MIDIケーブルをワイヤレス化するmi.1 Cableが先行発売を開始。Bluetooth MIDIの元祖、日本のベンチャー、QUICCO SOUNDが開発

最近、電子ピアノにも搭載されるなど、徐々に普及が進んできているBLE-MIDI(正式名称、MIDI over Bluetooth Low Energy)。そのBLE-MIDIの実質的な最初の製品は、2014年に浜松にある小さな会社、QUICCO SOUND(キッコ サウンド株式会社)が出した、mi.1というアダプタでした。それから6年を経て、QUICCO SOUNDがまた面白い機材を開発してきました。

1つはワイヤレスMIDIケーブル(ワイヤレスなケーブルって言葉として矛盾してる!?)ともいえるmi.1 Cable。そしてもう1つはmi.1をさらに進化させた第2世代製品、mi.1 IIです。mi.1 CableのほうはMIDIケーブルを置き換えできるという、至って単純明快なアイテム。一方のmi.1 IIはチップの採用と、ソフトウェアの刷新により、MIDIのタイムスタンプを有効にし、正確なタイミングでの演奏が可能になるなど、技術的な進化を遂げているようです。一足早くそのmi.1 Cableおよびmi.1 IIを試してみたので、これらがどんなものなのか紹介してみましょう。

QUICCO SOUNDからMIDI接続をワイヤレス化するmi.1 Cableがリリース

QUICCO SOUNDは8月ごろよりAmazonでmi.1 Cable(税抜通常価格:7,900円)とmi.1 II(同4,200円)の発売を開始するのですが、それに先駆けて7月10日よりQUICCO SOUNDの通販サイトから20%オフ価格での先行発売(実際の出荷は7月22日より順次)を行っていきます。前モデルであるmi.1が在庫なしの状態が1年近く続いており、「欲しいのに買えない」と思っていた人も多かったと思いますが、より性能UPしたmi.1 IIがようやく入手可能になるというわけなのです。

従来MIDIのやりとりをするには5PIN-DINのMIDIケーブルを使って接続する必要があった

mi.1 Cableもmi.1 IIもどちらも見た目はほぼ同じで、小さなMIDI端子が2つ繋がったアダプタです。mi.1 Cableのほうは黒いアダプタと白いアダプタのセット、mi.1 IIは黒いアダプタ1つというものになっており、初めて見た人は「これ、どうやって使うの?」と不思議に思うかもしれませんが、まずはmi.1 Cableのほうから紹介していきましょう。

mi.1 Cableを使うことで、ワイヤレス化させて、スッキリさせることが可能になる

黒いアダプタも白いアダプタも、よく見てみると、それぞれの端子に「TO IN」、「TO OUT」と記載されています。この「TO IN」のほうをMIDI機材のMIDI IN端子に、「TO OUT」のほうをMIDI OUT端子に接続するのです。

それぞれの端子に「TO IN」、「TO OUT」という表記がある

たとえばMIDIキーボードと音源モジュールを接続するという場合、従来ならMIDIケーブルを使って繋いでいたと思います。そのケーブルをmi.1 Cableに置き換えることができるのです。

その場合、MIDIキーボード側に黒いアダプタを繋ぎ、音源モジュール側に白いアダプタを繋ぐことで双方向でのMIDI通信が可能になります。「電源はどこにあるの?」と心配する方もいると思いますが、大丈夫。MIDI端子からは微弱な電流が流れているので、これを電源として使っているのです。そして電源が入ると、TO OUT側に接続したほうに搭載されたLEDが点滅するので、確認してみてください。

MIDI機器に接続すると緑のLEDが点滅する

たったこれだけで、邪魔なMIDIケーブルをなくすことができるので、部屋もスッキリするし、たとえばライブ会場に持っていくような場合でも配線不要で楽々です。双方向でMIDIのやり取りができるので、MIDIケーブル2本分の役割を果たしてくれるわけですね。

その意味では黒いアダプタと白いアダプタ、どちらに接続してもOKなのですが、実はそれぞれで少し意味合いが違うのです。黒から白に飛ばす場合はレイテンシ重視の形となっており、鍵盤などを演奏してレイテンシを最初に抑えたい場合に有効となっています。具体的には平均4msecという低レイテンシーでの通信となります。

黒から白へはレイテンシが非常に小さくリアルタイムにMIDI情報を送れる

一方、白から黒にと明日場合は、タイミング重視となります。シーケンサの演奏など、タイミングでのズレを最小に抑えたい場合、ジッターを±1msec以内に抑えた正確なタイミングでの演奏を可能にするのです。ただし、この場合は50msec程度のレイテンシーが生じるため、使う目的を考えた上で白と黒のどちらを使うかを決めるのがよさそうです。

白から黒へはタイムスタンプ付きでタイミングのよれなく、低ジッターでMIDI情報を送れる

mi.1 Cableは、MIDIケーブルを置き換えてワイヤレス化するためのアイテムなので、繋いで使う。たったそれだけなのですが、「それって、今までのmi.1が2つあればできたのでは?」と思う方もいるかもしれません。使ったことがある方ならご存知の通り、それはできなかったのです。

そう、前モデルのmi.1も新モデルのmi.1 IIも同様ですが、これはMIDIをワイヤレス=Bluetoothで、iOSやAndroid、MacまたWindows(MIDIBerryなどのツールが必要になります)などのセントラル機器と接続するためのもの。たとえばMIDIキーボードを弾いて、MIDI音源モジュールを鳴らすという場合、間にコンピュータやスマホ、タブレットなどBluetoothを受信できる機器を中継する必要があったのです。

従来のmi.1も新バージョンのmi.1 IIもiOSなどのセントラル機器と接続することを目的とするもの

しかし、mi.1 Cableはそうした機材なしに直接MIDI機器同士を接続可能にした世界初の機材。その意味で画期的なアイテムなのです。もちろん、mi.1 Cableも中身的にはBLE-MIDIを使っているのですが、ユーザーにはその存在を感じさせず、ペアリングなどの作業も不要で、まるでケーブルのように扱うことができるというわけなのです。

※2020.7.10追記

同じ場所で複数台同時に使用することも可能で、台数の制限もありません。また必要の応じて任意のペアリングを行うことも可能です。

この先、だんだんマニアックな内容になっていきますので、興味のある方に読んでいただくとして、今回mi.1 Cableやmi.1 IIを出した背景について、QUICCO SOUNDの社長であり、これら機材の開発者である廣井真さんにオンラインミーティングの形で、話を聞いてみました。

『mi.1はまだ入荷しないのか』というお叱りの言葉を多方面からいただいていました。mi.1は中国で生産していたのですが、その工場が操業を停止してしまった関係で生産が止まってしまっていたのです。当初は中国での別の工場などを探していましたが、いろいろなリスクを勘案し、国内で生産することに切り替えたのです。しかも当社からクルマで30分程度で行ける磐田市にある2つの会社で基板、成型をお願いすることになったのです。“Made in 遠州”ですね。中国もここ数年で生産コストが急激に上昇していているため、コスト的にも変わらないレベルなんです」と廣井さん。

もちろん、単に工場を切り替えたというのではなく、設計もまったく新たにしなおしたとのこと。

mi.1 II(左)と初代のmi.1(右)

mi.1をリリースしてから6年が経過しましたが、その間、お客様からたくさんのご要望をいただいてきました。とくに多かったのが『mi.1同士の直接接続』『レイテンシの改善』『タイミング精度の向上』の3点です。これらの機能を旧mi.1でも対応したく、試してはいたのですが、満足いくレベルで実現するには、ハードウェアおよびソフトウァの刷新が必要だと分かりました。そのため、初代mi.1の工場の操業停止が分かってから、マーク2の開発を進めていました。プロトタイプは2年前のNAMM SHOWで“mi.1 Pro”として発表して、大きな反響がありました。また、サイズに関しても、旧mi.1では、MIDI INとMIDI OUTの端子間の幅が狭い機種で挿せない、という問題がおきていたため、これもサイズ変更して解消させました」(廣井さん)

初代のmi.1だとMIDI IN/OUTの端子幅が狭い機材だとうまく接続できなかった。写真はnovation MINI NOVA

こんな小さなデバイスの中にもCPUが入っていて、それで動かしているというのも驚きですが、処理速度が上がると何が変わるのでしょうか?

mi.1 IIもmi.1 Cableも初代mi.1よりサイズを小さくしたので、しっかり接続できるようになった

BLE-MIDIで問題になるのが、タイミングです。Bluetoothの仕組み上、一定時間おきにMIDIの信号をパケットという形でまとめて送るため、そのままだとどうしてもタイミングに揺れ=ジッターが生じてしまうのです。そこで、送信時に時間情報=タイムスタンプを付加して送るとともに、受信側は、タイムスタンプ情報を元に再構築してMIDI信号として受け渡すことでジッターを解消できるのですが、、この機能を実現するためには、ソフトウェアのアーキテクチャを一から見直す必要がありました。また、処理速度やMIDIイベントを一時保持するためのメモリも必要で、これまでのCPUではスペックが十分ではありませんでした。また、MIDIの通信速度は31.25kbpsと規定されていますが、従来のmi.1では、MIDI限界値に近い大量データでは、処理が追い付かないという事態が生じることがあったのです。今回のCPU性能の向上とソフトウェア刷新により、完全にMIDIの通信速度を実現でき、ケーブルの代わりとして使えるようなっています」と廣井さんは解説してくれます。

ちなみに初代のmi.1ではファームウェアのアップデートをすることで、機能・性能を向上させることができましたが、内部ハードが違うということは初代mi.1をmi.1 IIにアップデートすることはできないということなのでしょうか?

ここについては、中身のチップが異なるため、残念ながらアップデートはできません。ハードの性能の違いに加えて、ソフトウェア構造も大幅に異なるため、mi.1 IIの新機能を旧mi.1に追加していくのも難しいです。ただ、iOSやAndroidのアップデートにより、旧mi.1が使えなくなるような事態については、可能な限り対応していきたいと考えております」と廣井さんは答えてくれました。

開発者であるQUICCO SOUNDの廣井真さんにオンラインミーティングの形で話を伺った

ところで、今回のmi.1 II、mi.1 Cableのリリースに合わせ、iOSアプリのmi.1 Configというものがリリースされています。使ってみると、これでmi.1 IIとiPhoneやiPadとの接続ができるのとともに、デバイス名の変更が可能となっています。さらに、Enable TimeStampというパラメータがあり、これをON/OFFできるようになっています。

今回新たにリリースされるコントロールアプリ、mi.1 Config

デフォルトではBluetoothのデバイス名としてmi.1 IIとなっていますが、たとえばDX7に接続したmi.1 IIのデイバス名をDX7としておけば、より分かりやすくなると思います。一方、Enable TimeStampは先ほどのMIDIタイムスタンプを扱うかどうかの設定です。実は、送信側は従来のmi.1でもタイムスタンプはつけていたのですが、受信においては先ほどお話したとおり、タイムスタンプの時刻を無視して即座にMIDI出力していたため、レイテンシーは最速になりますが、その代償としてジッター(揺れ)が生じていました」と廣井さん。

もうひとつ、廣井さんに伺ったのがレイテンシについてです。今回のmi.1 Cableで黒から白へとレイテンシ重視で送った場合、平均約4msecを実現できるとのことですが、従来のmi.1でiOSに送るのと比較して、よりレイテンシが小さくなっているようなのですが、これはどういうことなのでしょうか?

iOSと接続する場合には、15ms周期で通信をしていて、レイテンシはこの値が支配的となります。実は、この周期はマスター側のiOSが決めているものです。mi.1 Cableでは、マスター側も決められますので、Bluetooth LEの最小値(7.5ms)に設定しています。ですので、平均すると遅延は、約4msを中心に(±3.75ms)を実現しています。これは、1.4m離れて会話する際の声の遅延に相当します。Androidの方は、以前(Android 6のころ)はレイテンシが大きく、不具合もあったたのですが、現在はレイテンシも少なく、安定しています。それどころか、iOSでは使用していないBLE MIDIのフォーマットも積極的に使っていたり、一部ではiOSより進んでいる部分もあります。あまりにも専門的すぎるのでここで説明はいたしませんが……」と廣井さん。

Android版のFL Studio Mobileでもバッチリ低レイテンシでmi.1 IIを使うことができた

AndroidのほうがiOSよりも進んでいるという事実はちょっと衝撃的ですが、この辺はまたいろいろと実験してみようかな、と思っているところです。ちなみに、先ほどのmi.1 Configは現在iOS用のみのようですが、これを使って見てみたら、mi.1 IIに限らず、mi.1 Cableのほうも接続し、タイムスタンプのON/OFFなどの設定をすることができました。

また、マスター(白)側は、XKey Airなどの他のBluetoothMIDI機器とペアリングして使用することも、実は可能だそうですが、その点は商品サイトでは説明がありませんが、メーカーとしてはあくまでもmi.1 Cableは、ケーブルを置き換えるためのシンプルな機材である、という位置づけのようですね。

以上、だいぶマニアックな内容にはなってしましたが、MIDIを使うユーザーにとっては、非常に有用な新しいデバイスが誕生したといえそうです。しかも、Amazonでの発売前の現在なら20%オフで購入できるので、いま入手しておくのはが得策だと思います。

※2020.07.29追記
2020.07.28に放送した「DTMステーションPlus!」から、第156回「待望のメジャーアップデート!Studio One 5」のプレトーク部分です。「MIDIケーブルをワイヤレス化するmi.1 Cableが先行発売を開始。Bluetooth MIDIの元祖、日本のベンチャー、QUICCO SOUNDが開発」から再生されます。ぜひご覧ください!

【関連情報】
mi.1 Cable製品情報
mi.1 II製品情報

【価格チェック&購入】
◎Amazon ⇒ mi.1 Cable
◎QUICCO SOUNDストア ⇒ mi.1 Cable
◎Amazon ⇒ mi.1 II
◎QUICCO SOUNDストア ⇒ mi.1 II

モバイルバージョンを終了