無響室というものをご存知ですか? 読んで字の如く、「音がまったく響かない部屋」のことであり、騒音テストを行ったり、音響機器などの試験を行うために使われる特殊な部屋です。普通の空間ではありえないようなところで、声を出しても、手を叩いても、すべてが吸収され、消えてしまう、まさに「DEAD」な空間です。
入り口を閉じると、何も聞こえなくなる代わりに、自分の血が流れる音が聞こえてきてしまう、ちょっと気味悪い空間でもあるのですが、先日、日経パソコンの記事を書くための仕事で、東京都立産業技術研究センターの無響室に行ってきました。
実は、私もだいぶ以前、浜名湖の湖畔にあるローランドの研究所を見学に行った際、無響室に入った経験はありました。壁はもちろん、天井も、床もすべてスポンジのような吸音材で囲まれた部屋であり、スポンジの上を歩くわけにもいかないので、まさにその中空に居られるように、金網が張ってあるという妙な部屋です。
が、そのときの記憶では1分もしないうちに、三半規管の感覚がおかしくなり、気持ち悪くなって外に出た覚えがあります。やはり通常空間ではないため、体が拒否するんですかね…。それ以来、無響室に行くことはなく、できれば行きたくもないとも思っていたのですが、先日、半強制的に連れて行かれたんです。
その仕事とは、日経パソコン11月22日号で掲載された特集「14機種の画質と音質を診断、テレパソの実力」という記事のための実験。最近増えてきている地デジチューナー搭載のテレパソの音質性能、画質性能を徹底的にチェックしようという企画です。
この記事、私とAV評論家の麻倉怜士さんの二人で担当し、麻倉さんが映像と音について目と耳でチェックする一方、私が測定によって音をチェックするということになったのです。当初、会議室でテストするか、防音されたスタジオでのテストを考えていたのですが、編集者が、「無響室が安く借りられるので、そこでやろう」と言い出したのです。個人的には、気分が悪くなるので嫌だと伝えたものの、結局、そこに決まってしまいました。
ちなみに私が考えた測定手段というのは、予めサイン波、ホワイトノイズ、音楽のWAVファイルを用意。それを各PCで再生させたものを、リニアPCMレコーダーで録音し、その結果を分析するという手段です。これによってS/Nや周波数特性を調べるとともに、最大音量がどのくらいになるか、ダイナミックレンジもチェックしようというものです。確かに、無響室で実験するのがベストではあるんですけどね…。
嫌だ、嫌だと思っていたせいもあるかもしれませんが、入ってすぐに気分が悪くなりました。「嫌だなぁ」ということをTwitterでつぶやいたら、「無響室に入ると血流音が聞こえるよ」と言われ、ますます怖気づいてもいたのです。もっとも、手で耳をふさぐと「サー」と聞こえる音、貝を耳につけると聞こえる海?の音は、まさに耳を流れる血の音なので、それほど特殊な音というわけではないんですよね。
この実験を手伝ってくださった、産業技術研究センター・研究員で、医工学博士の服部遊さんは、この部屋で何時間も過ごすこともあるとのことだったので、慣れの問題なのかもしれません。仕方なく、我慢をしながらテストを始めてみましたが、やはり辛く、1、2分測定しては外に出て休憩の繰り返し。ただ、やってみると徐々に慣れてきて、無響室での滞在時間が3分、5分と長くなってきました。また、中にPCなどの機材があると、音が反射するせいか、素のまま無響室に入るよりは多少まともなんですよね。
1機種について10分程度の実験を行っては機材を交換するという作業を続け、タイトルにもある14機種および、その他いくつかの参考機材での実験を含めると、結局朝10時から夕方5時までずっとここで過ごしたのです。かなり疲労困憊しましたが、倒れることなく、無事に実験を終えることができました。ちなみに、この実験に使ったリニアPCMレコーダーは、ローランドのR-09HRです。
実験結果については、日経パソコンをご覧いただきたいのですが、結論だけいえば、どれもダメダメ。これは麻倉さんによる耳の評価と同等でした。現時点ではテレパソを買うよりも、テレビとパソコンを買ったほうが、断然高性能で安くなるというのが実情のようでした
【関連情報】
東京都立産業技術研究センター