コンサートエンジニアとして、LUNA SEAなど数々の大物アーティストのライブサウンドを手がけてきた小松 K.M.D 久明さん。そんな小松さんが昨年末から、録音の優れた音楽を『良い音』で聴く定期イベント「OTOwake(オトワケ)」を開催しているという話を聞き、先日参加してきました。その日行われたイベントの内容は、ADAM AudioのT7V、A7X、S2Vを同時に比較試聴するというもの。今回、ADAM Audioの比較試聴が行われた背景としては、小松さんがいい音で音楽を聴くためにスピーカーを探していた際に偶然出会ったのが、ADAM T7Vであり、自宅用にもADAM T5Vを導入し、トラックダウンの仕事のためにもADAM T8Vを購入したことにあるそうです。
ADAM Audioは、ドイツ・ベルリンに本社を構えるスタジオモニターのブランド。最近は、日本のプロエンジニアの使用も目立ってきており、ご存知の方も多いと思います。モニタースピーカーのラインナップは、大きく分けて3つあり、エントリーモデルのTシリーズ、スタンダードのAXシリーズ、フラグシップのSシリーズに分かれています。以前DTMステーションでも「プロ御用達ADAM Audioのモニタースピーカーが21,000円!?5インチのT5Vを試してみた」という記事で、T5Vを試しましたが、この価格からは信じられないような音が飛び出してくるんですよね。昔から音に強いこだわりを持っている小松さんからもいろいろお話も伺うことができたので、OTOwakeとともに紹介してみましょう。
OTOwakeとは、録音の優れた音楽をライブハウスで『良い音』で聴く定期イベント。主催者である小松さんによると、自分自身だけがいい音で音楽を聴いていても楽しくない、ほかの人にいい音を分け与えたいという思いで、オトワケ(OTOwake)という名前でイベントを始めたのだとか。ナビゲーターとしては主催者である小松さんを筆頭に、ラジオDJ、MC、ライターとしても活動する武村貴世子さん、イベント/コンサート/ライブ全般の制作のプロデュース・コーディネートを行っている田邉哲也さん、パーカッショニストの中北裕子さんという、それぞれ違った方面から音に取り組んでいる4人が担当しているイベントです。そのOTOwakeを立ち上げるまでにも、サウンド面でさまざまな知識を持ち、経験豊富な小松さんに、ご自身の音楽の背景などについて伺ってみました。
「私のPAエンジニア歴は36年になります。その中で音楽を聴く環境は、20歳のころから大切にしてきました。当時、オーディオブームの影響もあり家には、スピーカーやアンプがあったのですが、いい音だと思えなかったので、自作のスピーカーも作っていたりもしました。また専門学校に入ったときに、先生が音楽をたくさん聴きなさいとおっしゃていたので、港区図書館のライブラリをAからZに向けて、ジャンルを問わず、2年間かけてすべて聴いてもいましたね。29歳のころには、目黒にリスニングルームを作りました。JBLの15インチのスピーカーを置いて、90インチのプロジェクターでライブを観ていたりしていたのですが、そのときにやはり音楽はいい環境で聴くべきだ。と思いました。その後、友人と会社を作ることになり、有限会社オアシスを設立しました。そのときには、友人の夢でもあったRM-7Vを導入することになりました。同時にリハーサルスタジオを作るという構想があったので、リハーサルを行いつつ、隣でレコーディングとミックスを行える環境に、SSLの卓とRM-7Vを配置して、最高の環境でリハーサルをミックスしていた時代が数年ありました。その後、時代とともにスタジオ環境の改装が始まり、SSLとRM-7Vを手放してしまったのですが、困ったことにいい音で音楽を聴ける環境がなくなってしまったんですよね。どうしようか悩んでいたところ、Rock oN Companyさんでコラムを書く機会があり、それもあってよく奥のスピーカールームで、スピーカーを探していました。そのとき出会ったのが、ADAM T7Vでした。かなり多くのスピーカーを聴いたていたのですが、ADAM T7Vは即決でしたね。そして、コロナでステイホームが始まって、自宅用にもADAM T5Vを導入し、自粛期間が始まったときにトラックダウンの仕事が入ってきたので、ADAM T8Vを購入しました。Tシリーズすべて持っているわけですが、ADAM T8Vのロー感やドラムの流れ方は特に好きですね。そうこうしているうちに、Tシリーズを含めたシステムは簡単に持ち込みができるなと思い、多くの方にいい音で音楽を聴いてもらう、OTOwakeがスタートしました」(小松さん)。
そういった経緯もあり、今回ADAM Audioとのコラボの形で今回のイベントを実施されたわけですが、今回のイベントでは、T7V、A7X、S2Vを並べて、それぞれの音の違いを聴き分けてみようというもの。
音源は、Mac Book ProにUniversal AudioのApollo X16を接続し、クロックはルビジウムクロックを使うという、またかなりこだわったシステム。そしてAPOLLO X16から出力した音声を2400 Audio Imperiumという切替機に繋いで、各スピーカーから同じ音量で音源を流していました。
会場には15人ほどの参加者が集まっていましたが、みんなが先入観を持たないで試聴できるようにと、最後までT7V、A7X、S2Vの値段を明かさず、小松さんが作ったプレイリストにしたがって各楽曲を流すというプログラム。それぞれ冒頭の1分弱を再生し、スピーカーを切り替えて同じ部分を再生するというもの。
プレイリストには、何にフォーカスした楽曲なのか、アーティスト名、曲名、ミックスしたエンジニアの名前、年代など書かれています。最初の1曲目はRed Hot Chili Peppers Go Robot。この楽曲を選んだ理由として
「コンサートのエンジニアとして仕事するに、まずは音源を流してチューニングをするんです。それは、スピーカーや卓、もちろん会場が違うので、トータルで音楽がどのように聴こえるか確認する必要があるためです。ドラム、ベース、歌、クラップ、ハイハット……など、全体感が聴けるので、Red Hot Chili PeppersのGo Robotをまず選びました」と小松さん。
2曲目もカテゴリーは、Full viewとなっているわけですが、これについても小松さんは
「これは女性ボーカルになっていて、コンサートで男性ボーカルのバンドをミックスをするときは、リファレンスに男性ボーカルの音源を使い、女性ボーカルのミックスをする場合は、女性ボーカルの音源を使います。男性は声の基本周波数が低く、女性の場合はそれよりも少し高いところに基本周波数があります。なので、たとえば女性ボーカルのミックスをするのに、男性ボーカルの音源でチューニングすると、うまくいかないんです」と語ります。
ほかにも、ピアノがいい音、アコギがいい音、バラード、ジャズ、カントリ……など、それぞれいい音の音源をピックアップしていたわけですが、全体を調整したら、より細かく楽器ごとにチューニングするために、それぞれ音源を普段からリストアップしているそうです。
さて、これらADAM AudioのT7V、A7X、S2Vの特徴について、簡単に説明してみましょう。これらはすべて、低域を担当するウーファーの部分は、7インチのスピーカー。バスレフポートという、さらに低い低域を出すための仕組みがあり、T7Vだけはそれが背面に付いています。そしてADAM Audioのスピーカーの最大の特徴はツイーター部分。3つとも、金色に光る不思議な形状のものになってますが、これはADAM独自のリボンツイーターと呼ばれるもの。それぞれでグレードは異なるようですが、これによってADAMならではのサウンドになってくるのです。またS2Vには、正確な周波数特性の調整するためのDSPが搭載されているのも特徴です。
ちなみに、1本あたりの税抜実売価格は以下の通りです。
A7X …… 68,800円
S2V …… 198,000円
トータル11曲聴いたわけですが、T7Vは改めてコストパフォーマンスが高いモデルだと感じました。エントリーモデルではあるものの、しっかりとした出音でトランジェント感がよく、人によっては上位機種よりも、こちらの方が好みな人がいるだろうと思います。フラットな出音で音楽制作でも、十分に活躍する機種ですね。またA7Xは、ラインナップとしては真ん中のグレードになるわけですが、T7Vの上位モデルだけあって、全体的にもう1ランクレベルの高い出音でした。プロの中でも人気のあるA7Xは、レスポンスがよく、スピード感がいいです。解像度が高く、再生能力が高いモニタースピーカーです。最後にS2Vですが、これは別格という印象でした。レンジ感がもっとも広く、楽器のアコースティック感を直接感じ取れるハイエンドスピーカー。定位感、奥行き感もよく、高音域から低域域まで、解像度が高く、現代の音楽で重視されているスーパーローも鳴らしてくれます。迫力もありつつ、モニターとしての大事なところも持ち合わせている完璧なスピーカーだと思います。
15名ほどの参加者が真剣に音を聴き比べていた
また小松さんがADAMを選んだ決定的な理由として、「私は25歳ぐらいからカントリーが好きになり、ADAMのスピーカーはカントリーを最高の音で再生できるので選びました」とのこと。実際、当日ADAMのスピーカーから聴いたカントリーの音源は、グッとくるサウンドをしていて、スピーカーが変わるだけでも、こんなにも感動する度合いが変わるのかと思いました。
このOTOwake with ADAM Audio コラボの2回目の開催も予定しており、内容や日程は以下の通りです。
OTOwake with ADAM Audio 第二回
【開催日時(事前予約・入替制の2回開催)】
第1回 2021年2月27日(土)15:00 〜 16:15(開場:14:30〜)
第2回 2021年2月27日(土)18:00 〜 19:15(開場:17:30〜)
【内容】
ニアフィールドモニターのS2Vと、12インチウーファーを搭載するラージモニターS5Vの聴き比べ
【会場】
新宿SUNFACE 東京都新宿区新宿5-11-13 富士新宿ビルB1
【入場料】
1,000円(ドリンクチャージ込み)
【参加申し込みフォーム】
ここ(https://www.adam-audio.jp/otowake-entry)からアクセスしてください
※各回12名程度の人数制限のため、ご予約は先着順となりますことを予めご了承ください
なお1月30日(土)にも、ADAM AUDIO T8Vを使った、TOTOの名曲RosannaのミックスレコーディングエンジニアGreg Ladanyiをフィーチャーするイベントが開催されます。ゲストには、渡米してTOTOのレコーディングに参加した” Mu ” 村上さんが参加するとのこと。こちらの情報、参加申し込みは、ここ(https://www.adam-audio.jp/post/otowake2)をチェックしてみてください。そのほか、2月のOTOwakeは以下のようなスケジュールになっていますので、興味のあるところを申し込んでみてはいかがでしょうか?
カントリー音楽を中心に紹介
2月14日(日)- OTOwake リスニングイベント
全日本CDショップ大賞2021の受賞作品を紹介
2月16日(火)- OTOwake リスニングイベント
Chris Lord-Alge 特集
OTOTOYが企画・販売する「ADAM T5V + iFi audio ZEN DAC」リスニングセット
OTOWakeのイベントの1コーナーで展示されていたのが「ADAM T5V + iFi audio ZEN DAC」というリスニングセット。実はこれ、音楽配信サイトのOTOTOYが企画・販売しているもので、価格は、59,800円(税込)。セットの内容は、
・USB DAC : iFi audio ZEN DAC
・パワード・スタジオ・モニター・スピーカー : ADAM AUDIO T5V x 2本
・OTOTOYカード 5000円分
・マル秘セッティング・アイテム
となっています。これは、セット内容を見ていただくと分かるように、DACとスピーカーがセットになったもので、家でいい音で音楽を聴きたい人におすすめのセット。PCさえ持っていれば、iFi audio ZEN DACとADAM T5Vで高音質なサウンドを楽しむことができます。DACとかスピーカーとか、使ったことない方でも、PCの環境の操作方法などを含めたセッティングガイドが、「簡単、お得にはじめる高音質デスクトップ・オーディオ・セット──iFi audio ZEN DAC+ADAM AUDIO T5V」にあるので、安心してスタートすることができます。
【関連情報】
OTOwakeホームページ
ADAM Audio T7V製品情報
ADAM Audio A7X製品情報
ADAM Audio S2V製品情報
ADAM Audio製品情報
2400 Audio Imperium製品情報
【価格チェック】
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