BITWIG、ESI、CME、SIMMONS、NEKTAR……日欧米亜の楽器メーカーを傘下に持つコンツェルン、中国Ringwayの会長にインタビュー

中国の経済力が高まっていることは、ご存知のとおりですが、電子楽器・DTMの世界においても同様です。現在、中国には複数の巨大楽器メーカーが台頭してきていますが、その筆頭ともいえるのがRingway(リングウェイ)=吟飛科技有限公司です。その傘下にはDAWメーカーのBITWIG(ドイツ)、オーディオインターフェイスメーカーのESI(ドイツ)、MIDIキーボードメーカーのCME PRO(シンガポール)、MIDIキーボードメーカーのNEKTAR(アメリカ)、さらには新しい電子ドラムメーカーのEFNOTE(日本)などがある、まさに巨大コンツェルン。しかもあの伝統ある電子ドラム、SIMMONS製品の設計・開発・製造も行っている会社でもあるのだ。

そのRingay自体も36年の歴史を持つ中国の電子オルガンメーカーであり、高度なデジタルIC設計技術などを有するハイテク企業です。これまで電子楽器の世界ではヤマハ、ローランド、コルグ、カシオ、カワイなど世界トップ技術を持つ日本が優位な立場にありましたが、今後、Ringwayのような中国メーカーが、日本メーカーの立場を脅かす存在にもなりそうな勢いです。おそらく多くの人がRingwayという名前すら知らないのではないかと思いますが、そのトップである、Ringwayの会長、超平(ジャオ・ピン)氏にインタビューすることができたので、Ringwayとはどんな企業で何を狙っているのかなど、聞いてみました。

インタビューに応えてくれたRingwayの会長、超平氏

ーーRingwayは、まさに楽器メーカーの巨大コンツェルンのようですが、もともとどのようなところからスタートした会社なのですか?
超:当社は1984年に創業したので、36年の歴史を持つ会社です。上海の郊外、常州市に本社があり、これまで一貫してテクノロジーを中心に捉えて研究・開発・生産を続け成長してきました。創業当初はASICと呼ばれる特定用途向けのICの開発を行っており、最初に手掛けたのは電子メトロノームのICでした。その後1986年にはデジタルピアノ用のPWMチップを開発し、伸びていきました。さらに1993年には中国企業としては初めて楽器用のPCM音源チップを開発し、海外の大手楽器メーカーへの供給を開始しました。このチップの後継は今も続いており、世界中のメーカーへ供給を行っています。このようにチップなどの部品であったり、また楽器そのものとしての完成品も含め、さまざまな製品を世界中に供給しています。

1984年に創業したRingwayの歴史

--楽器工場としても世界的見ても大きな会社ですよね?日本の大手楽器メーカーもRingwayで生産しているという話を聞いたことがあります。
超:その通りです。日本だけに限らず、アメリカ、ヨーロッパなど世界中の楽器メーカーと協力して生産を請け負うビジネスも行っています。そうした工場としてのビジネスをスタートさせたのは25年前です。当初は生産の請負が中心でしたが、その後OEMが中心となり、現在は自分たちのブランドの製品を生産することが中心となっています。

Ringwayのロゴ

--そのRingwayのブランド、ずいぶんといろいろありますよね。
超:そうですね。日本でも売れている小型キーボードのXkeyもここで作っていますし、NEKTARのキーボードやMIDIコントローラーも生産しています。またドイツESIもそうですし、ブランドという意味ではソフトウェアメーカーのBITWIGなんかもそうですね。最初は当社の工場で生産を行うなど、リレーションシップ、パートナーシップからスタートし、会社によっては出資を行うなどしています。現在グループ会社としては10社程度になります。とはいえ、会社としては製造というのが大きな柱でもあるた従業員の多くが生産に携わるエンジニアで、1,000人程度のエンジニアがいます。

Ringwayグループとしての主なブランド

--電子ドラムの老舗であるSIMMONSもRingway傘下であることに驚きました。
超:傘下という言い方が正しいかどうかは微妙です。SIMMONSはアメリカの大手楽器店であるGuitar Center(ギターセンター)が持つブランドです。そのGuitar Centerと当社がパートナーシップの関係を持っており、SIMMONSブランド製品の設計、開発、製造を当社が行っているというわけなのです。同様にヨーロッパ最大の楽器店であるTHOMANN(トーマン)とも同様のパートナーシップを持っており、THOMANNのオリジナルブランド製品を当社で設計、開発、製造を行っています。36年の歴史の中で、われわれのチームとして本当にさまざまなものを作っていた経験が、いまいろいろなところに生きている格好です。

昨年のMusic China開催期間に、世界中のRingwayグループおよび販売代理店などが集まる大規模なレセプションが行われた

--一方で、Ringway自身も楽器メーカーなんですよね。
超:はい、当社は電子ピアノや電子オルガンを中心にエレクトリックキーボード、エレクトリックドラムなどを作っており、アメリカ、ヨーロッパへの輸出では2018年に8000万ドル(90億円程度)を超えたところです。Ringway製品の60%がアメリカおよびヨーロッパ向けで、30%が中国国内、10%がその他の地域向けという感じです。昨今は毎年50%の成長をして急拡大しているので、まだまだ伸びていく余地があると思っています。

RingwayのWEBサイト。Ringwayブランドでもさまざまな製品が出ている

ーー日本ではRingwayという会社をほとんどの人が知らない状況ですが、今後日本に対してはどのような戦略をとっていくのですか?
超:日本のメーカーともさまざまなリレーションシップをとっていますが、日本のマーケットはクオリティーの要望が高く、非常に厳しいという印象を持っています。やはり、ヤマハ、ローランドといった日本メーカーが強く、ハイエンド製品を出しているので、どう戦っていくかを検討しているところです。その一方でグループ企業であるCME PROのXkeyやNektarのキーボード、そしてドイツESIのオーディオインターフェイスなど、クオリティーの高い製品は日本においても着実に浸透してきています。もちろんハードウェア製品だけでなくソフトウェア製品であるBITWIGも日本のユーザーに広がってきています。また、2019年秋に日本のメーカー、EFNOTE(エフノート)をRingway資本で立ち上げました。同社は日本の楽器メーカーで電子ドラムを20年間、開発していた経験を持つ熟練技術者4人で立ち上げた日本の会社です。彼らの持つ技術力を元に、コストに縛られない自由な発想で唯一無二の製品を開発し、世界に打って出ていければと考えています。

ドイツESIのオーディオインターフェイスなどは国内でも人気製品となっている

ーーところで、中国国内にはRingwayのような大きな楽器メーカーがいろいろ出てきています。たとえばLONGJOIN=龍健集団、MEDELI=美得理、Cherub=蔚科電子、iCON……など、私が知ってるだけでもいろいろありますが、そうした企業との競争はいかがですか?
超:そうですね、各社とも完全に同業というわけではありません。一部で競合する面もありますが、切磋琢磨しながら世界へ出ていっています。やはりどの企業も安く製品を作るという意味では共通かもしれません。今の世の中、いい製品を安く作っていけばどんどん伸びていくことができますから。ただ、当社はその中で技術的にはトップクラスであると自負しています。流通や生産から大きくなっていった他社と比較し、当社はIC設計をベースにして成長してきただけに、より高度な技術で戦っていけると確信しています。

薄くて持ち運び安いXkeyは国内でも人気製品となっている

--最後に日本の読者に向けて一言いただけますか?
超:Ringwayは日本の大手メーカーと比較したら、まだまだ小さい会社です。また日本のみなさんには、まだあまり馴染みのない会社だとは思います。でも、Ringwayのテクノロジーは、いろいろなメーカーを通じて日本のみなさんにもご利用いただいています。またRingwayとパートナーシップを結ぶCME PROやESI、BITWIG、NEKTARなどを通じて、認知いただいているのではないでしょうか?今後は、パートナーシップを結ぶ各社とも協力しつつ、日本の多くのみなさんにも満足いただける製品・サービスをいろいろと提供していきたいと考えておりますので、ぜひ楽しみにしていてください。

ーーありがとうございました。

※このインタビューは2019年10月に中国・上海で行われたMusic Chinaに取材に行った際に行ったものです。

※2020.08.20追記
2020.08.18に放送した「DTMステーションPlus!」から、第157回「JBLのスピーカーでDTMに高音質なモニター環境を!」のプレトーク部分です。「BITWIG、ESI、CME、SIMMONS、NEKTAR……日欧米亜の楽器メーカーを傘下に持つコンツェルン、中国Ringwayの会長にインタビュー」から再生されます。ぜひご覧ください!

【関連情報】
CME PRO製品情報
ESI製品情報
BITWIG製品情報
NEKTAR製品情報
Ringwayサイト(英語)

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