歌声合成ソフトの代表といえば初音ミクを代表とするVOCALOIDでしょう。でも、そのほかにもフリーウェアとして広く使われているUTAU、また以前Digital Audio Laboratoryでも取材させてもらったフリーウェアのAquesToneなどいくつかのものがあります。
そうした中、最近、ニコニコ動画やYouTubeなどでも作品が次々とアップロードされて話題になっているのが、名古屋工業大学の徳田恵一先生の研究室で開発したSinsy(しぃんしぃ:Singing Voice Synthesis System)というシステムです。これも誰でも無料で使えるシステムとなっているので、どんなものなのか試してみました。
【Sinsy】絆-kizunairo-色【歌わせてみた】
私がこのSinsyを初めて知ったのは、昨年夏の音楽情報研究会での研究発表会。その後、AV Watchの記事を書く際に少し使ってみて、その声の質の良さにも驚きました。ただ、それ以降、触っていなかったのですが、先日、徳田先生から「Sinsyオンラインデモページに、童謡が得意なf001に加えて、JPOPバラードが得意なf002j_aを公開しました」というメールをいただいたのです。そこで改めて試してみましたので、実際の使い方を紹介しましょう。
【Sinsy】 silence 【オリジナル曲】まず。このSinsyはHMMという方式による音声合成システムで、そのプログラムもソースコードも含めて公開されています。とはいえ、われわれ一般ユーザーがそうした学術用のプログラムを直接使うのは難しいところ。そこで、この研究室は一般の人も利用できるようにオンライン上で歌声合成ができるようにデモ用のWebページを公開しているのです。そう、VOCALOIDやUTAUなどは自分のPC上で歌声合成の演算を行うのに対し、Sinsyのデモページはクラウドシステムになっていて、音符と歌詞の情報を送ると、それによって生成されたWAVファイルをダウンロードできるというシステムになっているのです。
では、その音符と歌詞データをどうやって作るか。これはMusicXMLという形式を用います。これは楽譜表記のためのオープンなファイルフォーマットで、譜面作成ソフトや譜面生成可能なDAWでもサポートしています。ただ、オープンなフォーマットなだけに方言も多くMusicXMLさえ生成されれば何でもOKというわけにはいかないようです。試しにCubase6で生成したものをSinsyのページでアップロードしたところ、エラー表示がされてうまくいきませんでした。
しかし、このSinsyのページによると、「Cadencii,MuseScore,finale NotePadで作成したMusicXMLで動作確認しています」とのこと。CadenciiとMuseScoreはフリーウェア、finale NotePadはFinaleの簡易版で1,050円でダウンロード販売されているものです。試しに、Cadenciiをダウンロードして使ってみたところ、これがなかなか使いやすく便利なのです。そう、これは譜面作成ソフトではなく、VOCALOIDデータであるVSQファイルの編集ソフトであり、VOCALOIDと同様にピアノロール画面で音符入力できるとともに、歌詞の入力もできるというもの。すでにVSQファイルが手元にあるなら、これを直接読み込んでMusicXMLデータを生成することも可能になっているのです。
試しに手元にあったVSQファイルをCadenciiでMusicXMLに変換して、Sinsyのページで歌声のWAVファイルを合成してみました。使い方は簡単。まずボーカルとしてf001、f002のいずれかを選択、必要に応じて音質、ビブラート強度、ピッチシフトを数値で設定して、「送信」ボタンをクリックするだけ。曲は最長5分という制限はありますが、送信ボタンを押して数十秒程度で合成が完了します。画面の下に合成結果が表示されるのでプレイボタンをクリックすれば再生することができます。
またwavという表示もありますので、これを使ってwavファイルを手元にダウンロードすることも可能です。ちなみにwavファイルの形式は16bit/48kHzのモノラルです。
VOCALOIDとは明らかに違った雰囲気の歌声なのも面白いところ。「VOCALOIDを買うのも……」とためらっていた人もこれなら、投資は不要です。またすでにVOCALOIDを使っている人も、VSQファイルの資産を利用しつつ、違う歌声が作れるのですから試してみる価値があるのではないでしょうか。
【関連サイト】
Sinsy – HMM based Singing Voice Synthesis System
名古屋工業大学 – 徳田・李研究室