従来デジタル・ワイヤレスシステムの難点は、レイテンシーが生じること、音質が劣ること、混信などの問題が起きやすいこと……などが指摘されていました。そうした中、レイテンシー1.58msという超低レイテンシーで24bit/96kHzをノイズレス、劣化なしの非圧縮で、しかもステレオで伝送できるワイヤレス・イヤーモニターシステムが誕生しました。
開発したのは神奈川県相模原市にあるベンチャー企業、Ronkジャパン。小さな会社ではありますが、イヤホンガイドシステムやインカムなど数多くの業務用システムで実績を持つメーカーが満を持して作り上げたもの。しかも画期的なのは1:nでの伝送が可能であること。つまり1か所から送信された音を、別の場所にいる複数のメンバーで同時にモニターすることができるのです。これまでのワイヤレスモニターの常識を変えるような機材で、さまざまな活用法が考えられそうです。実際どんなものなのかチェックしてみたので、紹介してみましょう。
今回発売されたワイヤレスモニターはRWE01Sという型番の製品で、親機=トランスミッターと子機=レシーバーが1つずつセットでペアリングされたもの。価格的にはセットで実売49,800円前後(税別)とそれなりのお値段ではありますが、ライブ用途はもちろん、制作用として、楽器演奏の練習用などとしても使えるもの。
製品の特長として、以下の5つのポイントが挙げられています。
1.非圧縮デジタル伝送
ステレオ音質24bit/96kHz
2.高性能ICチップ搭載
レイテンシー1.58ms
3.同時リスニング可能
レシーバー増設無制限
4.Rチャンネルのみモニター可能
R/MONO機能搭載
5.都度のペアリング不要
チャンネル自動サーチ搭載
実際に使いながら見ていきましょう。
高性能な製品とはいえ、使い方は至ってシンプル。親機と子機、それぞれの電源を入れたら終わり。それだけです。だからこそ、業務用機器として使っていくことができるわけですが、もう少し細かくチェックしていきましょう。
まず親機のほうは小さなボックスサイズのもので、付属の9VのACアダプタを使って動作させるものです。出荷時はフロントの左右端子にオレンジのカバーが取り付けられているので、これを取り外し、付属のアンテナをそれぞれに取り付けて使います。
リアにはTRSフォンの入力端子が2つあるので、ここにステレオで送信する信号を接続します。もしモノラルの場合はRチャンネルのみに入力すると、それがステレオ化(同じ信号が左右に展開される)されて、送信される仕様になっています。
親機側での操作は基本的に電源を入れるだけ。これによって2.4GHzの信号で子機へ送信することができます。つまりアナログ入力された信号が親機の中にあるADコンバーターで24bit/96kHzに変換されてデジタル信号として送信されるわけです。
一方の子機のほうは単3電池2本で動作するもので、本体のみの重さは約72gと軽量です。またバックル付きの専用皮ケースも付属しており、これをベルトなどに取り付けて使うことができるようになっています。端子としてはステレオミニの出力があるので、ここにイヤモニなどを接続して利用する形になります。
その横にあるツマミを回すことで、出力音量を調整することができますが、実際試してみると、かなりの出力パワーを持っているので、ライブ会場などでも問題なく使うことができそうです。
親機・子機それぞれがあらかじめペアリングされているから、両方の電源が入ると、自動的に接続されます。しっかり接続されているかどうかは子機のLEDを見れば確認することができ、緑の点灯状態になればOK。親機側の電源が入っていないなどで、接続できていない場合は点滅状態になっています。
この状態で親機側にオーディオ信号を入れると、そのまま子機側で音をモニターすることが可能です。試しにシンセサイザキーボードの信号をステレオで入力してモニターしてみたところ、まったく違和感なく、レイテンシーは感じられません。同様にオーディオインターフェイスの出力を親機にTRSのケーブル2本で接続してみましたが、快適です。
Bluetoothのワイヤレス・イヤホンで同様のことを行うとかなりのレイテンシーがあって、まともに使えないことをご存知の方は多いと思います。でも、このデジタルワイヤレス・イヤーモニターシステムであれば有線で接続しているのと何ら変わりはないですね。その意味では、自宅での演奏用、制作用、DTM用といった使い方でも、ケーブルのない非常に快適に環境を得ることができます。Bluetoothワイヤレスが実用的に使えないことで諦めていた人でも、これなら満足して使えると思います。
周波数範囲:2,400~2,483.5MHz
変調方式:GFSK
空中線出力:10mW
占有周波数:4MHz+4MHz
サンプリング周波数:96KHz
データサイズ:24bit/Stereo
使用可能チャンネル:16chのうち、任意の1ch
同時使用チャンネル:最大4ch
遅延:1.58mS
最大到達距離:約30m(見通し距離)
接続可能レシーバー:無制限(台数増設による音質の劣化はしない)
音質的にも非常にクリアであり、有線接続との差は感じられません。というより、オーディオインターフェイスからの音を伝送した場合、ヘッドホンアンプとしての駆動力も大きいので、オーディオインターフェイスによってはヘッドホン出力でモニターするよりもいい感じに聴こえるくらい。FMトランスミッターなどとは完全に違い、ノイズもないので、その点も非常に快適ですね。
試しに屋外で試してみたところ、50m弱の距離まで飛ばすことができました。仕様上は30mとなっていましたが、親機のアンテナが見えるところであれば50mであっても、音質はまったく変わらずクリアなまま。ただし、障害物が入るといきなり音が途切れてしまうので、この辺は注意が必要かもしれません。ライブなどで使用する場合、小さい箱であればまったく問題なさそうですが、大きいホールなどでの使用は難しいかもしれませんね。
気になる子機のバッテリー持続時間ですが、連続使用で約10時間とのことなので、心配はなさそうです。ニッケル水素電池であるeneloopで試してみても問題なく使うことができました。
ところで、親機のほうにはSYSTEM IDと記載されたロータリースイッチがあります。電源オフ時にこれを回すことで、利用する周波数が切り替わる仕組みになっており、具体的には以下の周波数帯を使う形です。
1CH | 2,403MHz + 2,480MHz | 9CH | 2,419MHz + 2,464MHz |
2CH | 2,405MHz + 2,478MHz | 10CH | 2,421MHz + 2,462MHz |
3CH | 2,407MHz + 2,476MHz | 11CH | 2,423MHz + 2,460MHz |
4CH | 2,409MHz + 2,474MHz | 12CH | 2,425MHz + 2,458MHz |
5CH | 2,411MHz + 2,472MHz | 13CH | 2,427MHz + 2,456MHz |
6CH | 2,413MHz + 2,470MHz | 14CH | 2,429MHz + 2,454MHz |
7CH | 2,415MHz + 2,468MHz | 15CH | 2,431MHz + 2,452MHz |
8CH | 2,417MHz + 2,466MHz | 16CH | 2,433MHz + 2,450MHz |
ご覧いただくと分かるとおり、1chで2つの周波数を使っているのですが、実はこれが高音質・低レイテンシー・音切れ無しの秘密。同時に2つの周波数を使いながら、それぞれが補完する形で信号を送っているので、何かのトラブルがあっても音が切れないようになっているのです。その仕組みの詳細を開発者であるRonkジャパンの社長、高山建さんに伺ったのですが、内容がかなり技術的でマニアックになるため、詳細については、今度AV Watchの連載、Digital Audio Laboratoryのほうで掲載しようと思っています。いずれにせよ、2.4GHz帯を使いながら、Bluetoothなどではなく、完全独自の方式で伝送しているからこそ、実現できているものなのです。
このように、気軽に簡単に使えるRonkジャパンのワイヤレス・イヤーモニターシステム。16chで使っているため、複数のセットを同時に使うこともできるようです。また必要に応じて子機=レシーバーを買い足すことが可能で、冒頭でも紹介した通り、1:nでの伝送も可能。この場合は、レシーバーのサイドにあるペアリングのボタンをペン先などで押すことでペアリング設定することができるようになっています。このように複数台をペアリングした上でたとえば左チャンネルにクリック、右チャンネルにオケを流して、バンドメンバー全員が同じ音をモニターするといったことも可能なので、使い方はアイディア次第。今後、幅広いシーンで使われていく機材となっていくのではないでしょうか?
※2020.08.20追記
2020.08.18に放送した「DTMステーションPlus!」から、第157回「JBLのスピーカーでDTMに高音質なモニター環境を!」のプレトーク部分です。「超低レイテンシー、1.58msを実現した24bit/96kHz非圧縮伝送可能なワイヤレス・イヤーモニターシステム、日本のベンチャーRonkジャパンが発売開始」から再生されます。ぜひご覧ください!
【関連情報】
ワイヤレス・イヤーモニターシステム製品情報
Ronkジャパン・サイト
【価格チェック&購入】
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