7月21日、Rolandは、クラウド型ソフト音源サービスのRoland Cloudの多くの音源がバージョンアップし、M1 Macにネイティブ対応したことを発表しました。これまでもMac、WindowsのVST、AudioUnits、AAXとほぼすべてのプラグイン環境をサポートしてきたRoland Cloudですが、今回のバージョンアップにより、M1 Macにもネイティブ対応したことで、より多くの環境で快適に使える音源へと進化しています。
まだRoland Cloudを使ったことがない方、聞いたことはあるけれど、いまひとつ何なのか、よく分からない……というDTMユーザーも少なくなくないと思いますが、改めてRolandCloudについて紹介するとともに、今回プラグインが、M1 Macにネイティブ対応したことの意義について考えてみたいと思います。
Roland Cloudは、Rolandが2017年から展開しているクラウド型ソフト音源サービスです。クラウド型……なんていうと、何やら複雑なものを想像してしまうかもしれませんが、「年間契約課金型のソフトウェア音源集」というと、分かりやすいのではないでしょうか。正確には完全無料で使えるプランがあったり、月額課金という方法も選択することができたり、完全買い切りの方法もあるので、複雑なもののように見えてしまう面もあるかもしれません。
別の言い方をすれば「サブスクリプション型のプラグイン音源サービス」ですね。日本のユーザーはサブスクリプションに拒否反応を示す人が少なくないと思いますが、年額課金、月額課金のほかに、完全買い切りのメニューも用意されているので、自分の納得のいく利用法を選択することが可能となっています。
Roland Cloudのサービス体系などについては、以前「クラウド型のソフト音源サービス、Roland Cloudが大きく進化し、国内でも本格スタート。現行ハードウェア製品と音色互換を持つソフトシンセZENOLOGYもリリース」といった記事でも紹介しているので、そちらを参照いただきたいのですが、課金の仕方がいろいろある点を除けば、いたって普通のプラグイン音源です。Roland Cloud Managerというツールを使って、欲しい音源をダウンロード&インストールすれば、各DAW環境において普通のプラグイン音源として使えるというものです。
4つあるプランのうち、どれを選ぶかによって使える音源が変わってくるのですが、JUPITER-8、JUNO-106、JX-3P、SH-101、TB-303、TR-808、JD-800、D-50、Sound Canvas……などなど、Rolandの往年の名機が勢ぞろいしているのがRoland Cloud最大のポイント。他社が見よう見まねでソフトウェア音源を作るのと異なり、Roland自らが過去の資産を発掘し、最新技術で再現しているのですから、まさに本物を入手できるサービスなわけです。
もちろん、ビンテージ音源だけでなく、ZENOLOGY/ZENOLOGY ProというRoland最新鋭の音源もあり、Rolandの現行のハードウェアシンセと連携できるのも重要なポイントですが、この辺は「無料で使えるRolandのDAW、Zenbeatsの新バージョンに搭載された音源ZC1と、ZENOLOGY ProやJUPITER-X/Xm、FANTOMとのシームレスな関係」という記事でも詳しく紹介しているので、そちらを参照してみてください。
さて、今回のトピックスは、そのRoland CloudがM1対応した、ということです。もっともRoland Cloudの全プラグインがM1対応したわけではなく、対応したのは以下のラインナップとなっています。
シリーズ | 機種名 |
ZENOLOGY | ZENOLOGY Pro |
ZENOLOGY | |
AIRA | SYSTEM-8 |
SYSTEM-1 | |
LEGENDARY | JUNO-60 |
JUNO-106 | |
TR-606 | |
D-50 | |
JX-3P | |
PROMARS | |
SH-101 | |
SYSTEM-100 | |
TB-303 | |
TR-808 | |
JUPITER-8 | |
JV-1080 | |
TR-909 | |
SH-2 | |
XV-5080 | |
SRX | SRX BRASS |
SRX DANCE TRAX | |
SRX ELECTRIC PIANO | |
SRX KEYBOARDS | |
SRX ORCHESTRA | |
SRX STRINGS | |
SRX STUDIO | |
SRX WORLD | |
SRX PIANO I | |
SRX PIANO II |
主だったプラグインが対応しており、Roland Cloudの全プラグインの約半数がM1ネイティブ対応したという状況で、今後徐々に増えていくようです。また、各プラグインの対応状況の詳細を見ると、たとえば、JUPITER-8の場合
VST: Rosetta 2 で動作
AAX: Rosetta 2 で動作
* PLUG-OUT 機能を使用するには、SYSTEM-8 の対応ドライバーのインストールが必要です。
といった記載があり、現状においてM1対応しているのはAUのプラグインのみという状況ではあるようです。ただ、実際にこれまでもRoland CloudをM1 Macで使ったことのある方ならご存知の通り、AUでもVST、AAXでもほぼ問題なく動作していました。そうM1 Macに搭載されていたRosetta 2というシステムによりIntelプロセッサ用に作られたソフトも自動的にM1プロセッサ用プログラムに翻訳されて使えていたんですね。
その意味では、今回のバージョンアップで、見た目上、操作上はなんら変化はありません。とくにM1対応したとのインジケーター表示もありませんから、ネイティブ対応したことにまったく気づかない人が大半かもしれません。
そこで実際、ホントにM1 Macにネイティブ対応しているのか、ちょっと簡単な実験をしてみました。それは従来のバージョンでの動作と、新バージョンでの動作をMacのアクティビティモニターで比較し、チェックするという方法。ここでは、DAWとして先日、M1ネイティブ対応した、として記事で紹介したばかりのDigital Performer 11を利用しています。
具体的にはインストゥルメントとしてJUPITER-8、JUNO-106、D-50の3つをAUプラグインとして起動し、3つをMIDIデバイスグループとして、グルーピング。それを単純の「ドレミファソラシド、ドレミファソラシド」とフレーズをループして鳴らしたときに、CPU負荷がどうなっているかを見てみたのです。
見方が難しいですが、まず従来バージョンを使った際のアクティビティモニタにおいて、Digital Performerの欄を見ると、種類がAppleとなっており、DAWとしてM1ネイティブ対応しているのが分かります。一方、その下にAUHostingCompatibilityService(DigialPerformer)というのがありますが、これがIntel用のAUプラグインをRosetta 2を用いて動かしている部分ですね。CPUの%を見ると、77.4%と64.7%で足し合わせると142.1%となっています(この単純な足し合わせが正しい計算方法かは微妙ですが)。それより一番したのアイドル状態が76.59%となっており、Intel版であっても、かなり余裕があったことは分かります。
一方のネイティブ対応した新バージョンのプラグインを入れた際のアクティビティモニタを見ると、AUHostingCompatibilityService(DigialPerformer)というのがなくなっていて、Rosetta 2が動作していないのが分かります。また、Digital PerformerのCPU負荷は125.7%なので、前バージョンでの足し合わせよりもだいぶ低くなっていますね。さらにアイドル状態を見ると79.00%とさらに余裕が出ていることが見て取れます。
まあ、このCPU負荷という面だけを見ると、もともとのIntel対応版でも負荷は軽く、今回のネイティブ対応での負荷軽減度合はそれほど大きくはないようです。
とはいえ、Rosetta 2による自動翻訳機能を使わずに使えるようになったのは大きなメリットだし、CPU負荷の軽減だけでなく、安定動作することが保証されるのは、M1 Macユーザーとしては嬉しいところ。また、そろそろMacを新調しよう……と思っている人で、M1プロセッサに不安を持っている人にとっても、安心できる大きな材料になると思いますし、Intel Macと比べて比較的安いM1 Macでもしっかりとしたパフォーマンスを発揮できることは、これからDTMを始めようという初心者にとっても大きなメリットといえそうです。
Rolandがいち早くM1 Mac対応したことは、今後のM1でのDTM環境改善においては大きな前進といえるのではないでしょうか?DAW側ではLogic Pro X、Digital Performer 11に続き、Bitwig Studio 4もM1ネイティブ対応したというニュースが入ってきているので、今後ますます加速していきそうです。そして、Roland Cloudも残りのプラグインのM1対応が進み、他社もRolandに追従していってくれることを願いたいところです。
【関連情報】
Roland Cloudサイト