プロ、アマを問わず、多くのユーザーが利用する音楽制作における必須のピッチ修正ツールCelemony Melodyne。2001年に「オーディオを音楽的に編集する画期的なソフト」としてデビューし、2016年にはMelodyne 4がリリース。ピアノロールのような画面で、ボーカルや楽器演奏のピッチやタイミングを自在に編集できるMelodyneはプロの現場においても必須のツールとなっています。そのMelodyneが4年ぶりとなるメジャーバージョンアップを果たし、Melodyne 5が誕生しました。
これまでバージョンアップするごとに魔法のような機能を追加してきたMelodyne。今回のバージョンアップでもさらに進化し、かなり実用的なツールや機能が追加されました。すでに入手したという方も多いようですが、国内でもパッケージ版が6月29日に発売されるので、Melodyne 5でどんな機能が追加されたのか、紹介してみましょう。
定番のピッチ修正ソフトMelodyneは、今やプロのみならず、DTMユーザーやシンガーソングライター、歌ってみたなど、歌が関わるところでは必ずといってもいいほど使用されているツールです。使い方の多くは、ボーカルのピッチやタイミング修正ですが、実はギターやベース、ピアノといった楽器も単音・和音に関わらずピッチ編集できる魔法のツールです。またメイン機能のピッチ編集やタイミング修正以外にも、倍音をいじれたり、ボーカルの声質を変えられたりと、ユニークな技術も詰まっています。
Melodyneはスタンドアロンのツールとして利用できるのはもちろん、VSTやAU、AAXなどのプラグインとして使えるほか、ARAという仕組みにより、DAWの一機能として取り込んでしまえるというのが大きなポイント。2019年には、CubaseとNuendoが最新のARA2に対応したことで、Melodyneとの親和性が高まったことが大きな話題になりました。
もちろんCubaseに限らずStudio One、Cakewalk、Logic……など、現在多くのDAWがARAに対応しているため、Melodyneをまるで元からあったDAW機能のように使うことができます。Melodyneのエントリー版であるessentialなら、何かの製品にバンドルされているケースも少なくないので持っている方も多いはず。実際使用してみると分かりますが、ちょっとした直しであれば、まず誰も気が付かないほど自然な仕上がりになるので、初めて使うと驚くこと間違いなしです。
Melodyneの技術部分に興味のある方は、音楽業界を激震させたDNAという技術やARA 2の詳細について以前「ARA 2対応で何が変わるのか?Melodyneの開発者にインタビューしてみた」という記事で紹介しているので、ぜひ参照してみてください。
さて、ここからは今回のバージョンアップでさらに進化したMelodyne 5の新機能を順番に見ていきましょう。
Melodyneの中核を担うボーカル機能がパワーアップ
ボーカルに使用する「メロディック」のアルゴリズムが強化され、歯擦音(しさつおん)やブレスを自動的に検出、表示するようになりました。歯擦音とは「し」とか「しゅ」、「ち」といった音を発する際に摩擦で生じる耳障りな音のこと。この歯擦音やブレスにはピッチがないので、これまでは歯擦音やブレスを手動で切り分けて、音程をもった母音の部分を調整してピッチを合わせていました。このテクニックは、自然に聴かせるプロのワザのひとつでしたが、今回のバージョンアップで、melodyne 5が自動で行ってくれるようになりました。初心者にとってはプロのテクニックを体感でき、プロにとっては作業短縮になりますね。
また、歯擦音を含むノートの長さやブレスの長さを変更したときの結果が、以前のものより自然になりました。母音の部分と歯擦音を別々に処理するようになり、人の声を自然なパターンで正確にエミュレートするルールを適用しているとのこと。結果、Melodyne 5が自動的に人の声を模倣し、処理してくれるので、Melodyne 5を使用するユーザーは細かい部分を考えずとも、自然な仕上がりになります。
また新しく歯擦音バランスツールが追加され、歯擦音の強調や減衰、ミュートや分離を行えるようになりました。歯擦音のバランスを自由にコントロールできるようになったため、「サシスセソ」といった耳障りになる歯擦音を軽減させるディエッサーのような使い方も可能です。これまでは、ディエッサーやダイナミックEQなどを使って、歯擦音をコントロールしていたのですが、歯擦音バランスツールが新登場したことにより、ボーカル処理の進め方が変わってくるかもしれませんね。
人間の聴力をモデリング
これまでMelodyneを使ったことある人であれば経験したことがあると思いますが、視覚的にはピッチが合っているのに、耳ではズレているように感じる現象が起こることがあります。その原因はピッチの揺れや揺れのタイミングなど多くの要素がありますが、プロはそれらを理解した上で、うまくMelodyneを使っていました。こういった技術は簡単に習得できるものではありませんでしたが、Melodyne 5では違和感が生じるエリアを正確に識別し処理することで、手軽にクオリティの高いピッチ編集を行えるようになりました。操作はこれまでと同じですが、ピッチのズレをダブルクリックで修正する際や「ピッチを補正」マクロで一気にピッチを合わせるときの精度が格段に進化しました。ピッチは正確ながらも、個性は残したまま、より音楽的な編集が可能です。
コードトラックとコードグリッドが新搭載
DAWに搭載されているコードトラック機能に似た機能が追加され、トラックのコードを検出し、コードトラックに表示することが可能になりました。これにより、コードに対してのピッチが合っているか確認でき、それに応じたノートを調節できます。また、DAW側でコードトラックを入力している場合、Melodyne 5にそれを適応することも可能です。
フェードツールを新搭載
これまで、DAWの波形上で行っていたフェードイン/アウトがMelodyne上でも行えるようになりました。できることはシンプルですが、これまでMelodyneとDAWで行き来していた作業を一括で行えます。
レベル調整マクロが新搭載
選択範囲のノートを一度に調節できるピッチ補正のマクロやタイムクオンタイズのマクロに加え、レベル調整のマクロが新搭載。これにより、ボーカルトラックにコンプやEQをかける前に行う、下処理の手間を省くことができます。たとえば、1曲通しで1つのコンプを掛けようとすると、A、B、サビ…で、コンプの掛かり方が変わってしまい、いい結果を得られないことがあります。その場合、それぞれのセクションで処理を変えたり、全体のボリューム感をまず揃えたりします。そんな音量レベルを揃える作業を一括で行えるようになりました。機能としては「小音量のノートを大音量に」と「大音量のノートを小音量に」という2つのスライダーが用意されており、選択したノートすべての音量を平均化させることが可能です。
パーカッシブ(ピッチ)アルゴリズムが新搭載
パーカッシブ(ピッチ)が追加され、リズム楽器の音程を編集できるようになりました。たとえば、Trapという音楽ジャンルでは、808キックをパーカッシブでありながらベースのようにピッチ感を持った音色で使います。ほかにもパーカッシブでありながらピッチを持つ楽器がありますが、これまでのMelodyneではタイミングを調整することしかできませんでした。ですが、Melodyne 5からはパーカッションのピッチも操作できるようになったため、さらに幅広い編集が可能になりました。
キーボードショートカットの機能向上
キーボードショートカット検索機能が追加され、コマンド名とショートカット名の2つから検索できるようなりました。Studio OneやCubase…などのDAWのショートカットのカスタム機能と同様、分かりやすくショートカットを割り振れます。
以上、今回のバージョンアップによる新機能を紹介しました。なおMelodyne 5には以下の4つのエディションが存在します。
Melodyne 5 Editor
Melodyne 5 Assistant
Melodyne 5 Essential
また各エディションの違いは以下のようになっており、すべての新機能を使えるのはMelodyne 5 Assistantからとなっています。
essential | assistant | editor | studio | |
マルチトラッキング – 複数のトラックを単一ウィンドウ内に表示して管理 | 〇 | |||
マルチトラックノート編集 – 複数のトラックのノートを同時に編集 | 〇 | |||
複数のトラックにまたがるマクロ – マクロを複数のトラックにわたって同時に適用 | 〇 | |||
参照トラックにクオンタイズ – あるトラックのタイミングを別のトラックに適用 | 〇 | |||
サウンドエディター – ユニークな上音ベースのサウンドデザイン | 〇 | |||
DNA Direct Note Access – ピアノやギターなどのポリフォニック楽器向けアルゴリズム | 〇 | 〇 | ||
コード内の各ノートを編集 – すべてのツールとマクロを使用可能 | 〇 | 〇 | ||
拡張テンポ機能 – テンポの急または緩やかな変更をマップ、編集 | 〇 | 〇 | ||
拡張スケール機能 – スケールを作成および編集、オーディオ素材からスケールを抽出 | 〇 | 〇 | ||
オーディオ-MIDI変換 – ノートをMIDIファイルにエクスポート | 〇 | 〇 | 〇 | |
インスペクター – 全てのパラメーターに素早くアクセス | 〇 | 〇 | 〇 | |
Melodyneの全ツール – ピッチ、フォルマント、ボリューム、タイミング、その他を編集 | 〇 | 〇 | 〇 | |
フェードツール – ノートベースのフェードでダイナミクスを完璧にコントロール | 〇 | 〇 | 〇 | |
歯擦音ツール – 楽音成分と非楽音成分をボリューム比をノート単位で調整、ディエッサー機能 | 〇 | 〇 | 〇 | |
[メロディック]アルゴリズムと歯擦音検出 – パーフェクトかつ自然なサウンド | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
音楽的重み付けピッチ分析 – 音響心理学的に最適なイントネーション補正 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
レベル調整マクロ – ノート感のボリューム差を低減または除去 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
コードトラックとコード検出 – ノートを調和させて配列、オーディオからコードを抽出 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
[パーカッシブ(ピッチ)]アルゴリズム – タブラ、ビリンバウ、808キックドラムなどのインストゥルメント向け | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
DNAなしの全アルゴリズム – メロディック、パーカッシブ、コンプレックス | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
ノートアサインを編集 – アルゴリズムをフルコントロール | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
Melodyneメインツール – ノートとノート分割のピッチ、位置、長さを編集 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
ピッチマクロとタイムマクロ – インテリジェントなオートメーションでイントネーションとタイミングを改善、補正 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
スタンドアロンまたはDAWの一部として – ARA、AU、VST 3、AAXで統合 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相互互換性 – 他のエディションで作成したプロジェクトを開いて編集 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
Melodyne 4との互換性 – Melodyne 4プロジェクトを開いて編集 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
なお旧バージョンとの互換性としては、Melodyne 4より前のバージョンで編集したものをMelodyne 5で扱う場合、新しく搭載された機能はオフの状態で表示されます。とはいえ、その後新機能を使って編集していくことは可能です。逆にMelodyne 5で編集したものをMelodyne 4で開くことはできないので、注意してくだい。
今回のバージョンアップで、これまでMelodyneの検出データは.mdd ファイルに保存されていましたが、オーディオファイル自体に保存されるようになり、プロジェクトの共有が楽になったのは地味ですが、嬉しいところ。SNSを見ているとMelodyne 5になってまだ日が浅いので、すこし不具合の報告を見かけますが、かなり早いスピードで対応しているので、もし不具合があった場合はアップデートを確認してみてください。何がともあれ、まずは30日の試用版があるので、これをダウンロードして試してみてはいかがでしょうか。
【製品情報】
Melodyne 5製品情報(フックアップ)
Melodyne 5製品情報(Celemony)
【価格チェック&購入】
(パッケージ版)
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