AKAI ProfessionalがMPC beatsというWindows/Mac対応のDAWを無料で配布しているのをご存知でしょうか? CubaseやStudio One、Ability、Digital Performer……といったDAWとはちょっと趣向は異なるDAWではありますが、これまでAKAIが培ってきた伝統的なMPCのワークフローで、より直感的に音楽を作っていくことができるソフトです。8つのMIDI/インストゥルメントトラックと2つのオーディオトラックを使って自由にビートメイキングができ、さまざまなパラメータを動かしながら、ダイナミックにサウンドを変化させていくことができるのも楽しいところです。
このMPC beatsのソフトだけでも利用可能ですが、先日発売された実売11,100円(税込)の25鍵ミニキーボード、AKAI MPK mini MK3と組み合わせることで、より効率よく快適に音楽制作できるようになります。キーボードでシンセサイザなどの演奏ができるのはもちろん、8つあるパッドでリアルタイムにリズム入力したり、8つ並ぶノブでシンセサイザのパラメータを動かしたり、親指で操作できるX-Yコントローラでモジュレーションやピッチなどをコントロールできるほか、アルペジエーターを搭載していたり、視認性の優れたOLEDディスプレイを搭載しているなど、この値段からは信じられないほどの機能満載。もちろんMPC beatsとの連携だけでなく、各種DAWとの連携可能で、Ableton LiveモードやFL Studioモード、Logic Pro Xモード、GarageBandモードなども持っており、各種DAWへの最適化も可能。さらに、Hybrid 3、Mini Grand、Velvetなどのソフト音源や膨大なサウンドパックを同梱しているなど、ソフトでけで十分元が取れてしまうほどの充実具合。実際、MPC beatsとAKAI MPK mini MK3を試してみたので、どんなものなのか紹介してみましょう。
まずMPC beatsから紹介すると、これはAKAIのWebサイトから誰でも無料でダウンロード可能なWindowsおよびMacに対応したDAWです。AKAIのMPC beats製品情報ページの下のほうにある、「1. こちらのページにアクセスします。」というところからクリックして英語サイトに移動後、FREE DOWNLOADというボタンをクリックすると、ダウンロードフォームが表示されます。
ここで名前とメールアドレス、国、それに好きな音楽ジャンル、ハードウェアを持っているかどうかの有無、楽器の習熟レベルなどを答えて「GET DOWNLOAD LINK」ボタンを押してしばらくするとメールでダウンロード先のURLが送られてくるので、Windows版、Mac版のいずれかをダウンロードします。
メールの画面を見ると、本体ソフトのほかに、MPC BEATS PRODUCER KITS、DEMOS AND TEMPLATES、F9 INSTRUMENTSという付属ソフトも別途ダウンロードするようにも見えますが、すべてが1セットになっているので、1つダウンロードして、ZIPファイルを展開の上、インストールすればOKです。
細かな設定や、使い方については、日本語のクイックスタートガイドなどもあるので、そちらに譲りますが、簡単に紹介すると、インストゥルメントトラックが8つとオーディオトラック2つで構成されるDAWで、ドラム音源のほか、bassline、Electric、TubeSynthという3つのソフト音源が入っているので、これだけで音楽制作していくことが可能です。
改めて起動するとテンプレートを読み込むか、デモ曲を読み込むか聞いてくる
冒頭で「MPCのワークフローで~」と書いた通り、4×4のパッドを使ってリズム入力をしていくところからスタートし、ベースやコードなどを重ねて音楽を作っていくというのが基本的な流れ。
4×4のパッドを使ってリズム入力を行っていく
DTMの経験がまったくない方でも直感的にリズムを作り、そこに音を重ねていく面白さをすぐに実感できるので、従来のDAWが難しそうで……という方も試してみる価値が高いと思います。
無料のDAWとはいえ、機能も豊富で、ミキサー画面においてはさまざまなエフェクトも入れながらオートメーションをかけて操作していくことも可能。そのエフェクトもPro Toolsでお馴染みのAIRのエフェクト群をはじめ、かなり多くのエフェクトがあるので、これだけでもかなり楽しめます。またVintage EffectsとしてMPC3000、MPC60、SP1200 ring、SP1200といったものも用意されており、当時のサウンドっぽいものに仕立て上げられるのも楽しいところです。
拡張性も抜群でソフトウェア音源、エフェクトともVSTとAUに対応しているので、手持ちのプラグインを組み込んで使うことも可能です。さらに「MPC beatsは面白そうだけど、やっぱり普段使っているDAWから離れられない……」という人は、MPC beats自体をプラグインとして使ってしまうのもお勧めです。つまり、CubaseやStudio OneなどのプラグインとしてMPC beatsを立ち上げ、リズムパターンやベースラインをMPC beatsに任せ、それ以外は通常のDAWで作業する……といったことも可能になっているのです。そういう意味でも、非常に優れたDAWであり、持っていて絶対に損のないソフトだと思います。
Cubase上のVSTインストゥルメントとしてMPC beatsを起動させてみた
さて、そのMPC beatsは、やはりAKAI Professionalの製品だけに、AKAIの各種機器と連携させて使うことで、より真価を発揮してくれるます。もちろん、AKAI製品に限らず、M-AUDIOやAlesisなどのinMusic製品、さらには他社のMIDIキーボード、MIDIコントローラーとも連携が可能になっていますが、その中でも相性抜群で非常に低価格なのでお勧めなのが、先日発売されたAKAI MPK mini MK3というもの。名前からも想像できるように従来からあったMPK mini MK2の新バージョンになるわけですが、コンパクトながら強力な機材です。
見た目かわも分かるとおり、25鍵のミニキーボードで、USB接続・USBバスパワーで動作するもの。USBクラスコンプライアントなので、ドライバーのインストールも不要で、Windows、Macに接続すれば、すぐに使うことが可能です。
前モデルのMPK mini MK2(上)と現行MK3(下)。パッドもノブもキーもかなりグレードアップされている
特長的なのは8つあるパッドです。さすがAKAI製品だけに、すごく気持ちよく叩けるパッドになっているのです。MPC beatsを起動し、MPK mini MK3を接続すれば、即このパッドで叩けるというのも嬉しいところ。またAKAIによると従来機のMPK mini MK2と比較して、よりMPCに近いタッチのものになったのだとか。さらにMK2と比較して鍵盤もよりハイグレードで気持ちいいキータッチのものに進化しています。
でも「MPC beatsを操作するのに8つのパッドでは足りないのでは……」と心配する方もいるかもしれません。もちろん4×4の16個あるのに越したことはないのですが、BANK A/Bというボタンを使うことで、上部の8つと下部の8つのバッドを切り替えることが可能なので、これで十分なプレイが可能です。ライブパフォーマンスを目的とする場合はやはり16個欲しいところではありますが、MPC beatsで打ち込みを行っていくのであれば、この切り替えで十分使えますね。
そして、もう一つ目立つの8つのパッドの右側にある8つのノブ。いずれも無段階にグルグル回せるロータリーエンコーダー型のノブとなっているのですが、これらもMPC beatsのQ-LINKSというコントローラー群と自動で連動するようになっているのです。そのため、面倒な割り当てなどの準備も不要で、フィルターの調整などにすぐに使えてしまうのもMPK mini MK3の大きな強みです。
しかも、このノブの上にOLEDディスプレイを搭載しているのも重要なポイント。ノブを操作したり、パッドを操作すると、それに関する情報が、ここに表示されるので、非常に使いやすいのです。この価格で、OLEDディスプレイまで備えたキーボードはほかにあまりなかったと思います。
操作系でユニークなのは左上にあるX-Yコントローラーです。これ、サムスティックと呼ばれるもので、親指で上から押す形でコントロールするものなのですが、デフェルとの設定では、左右操作でピッチベンド、上下操作でモジュレーションコントロールが可能になっており、その数値がOLEDディスプレイにも表示されるようになっています。また必要の応じて別のパラメーターを割り当てることも可能になっています。
さらに、アルペジエーターも搭載しており、これを使ってソフトシンセなどを演奏させることも可能。アルペジエーターのパターンを変更したり、音符を変更することなどもできるので、かなり自由度が高くなっています。
このように、MPC beatsを使う上で、MPK mini MK3があると非常に便利に使うことができるわけですが、もひろんMPK mini MK3はMPC beats専用ではなく、Cubase、Studio One、Ability……と、各種DAWと連携して使うことも可能です。またPROG SELECTというボタンを使うことで、MPCモードのほかにAbleton Liveモード、LogicProXモード、FL Studioモードなどに切り替えることも可能になっているので、この辺も非常に便利に使えます。
そしてもう一つ重要なポイントが、MPK mini MK3にはさまざまなソフトがバンドルされていること。具体的には以下のそれぞれ。
音源 | Hybrid 3 |
Mini Grand | |
Velvet | |
アプリケーション | MPC beats |
MPK mini Editor mk3 | |
MPCサウンドパック | F9 beats Instruments Collection |
Producer Kits | |
Soulful Drums | |
LoFi Producer Collection | |
Trap Soul & LoFi Beats |
まあ、MPC beats自体は無料で入手できるものなので、これを除いても強力なアイテムがいろいろ。Hybrid 3、Mini Grand、VelvetのそれぞれはMPC beatsで使うだけでなく、VST、AU、AAXの音源となっているので、各種DAWで使うことも可能ですから、利用価値は大きいと思います。
またMPK mini Editor mk3というユーティリティソフトを使うことで、MPK mini MK3を自在にカスタマイズできてしまうのも嬉しいところ。通常は使わなくても大丈夫ですが、キーのアサインの変更やアルペジエーターの設定変更など、自由度高く使うことができるので、自分にとって使いやすい設定のキーボードが欲しいという人にとっては有用なツールだと思います。
なお、これらのソフトはすべて、MPK mini Software Managerというソフトを使って自動でダウンロードからインストールまでを行ってくれるので初心者でも戸惑うことなくセッティングできてしまうのも嬉しいところですね。
このように、MPC beatsとMPK mini MK3を組み合わせることで、低価格ならが強力な制作環境を構築することができるわけですが、最後にちょっとだけ実験してみたのが、先日購入したiPhone 12 Proで使えるかという実験。AKAIのサイトには、iOSデバイスでの利用については明記されていませんでしたが……。
結論からいうと、Lightning-USB3アダプタを利用することで問題なく使うことができました。マルチティンバーの音源アプリを起動すれば鍵盤で演奏しながら、パッドでドラムを叩いて…といったことも可能だし、アルペジエーターを使ってアルペジオ演奏することも可能。これなら非常にコンパクトな演奏・制作環境を作ることができるので、かなり有用なシステムだなと感じました。
MPC beatsに興味のある人はもちろん、小さくて手ごろなキーボードが欲しいと思っていた人、多機能なコントローラーを求めていた人など、検討してみてもいいのではないでしょうか?
【関連情報】
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AKAI Professionalサイト
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