DTMやDAWって言葉も知らないけれど、iPhoneに入ってるGarageBandで曲作りをしている大学生、無料楽器アプリで遊んでみたら簡単に演奏できて思いのほか楽しいという会社員……など、WindowsやMacでDTMをしている人たちとは少し違う層の人たちも、iPhoneやiPadを通じてDTMの世界に入ってきています。そんな人たちに、もっと音楽制作の面白さを届けたい、という思いから、日本のプラグインメーカー、Dotec-AudioがiOSアプリをリリースしました。
今回Dotec-Audioが初めて出したのは、すでにWindows/Macのプラグインとして出しているマキシマイザのDeePopMaxと、2つのレバーだけで音質を大きく変化させられるDeeEQ、それにiOS上のAudioUnits V3アプリを効率よく活用するためのAUAuioPlayerのそれぞれ。このうちAuAudioPlayerは無料アプリで、DeePopMaxとDeeEQはそれぞれ1,480円ですが、9月いっぱいオープニングセールとして860円で展開中です。実際どんなアプリなのか試してみたので、紹介してみましょう。
iPhone/iPadでのDTMの世界をあまりご存知ない方に、ちょっとだけ紹介しておくと、これはパソコンとは少し違う強力な音楽制作ツールとして進化してきています。10年前にiPhoneが登場した当初から音楽制作を意識した設計になっていたため、起動すればすぐに楽器になるアプリが多数登場し、DTMステーションでもいろいろと紹介してきました。
DAWを起動し、プラグインとして動かすWindowsやMacのソフトウェア音源と異なり、設定も不要で簡単に使えるという意味で、初心者ユーザーにとってもすごく分かりやすいものでした。同様にエフェクトの単体アプリも数多く登場。IK Multimediaが早い時期にiRigというiPhone用のオーディオインターフェイスを安価に出したこともあり、それと組み合わせて利用するギターエフェクト、ギターアンプシミュレータのアプリも人気になりました。
その一方で、マルチトラックレコーディング、つまり多重録音ができるアプリも早い時期から登場し、その後Apple自身もGarageBandというDAWをリリース。徐々にWindowsやMacのDTMの世界に近づいていくのですが、やはり小さな画面、PCほどパワーのないCPUで動作させるため、演奏機能に特化するなど、PCとは少し異なる路線を歩んできたように思います。その後PCの世界でも著名なDAWであるCubaseのiOS版であるCubasis、FL StudioのiOS版のFL Studio Mobile、さらにはPCのDAWに負けないほどの機能を持つAuria Pro、Rolandが新たに開発したZenbeats……などさまざまなDAWアプリが登場してきたのが現状です。
そのDAWが進化する過程でPCと同様にプラグインも登場してきました。当初はアプリ同士をつなぐ形でプラグイン的に利用できるようにするAudioBus、さらにはApple自身がAudioBusに対応するような仕組みのInterApp-Audioといった仕組みを作ってきたことは過去にも何度か記事にしたことがありました。が、数年前には、Macと同じ仕組みであるAudio Units V3という仕組みを投入し、現在に至っています。そういう意味では少し混乱し、分かりづらい状況に陥っているのが現状だと思いますが、今後はInterApp-Audioを捨ててAudio Units V3に集約していく方針のようです。
と、ちょっと前置きが長くなり過ぎましたが、その新しいプラグインの仕組み、Audio Units V3に対応させる形で、この度日本のプラグインメーカー、Dotec-Audioが2つのプラグインをリリースしたのです。
Dotec-AudioがiOSアプリをリリースしたのは今回が初。以前にKORG Gadget内で動くDeeMaxを出したことはありましたが、Dotec-Audio自身がリリースするアプリとしては初ですね。
「iPhone/iPadにおいては、WindowsやMacでDAWを使っている人とは違うライトユーザーが結構多いように感じていました。そのため、そうしたユーザーにもっと音作りの楽しさを伝えられないだろうか……という思いは持っていました」と語るのはDotec-Audioのフランク重虎さん。
「私も、どうすればiOSで動くアプリが作れるのだろう……となんとなく興味を持っていたのですが、Windows/Mac版で作ってきたアプリを試しにiOSに移植してみたところ、同じAudio Unitsであったこともあり、あまりにも簡単にできてしまったのです。そこで今回試しに2つのAudio Units V3対応アプリを作ってみました」とDotec-Audioの飯島さんは話してくれました。
とりあえず出すなら、何がいいかを二人で話し合った結果、ライトユーザーが多いだろうという想定から、「より簡単に使えるマキシマイザーで実用性が非常に高いDeePopMaxがいい」と重虎さんが提案。一方、「より簡単に音質変化を楽しめるDeeEQがいい」と飯島さんが提案した結果、この2つになったのだとか……。
それぞれ、基本的にはWindows版、Mac版と同じものなので以前の記事「初心者でも狙った音圧と質感に!SNSや音楽ストリーミングサービスでカッコよく音を聴かせるマキシマイザー、DeePopMax」、「プロのEQテクニックを誰でも実現可。直感で使える知識・経験不要の新感覚プラグイン、DeeEQがスゴイ!」をご覧いただきたいのですが、それぞれを簡単に説明しましょう。
まずDeePopMaxはDotec-Audioが誇る音圧爆上げエフェクト、DeeMaxシリーズの最新作で、ジャンル的にはマキシマイザーと呼ばれるもの。要するに音圧を上げるためのエフェクトなのですが、単に音圧を上げるだけでなく、いまいちバランスの良くないミックスであってもいい感じに仕上げてくれる賢いマキシマイザーなのです。そのため、GaregeBandなど、iOSアプリで曲を仕上げたけど、なんとなく締まりが悪いとか、パンチがないんだよな……なんて感じていた曲をDeePopMaxを使うことで、グッと来るものに仕立て上げることができるのです。
といっても使い方はいたって簡単。基本的には中央のダイアルを回すだけ。右に回していけば音圧上がり、左に回せば下がる、ただそれだけでいい具合に仕上がってくれるのはとっても不思議でもあります。左側にWARMTHというパラメータがありますが、これを上げていくことで低音に温かみを付加していくことが可能。また右のOUTPUTは最大出力をどこに抑えるかを設定するもの。通常はデフォルトの設定値である-0.1dBでいいと思いますが、必要によって調整することが可能になっています。
具体的には下にある左右に動くパラメーターで高域をいじりたいときは右のほうへ、低域をいじりたいときは左の方へ動かし、それを持ちあげたければ上にあるフェーダーを持ちあげ、抑えたければフェーダーを下げる、たったそれだけでいい感じに仕上げてくれるのです。言葉で説明するよりも、実際に動かしてみればすぐに理解できると思いますよ。
ただ、DeePopMaxもDeeEQも、Appleの新しい仕組みにのっとったAudio Units V3という規格のアプリなので、起動の仕方が難しいというネックがあります。そう従来のエフェクトアプリと違って単体で起動することはできません。必ずホストアプリが必要となり、その中でプラグインとしてDeePopMaxやDeeEQを起動させる必要があるのです。
そのAudio Units V3が扱えるアプリとしはGarageBand、Cubasis、Zenbeats、Auria/Auria Pro、Multitrack DAW……といったものがあります。無料で誰もが持っているGarageBandは、作りが複雑なアプリになってしまったので、Audio Units V3の扱いがとても分かりにくく、しかもマスターで使えず、トラック個別にしか利用できないという問題があるのですが、みんなが持っているアプリなので簡単に紹介しておきましょう。
DeePopMax、DeeEQを使うにはオーディオを入力するトラックであるAUDIO RECORDERもしくはAMPでトラックを作成します。
ここで画面左上のフェーダーボタンをONにするとトラック設定画面がでてきますが、この中ほどにあるプラグインとEQをタップすると、プラグインの設定画面が現れます。
ここで編集をタップした上で、空いているスロットの「+」をタップするとエフェクトの一覧が表示されます。この際、画面上の「Audio Units機能拡張」というタブをタップするとAudio Units V3の一覧が表示されるので、ここからDeePopMaxやDeeEQを選択する形です。
Cubasis 3の場合は利用したいトラックのInsert Effectsを選ぶとエフェクトの設定が可能です。通常はCubasis自身が持っているInternal Effectsが選ばれると思いますが、Audio Unitsを選ぶとこの中にDeePopMaxやDeeEQが見つかるはずです。
Zenbeatsの場合はミキサーコンソール画面を表示させた上で掛けたいトラックにあるコンセントのアイコンをタップするとエフェクトを追加できるようになっています。「+Audio Effect」というボタンをタップするとエフェクト一覧が表示されるので、この中からDeePopMaxやDeeEQを選ぶようにしてください。
あとはとにかく使ってみる……というところではあるのですが、そうはいっても初心者ユーザーにとって、こうしたiOSのDAWを起動して、DeePopMaxやDeeEQを使うというのは、ちょっとハードルが高いようにも思います。
そこでもっとずっと簡単にDeePopMaxやDeeEQを使うためのアプリが同時にDoteic-Audioからリリースされています。それが、AUAudioPlayerなるものです。
※2020.9.5追記
AUAudioPlayerの初期バージョンにおいて、サードパーティー製のAudioUnitsが読み込まれない問題があったとのことで、先ほど修正版がリリースされまました。
これはiTunesライブラリにある曲、もしくはドキュメントとして入っている曲、つまりiPad内の各アプリに保存されているWAVファイルやiCloud Drive上にある楽曲に対し、直接Audio Units V3のエフェクトを掛けられるというとっても単純でありながら、これまでになかった超便利なアプリです。
使い方は簡単で、楽曲を選択した上で、上に4スロットあるところにAudio Units V3のエフェクトを読み込んで再生するだけ。
前述の通り、GarageBandの場合、マスタートラックにエフェクトをかけることができませんが、一旦GarageBandでWAVやAIFFで書き出した上で、このAUAudioPlayerでエフェクトを掛ければいいわけですね。
Doteic-Audio以外のAudio Units V3のエフェクトを利用することもできるし、4スロットあるから、いろいろなエフェクトを組み合わせることも可能。また入ってきた信号=再生する楽曲には上のスロットから順番にエフェクトが掛かっていきますが、必要に応じて入れ替えることも可能です。
再生してうまくいったら、画面左下の保存ボタンをタップすればファイル名を付けた上でWAVファイルで保存可能。このAUAudioPlayerのフォルダに保存されるので、必要に応じてそのままどこかのサーバーなどにUPしてもいいし、MacならFinderを、WindowsならiTunesやiMazingなどを使ってその完成したファイルを取り出すこともできます。
ところで、性能的に見てWindowsやMacのプラグイン版のDeePopMaxおよびDeeEQと、このiOS版のDeePopMaxやDeeEQを比較して違いがあるのでしょうか?この点について開発者である重虎さんにお伺いしたところ
「エフェクトを処理するDSP部分は同じプログラムをそのまま使っており、まったく同じものなので性能差はありません。もちろん、音の入出力という点ではどのオーディオインターフェイスを使うのかによって違ってくる面はありますが、iPhoneやiPadの音は結構いいですからね。これまでPCに苦手意識を持っていたDJユーザーなんかにもぜひ使っていただきたいですね」と話してくれました。
一方で、Dotec-AudioがWindowsやMacのプラグインとして出しているDeeシリーズは、ほかにもDeeMaxやDeeFat、DeeWider、DeeBass……といろいろありますが、それぞれiOSに移植していく計画なのでしょうか?
「まずは今回初めてということでDeePopMaxとDeeEQをリリースしました。まだ私たちとしても、本当に需要があるのか、実際に使う人がいるのかなど、まったく見当がつかないというのが正直なところです。ほかのAudio Units V3の世界を見る限りでは、あまり盛り上がっている印象はないのですが、今回の反響があれば、横展開をしていきたいですね。とりあえずは様子見です」と飯島さん。
世の中の反響次第ということのようですが、ぜひ、盛り上がっていって欲しいし、可能であれば海外ユーザーからの反響もあったりするといいのにな……と思いつつ応援していきたいと思っています。
※2020.09.24追記
2020.09.15に放送した「DTMステーションPlus!」から、第159回「Serato StudioがDTMをお洒落にトラックメイキング♪」のプレトーク部分です。「より幅広い人たちに音楽制作の面白さを届けたい! Dotec-AudioがiOSアプリに参入。簡単に音作りができるDeePopMaxとDeeEQをリリース」から再生されます。ぜひご覧ください!
【関連情報】
Dotec-Audioサイト
Dotec-Audio iOS製品情報
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