2018年末のコミケにDTMステーションCreativeレーベルとして初参加し、1,000枚プレスしたCDがオープン後1時間で完売してしまった、声優・小岩井ことり(@koiwai_kotori)さんのアルバム、「Harmony of Birds」。小岩井さんの希望で、CDの再プレスはしないことにしているので、ちょっとした幻のアルバム状態になっているのですが、その中に収録されている2曲「ハレのち☆ことり♪」(作詞・作曲・編曲:多田彰文)、「運命の輪を廻す者 XX」(作詞・作曲・編曲:小岩井ことり)のステムデータの配信をe-onkyo musicにて3月23日より開始しました。
いずれも24bit/96kHzのWAVデータで、「ハレのち☆ことり♪」はクリックトラックを含め全11トラック、「運命の輪を廻す者 XX」は全15トラックで構成されるもので、それぞれ税込み3,300円。またそれぞれに付録として歌詞カード、スコア、そして24bit/96kHzでミックス&マスタリングしたWAVファイルおよび、インスト版のWAVファイルもセットとなっています。これをDAWに読み込ませればユーザーが自分だけのミックスを作ることができ、場合によっては別のリズムを加えたり、自分の演奏やボーカルを加えるなどしたリミックスも可能。そのデータをYouTubeへ公開することも可能とした、とっても緩い制約のデータになっているのがユニークなところです。さらに、購入した方の中で抽選で、その幻のCDをプレゼントするという企画も実施。小岩井ことりさんへのミニ・インタビューも交えつつ、このステムデータとはどんなものなのか紹介してみましょう。
小岩井ことりさんとともに作ったアルバム「Harmony of Birds」の中の2曲をe-onkyo musicからステム配信開始
本題に入る前に……、みなさんはステムデータというものをご存知ですか?「知ってるよ、当たり前だ!」という方は少し読み飛ばしていただくとして、DTMユーザーの中でも、ステムデータは、まだ必ずしも浸透しているとは言えない気がするので、簡単に紹介しておきます。
ステムデータ=STEMとは、通常、楽器ごとに別々に書き出したデータのことを意味しています。たとえば
ベースのモノラルデータ
ギターをまとめたステレオデータ
ピアノのステレオデータ
ボーカルのモノラルデータ
コーラスをまとめたステレオデータ
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といったものです。もともとCubaseで作ったデータをCubaseユーザーに渡すならCubaseのプロジェクトデータをそのまま渡せばいいし、ProTools同士ならProToolsのセッションデータを渡すのもいいですが、DAWが異なるような場合、全トラックをWAVで書き出すパラデータだと、結構なボリュームになってしまうし、それを改めてミックスしなおすと、かなり大変なことになります。そこで、パートごとにまとめた形にしたステムデータにしておくと扱いやすく、必要に応じて受け取った人がバランス調整することもできて、便利に使えるというわけなのです。
DAWのプロジェクトから楽器ごとにまとめたステムデータを生成。画面は小岩井さんのCubaseプロジェクト
たとえばライブで演奏するといった場合、ステージに立つのがボーカルとギターの2名だとしたら、ステムデータからボーカルとギターを消しておけばいいわけだし、ライブハウスによって音の鳴りが違うから、ベースを下げるとか、ドラムを上げる……などなど調整がしやすいというわけなのです。
今回発売する、小岩井ことりさんのアルバムの楽曲「ハレのち☆ことり♪」は多田彰文さんがProToolsで制作していて40トラック以上となっているし、「運命の輪を廻す者 XX」は小岩井ことりさん自身がCubaseを使って制作していて、やはりトータル50トラック程度というもの。これをそのまま全トラック書き出しても無駄が多いし、受け取ったユーザーも扱いにくいので、ステムデータとして書き出して、リリースすることにしたのです。
e-onkyo musicからステムデータの配信がスタート
なぜ、ステムデータの販売をすることになったのか……。昨年「ハイレゾ配信サイトのe-onkyo musicがステム配信を開始。アニソンシンガーYURiKAさんの楽曲をリミックスしてYouTubeへのUPも可能に」という記事を書き、YURiKAさんをインタビューしたことがありました。このとき、e-onkyo musicのディレクターの長田渓さんが同席していて、長田さんから打診をいただいた……というのがキッカケです。そうYURiKAさんの作品がe-onkyo musiとしても初のステムデータ配信だったのですが、第2弾を何にしようか……と考えていた中、話題性もある小岩井さんのアルバムを、と指名いただいたのです。
今回のステムデータ配信について、ステレオサウンドから取材を受けた
この辺の経緯について、実はステレオサウンドから私と小岩井さんで取材を受けたものが記事[e-onkyo musicステムデータ配信第2弾は、コミックマーケット95で即頒布終了した、幻の小岩井ことり『Harmony of birds』! 「私たちの想像を超える2次創作が出てきたら嬉しいですよね」(小岩井ことり)]になっているので、ぜひそちらも参照してみてください。
さて、今回リリースされた2つのステムデータについて、もう少し解説しておきましょう。「ハレのち☆ことり♪」は多田さんにステム書き出ししてもらったものを私のほうで、少し整理したもの。以下の通り、全11本のトラックとなっています。
ファイル名を見ると、だいたい分かる思いますが、トラック09はVocal_Dry、トラック10はVocal_with_Effectとなっており、どちらも小岩井さんによるボーカル。09のほうはエフェクトがかかってない生声であり、10のほうはリバーブなどの処理をしたものなんですよね。この辺はうまく使い分けていただければと思っております。たとえばStudio Oneに読み込ませると、以下のような感じで、トラック01とトラック09をミュートすれば、ほぼオリジナルのアルバムと近い音になるはずです。
もう一方の「運命の輪を廻す者 XX」は小岩井さんからCubaseのプロジェクトデータをもらい、私のほうでステム書き出しをしてみました。その内容は以下の通りです。
これ、ステムデータではあるけど、ちょっと変わったものというかマニアックな内容になっています。2018年のコミケ前、小岩井さんがTwitterで以下のようなビデオをUPしており、その前半が「ハレのち☆ことり♪」、後半が「運命の輪を廻す者 XX」
メリークリスマス!
私からのプレゼントはこちら!
12月30日のコミケCDの視聴動画です!
手作りだよ♪(///▽///)てへへ♪「ハレのち☆ことり♪」かわいいよね♪
後半の「運命の輪を廻す者XX」は物語音楽!なぜXXなのか…気になりますねぇ🤔当日は私も居ます♪
ぜひGETしてくださいね♪#コミケ95 pic.twitter.com/ZcjzRhhfy9— 小岩井ことり (@koiwai_kotori) December 24, 2018
これを聴いてもらうと分かるのですが、「運命の輪を廻す者 XX」のほうは小岩井さんが曲中で演じる少女、吟遊詩人、機械工がそれぞれ別のパートを歌うとともに、この3人がセリフを語っています。さらに老人や子供など村人がいろいろ出て喋っているのですが(全部小岩井さんが演じてます)、普通にミックスした曲を聴くと、いろいろ重なっているために、何と言っているのか聴き取るのが困難なものとなっているのです。そこで、全セリフを確実に聴き取ることが可能な形で、ステムデータを作ってみたんですよね。実は、今回このステムデータを作る際に、初めてすべてのセリフを聴き、その複雑すぎる世界観がようやく見えてきた……という感じでした。ぜひ、多くの方に聴いてもらいたいですね。
なお、トラック07~09がエフェクトなしの素の声のボーカル、トラック10~13がセリフとなっているほか、先ほどの「ハレのち☆ことり♪」と同様、エフェクト付きボーカルとセリフをトラック14と15に用意しています。
そのほか、冒頭でも紹介した通り、付録として最終ミックスした曲と、そのインスト版を24bit/96kHzで収録しているので、これを参照しつつ自分でミックスしてみるのも面白いと思います。また、歌詞カードをPDFで用意したほか、スコアもPDFで同梱しています。このスコアは、どちらも改めて多田さんに作成してもらったもので、ボーカル譜にコードを入れた形にしているので、ミックスする際の参考にしていただければと思います。
ステムデータの付録としてスコアも入っている
さて、このステムデータの配信スタートに当たり、ちょっと面白い、プレゼントを用意してみました。e-onkyo musicのディレクター、長田さんから、「購入者に抽選で差し上げられるプレゼントってないですかね…」という相談をいただき、それならば……とお答えしたのが、2018年のコミケで売り切れたCDです。
冒頭でも書いた通り、1,000枚プレスして、1時間で売り切れてしまったのですが、初めてのことだったので、どのくらい売れるのかの想像もつかず、結構売れ残るのでは……という予想の元、挑んだのに、長打の列ができて、我々自身ビックリでした。そのため、売り切れた時点で、手元に在庫ゼロ。サンプル再生用に開封したものが2枚ほどあったものの、これでは自分たちのものもないし、関係者に配布することもできずマズイのでは……ということになったのです。
2018年の冬コミで完売したCDを抽選で5名の方にプレゼント
再プレスして販売することはしない…とは決めていたものの、やはり手元にいくつかは欲しいということで、実はコッソリ、関係者に渡せるようにと、少しだけプレスをしたのです。ただし、闇雲に配るのはマズイし、ただでさえ、ヤフオクやメルカリなどで高値で転売されて困っていたので、この限定プレスに関しては「SAMPLE」という文字を入れて印刷するとともに、通し番号を付けて管理することにしたのです。つまり、もし、これが妙なところに流れたら、誰が流出させたのかを分かるようにした、ということです。ちょっと大げさではあるけれど、そんな管理をしたことで、なんとか自分たちのCDもキープすることができたわけですが、そのCDが少しまだ余っていたので、これを5枚ほど特別プレゼントに回すことにしたのです。
1枚1枚ナンバリングする形で関係者配布用に少数プレスした「Harmony of Birds」のCD
プレゼント対象となるのは、ステムデータのリリース日である3月23日から4月22日までの1か月間に「ハレのち☆ことり♪ステムデータ」または「運命の輪を廻す者 XXステムデータ」のいずれかを購入した人。e-onkyo musicのほうで厳正な抽選をした上でプレゼントをするので、興味のある方はぜひお願いします。詳細はe-onkyo musicのページにあるのでそちらをご覧ください。
小岩井ことりさんミニインタビュー
ーー今回「Harmony of Birds」の2曲がステムデータで配信することが決まりました。ユーザーのみなさんにはどんな風に使ってもらいたいですか?
小岩井:ステムってDAWでのミックスを試すのにすごくいい材料です。できあがっている2mixと比べるのも面白いし、声だけのトラック、楽器だけのトラックがあるので、私がどんな風に録音したのか、ある意味ノイズ成分なんかも楽しんでもらえるといいですね。自分でミックスをしてみるとすごく楽しいし、音量のバランスをとって違った雰囲気にもできるし、自分好みの曲に仕立て直すこともできるので、ぜひいろいろ試してもらいたいですね。また、DAWで利用するだけじゃなく、DJの人にもいいのでは……と思っています。
ーーDJでこのステムミックスを使うということ?
小岩井:はい。もちろんDJをする場合、各使う楽曲の原盤権を持っている人に許可を取ることが前提にはなりますが、曲と曲のつなぎ合わせに、ステムデータのリズムトラックを使うのって便利だと思うんですよ。リズムトラックならコードがないから、関係ない曲でも繋げやすくなるじゃないですか。工夫次第でいろいろな使い方ができるんじゃないかな、と。
ーーところで、2年半前の制作時を振り返ると、ギリギリな進行でドキドキでした。ボーカル録音の前日になってもトラックをもらえなかったので、大丈夫なんだろうか……と(苦笑)。「頭の中ではできているので心配ありません!」って言ってたけど、ホントか?、と(笑)。改めて「運命の輪を廻す者 XX」はどんな思いで作ったのですか?
小岩井:ちょうどそのころ物語系の音楽にハマっていて……。コミケ用の楽曲について藤本さんが「どんなものでもいいよ」とおっしゃっていたので、それならこれだ!、と。XXとなっているのは20の意味で、シリーズモノとなっていて、これは20番目の作品なんですよ。タロットカードでXXは「審判」でありそれを曲にしています。またタロットでXが「運命の輪」を意味していて、タイトルもここから来ているんですよ。
ーーえええぇ!初めて聞いた!ということは、ほかに19曲、用意していたってことですか?それはどこにあるの??
小岩井:あ、全部私の脳内でシリーズ化しているだけで、発表はしてないですよ(笑)。この曲だけを聴くと少女が主人公のように見えるかもしれないけど、シリーズにおいての主人公は吟遊詩人なんです。大まかにXXのあらすじをいうと、みんなが翼を持っている人達の国で、翼が片方しかなくなった女の子が、このときの主役。翼がないから周りからも迫害されて、どうやって生きていったらいいの……と苦しむ中、やはり自分のカードで戦うしかないよね……という曲なんです。シリーズの主人公である吟遊詩人は、不幸な物語を集めている人で、その20番目の物語がこれなんです。ほかにもいろいろな物語がこのシリーズの中にあるんですよ。
ーー小岩井さんが天才なのは知ってたけど、やっぱり付いていけそうにないです…(苦笑)。
小岩井:曲の最後に「残された審判(カード)は私の手の中に在った」というのがあるんですけど、これがダブルミーニングになってるんですよ。少女の視点からは「自分の運命を自分の足で切り拓いていくんだ」という意味。一方の吟遊詩人からは「また不幸な物語が見つかったな」という意味なんです。このシリーズ、基本的に吟遊詩人、機械工、少女の3人がメインの登場人物となっていて、輪廻転生していくから、さまざまな世界での物語になっています。その輪廻転生を繰り返す中、吟遊詩人もだんだん自分の目的を思い出していくんですね。そんなところから「廻す者」というタイトルにもなっています。
ーー全然、分かってなかった……、深すぎます。それを少し分かった上で、ステムデータの各セリフパートとかを聴いていくと、小岩井さんの世界観がちょっとだけ覗けるような気がします。ぜひ多くの方に聴いてもらいたいですね。
ステムデータ利用に関するFAQ
Q.利用可能なのはYouTubeのみですか? ほかの動画サイトへの投稿も可能ですか?
A.はい、JASRACとの包括契約の登録をしているメディアであれば大丈夫です。たとえばニコニコ動画、Facebook、Instagramなどへの投稿も可能です。詳細はJASRACのページをご覧ください。
Q.Twitterでの公開も可能ですか?
A.Twitter自体はJASRACの包括契約がないのでNGです。ただし、YouTubeにアップしたものをTwitter内にリンクを入れて公開すれば大丈夫です。
Q.同人でのCD頒布は可能ですか?
A.有料、無料を問わず、CDなどのメディアを使った頒布はNGです。CDの作成はあくまでも個人での利用の範囲内でお願いします。
Q.ボーカルトラック、セリフトラックのみを使って、まったく違う作品にしても大丈夫ですか?
A.YouTubeなどへの公開の範囲であれば、問題ありません。ただし、作品を棄損しな範囲での制作をお願いいたします。
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小岩井ことりofficialチャンネル(YouTube)
小岩井ことりさんTwitter @koiwai_kotori
【「Harmony of Birds」CDプレゼント企画】
期間限定でCDのプレゼント企画が実施されています。詳細はe-onkyo musicのページをご覧ください。
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