すでにご存じの方も多いと思うし、もう購入したという方も多いと思いますが、学研から「大人の科学マガジン トイ・レコードメーカー」という自分でアナログレコードを作れる機材が3月末に発売されました。ただ、大人気で発売後すぐに完売となり、手に入りにくい状況が続いていました。それが、ようやく追加生産されたものが流通し、入手可能になってきたようです。
このトイ・レコードメーカーは、レコード・カッティングマシン(CDでいうところのCD-Rドライブ)とともに白・黒5枚ずつ計10枚のレコード盤、交換用を含めた2本のカッティング針がセットになって7,980円(税抜き)という常識外れの値段で発売されたユニークな機材。Amazon限定でレコード20枚+カッティング針4本という増量版もあり、こちらも6月末から再流通する模様です。このタイミングで改めて、トイ・レコードメーカーとはどんな機材でどうやって使うものなのか、またDTMユーザーにとってはどのように使うのがいいものなのか、実際に試行錯誤しながらカッティングにトライしてみたいので、紹介してみたいと思います。
その昔、小学生のころ「〇年の科学」、「〇年の学習」という学研の付録付き雑誌を購読していた方も少なくないと思います。私自身も科学を小学1年生のときから6年生まで購読し、これで人生の方向性が固まったといっても過言ではない大きな影響を受けました。毎月の付録を楽しみにしつつ、学研が出した電子ブロックを購入して電子回路の世界に入っていったり、学研の塾にも通ったり……と学研愛を語りだしたら、何本でも記事が書けそうなほど。そんな学研の科学で育った大人向けの雑誌が、「大人の科学マガジン」なのです。
6年前「PCとのUSB接続で威力100倍、ポケット・ミクの実力を探る」という記事で取り上げた歌うキーボード ポケット・ミクも大人の科学マガジンシリーズだし、小さな電子楽器テルミンmini、シンセサイザークロニクル……など音モノが結構多いのも大人の科学マガジンの面白いところで、出るたびに私も購入してきました。
そして、その音モノの大人の科学マガジンとして、満を持して発売されたのが、アナログレコードをカッティングするトイ・レコードメーカーだったのです。マガジンというだけあって、本誌はあくまでも雑誌であり、レコード・カッティングマシンは付録という位置づけ。小学生のころと同様、みんな付録が目当てなわけですが、本誌のほうはレコードのノウハウもいっぱい掲載されていて、面白いんですよ。ちなみに、「生録一発勝負!ダイレクトカッティング」というキングレコードの関口台スタジオを取材した記事が4ページほど掲載されていますが、それは私が取材し、執筆しています!
さて、その付録であるレコード・カッティングマシンであるトイ・レコードメーカーは、完成品が入っているわけではなく、自分で組み立てるキットという扱いになっているのも学研の『科学』らしい楽しいところ。はんだ付けなどは不要ですが、部品点数も結構多く、組み立てるのには1~2時間はかかる代物なので、その点は心して取り組んでくださいね。組み立て手順は本誌に細かく記載されているので、そちらを参照してください。
そして無事完成したトイ・レコードメーカーが、こちら。
USB端子からの5V電源供給で動く機材になっているものの、デジタル要素は一切ない完全なアナログマシン。アームが2つあるちょっと不思議な形をしていますが、これはレコード・カッティングマシン兼レコードプレイヤーとなっており、録音再生切替スイッチを再生モードにすれば、普通に45回転のシングル盤をプレイすることができるのも大きな特徴です。
実際にトイ・レコードメーカーを使った様子は、先日ネット番組である第151回DTMステーションPlus!「学研のトイ・レコードメーカーでお手軽にレコード・カッティング!」で配信しているので、ぜひそのサウンドがどんなものなのかを確認する上でも、アーカイブをご覧いただきたいのですが、レコードカッティングの基本的な流れを追っていきましょう。
トイ・レコードメーカーでレコードカッティングするには、まずブランクのレコード盤を用意します。ABS樹脂、つまりプラスティックの丸い板なのですが、ここにカッティング針で溝を掘っていくのです。その際、カッティングするための音を送る必要があるのですが、それはサイドに用意された3.5mmの入力端子を利用します。重要なポイントはこれがモノラルのレコードであるという点。そのため、この端子もモノラル入力となっていますが、多くの音源がステレオ入力であることが考慮され、ステレオミニをモノラルミニに変換するケーブルも付属しているため、これを利用します。
スマホなどのプレイヤーから音を出してトイ・レコードメーカーに送ってもいいのですが、DTMユーザーであれば、オーディオインターフェイスから音を出してやるのがいいと思います。ただし、その際はうまく接続できるよう、変換ケーブルなどを準備しておいてください。
ちなみにDTMユーザーであれば、ステレオ信号をこの付属ケーブルでモノラルにミックスするよりは、事前にDAW上などでモノラルにしておいてから出力することをお勧めします。やはり位相の関係で単純にミックスすると音が消えてしまったりすることもあるので、あらかじめ確認できたほうがいいですからね。
無事音を送りだすことができたら、録音モードにして、ボリュームを上げていくと、カッティングするアームである、カッターヘッドから流している音が小さく聴こえてきます。そう、このカッターヘッドには小さなスピーカーが取り付けられていて、これでカッティング針を振動させてカッティングしていくんですね。かなりアバウトな方法ではあるけれど、この音を聴きながら割れていないか、それなりの音量になっているかなどを確認しながら、送り出し側の出力レベルを調整ていきます。トイ・レコードメーカーのボリュームを上げることでも音量調整できるのですが、あまり高性能なアンプではないので、こちらは9時くらいの小さなレベルに固定しておき、オーディオインターフェイス側で調整するのがよさそうです。
いい感じに鳴るようになったら準備完了。レコード盤をターンテーブルにセットし、カッターヘッドを下げた上で、カッティングする曲の再生をスタートさせます。すると、カッティング針の先からはシュルシュルと細い糸クズが発生しだします。そう、これはレコード盤のABS樹脂が削り出されたために生じるもの。放置しておくと、カッティング針が糸くずの上に乗り上げてしまうこともあるので、手でどんどん取り除いていくか、息を吹きかけたり、ドライヤーなどの風を送り出して除去していきます。
45回転に設定した場合、1枚のレコードに約3分程度、33回転の場合は約4分程度の曲をカッティングしていくことができるのですが、無事にカッティングが終わったら、カッターヘッドを上げて完成です。改めて、再生モードにしてからトーンアームを使って再生用の針を落としてプレイすると、今度はトイ・レコードメーカーの横に取り付けられているスピーカーから再生音が鳴ります。先日の放送でも、実際に再生した音を聴くことができるので、その雰囲気だけでも確認してみてください。
これは曲の一部をテスト的にカッティングした結果なのですが、だいぶレトロな雰囲気で鳴っているのが分かると思います。ちなみに、この「しゃぼん玉」は、DTMステーションPlus!を一緒にやっている作曲家の多田彰文さんのアレンジで、ボーカルは声優の田村響華さん。この世の中事情なので、田村響華さんはiPhoneでボーカル録音したデータをもらってDAWに取り込んで仕上げたものですね。
このビデオだけだとわかりにくいかもしれませんが、このままだとやはり音圧がかなり低いので、もう少しレベルを突っ込んでみたいところ。ところが、DAWからの再生音量を上げていくとカッターヘッドのスピーカーで音が割れてしまってまともにカッティングできません。また音割れしないギリギリのところまでに留めてカッティングしても、再生時に針飛びして、まともに再生できない……という状況が発生しがちです。
実はこれ、レコードの特性であって、とくに低音のレベルが大きいとカットする溝が大きくなり、隣の溝と繋がって針飛びが発生してしまうのです。そのため、業務用のレコードのカッティングにおいても、低域を絞り、高域を上げてから作業するのが基本。ここでは詳細は割愛しますがRIAAカーブと呼ばれるEQ設定をしてカッティングするので、似たようなことができないか試してみました。
つまりDAW側で、パラメトリックEQを使って、やや極端ながら、低域から高域にかけて、ほぼ一直線に上がっていくカーブを作って、これを通してみたのです。すると、まさに理論通りで、オーディオインターフェイスのレベルを上げていっても、音割れしないし、カッティングしていっても違和感なく作業が進みます。そして、再生してみると、確実に大きく、ハッキリした音になるんですね。
もっとも、この曲の場合、アコースティック楽器構成されているし、マキシマイザーなどもほとんどかけておらず、波形で見てもこんな感じでダイナミクスのメリハリもしっかりあります。が、最近のCD楽曲のように思い切りマキシマイザーをかけたサウンドだと、レコードカッティングには不向き。いくらRIAAカーブで低域をカットしたとしても、相当レベルを下げないと針飛びしてしまうのです。
ですから自分の作品をトイ・レコードメーカーを使ってカッティングするなら、マキシマイザーやマスターコンプなどはあまり使用せず、できるだけメリハリのある状態のままがお勧め。その上で、RIAAカーブのようなEQをかけてカッティングするといい感じになると思います。
また、すでにマキシマイザーがかかった海苔状態の音源をカッティングするのであれば、たとえばエクスパンダーのようなものを使って、多少でもコンプ感をほどいた上で、EQをかけると効果的かもしれません。
ところで、「低域をカットして高域をブーストするのはいいけれど、それでは元の曲の感じが大きく壊れてしまう」と思う方も多いと思います。その通りです。いくらレトロな雰囲気で音圧が稼げたといったって、ただシャカシャカいうレコードになったのでは、あまり意味がないですよね。
トイ・レコードメーカーの場合、実際そうなってしまうのですが、一般的なレコードプレイヤーの場合、カッティングしたのとはまったく逆に再生した音の低域をブーストして高域をカットする、EQカーブを実現するフォノイコライザというものを搭載しているか、その役割をオーディオアンプに任せることで、元の音源を再現しているのです。今回作ったレコードも、フォノイコライザを搭載した一般のレコードプレイヤーで再生することで、多少なりとも原音に近い感じで再生することが可能になるのです。
「レコードプレイヤーなんか持ってない」という人は、トイ・レコードメーカーで再生した音をいったんPCに取り込み、PCで低音を上げて高音を下げるEQをかけることで、元に音に近づけることが可能なので、ぜひ試してみてください。
もっとも、トイ・レコードメーカーは、Hi-Fiを求めるための機材ではなく、あくまでもアナログレコード制作について少し触れるための入門機材。そこは割り切った上で楽しむのが鉄則ですよ。
とっても原始的な機材だからこそ、工夫のしどころもいっぱい。たとえばEQ設定においてもう少しボーカルを持ち上げてみるとかもっと中域以下をバッサリカットしてしまうなど、曲によって試してみるのも面白そうです。もちろん、トイ・レコードメーカー側の設定として、針圧を上げたり、下げたりすることでも、記録される音は大きく変わってくるので、この辺の調整も楽しいところ。トイ・レコードメーカーを入手した人はぜひ、いろいろと試してみてください。
なお、標準で10枚ついてくるABS樹脂のレコード盤ですが、当然表面=A面も裏面=B面もカッティングしていくことができるから、計20面分使うことが可能です。とはいえ、もっといっぱいカッティングしたいという人は、オプションとして、ブランクのレコード5枚セットで400円、さらにカッティング針1本600円で入手可能なので、これらを入手することで、たくさんのレコードを生産することが可能ですよ!
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