先日、ティアックのTASCAMブランドから新たなUSBオーディオインターフェイス、US-HRシリーズ、3機種が発売になりました。赤と黒の2色で構成される見た目にもインパクトあるデザインのこれら製品は、USB Type-C接続で、低ノイズが定評のUltra HDDAマイクプリアンプを搭載しているのを前面に打ち出したオーディオインターフェイスとなっています。
マイクプリ1基で2in/2outのUS-1x2HR(税抜参考価格:12,800円)、マイクプリ2基で2in/2outのUS-2x2HR(17,800円)、マイクプリ4基で4in/4outのUS-4x4HR(26,800円)のそれぞれで、いずれも最大24bit/192kHzに対応した機材となっています。DAWでのレコーディング用にはもちろん、192kHzに対応しているからハイレゾ音楽の再生用としても優れているし、OBSなどでの配信用としても最適化してあるのも大きな特徴となっているのが今回のUS-HRシリーズ。実際どんな機材なのか試してみたので紹介していきましょう。
このUS-HRシリーズを見て、「あれ?なんか見たことあるような……」と思った方も少なくないでしょう。そう、TASCAMが以前から出していたUSシリーズというオーディオインターフェイスのデザインを継承したもので、形・大きさはほぼピッタリ同じ。これはシンセサイザーなどのデザイナーとして名高いアクセル・ハートマンがデザインしたもので、従来からのUSシリーズが、ブラック&シルバーだったのが、今回のUS-HRシリーズではブラック&レッドになった感じですが、もちろん色違いというのではなく、内部回路の設計が全面的に見直された、まったく新たなオーディオインターフェイスとなっているのです。
US-2x2HR(上)とUS-2x2(下)
ちなみに、TASCAMでは似た形でシルバーボディーのSERIESシリーズというラインナップもあります。オーディオインターフェイスとしては10in/2outのSERIES 102i、20in/8outのSERIES 208iのそれぞれですが、これらはTASCAMの最高峰であり、今回紹介するUS-HRシリーズよりさらに上という位置づけのようですね。
ここではUSシリーズとUS-HRシリーズの違いを見ていきましょう。まず、USシリーズが最大24bit/96kHzでUSB Type Bの端子だったのが、US-HRシリーズでは最大24bit/192kHzになるとともに、USB Type-C端子になっています。またマイクプリをはじめとするアナログ回路が大きくブラッシュアップされたことで、より低ノイズで高品位なオーディオインターフェイスへと進化しています。
192kHz対応は世の中の流れという点かと思いますが、「USB端子が変わって、何かいいことあるの?」と思う方もいるでしょう。一つはMacBookなどUSB Type-CのみのPCともHUBを介さず直接接続できる点。さらにUSB Type-Cだとより大きな電力を供給できるため、ACアダプタが必須だったUS-4×4に対し、US-4x4HRはUSBバスパワーだけで駆動することができ、4つのマイクプリすべての+48Vのファンタム電源を供給できるのも重要なポイントです。
ただし、US-4x4HRを完全にUSBバスパワーで動作させるには条件があります。それは、PC側もUSB Type-Cに対応していることであり、USB Type Aの端子に接続しても、とりあえずバスパワーで使えますが、左側のLEDが点滅状態となり、ファンタム電源は使えなくなります。完全な動作をさせるためには、付属のACアダプタを使う必要があるのです。もっともUS-1x2HRやUS-2x2HRはUSB Type Aへの接続でもフル機能をバスパワーで使用可能です。
3機種ともUSBクラスコンプライアントなデバイスであるため、macOSではドライバ不要で使えますし、Windows 10(Creative Update以降のエディション)でもとりあえず使うことが可能ですが、いずれもTASCAMサイトからTASCAM US-HR Settings Panelをダウンロードして、インストールすることで、フル能力を発揮できるようになります。ちなみにWindows版にはドライバも含まれており、これをインストールすることでASIOが使えるようになっています。
また、USBクラスコンプライアントだから、iPadやiPhone、またAndoroidデバイスでも利用できるのも重要なポイント。Lightning-USBカメラアダプタやOTGアダプタを介す必要はありますが、これらを接続することでiOS、Androidデバイスでも高音質にモニターできたり、高音質にレコーディングや配信を行うことが可能になるのです。
では、3つの製品の選び方という点について少し見ていきましょう。まずUS-1x2HRはマイクプリ一つ、ギター入力一つという構成なので、同時に使うのがマイク1本で事足りるのであれば、価格的にも安いし、サイズ的にもコンパクトなので、これで大丈夫でしょう。DAWを使って一人で重ね録りをしていく……のであれば、普通はこれで十分かと思います。
しかもUS-1x2HRの場合、リアにステレオのライン入力が用意されているのも重要なポイント。他社のマイクプリ1基搭載モデルの場合、ステレオ入力ができないものが多いですが、これならば問題なし。フロントの入力を選択するか、リアのライン入力を選択するかはINPUT SELECTというスイッチで設定するようになっています。また、USB Type-C端子のほかにmicroUSB端子も用意されているのですが、これはiPhoneやiPad、Androidデバイスなど電源供給パワーが足りない機材で使うときに使用するためのものです。
US-2x2HRはフロントに、コンボジャックを2つ装備し、両方ともマイク、ライン、ギターが利用できる使いやすい標準モデルという位置づけです。このフロントを見ると、US-1x2HRにはないMONITOR BALANCEというノブがあります。これはマイクやギターなどの入力音をそのままダイレクトモニタリングするのと、PC側からの音のバランスを調整するためのもの。US-1x2HRではリアにダイレクトモニタリングをするかどうかのON/OFFスイッチがあるだけなので、より使いやすくなっています。
さらにリアのメイン出力がTRSフォンのバランス出力となっているので、US-1x2HRのRCAピンの出力と比較するとより高音質な出力が得られる仕様になっています。またMIDIのIN/OUTが装備されているのもポイント。iPhoneなどに接続する場合は電源供給が必要になるのですが、こちらはACアダプタを使う形となっています。ただし、ACアダプタはオプション扱いなので、注意が必要です。
US-HRシリーズの最上位に位置づけられるUS-4x4HRはフロントに4つのマイク入力があり、前述の通りUSB Type-C接続であれば、これら4つをバスパワーだけで駆動できるのが大きな特徴です。また4つのマイク端子の隣に標準ジャック装備されており、コンボジャックにしていない点にTASCAMのこだわりが感じられます。IN 1とIN 2の標準ジャックはMIC/LINEとINSTの切り替えスイッチがあり、IN 3とIN 4はMIC/LINEに固定という仕様。
フロントの右側にはヘッドホン出力が2つあり(音量調整は連動しています)、二人で作業ができるというのも選択における大きなポイントとなりそうです。
さて、そんなハード仕様の違いがあるUS-HRシリーズですが、これらをコントロールするソフトであるTASCAM US-HR Settings Panelというユーティリティソフトがとても秀逸なので、これで何ができるのかを少し見てみましょう。このソフトはWindowsもMacも共通。Big Sur環境のM1 Macでも動作するのか試してみたところ、まったく問題なく使うことができました。
どのモデルを接続するかで、若干使える項目が変わってくるのですが、一番上のDirect Monitor Settingsではダイレクトモニタリングする場合、モノラルにするのか、ステレオにするのかを設定できるようになっています。たとえば、IN 1にマイク、IN 2にギターを入力する状況で、Stereoに設定すると、マイクは左側から、ギターは右側から聴こえる形になるのに対し、Monoに設定すれば両方ともセンターから音が出る形になる、というわけです。
I/O Settingsは入力と出力を制御するところで、もし使わない入力があれば、ここでオフにすることができます。またLINE OUTにおいてはダイレクトモニタリングを含めたモニターミックスを出力するのか、PCからの音だけを出すのかを選択できるようになっています。
さらにWindows版にはBuffer Sizeという項目があり、これが前述のドライバと連動しているのですが、これが非常に優秀。なんと4 Samplesまで詰めることが可能であり、レイテンシーを非常に小さく抑えることができるのです。4 Samplesで音切れなく動作させるには、それなりのCPUパワーが必要とはなりますが、私が使っている第8世代 Core i7-8700 3.2GHzというCPUでも問題なく利用することができました。
そしてTASCAM US-HR Settings Panelの最大の注目ポイントが画面右側のLoopback Settingsです。これを見てもわかる通り、単にループバックのON/OFFがあるだけではないんです。そしてデフォルトでLoopbackがONになっているので、たとえばOBSを起動すると、PCから出る音をそのままOBSを通じて配信可能になっているのです。
この際、InputとOutputそれぞれでモノラルで送り出すか、ステレオで送り出せるかを設定できるのは、ほかのオーディオインターフェイスにはない、強力なポイントです。たとえばBGMを流しながら、マイクで語っている……という場合、マイク入力に関するInputをMonoに設定し、BGMを作成するためのOutputはStereoに設定することでいい感じで配信できるようになるのです。そう、多くのオーディオインターフェースはステレオにした場合、入力音が左右どちらかに振れてしまうのですが、このループバックの設定はとても便利に使えるんですよね。トークのほか、インターネットカラオケのデュエットなどにも活用できそうです。
そして、BROADCAST Volumeなるフェーダーが用意されているのも、数多くあるオーディオインターフェイスの中でこれとTASCAM MiNiSTUDIOだけではないかと思います。左いっぱいに設定すれば実質ループバックがオフになっているのと同じ状況になり、そこから右へ動かしていくことで音量をだんだん上げていくことができるのです。
まあ、配信ソフトとしてOBSを使うのであれば、OBSのフェーダーで調整することもできるのですが、YouTubeやニコニコ生放送など、ブラウザから直接配信するような場合、オーディオインターフェイス側で最適な音量で送り出すことができれば、非常に扱いやすくなるはずです。とくにmacOS版のOBSの場合、デスクトップ音量が調整できないため、このループバック音量が調整できる点は大きな武器になってくると思います。
以上、ざっとUS-HRシリーズを紹介してみましたが、もう一つ重要なポイントとして挙げられるのがバンドルソフトです。US-1x2HR、US-2x2HR、US-4x4HRのいずれにも
SampleTank 4 SE
AUTO-TUNE UNLIMITED
Cubasis LE 3
が付属しており、これらを使うことができるのです。
このうち、AUTO-TUNE UNLIMITEDはサブスクリプションサービスであるため、3カ月間分という形ではありますが、AUTO-TUNEのフル機能が使えるのは大きなメリットだと思います。
またCubase LEはアクティベーションした際はCubase LE 10という表示になっていましたが、実際にダウンロードしてみたところ最新版のCubase LE 11を使うことができたこともここに報告しておきます。
さらに、iPad/iPhoneのユーザーであれば、Cubasis LE 3も使うことができ、US-HRシリーズをLightning-USBアダプタ経由でiPad/iPhoneに接続することで、Cubasis LE 3のデモ制限が解除され、使うことができるようになっています。
こうしたバンドルソフトも含めて考えると、TASCAMのUS-HRシリーズは、非常に高性能で、コストパフォーマンスの高いオーディオインターフェイスだといえると思います。
【関連情報】
US-HRシリーズ製品情報
【価格チェック&購入】
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