AIきりたんに次ぐ第2のAIシンガー、東北イタコの歌唱データベース制作プロジェクトのクラウドファンディングスタート

日進月歩の音楽のテクノロジーの中で、個人的に今年最大の衝撃を受けたのは「AIきりたん」の誕生でした。人の歌声・歌い方をディープラーニングのシステムで学習し、その人とソックリな歌声を作り出すAI歌声合成は、この数年で急速に進化してきています。そうした中、NEUTRINOというフリーウェアを使って東北きりたんの歌声を合成するAIきりたんは、世界で初めて一般DTMユーザーが自由にAI歌声合成を実現できるツールとなったのです。

そのAIきりたんに続く、第2のAI歌唱データベースを作ろうというプロジェクトが発足し、本日7月6日よりクラウドファンディングが開始されました。その歌唱データベースとなるのは、東北ずん子東北きりたんの姉という設定のキャラクター、東北イタコ。その東北イタコの声を演じるのはホリプロインターナショナル所属の声優、木戸衣吹さん。これによって、また新たなAIシンガーが誕生するとなると、楽しみなところですが、でAI歌唱データベースを作るという、やや変わった形のクラウドファンディングなので、いったいこれがどういうことなのかを紹介してみましょう。

東北イタコの歌唱データベースを作るためのクラウドファンディングがスタート

すでに多くの方がAIきりたんの歌声を聴いてご存知だと思いますが、知らない方もいるかもしれないので、まずは、以下の歌声を聴いてみてください。

どうですか? VOCALOIDなど従来の歌声合成とは明らかに違うレベルであることを実感できると思うし、普通に聴けば人間が歌っているとしか思えないですよね。こうした歌声を、SHACHIさんが開発したNEUTRINOというフリーウェアのツールを使うことで、誰でも作れる時代になったのです。

MusicXMLファイルを用意すれば歌わせることができるフリーウェア、NEUTRINO

このAIきりたん誕生の背景については、以前「AIきりたんの仕掛け人、森勢将雅准教授に聞く、AI歌声合成の世界で今起こっていること」という記事を書いているので、ややマニアックな内容ではありますが、そちらを参照にしてみてください。その記事にもあるとおり、AIきりたんの歌声は、東北きりたんの声を演じる声優の茜屋日海夏(あかねやひみか)さんの歌唱データベースをディープラーニングさせたシステム=NEUTRINOを使って作り出しています。

国の予算で作られたのが、東北きりたんの歌唱データベースだった

別の見方をすれば、新しい歌唱データベースがあれば、それをディープラーニングさせることで、AIきりたんに次ぐ第2のAIシンガーを誕生させることが可能になるというわけなのです。ただし、現在のところディープラーニングさせるための歌唱データベースの作成には、さまざまな技術とノウハウ、多大な時間とコストがかかるのが実情。そこで、クラウドファンディングで資金を募り、新たな歌唱データベースを作ろう、というのが今回の東北イタコのプロジェクトなのです。

しゃべらせるソフト、「VOICEROID 2 東北イタコ」は2018年にAHSから発売されている

ご存知の方も多いと思いますが、東北イタコは、すでにしゃべる歌声合成システムとしてVOICEROIDがあり、AHSが販売を行っているほか、歌声合成用にはUTAUが存在しており、それらのCVを木戸衣吹さんが担当しています。その東北イタコを、より人間らしい歌い方ができるようにしようというのが、このプロジェクトというわけです。

今回のクラウドファンディングを行うのは、仙台に本社があり、東北ずん子・東北きりたん、そして東北イタコの運営会社であるSSS LLC。そして、今回のプロジェクトを遂行する部隊は、AIきりたんを生み出したプロジェクトメンバーをさらに強化した布陣。具体的には以下のメンバーとなっています。

 

○歌唱DB制作 明治大学 森勢将雅先生 @m_morise
きりたん歌唱データベース制作の企画を作り、そして実際に作った方。歌唱データベース制作の全体を見ていく。歌唱データベースでは実際に一般的に流行った曲を歌ってもらうことで今風の歌い方を収録する内容になる。

○プロジェクト管理 明治大学 小口純矢さん @korguchi
プロジェクト全体の管理を担当。小口さんは「いろんな音素の入った文章を音楽にして歌えるようにする」という研究成果を出してきた研究者。今回は東北イタコの歌唱データベースで「足りない音」を上手く補完するような形にするスキルを持っている。

○アドバイザー SHACHIさん @SHACHI_KRTN
AIきりたんこと、NEUTRINOの開発者。AIきりたんで実際にきりたん歌唱データベースを使った経験値を元に、よりよい歌唱データベースを作成するためのアドバイザーとしてプロジェクトに参加してもらう。

○ラベル付け Caparo Ululaさん @caparo_ulula
UTAUの原音設定で宇宙最速を目指し、正確で早い原音設定スキルを持つエキスパート。東北イタコのUTAU音源の原音設定も担当している。今回は歌唱データベースのラベル付け(実際に歌った曲のどこにどの音が入っているのか)を設定する作業を担当。

 

ただし、ここで作られる歌唱データベースは、あくまでも研究者向けのデータベースであり、一般ユーザーが使うものではないというのは、東北きりたんの歌唱データベースと同様。これを歌わせるためには、NEUTRINOなどのシステムが、ディープラーニングして対応してくれる必要があります。まあ、これは歌唱データベースが完成した次の段階の話ではありますが、SHACHIさんがプロジェクトメンバーに入っていることを考えれば、きっと対応してくれることと、期待できそうです。

また、この歌唱データベース自体は研究者を対象に公開されるものなので、今後NEUTRINOに限らず、新たな歌声合成システムが登場してくる可能性もありそうです。事実、森勢先生も以前のインタビューで、独自のシステムを開発していることを明言しているので、来年にはそうしたシステムも公開されると思われます。また将来的には製品としての歌声合成システムが登場し、それが一般に販売されるという可能性もあるのです。

声優の木戸衣吹さんの歌声を収録してデータベースを構築していく

そんな歌唱データベースの作成を応援しようというのが、今回のクラウドファンディング。つまり、最近のクラウドファンディングに多い、モノの売買というわけではなく、まさに歌唱データベースが無事に完成できるよう、みんなで応援することが趣旨。実際にデータベースができて、それに対応したNEUTRINOがフリーウェアとして公開されれば、クラウドファンディングに参加しなくても誰もが入手できます。また将来的に歌声合成ソフトが市販されても、それがタダでもらえるというわけでもありません。

とはいえ、投資した人にはその額に応じたさまざまなリターンも用意されています。具体的には以下の6つのコースです(以下、クラウドファンディングページより転載)。

お礼メールコース:500円
支援者に対してお礼のメール、進捗報告のメールをさせていただきます!

追加ボイスコース:5,000円
500円コースに加え、イタコ姉さまの追加ボイス(100個)を送付させていただきます。

豪華なグッズいろいろコース:25,000円
5,000円コースに加え、イタコ姉さまのポッキースタンド。缶バッジ、ポストカード、布ポスター(横150cm×縦60cm)を送付させていただきます。
(ポッキースタンド用のイタコ姉さまイラスト)

お礼ボイスコース:40000円
25000円コースに加え
イタコ姉さまからのお礼ボイス(お名前を読み上げさせていただきます)
クリアファイルを送付させていただきます。

(25,000円のコース以上のリターンになるイタコ姉さま布ポスター)

ににこ先生サインコース:60,000円
40,000円コースに加え東北ずん子小説(ずん好き)3巻に江戸村ににこ先生のサインを入れて送付させていただきます。

(江戸村ににこ先生がサインを入れる小説)

追加布ポスターに木戸衣吹さんのサインコース:100,000円
60,000円コースに加え追加の布ポスター(25,000円コースとは違うデザイン)に木戸衣吹さんのサインを入れたもの、アクリルフィギュアを送付させていただきます。

(追加布ポスター用イタコ姉さまイラスト)

 

私も、AI歌声合成の世界の発展のために、1口投資してみようと思っていますが、みなさんもぜひ応援してみませんか?

【関連情報】
東北イタコは歌いたい!東北イタコ歌唱音声合成データベース制作プロジェクト(クラウドファンディングページ)

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