これまでもDTMステーションでいろいろ取り上げてきたbehringer(ベリンガー)のシンセサイザ。「3年間で100種類のシンセを出す!」という宣言通り、次々と面白いシンセサイザーを発売しているわけですが、その中でも大ヒット製品になっているのがRolandのベースマシン、TB-303のクローンであるTD-3です。まあ、クローンといっても、30年前の機材をソックリそのまま再現するというのではなく、当時のコンセプトを現在の状況に合わせる形で作り直すとともに、誰でも手軽に入手できるよう、非常に安価に製品化したというものです。
今年3月に発売されて以来、私自身も、すごく気になっていたのですが、先日1台、赤いモデルを購入しました。そうしたところ、さらにカラーバリエーションを増やしているようで、12月11日からは内部の回路が透けて見えるスケルトンモデルが5色リリースされるとのこと。そのうち水色のTD-3-BBというモデルも借りることができたので、改めてTD-3とは何なのか、またDTMユーザーがTD-3をどう活用するといいのかなど、紹介してみたいと思います。
シンセサイザーのクローンを出すということについては、賛否両論あるとは思います。もちろん、やっていいこと、やってはいけないことがあるので、一概には言えませんが、このTD-3に関して私は、すごく面白く、楽しいチャレンジだな、と思って見ています。
オリジナルのTB-303がどんなものなのかについては、ネットを検索すれば、いくらでも情報があるので、そちらに任せますが、個人的には高校生時代に発売され、近所の楽器店で展示されていた機材をSH-101とともに、いろいろと遊ばせていただいた、思い出深い機材でもあります。
そのTB-303をbehringerが再現したのがTD-3。アナログのベースシンセであり、シーケンサを備えていて、手軽に使えるというコンセプトは同じですが、音そのものも、使い勝手も完全に同じというわけではありません。TB-303においては、ほかにもクローンマシンが複数ありますが、その中でもTD-3はかなりパンチのあるベース音が出せる強烈な音源ではないかな……と思っています。しかも、手ごろな価格で、アナログシンセのベースマシンが入手できるメリットは大きいのではないでしょうか?オープン価格とはなっていますが、実売価格を見ると、税込みで16,280円前後。ソフトシンセを買う感覚で入手できるのは嬉しいところです。
今回、スケルトンカラーが5種類も登場したことで、計10種類のTD-3が存在する形に。そしてどのモデルも、機能的にはまったく同じで、音もまったく同じ。シンセサイザーにそんなにカラバリがあって、意味があるのだろうか???と疑問にも感じるところですが、behringerとしては、とにかくカジュアルに使えるベースマシンを作りたかった……ということなのでしょう。
そのTD-3、あまりご存知もいると思うので、私がちょっとだけ音を鳴らしながら操作してみたので、以下のビデオをご覧ください。
いかがですか?適当に操作しているだけではありますが、なかなかグッとくるサウンドだと思いませんか?バックで鳴っているドラムはDAW側のドラム音源で鳴らしているものですが、それと完全に同期しながらTD-3のベースサウンドが演奏され、パラメータを動かすことで、リアルタイムにサウンドが変化しているのが分かると思います。
このTD-3、内部的には完全なアナログシンセサイザーであり、聴いて分かるとおり、かなり太いサウンドを出すことができるマシンです。ベース専用音源なので、モノフォニックであり和音は出せません。シンセサイザのパラメータとしてはCUTOFF、RESONANCE、ENVELOPE、DECAYの4つとWAVEFORMをノコギリ波と矩形波の2つから選択するだけで、いたって単純。でも、これだけで、エッヂの効いたカッコいいサウンドが作れるんですよね。
DTMステーションにも何度も登場いただいているシンセサイザー兄貴、江夏正晃さんによると、TD-3を上手に使うコツとしてはCUTOFFはゼロに設定したままRESONANCEとENVELOPE、DECAYを動かすことで、「ミョンミョン」した感じのアシッドベースのサウンドが作れるんのだとか。そのアドバイスにしたがって操作してみたのが、さっきのビデオですね。普通、シンセサイザのフィルター操作というとCUTOFFとRESONACEを使うわけですが、フィルターにエンベロープを効かせることができるTD-3というか、TB-303系の機材では、こうするといい感じに鳴ってくれるんですね。
また、オリジナルのTB-303にはないエフェクターが搭載されているのもTB-303クローンの面白いところですが、TD-3の場合は右上にディストーションが搭載されており、これを使うことで、強力にパンチの効いたサウンドになってきます。
一方、ステップシーケンサがついているので、これでパターンを組んでいくことができ、必要に応じてそのパターンを並べたトラックを生成することで長い曲を作っていくことができるのもTD-3の面白いところ。このシーケンサもオリジナルのTB-303から踏襲されている機能ですが、ハッキリ言ってとっても使いづらいもので、操作は難解。とくに普段DAWを使っている人からしたら、「なんだこれ?」と思うほど、使いにくシーケンサです。
でも、TD-3のユニークな機能として、左下にある2つのボタンを同時に押す「RAND」という機能を使うことで、シーケンスパータンをランダムに生成することができるのです。これを繰り返せば、いくらでも新しいパターンが生成されるので、気に入ったパターンになるまで何度でも作り直せばいいわけです。
とはいえ、狙った通りのベースフレーズを演奏させたい、という場合にはどうすればいいのか?もちろん、この難解なシーケンサで1つずつ入力していってもいいのですが、TD-3にはオリジナルのTB-303にはなかったMIDI端子、さらにはUSB端子が搭載されているのも重要なポイント。このUSBを経由してPCと接続し、PC側からコントロールすることが可能となっています。
もっとも簡単なのは、TD-3をMIDIの外部音源として使う方法。TD-3はUSBクラスコンプライアントなデバイスなので、USB接続すればWindowsでもMacでもドライバ不要ですぐに認識してくれます。そしてTD-3に対してMIDIのノート信号を送れば、プラグインのソフトシンセを鳴らすの同じように、TD-3を鳴らすことが可能です。
ただ、外部で鳴っているだけだとDAWでの作品として完成させることができないので、TD-3の出力をオーディオインターフェイスの入力に接続し、MIDIトラックを再生しつつ、新たなオーディオトラックにTD-3からのサウンドをレコーディングしていけばいいのです。
2つ目の方法は、behringerが同社サイトで無料配布しているSynthToolというソフトを利用する方法。これを起動すると、TD-3の各種設定をPC側から行えるようになるのですが、左側のメニューの中に、Sequencerというものがあります。これを開くと、ピアノロール画面が出てきて、ここでTD-3のパターンを編集することができるのです。
画面左上にはPatter Group、Patter Section、Patternとあるので、ここで指定した上で、Recallボタンを押すと、TD-3に格納されているパターンを読み込むことができます。その上で編集したり、まったく新たにパターンを入力した上で、Storeボタンを押せば、TD-3に書き込むことができるというわけなのです。
では、先ほどのビデオのように、DAW側とTD-3側を同期させるにはどうすればいいのでしょうか?実はTD-3は、INT(インターナルクロック)でシーケンスパターンを演奏するほかに
USB
TRIG
という3つの同期が用意されています。INTの場合はTEMPOの設定で演奏するテンポの速度を変更できるのに対し、この3つの同期をさせると外部からのクロックで動作するようになるのです。
DAWで使う場合はUSBに設定した上で、DAW側の設定で、MIDIクロックの出力先としてTD-3を選択します。その上でTD-3のSTARTボタンを押すと、クロック待ちの待機状態に入ります。その後DAWを再生させり、録音させると、そのテンポにしたがってTD-3のシーケンサが動き出し、先ほどのビデオのように同期させることができるのです。
DAWからTD-3への同期設定(Cubaseの場合)
DAWからTD-3への同期設定(Studio Oneの場合)
また、USBの代わりにMIDIを使い、MIDIケーブルでDAWと接続したり、外部シーケンサと接続したりてもまったく同様のことができます。一方で、TRIGを選んだ場合、TD-3のSYNC-INに、たとえばKORGのvolcaシリーズのSYNC OUTを接続することで、2つを同期させることが可能になるのです。
SYNC-INに外部からのシンク信号を入れることで同期させることも可能。写真はKORG volca beats
基本的にTD-3が持っているのは、このくらいの機能なので、これを理解した上でDAWなどと連携させることで、ソフトシンセだけではできない幅広い表現が可能になってきます。単体の音モノガジェットとしても十分楽しむことができ、DAWの表現力を大きく上げることができ、さらにライブなどでも活用できる強力な機材が1万円台で入手できるのですから、お気に入りの色の機材を一つ持っておいても損はないと思いますよ。
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