先月、発表していたので、すでにニュース記事などを通じてご存知の方もいらっしゃると思いますが、ヤマハが4インチ(ウーファーサイズが10cm)の小型モニタースピーカー、MSP3Aを2021年2月下旬より発売します。これまでのロングセラー製品、MSP3の20年ぶりのリニューアルとなる後継モデルの誕生です。コンパクトなので、小さなデスクでも設置しやすく、持ち歩いて出先のスタジオなどでモニター環境を構築するのにも便利に活用できそう。価格的にも1本15,800円(税別)と手ごろなため、これからのDTMの定番モニターとなるであろう製品です。
私個人的には、普段一回り大きい5インチのMSP5 STUDIOというものを使っているのですが、取り回しのしやすさという面ではMSP3Aが便利なのも事実。そのMSP3Aを一般の発売より一足早く試すことができたので、手元にあるMSP5 STUDIO、そして旧モデルのMSP3とも比較しながら、どんなモニタースピーカーなのか紹介してみたいと思います。
まずは、新旧2つのMSP3を並べてみたので、正面から撮影したこの写真をご覧ください。
パッと見、ほとんど一緒で、サイズ的にもほぼ同じ。ノブも4つずつあるから、間違い探しのような感じではありますが、いくつかの違いがあるのに気づかれたでしょうか?
一番大きな違いはウーファーとツイーターの間の左右にあった穴=バスレフポートが新モデルではなくなっています。もちろん、本当になくなったのではなく、これがリアに移っているんですね。また、従来はYAMAHAと書かれていたロゴが、新モデルでは音叉マークだけになっているあたりは、あまり音や機能には関係なさそうですね。
では、真横から見るとどうでしょう?若干背の高さに違いがあるようにも見えますが、実はリアからフロントに向かって若干下がる形で傾斜が付けられているだけであって、ここで見る限りの差はほとんどありません。
が、リアを見比べてみると、いろいろと違いがあるようです。最大のポイントは前述のバスレフポート=大きな穴が新モデルに空いています。ちょっと変わった花びらのような形になっていますが、実はこれ、ヤマハのハイエンドオーディオ製品に採用されているバスレフポートを応用したものなのだとか……。よく見ると花びら部分をちょっとねじった構造で、ツイステッドフレアポートという技術だそうで、これをMSP3Aに採用したことも、大きな特徴です。
「バスレフポートの構造によって、空気の出方に違いが出ます。実際に音を出している際にバスレフポートに手をかざしてみるとわかりますが、結構な空気の出入りを感じられると思いますが、この空気の乱れが音の雑味になることがあるのです。実際、この風切り音が直接聴こえることもありうるので、この空気の乱れを極限までおさえるために、花びら型にして、さらにねじる構造にしています」とヤマハの担当者は話してくれました。
また入力端子の配置が下から上に変わっていると同時にLINE2が旧モデルではXLR端子とTRSフォンの2つだったのが、今回はコンボジャックに変わっています。いずれにせよフロントのLINE1とLINE2というツマミを使ってレベル調整する形になっており、必要に応じて両方の音を同時に出すことも可能になっています。その意味では、2chミキサーを内蔵しているような形であり、2つのオーディオインターフェイスを接続するとか、片方はオーディオーインターフェイスに接続し、もう片方はシンセサイザなどの楽器に接続する……といった使い方もできそうです。
もう一つ大きなポイントは旧モデルの電源ケーブルは直接ここから生えている形状だったのが、今回は3端子のACケーブルで接続する形になっており、その点ではMSP5 STUDIOと同様になっています。どちらが好きかは人によりけりかもしれませんが、個人的には切れる心配がないという点、電源ケーブルは太いほうが安心、といった観点からこの脱着式のMSP3Aのほうが好きですね。
試しにMSP3AとMSP5 STUDIOを並べてみるとこんな感じで、まさに兄弟なわけですが、バスレフポートの件でいうと、MSP3Aは、まさに新世代モニタースピーカーに進化しているともいえるわけです。
前述の通りMSP3Aは2chの入力をミックスして使えるのに対し、MSP5 STUDIOは1chの入力のみ。その意味では、MSP3Aのほうが融通は効くけれど、ちょっと使い方に違いもあるのです。そう、MSP3AのLINE1/LINE2のツマミは滑らかなボリュームになっているのに対し、MSP5 STUDIOのはカタ・カタ・カタと段階的に切り替わるクリック式のノブになっているのです。そのため、「左右とも15段目に揃える…」といった使い方ができるのに対し、MSP3Aは、聴感上で左右を調整するといった使い方になります。
一方MSP3AはフロントにLOW、HIGHの音質調整ノブがあり、手軽に調整できるのに対し、MSP5 STUDIOはリアにあって、あまり調整しやすい位置にあるとはいえません。ここをどう捉えるかも人によりけりですが、MSP5 STUDIOは固定して使って一度調整したら基本は触らない、という使い方であるのに対し、MSP3Aは、環境によって自由に調整するという使い方。まさにいろいろな場所に持っていって使うには便利な機材に設計されているのです。
そんなMSP3Aですが、実際の音はどうなのか?まずは旧モデルのMSP3と比較してみました。ここではCubase 11の音をUR22Cで出力し、XLRのケーブルで接続して、ほぼ同じ音量にするとともにHIGHとLOWは中央に固定して聴いてみたのですが、当然どちらも似た傾向の音で、パッと聴いた感じではほとんど違わない印象でした。が、いろいろ聴き比べると確かにMSP3Aのほうが、少しクッキリした音になった印象であり、解像度が上がって音像がハッキリした感じです。
低域に関してはスペック上はMSP3が65Hz~22kHzとなっているのに対し、MSP3Aは67Hz~22kHzとなっているのですが、バスレフ構造が変わったせいなのか、MSP3Aのほうが、安定した低音になっているように感じました。
ちなみに出力はMSP3が20WだったのがMSP3Aが22Wに増強。それでも決して大出力とはいえないのですが、普通の家で使う分には、爆音ともいえる音が出せるため、DTM環境用のモニターとしては十分過ぎるものです。昼間に最大音量にしてみたけれど、音が割れることもなく、しっかり使えるモニターであることも実証できました。
では、MSP5 STUDIOと比較するとどうでしょうか?こちらもやはり似た傾向の音ではありますが、やはり決定的に違うのが出力音量。MSP5 STUDIOのほうが、はるかに大きな音量が出せるだけに、余裕があって安定しているように思ったのと同時に、低音もよりしっかり出ます。ここはサイズの違い、グレードの違いといったところでしょうか……。
ところでMSP3Aの底面部分には2つのネジ穴があります。これは旧モデルのMSP3にもあったのですが、何のためのものだかわかりますか?実はこれ、オプションでBMS-10Aというマイクスタンド用アダプタを取り付けるためのもので、これを利用すればマイクスタンドに乗せる形で利用することができるんですね。まあ、3.6kgあるので、それなりにマイクスタンド側もしっかり固定させないと危険ではありますが、リハスタで使う場合など、非常に便利に活用することが可能です。ちなみに天吊りのためのアダプタや壁に取り付けるためのアダプタなども用意されているので、設置状況に応じて選択することも可能です。
そして実はこの重さ3.6kgというのは、MSP3の4.4kgより800gほど軽くなっているのも見逃せないポイント。一般的にスピーカーは重たいほうがいい…と言われますが、先ほどの通り、どちらも音はほとんど変わらず、低域においてはMSP3Aのほうがよりしっかり出ているほど。なぜ、軽くなったのかというと、前述のとおりツイステッドフレアポートにしたことで、振動が減ったため、リア側の筐体を薄くしたことがひとつ。もうひとつはMSP3にあった防磁機構がなくなったためなんです。そう、MSP3が発売された20年前は、まだわずかにブラウン管のディスプレイがあったので、ディスプレイの横にスピーカーを置くと磁石の影響で画面が歪む可能性があったために防磁が施されていたのですが、今の液晶は磁石の影響は受けないので、防磁機構は無用の長物。それなら軽くて持ち運びやすいほうが便利ですから、
以上、大きくリニューアルされた新型のモニタースピーカー、MSP3Aについて見てきましたが、いかがでしょうか?小型のモニターではありますが、非常に高解像度で、しっかりした音が出せる機材で、DTM用途においてもピッタリ。また可搬性にも優れているので、外に持って出られるというのも嬉しいところです。DTMユーザーの場合、「普段、ヘッドホンでモニターしていて、ちゃんとしたモニタースピーカーを持っていない」という人も少なくないようですが、小音量であっても非常にクリアな音で聴くことができるモニターなので、導入を検討してみてはいかがでしょうか?
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