11月10日にアナウンスされていたので、すでにご存じの方も多いと思いますが、Ableton Liveの新バージョン、Live 11が発表され、2021年上旬に国内外で発売となります。2018年1月にAbleton 10がリリースされて以来3年ぶりとなるメジャーバージョンアップで、これまでユーザーからもリクエストの多かったコンピング機能が搭載されるとともに、MPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)に積極的に対応したり、さまざまなエフェクト、インストゥルメントが搭載され、より強力なDAWへと進化しています。
普段、値引きがないことで知られるAbleton Liveですが、発売となる2021年上旬までの期間、現行のLive 10を購入すると20%オフで入手でき、もちろんLive 11が出たタイミングで無償アップグレードが可能というキャンペーンを実施中です。そのLive 11のβ版を入手し、試すことができたので、新機能の一部をピックアップして紹介してみたいと思います。
ドイツ・ベルリンにあるAbletonが開発するDAW、Liveは2001年に初期バージョンがリリースされたので、今回登場するLive 11は2021年の発売となるため、ちょうど20周年となる記念すべきバージョンです。
またバージョン11の発表なので、11月11日なのかな……と思っていたら、同じバージョン11となったCubase 11の発表が11月11日であることを察知してだったか、前日の10日に先手を打って発表していたのは面白いな…と傍から観察しておりました。
さて、そのLive 11は
• Live 11 Standard:48,800円(税込)
• Live 11 Suite: 80,800円(税込)
の3つのエディションがあり(価格は新規ライセンスのダウンロード版)、それぞれの機能の違いはAbletonのサイトに細かく掲載されているのでそちらを参考にしてみてください。通常は上記価格ですが、キャンペーン期間中である現在は各エディションのLive 10を20%オフで入手でき、Live 11がリリースされると同時に無償でGETできるので、滅多にないチャンスといえそうです。
すでに過去のバージョンのLiveを持っている方なら、新規ライセンスで購入するよりも安いプランがあるので、Abletonサイトからチェックしてみるといいですよ。またLiveは買ったことがないという方でも、DTMユーザーの方であれば、オーディオインターフェイスやMIDIキーボードなどに付属されたLive 10 Liteを持っているという人も少なくないと思います。そうした方は、Abletonサイトでライセンス登録していれば、Live 10 Standardを31,840円、Live 10 Suiteなら56,640円と、さらに安く入手できるので(Live 10 Introはアップグレード割引の対象外)、試しに買っておいても損はなさそうですね。
さて、そのAbleton Live 11。11月18日にリリースされたβ版、11.0b19というものを入手したので、これをちょっと試してみました。見た目自体は、20年前の初期バージョンからほとんど変わっていないわけですが、内部的にはかなり強化されました。
第1のポイントともえるのがコンピング機能です。コンピングとは同じフレーズをループレコーディングで複数テイク収録した際、いいところをつまみ食いするように選んでいくもの。ほかの多くのDAWがコンピング機能を持っている中、Ableton Liveが持っていなかったので、世界中多くのユーザーから要望が寄せられていたようですが、今回ついに搭載されたわけです。
使ってみると、とても分かりやすく、ループレコーディングしたトラックを右クリックして「テイクレーンを表示」とすると、複数テイクの結果が並んで表示されます。ここで「ドローモード」とした上で、「いいところ」をつまんでいくことで、ベストな状態へ持って行くことができるのです。実際に再生してみると、適当につまんだものが、キレイに繋がっているのですが、自動でクロスフェードをかけてくれているんですね。
また各レーンごとに自由に色を付けることも可能なので、これを利用することで、どのレーンを採用したのかも分かりやすくなります。
そして、このコンピング機能はオーディオだけでなくMIDIにおいても、まったく同じように使うことができるので、MIDIのリアルタイムレコーディングをループで行うことで、編集の自由度が広がりますね。
MIDIもオーディオと同じようにコンピングしていくことができる
今回のLive 11になっての目玉機能の一つがMPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)への対応です。「MPEって何?」という人も少なくないと思いますが、これは従来のMIDIではできなかった、ピッチベンド、チャンネル・プレッシャーなどのコントロールをノート別に制御できるようにするもの。つまりドのキーを鳴らしながらピッチベンドで音程を上げつつ、ミのキーは別のピッチベンドで音程を下げる……なんてことを実現するMIDIの新しい規格です。実はMIDI 2.0ではそれを普通にできるようにするのですが、ある意味MIDI 2.0への過渡期としてできた規格であり、以前にも記事で取り上げたRoli SeaboardやAirtiphone INSTRUMENT-1などがMPEに対応した楽器となっています。
これまでのLive 10でも、これらMPE対応のコントローラでの打ち込みは可能ではあったのですが、今回のLive 11になり、MPEで入力されるピッチベンドやコントロールチェンジなどによるオートメーションデータが扱えるようになり、MIDIの表現力が大きく上がります。具体的にはMIDIノートエディタの左側に表示されるクリップビューにエクスプレッションタブというものが新たに追加されたので、これを使うことでノートごとに編集できるようになったのです。見た目においては地味な機能ではありますが、表現力UPという面では重要な機能追加だと思います。
このMIDI機能においては、ランダマイズという機能が追加されたのも嬉しいポイントです。一番分かりやすいのがベロシティをランダマイズするという使い方。たとえば、ハイハットを単純に入力すると、ベロシティが一定で非常に単調なリズムになってしまいます。そこで、ランダマイズ化したいノートを選択した上で、Randomizeボタンを押すと、ボタンを押す都度、ベロシティ値が変化するのです。ただ、フルで動かすと変化の幅が大きすぎるので、0~100%の間で調整できるほか、レンジを指定することで、どの範囲でベロシティを動かすかも決められるので、便利に利用できそうです。
さらに、このMIDIノートエディタをスケールに合わせた表示ができるようになったのもLive 11の進化ポイントです。クリップビューにスケールモードというものが追加されたので、ScaleボタンをクリックしてONにするとともに、キーを選択し、Major、Minor、Dorian、Mixolydian、Lydian、Phrygian……といったスケールを指定すると、ノートエディター側で、スケールに乗っているか、乗っていないかが色で確認できるようになるのです。
キーを指定するととこにスケールを指定
さらに、MIDIノートエディタ側の「Scale」ボタンもONにすると、スケールに乗っているものだけが表示されるようになるので、この画面でマウス入力することで、スケールに合ったデータを簡単に入力していくことが可能になります。ただし、このスケールはあくまでもMIDIノートエディタの表示だけであり、すでに入力されているデータがスケールに合わせて変化するとか、MIDIキーボードから入力がスケールに合う形に変化するというわけではありません。
そして、結構便利そうなのが、CPUメーターです。これまでのLive 10でもが画面右上にCPUロードメーターというものがあり、パーセント表示で現在のCPU使用率が表示されていましたが、Live 10ではこれをクリックすると、平均値と現在値のそれぞれをチェックできるようになり、必要に応じて右上に表示されるものを平均値にするか現在値にするかの切り替えも可能です。
さらに、ほかのDAWにない便利なCPUメーター表示として、セクションビューのフェーダーの下の位置に「パフォーマンスインパクト」という項目を表示できるようになったこと。つまり、各トラックごとに、どの程度のCPUパワーを喰っているのか表示できるようになったので、使用率の高いトラックをチェックしてフリーズさせたり、場合によっては、プラグインを減らすなどして負荷を減らすことが可能になったのです。プロジェクトを管理するという意味ではすごく便利そうな機能だと思います。
そのほか、今回のLive 11でさまざまなデバイスが追加されているので、その一部を紹介してみましょう。
オーディオエフェクトを見ると、従来アルファベット順にズラリと並んでいたエフェクトが、Live 11ではDrive、Dynamics、EQ&Filiters、Modulators……とジャンルごとになったので、見やすくなったのですが、いろいろ追加されたエフェクトの中でも良さそうなのが、Hybrid Reverbです。これは名前のとおり、コンボリューションリバーブとアルゴリズミックリバーブを組み合わせたもので、非常に自由度の高いリバーブ効果を得ることができます。コンボリューションリバーブにおいては、複数のIRが用意されているほか、IRのWAVファイルをドラッグ&ドロップすることで自由な空間を作ることが可能。さらに、アルゴリズミックリバーブのほうは3種類のアルゴリズムが用意されており、組み合わせることで、不思議な効果を出すことも可能になっています。
「なんじゃこれ??」という不思議なエフェクトがSpectral Resonatorというものです。入力された音をスペクトラル分析をした上で、倍音を構成する部分に分けて引き延ばすことで、まったく違うサウンドに変えてしまう妙なエフェクトです。Chorus、Wander、Granularという分析方法があり、これによっても全然違うサウンドになるし、FreqやDecayといったパラメーターをいじることでも、予測不可能なサウンド変化をしてくれます。さらに、MIDIサイドチェイン入力をすることで、元はまったく別のオーディオを、ポリフォニックシンセのように演奏できてしまうなど、とにかく妙で面白いエフェクトです。
かなり不思議な音作りができるSpectral Resonator
手元のLive 11のβ版にはまだ収録されていなかったのですが、Inspired by Natureという、これまた変わったデバイスも追加される予定とのこと。これはAbletoがエレクトロニック・ミュージシャンのDillon Bastanとの共同で制作したデバイスで、名前のとおり、自然界の物理現象からアイディアを取り入れたというインストゥルメントとエフェクトの6種類からなるもの。Vector FMは音の分子であらわされるFMオシレーターからできた音源、Voector Grainはモジュレーションの様子を可視化する操作画面上で音の分子を動かすグラニュラールーパー、Emitはスペクトログラム全体に散らばる音の分子を使って、再生中のサンプルのグレインを可視化するグラニュラーシンセサイザー……といった具合で、どれも普通の音源やエフェクトではないのですが、アイディア次第でいろいろ作れそうです。
自然界の物理現象からアイディアを取り入れたというInspierd by Natureの1つ、Vector Grain
ほかにもさまざまな機能が追加あれているので、なかなか全部をチェックしきれていないというのが正直なところではありますが、さすが3年ぶりのメジャーバージョンアップだけに、面白い機能が満載のようです。
現時点、Ableton Live 11βのMac版はユニバーサルアプリにはなっていませんが、M1チップ搭載の Mac miniで試してみたところ、Rosetta 2経由で動作し、高速とまでは言えないまでも比較的軽く動作してくれました。AUおよびVST2/3のプラグインも動作し、CPUメーターの動きを見ても、実用範囲内かなという印象です。
なお、冒頭でも紹介した通り、実際の発売は来年初頭とのことですが、それまでの期間、普通は値引き販売のないAbleton Liveが20%オフで購入でき、しかもLive Liteを持っていればさらに安く購入できるので、このチャンスに入手しておくのがよさそうです。
※2020.12.03追記
2020.11.24に放送した「DTMステーションPlus!」から、第164回「UVIの新製品がDTMに無限の可能性を!」のプレトーク部分です。「3年ぶりのメジャーバージョンアップ。大きく機能強化されたAbleton Live 11が2021年上旬に発売」から再生されます。ぜひご覧ください!
【関連情報】
Ableton Live 11製品情報
Ableton Live 11エディション比較表
【価格チェック&購入】
◎Ableton ⇒ Live 10 Intro , Live 10 Standard , Live 10 Suite