フランスのソフトシンセメーカー、Xhun Audio(シュン・オーディオ)。同社は物理モデリングにおいて高度な技術を持つことで知られる会社で、ACS=Advanced Component Simulationという技術を用いてアナログ回路などを忠実に再現しています。そのXhun Audioが、あのMOOGのアナログシンセサイザ、Little Phattyを完璧な形で再現したソフトシンセがLittleOneというものです。
実は最初のリリースから数えると10年近い歴史を持つもので、最新版は2019年4月にリリースされた3.2.0というバージョン。以前はWindows専用であったため、諦めていた方も多いと思いますが、現行バージョンはWindowsのVST2/VST3に加え、MacのVST2/VST3、さらにはAUにも対応したオールマイティーなプラグインになっています(※2020.9.14追記 メーカー公式にはmacOS 10.15 Catalinaには非対応とあります。ただ設定の仕方によってはVST2/VST3は動作するようで、私の環境においては問題なく動作しました。記事最後のコラム参照)。そのLitteleOneとはどんなソフトなのか紹介してみましょう。
Xhun Audioは、物理モデル音源を得意とする会社で、LittleOne以外にもエアロフォンベース音源ResonHeartやエレクトリックギター音源IronAxeをリリースしています。そのどれもがリアルすぎるサウンドで、驚かされるばかり。数多くある物理モデリング音源の中でも、かなり上位に位置するサウンドだと思います。
その中でもMoog Little Phattyを物理モデリングしたLittleOneは、抜群に目立つサウンドをしており、多くのアーティストから高い評価を受けている製品でもあります。さっそくですが、LittleOneの動画があるので、ぜひこちらをご覧ください。
いかがですか?かなりグッとくるサウンドですよね。これがサンプリングではなく、物理モデリングというのが面白いところ。物理モデリング音源とは、楽器をその構造からシミュレーションしたり、電子回路をシミュレーションすることで、音を作り出す仕組みの音源であり、聴いていただいた通りすごくリアルなサウンドに仕上がっています。物理モデリング音源の特徴はいろいろあるのですが、分かりやすいものとして、容量が非常に小さいことが挙げられます。サンプリング音源であれば、GB単位いくサウンドが、数十MBで済み、コンパクトなのは嬉しいところ。
またSoundcloudのデモ演奏もあるので、こちらもぜひご視聴ください。
もうこれが、アナログなんだかデジタルなんだか、分からないですよね。このサウンドを実現しているのが、Xhun Audoが持つACSという物理モデリングの技術。そして、このACSは、Xhun AudioのほかのラインナップであるIRON GUITARにも活かされています。IronAXEについては、8年前の「リアルでコンパクトサイズな物理モデリングギター音源、IronAXE」という記事で紹介していましたが、そこからさらにリアルに、さらに高品質に進化するとともにWindowsだけでなく、Macでも使える音源になっています(※2020.9.12追記 IronAXEだけはmacOS Catalinaでの動作に不具合があったため、現在ダウンロードを中止しているようです。今回紹介しているLittleOneは問題なく動作します)。
2ピックアップのテレキャスター風なモデルと3ピックアップのストラトキャスター風なモデルのピックアップをシングルコイル、ハムバッカーに切り替えたり、ピックアップの場所を移動させたりといったことできます。また鍵盤を演奏しながらモジュレーションホイールを動かすと、弦をミュートをかけたような音となり、ホイールの位置によってミュート具合を変化させるといったことも可能です。
ACSについて少し説明すると、これはアナログシンセサイザーやテープエコーユニット、エレクトリックギター、フレンチホルン、バイオリンなど、楽器やエフェクトの内部にある電子音響、電気音響、音響コンポーネントの物理、アーキテクチャの挙動を忠実にシミュレートするためにXhun Audioが開発した技術です。これにより、元となっているアナログ機材の特徴をモデル化し、アナログ独特の不安定さや不完全さも再現しています。
VCOやフィルター…など、すべてをモデリングしているわけですが、以下の画像はLittleOneのメインオーディオ出力から測定された信号と、実機のLittle Phattyのメインオーディオ出力から測定された信号の例です。非常に高い精度でモデリングされていることが確認できます。
LittleOneは、以前までWindows専用の音源でありMacユーザーは使うことができませんでしたが、現在は完全にMacにも対応。MacのVST2/VST3、さらにはAUにも対応しているので、多くのDAWで使用することができます。
そんなACSでLittle Phattyを完全に再現したLitteleOne。そもそも元となったLittle Pattyは、Moogが開発したシンセサイザーであり、2006年から2013年まで発売されていて、何世代かの製品が存在していました。その設計は、1964年モジュラー型のアナログシンセサイザーを発表した、ロバート・モーグ博士が考案、主なエンジニアはシリル・ランス、製品のデザインにはDream TheaterのJordan Rudessも携わっています。Little Phattyはロバート・モーグ博士の死後生産された最初のモーグ製品。国内ではコルグの輸入部門であるKIDが扱っており、最後の製品がLittle Phatty Stage IIというものでした。ちなみにMoog製品を作り上げたロバート・モーグ博士は、その功績からシンセサイザーの父と呼ばれており、1970年に入りリリースされたライブ向けの小型シンセサイザー「ミニ・モーグ」は、今もなお多くのミュージシャンから高い支持を受けており、復刻版が作られたり、シュミレート音源が多数存在していたりしています。
さて、LitteleOneの基本的な機能についてですが、あらゆるシミュレーションをコントロールするために64bitの処理精度を持っており、シーケンサー、トランスゲート、ラックエフェクトのセットアップが行えるオールインワンタイプ。またサンプリングレートは、44.1 kHz~192 kHzまでのサポート。三角波、のこぎり波、矩形波、パルス間のモーフィングモードにより、オリジナルのアナログ回路で見られる挙動も再現しています。もともとオリジナルとなったLittle Phattyは、モノフォニックシンセサイザーでしたが、LitteleOneはオリジナルのハードウェア仕様拡張で実現したように、ポリフォニックサウンドを実現しています。これもデジタルならではの強みを活かした仕様であり、さらに深く豊かなサウンドを奏でることが可能です。
冒頭でIronAxeやResonHeartの存在を紹介しましたが、ほかにもXhun AudoはLittleOneのエクスパンションをリリースしています。これは各ジャンルに分かれたプリセット集であり、もともと装備されているプリセットに加え、70年代と80年代のディスコ、90年代のダンス、アンビエントのサウンドをすぐに使えたり、EDM、テクノ、トランスといった現代に通用する存在感のあるサウンドを自分の楽曲に利用できます。ラインナップは、Big Steps、Tension Peaks、Northern Stars、Vintage Roads、Electro Punks、 Stage Drawers、Hot Circuits、Lone Raiders、Mono Scapes、Tribe Tronics、と多数用意されているので、これらを使うことで自分の楽曲にインパクトのあるシンセサイザーサウンドを取り入れることが可能です。
以上、LitteleOneを紹介しました。手ごろな価格のソフト音源なので、まずはLitteleOneをゲットして、ファクトリープリセットを使い倒したり、自分でサウンドメイキングをしてみたりしてみてはいかがでしょうか?
※2020.9.14追記 macOS 10.15 Catalinaへの対応について
記事のコメントへの指摘で、macOS 10.15 Catalinaに対応していないのに「完全対応」とはいかがなものか、という旨の指摘をいただきました。私の確認ミスで、Xhun Audioおよびbeatcloudに「Catalina非対応」という表記を見逃しておりました。ただ、私は、Catalina環境のVST3プラグインをインストールし、StudioOne 5およびCubase Pro 10.5でまったく問題なく動作しており、Catalina非対応ということに気づいておりませんでした。VST2およびAUへの検証ができていませんが、分かり次第、情報を記載します。また、念のため「完全対応」と記載したタイトルから「完全」を削除いたしました。
※2020.09.24追記
2020.09.15に放送した「DTMステーションPlus!」から、第159回「Serato StudioがDTMをお洒落にトラックメイキング♪」のプレトーク部分です。「MOOG Little Phattyを忠実に再現したソフトシンセ、LittleOne。Macにも対応し、9,240円」から再生されます。ぜひご覧ください!
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