DTMにおいて必要不可欠な機能のひとつ、ループシーケンサ。いまやほとんどのDAWに搭載され、ループ素材を貼り付けるだけで、誰でも簡単にオリジナル楽曲が作れるようになっています。もちろん、ループ素材を使ったリズムパターンなどを下地にして作曲していくというプロミュージシャンも少なくありません。
そのループシーケンサとしてはMacの「GarageBandが初代ソフトである」と思っている人が少なくないようですが、実はその遥か昔にGarageBandのベースになったソフトがあることをご存知ですか?そう、現在Sony Creative SoftwareからWindows用ソフトとして発売されているACIDシリーズこそが元祖ループシーケンサなのです。
1998年に発売された元祖ループシーケンサ、ACID
私が最初にACIDに触れたのは1998年のこと。それ以前からSonic Foundryというアメリカのソフトメーカーの波形編集ソフト、Sound Forgeを愛用していたのですが、当時Sonic Foundryの代理店をしていたフックアップから、「すごいソフトができたぞ」という知らせを聞いて触ったのがSonic Foundryが開発したACIDの最初のバージョンでした。当時、サンレコでWindowsの連載をしていたので、そのネタとして使ったのはもちろんでしたが、このACIDには本当に驚かされました。
今でこそループシーケンサは当たり前のものになっていますが、当時はそうした概念すらなく、「そもそもオーディオのテンポを変更するなんて非現実的」と思われていました。確かにタイムコンプレッション/タイムエクスパンジョンといった技術はあり、ある程度できることは知っていましたが、オーディオトラックで構成されたシーケンスデータのテンポが自在に変えられるなど考えてもいませんでしたから……。
ループシーケンサの機能がどんなものなのかについてはここでは割愛しますが、さまざまなテンポのループ素材を自在に組み合わせられるというループシーケンサの概念はACIDの初期バージョンで初めて確立されたのです。
自宅の棚から発見した初代ACIDのCD-ROMパッケージ
先ほど、自宅の棚をあさってみたところ、その初期バージョンのACIDのCD-ROMが出てきました。パッケージはどうも捨ててしまったようですが、インストールしてみたところ、しっかり動いてくれました。
このCD-ROMの盤面をよく見ると、「This CD will AutoPlay on Windows 95 and Windows NT 4.0.」なんて書いてあるんですよ。このことからも、いかに古いソフトであるかがよく分かりますよね。
画面を見ても分かるとおり、現在のACIDともソックリです。もちろん、その後オーディオのレコーディング機能やMIDI機能などが追加され、ACIDはDAWへと進化していったわけですが、ループシーケンサとしての基本的な機能は最初のバージョンでほぼ完成していたのです。だからこそ、ループ素材であるwavファイルのことをACIDデータとかACIDizedデータと呼ぶわけなんです。
その後、2001年か2002年ごろだったでしょうか、フックアップからの情報で、ACIDの開発メンバーがAppleに移籍したという話を聞いていました。まだAppleがLogicの開発元であったドイツのEmagicを買収するだいぶ前のことです。それからしばらくした2004年1月にAppleからiLife ’04の目玉ソフトして登場してきたのが初代のGarageBandだったのです。
当時Appleの担当者からもACIDの開発者が参加して作ったという話を聞いたので、なるほどな、と思った覚えがあります。ACIDのエッセンスを上手取り込み、Macソフトとして生まれ変わらせていたんですよね。残念だったのはApple LoopsとACIDizedファイルの互換性がなかったこと。そっくりな概念のデータなのに、いまだに双方のソフトでお互いのループ素材が読み込めません。この辺がうまくやりとりできるとユーザーにとってはもっと便利なのですけどね。
【追記】
ごめんなさい。当初、互換性がなかったので、今でもそうだと思っていましたが、現在のACIDはACIDizedデータでないWAVファイル、AIFFファイルも読み込み時に自動的にACIDizedされるので、ほとんど支障なく読み込めるようになっています。反対にGarageBandはACIDizedされたWAVファイルをAppleLoopsと同じように読み込んで扱えるようになっています。
ちなみに、ACIDは前述のとおりDAW的な機能を次々と備えていったため、CubaseやSONAR、Pro Toolsなどと比較されることが多く、その結果、オーディオ編集機能やMIDI編集機能などさまざまなところで見劣りすると評価されているケースが少なくありません。世の中の流れ的に仕方がないのかなと思いますが、私個人的には今でもACIDはループシーケンサであると割り切って見て、使っています。実際ループシーケンサとしての使い勝手だけで見ると、ほかのDAWと比較にならないほど使いやすいんですよ。何でもすべてのことを1つのDAWにやらせるより、ソフトによって使い分けるほうが効率的なことも多いですから。
ついでにもうひとつ書き加えておくと、当初Sonic Foundryが開発したACIDですが、ACIDやSound Forge、VEGASといったソフト開発部門が2003年にSONY系列の会社に買収されたため、現在の開発元がSony Creative Softwareとなっているのです。
【関連サイト】
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