音楽を作ったときに発生する権利、あなたはどこまで知っていますか?著作権や原盤権、実演家の報酬請求権…など、「知っておいた方がいいと思うけど、ちょっと難しそうだな」とか「なんとなくは知っているけど、詳しくは知らない」という方が多いと思います。プロとして仕事をしていなくても、音楽の権利やルールの知識を付けておくことで、トラブルを未然に防いだり、損するケースを回避することができます。
そんな権利や契約、YouTube動画での注意点など、分かりやすく1冊にまとめられた「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」という本が、日本加除出版から10月28日に発売されました。まさに知りたかった話が、整理され、誰でも分かりやすい言葉で優しく解説されている書籍。その著者の高木啓成さんにお話しを伺うことができました。その内容は音楽クリエイター編、動画クリエイター編、契約・トラブル編、モデル契約書集、と4つの章で構成されており、まさにクリエイターであれば必ず持っておきたい本となっています。必要と分かっていながらも後回しにしてきたことを、まとめて理解できるこの書籍、なぜこうした本を書いたのか、実際どんな内容になっているのか、どんな人が読むべきなのか……など伺ってみました。
※2020.10.29追記
Amazonでの売れ行き好調のため、Amazonの在庫が切れ、現在、他業者による価格つり上げ品が掲載されている状況です。本来の価格は2,640円なので、お気をつけください(Amazonでの正価での予約購入方法は記事の最後に記載しました)。Kindle版であれば、正価で即購入できるので、これを購入いただくか、大手書店などでの購入をお勧めします。また一番下に楽天ブックスのリンクも追加しました。
※2020.11.6追記
本日ようやくAmazonの在庫が補充され、通常通り購入できるようになったようです。
--弁護士でプロの作曲家って、すごく珍しく、興味深い肩書きですが、高木先生のプロフィールを簡単に教えていただけますか?
高木:音楽を始めたのは中学生ごろで、高校、大学とバンド活動をしていました。その後、司法試験を受けるため、音楽活動は一度休止しました。そして無事司法試験に合格し、弁護士になって数年経ったタイミングで音楽活動を再開したんです。とはいえ、社会人になると学生のころのようにメンバーで集まってバンド活動をするというのも難しくなります。そこでDTMを始めたんですよ。作曲活動をしている中、地下アイドルに楽曲提供できる機会が得られたり、続けていたらHKTさんにも楽曲提供できるなど、活動の幅も広がっていきました。あくまでも本業は弁護士なのですが、現在も作曲家としての活動は続けています。
--弁護士になられたのは、いつごろで、なぜ弁護士の資格を持ってお仕事しているのに、DTMを?
高木:2007年に弁護士になりました。最初は弁護士の仕事だけで精一杯だったのですが、アニメの「けいおん!」を観て刺激を受けてバンド活動を再開しました。とはいえ、社会人だとバンドを続けることが難しく……ということでDTM活動を始めたんですよ。それが2012年ごろですね。
--弁護士もしながら、本格的な作家活動もしている人なんて、おそらく他に存在しないですよね! そこがきっとポイントだとは思うのですが、なぜ今回この本を出版することになったのでしょうか?
高木:僕がDTMを使って作曲活動を始めたころ、ちょうどアイドルブームだったんです。地下アイドルに楽曲提供していたこともあり、自分が弁護士であったことから地下アイドルのプロダクションから契約書の作成依頼などを受けることなどもありました。プロダクションとアイドルの契約だったり、アイドルの肖像を使ったライセンスの貸し出しだったり、中にはアイドルとの間でトラブルになっている問題を解決する仕事などを受けることもありました。そういった経緯もあり、音楽関係の会社だけでなく、動画制作会社やゲーム会社などからもご依頼をいただくようになり、弁護士としてエンタメ分野の仕事が増えていったのです。ただ、こうした仕事をいただくのは、やはり企業側。使用者と労働者という関係にたとえると、圧倒的に使用者側です。しかしながら僕自身はクリエイターでもあるので、労働者側、クリエイター側もしっかり応援しなくてはいけない……と強く思うようにもなりました。そこで、これまでの経験を活かしつつ、クリエイター側の方たちが法律面で失敗などしないよう、自分の権利をしっかり守れるように、権利や契約などの最低限身につけておくべきである知識をまとめてみよう、と書いたのが「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」という本なのです。
--作曲家など、クリエイターが権利や法律などの知識がなかったために受ける不利益など、いろいろありそうですが、どんなケースがあるものでしょうか?
高木:たとえば、よく問題になるのが作家と音楽出版社との契約です。この契約、日本音楽出版社協会が作ったMPAフォーマットと呼ばれる契約書を使うことが一般的ですが、その際、当事者を作家本人ではなく、作家事務所にしているケースが多いのです。しかし、作家事務所側が柔軟なところであれば、できるかぎり作家本人が契約当事者として署名押印するべきです。ここを事務所任せにしたがために、いざトラブルになったときに権利行使ができず不利益を受けるという事例は少なくないんです。
--そのほかに、どんなトラブルが起こる可能性があるのか、教えていただけますか?
高木:プロダクションから曲の発注を受けた場合、その契約を取り交わすと思いますが、ここでの内容によって自分に入ってくる収入が大きく変わる可能性があり、音楽クリエイターがチェックすべき典型的な例だと思います。1つ目は著作権についてどうするか。メジャー作品の場合と同様、音楽出版社経由で、JASRACなどの著作権管理団体が管理するという形であれば、印税方式で著作権使用料をもらえます。これに対して、いわゆる「買取り」としてプロダクションに一定の金額で著作権を譲渡してしまう方法もよく取られます。もちろんクリエイターが JASRAC信託者だとそもそもプロダクションに著作権を譲渡できないので、注意しておきましょう。2つ目はレコード製作者の権利について。これについては譲渡するか、しないかの問題が出てきます。これは制作費負担などの関係もあり、譲渡してくれといわれるケースが多いと思いますが、その場合は譲渡でいいと思います。ここで重要になるのが、これら著作権、レコード製作者の権利とは別に実演家の権利も同時に発生しているということです。DAWを使い、自分で1から音楽を作った場合、その原盤の中には録音のために演奏したり打ち込んだりしたものには実演家の権利があるのです。そして、それは本来、制作した本人が保有しています。その実演家の権利は3つあり、著作隣接権、報酬請求権、実演家人格権がこれに該当します。そのうち実演家の著作隣接権は、レコード製作者の権利と合わせて俗に「原盤権」と言われており、プロダクションに譲渡することが多いと思います。ただ、実演家の報酬請求権まで譲渡する必要はなく、ここはちゃんと留保しておき、お金が受け取れるように明記しておいた方がいいです。うっかり「著作権法上の権利は全て譲渡する」のような契約をしてしまうと、疑義が生じてしまうので、きちんと処理しておくことが重要です。
--実演家の報酬請求権が自分の手元にある場合は、どんな場合にお金を受け取ることができるのですか?
高木:たとえばテレビやラジオで曲が使われた場合にお金が発生します。放送局は、JASRACなどの著作権管理団体だけにお金を払っているわけではなく、原盤権を管理しているレコード会社や実演家著作隣接権センター=CPRAにもお金を払っています。このCPRAに払われたお金が、会員や会員に委託している個人に分配される仕組みになっています。実際に受け取るためには、MPN(演奏家権利処理合同機構)などの会員になる必要があります。プロダクションにすべて譲渡してしまうと、この報酬は受け取れなくなってしまうので、契約する際はしっかりチェックしておいたほうがいいです。音楽を作った場合には、作詞作曲についての著作者の権利(著作権と著作者人格権)、編曲についての著作者の権利(著作権と著作者人格権)、演奏や打ち込みをする場合には実演家の権利(著作隣接権、報酬請求権、実演家人格権)、完パケまで作ったのであればレコード製作者の権利(著作隣接権と報酬請求権)が発生します。それぞれの権利をどうするか、契約書に示しておくことで、多くのトラブルを防ぐことができます。
--いま音楽を制作した場合それを動画にしてYouTubeなどにアップロードするケースも多いと思います。このYouTubeに関しても、権利関係がいろいろ難しそうに思っているのですが、ここで知っておくべきことはありますか?
高木:YouTubeにアップロードするだけであれば、みなさんご存知だとは思いますが、YouTubeとJASRACは包括契約をしているので、著作権については権利処理されています。そのため、人の曲をカバーするような場合でも歌詞とメロディーに関しては、自由に使って大丈夫です。ただ、CD音源や配信音源を直接アップロードするとなると、話は別です。ここでは著作権だけでなく、原盤権が絡んでくるため、そのまま音源を使うと権利侵害としてコンテンツが消されてしまいます。だから自分で演奏してカバーをしたりする必要があるのです。ただカバーする場合でも、替え歌にしてしまうと、著作人格権は JASRACが管理していないので、作家側からクレームがあると削除せざるを得ない場合があります。
--その場合は、削除すれば済む話なのでしょうか?
高木:YouTubeでの替え歌で損害賠償請求の訴訟などに発展した事例は今のところ聞きませんが、法律的には損害賠償の対象になりますので注意が必要です。ちなみに、しっかりカバーしてYouTubeにアップするとしても、クライアントからの依頼があったような動画、企業のサービスや商品の宣伝する動画の音楽は、包括契約の範囲外なので、注意しておく必要があります。これを知らないとクライアントに迷惑が掛かることがあります。商品・サービスの宣伝の動画に音楽を載せる場合は、別に音楽出版社に申請を出すことは重要ですね。著作者人格権にも関わってくるので、音楽出版社経由で著作者自身からも許諾を得る必要があります。かなり昔の話ですが、坂本龍一さんの曲を清涼飲料水のCMに使う際、ちゃんと権利処理していなかったがために、大きなトラブルになった事例も存在します。
--たとえばの話だけでも、たくさんあるのですね。
高木:そうですね、気を付けていなかったためにトラブルに巻き込まれることもあれば、知らなかったために損をしているケースは少なくないと思います。基本的な知識を身に着けるだけでも大きく変わってくることがあるはずです。せっかく自分が頑張って作った楽曲ですから、その権利は、しっかり守っていきたいですね。
--ありがとうございました。
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※2020.10.29追記
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