバリで開発していました。あ、バリの空港でプログラミングしていたこともありましたね(笑)。一方、ハードウェアのほうはアメリカ側で開発を行っています。
Mobile PODは基本的にすべてロブさんが開発を行っている
--Mobile PODのどの部分を担当しているのですか?
ロブ:すべてですよ。DSPプログラム部分も含めて全部。まあ、自分的には昔やっていたことを繰り返しているような感じでもあるのです。実は以前にPOD Farmの開発にも絡んでいたので、プラットフォームは変わってもやっていることは極めて近いですね。POD 2.0用に作ったC言語のコードをiPad/iPhone用にオプティマイズして移植しているので、実際に同じ音が出ていますね。実際、POD 2.0とは互換性があり、POD 2.0のエディタソフト「Line 6 EDIT」で保存したパッチをiTunes経由で取り込んで、Mobile PODでそのまま読み込めるようになっています。

--そうそう、とても気になっていたのが、Mobile Inが24bit/48kHz対応であるという点ですが、これは本当にそうなのですか?iPadで24bit/48kHzでレコーディングできるアプリというのを見たことがないので、本当かな、と思って……。
ロブ:はい間違いなく24bit/48kHzで動いています。このMobile PODは常時24bit/48kHzのモードで動かしています。またA/D部分こそ24bit/48kHzですが、その先の内部演算は32bit浮動小数点処理をしているので、音質的にさらによくなっています。Mobile PODはMobile PODだけでなく、Garage BandなどCoreAudioに対応したアプリであれば使用できますが、その場合の分解能やサンプリング周波数はアプリ側の仕様によります。
Mobile Inは24bit/48kHzで動作する
--使ってみてレイテンシーが小さいなと思いましたが、この辺はどうなっているのでしょう?
ロブ:Mobile PODも少しずつブラッシュアップさせています。現時点でも、Mobile In/Mobile PODのシステムのレーテンシーは、オリジナルのPOD 2.0より良いくらいですが、将来的にはさらに向上することもできるだろうと思っています。

--Mobile Inは入力だけのデバイスですが、もし出力にも対応したデバイスになるとレイテンシーがさらに小さくなる可能性もあったのでしょうか?

ロブ:内蔵のヘッドホン出力は結構優秀なので、これを外部にしても変わらないと思います。一方で内蔵のマイク入力のレイテンシーは大きいので、これを使うタイプのものとではレイテンシーに大きな差があると思います。

MIDI Mobilizer用アプリ、MIDI MemoもVer3からロブさんが担当

--今後も、ロブさんご自身でのiPad/iPhone関連のアプリを開発予定はあるのでしょうか?
ロブ:MIDI MobilizerII用のアプリ、MIDI MemoもVer.3からは私が担当しています。さらにいろいろと開発していく予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。

--ありがとうございました。

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