どんなDAWでもOK!聴き比べながらミックス/マスタリングが学べる書籍『DAWミックス/マスタリング基礎大全』が分かりやすい!

「DTMで制作はしているけれど、ミックスやマスタリングのコツがよく分からない」、「コンプやEQを試しているけれど、そもそも基本的なこともどうもよく分からない」……。そんな思いを持っている方も少なくないと思います。そうした悩みを抱えている人向けに無料のプラグインなどを使ってミックス、マスタリングを学べる書籍『DAWミックス/マスタリング基礎大全』というものが先日リットーミュージックから発売されています。

この本を執筆したのは、YouTubeやブログでDAWの使い方などをレクチャーしてくれる、あのSleep freaksで講師もされている大鶴暢彦さん。先日、その本をちょっと読んでみたら、とってもうまく解説されているし、ネットからダウンロードして音を聴き比べることができるなど、すごくいい教材になっていて驚きました。これまでも大鶴さんとはときどき会って話をしていましたが、改めてどんな意図で書いた本なのか、どんな読者を想定しているのか、どのくらいの期間をかけて書いたのか……などいろいろ伺ってみたので、紹介してみましょう。

DAWミックス/マスタリング基礎大全の著者 大鶴暢彦さんにインタビュー

DTMステーションの記事ではしっかり紹介していませんでしたが、1月23日にリットーミュージックから『Studio One 4.x徹底操作ガイド』というStudio Oneの解説書をようやく出版しました。編集担当者とはStudio One 4がリリースされたときに、本を作ろうか……という相談はしていたのですが、結局のびのびになっていました。がStudio One 4.5にアップデートされたタイミングで、「やっぱり本にしよう!」ということになり、動き出したものの、400ページ以上もある書籍だと、なかなか捗らず、ようやく完成した、という感じでした。

1月23日に発売された私の著書である『Studio One 4.x徹底操作ガイド』

その編集担当者が、私の書籍と同時並行で進めていたのが、大鶴さんの『DAWミックス/マスタリング基礎大全』。編集担当者からは「大鶴さんの本は、すごくいい内容で進んでいるから、Studio Oneのほうも早く書いて!」なんて催促されつつ、ちんたら作業をしていたわけです。結果的には大鶴さんの本のほうが先に完成して発売に。そしてようやく1月に私の『Studio One 4.x徹底操作ガイド』が完成し、刷り上がった見本誌をもらいに編集部に行った際、初めて大鶴さんの本を1冊もらい中身を見てみたんです。

同じ編集者が担当した大鶴さんの著書『DAWミックス/マスタリング基礎大全』

見てみると、本当によくできた本でした。DAWを限定することなく、CubaseでもStudio OneでもPro Toolsでも、ミックス、そしてマスタリングが学べる内容になっているのと同時に、マスタリング前とマスタリング後の比較など、実際に作業をするとどう音が変化できるのかを誰もがチェックしながら学ぶことができるなど、うまい作りになっているんですよね。

しかも基本的にフリーウェアや試用版のプラグインで実際に操作できるようになっているなど、費用をかけずに学べるコンセプトになっているのも、うまくできた本だな…と感心してばかりでした。

ちょうど別件で連載のDigital Audio Laboratoryの打ち合わせでAV Watchの編集部に行く日に、大鶴さんがリットーミュージックの編集部に来ることが分かったので、ちょっと時間をもらってお話を伺ってみました。

※AV Watchを運営するインプレスとリットーミュージックは兄弟会社であり、AV Watch編集部と同じフロアにリットーミュージック書籍編集部やサンレコ編集部、キーボードーマガジン編集部などがあるのです。

--改めて自己紹介ということで大鶴さんのプロフィールを簡単に教えてください。
大鶴:もともとは独学で作詞や作曲、編曲を勉強し、曲作りなどの仕事をしたり、アーティストのプロデュースなどをしていました。一方で、身に着けたPro Toolsなどのスキルをほかに生かせる仕事はないだろうか、と探していた中、立ち上げ期のSleep freaksと出会ったのです。Sleep freaksはネットを介してマンツーマンでDTMを教えることを本業としていますが、ここで講師として生徒さんに教えるとともに、YouTubeやブログでノウハウを教える記事などを作成するという仕事を、この7~8年続けています。

--その大鶴さんがなぜ『DAWミックス/マスタリング基礎大全』を書くことになったのですか?確かに、以前に侘美秀俊さんと共著で『ProTools12 Software徹底操作ガイド』も書いてましたよね。
大鶴:はい、Sleep freaksで同様に講師をしている侘美さんから、「Pro Toolsの本を書くのを手伝ってくれないか?」と誘われて書くことになりました。結果的に、侘美さんが忙しくて作業がなかなかできないため、私のほうがいっぱい書くことになってしまったのですが……(苦笑)。それが本を書いた最初でした。その後、編集担当者からミックス・マスタリングの本を出さないかと言われ、私も自分の書籍を出してみたい、という思いもあったので、書くことになったのです。結果的には書き始めてから1年以上かかってしまいましたが、ようやく完成することができました。

大鶴さんとして初の著書で侘美さんとの共著だった『ProTools12 Software徹底操作ガイド』

--この『DAWミックス/マスタリング基礎大全』、どのような人向けの本なのでしょうか?
大鶴:ある程度、作曲や編曲はできるようになったけれど、ミックスがどうにも分からない……。自分でいろいろ試行錯誤してみてはいるけれど、これが正しいのか分からない……。そういった自己流でミックス/マスタリングしてきたけど、うまくいかずに悩んでいるような人をターゲットにしています。なので、今までに作曲や編曲、ミックス/マスタリングしたことがない、まったくの初心者にとっては、少し難しい内容かもしれないです。ですが、もっとミックス/マスタリングについて知りたい、学びたい人にとっては、かなり刺さる内容になっていると思います。

Sleep freaksで講師も務め、これまで300人以上の生徒を教えている

--これも、結構分厚い本に仕上がっていますが、実際に書いてみてどうでしたか?
大鶴:いろいろな人を想定して書くというのが大変でした。レッスンだと1:1なので、相手のレベルを見極めて、それに応じて内容も変えることができます。でも、本の場合は決まったボリュームもありますし、相手に応じて内容を変えたり、調整したり、ということができないので難しかったですね。ですが、試行錯誤して作っていった結果、多くの人が手に取って学べる本に仕上がったと思います。

--他にも大変だったところはありますか?
大鶴:音源をダウンロードして聴いていただきながら、自分で手を動かして、学んでいける内容となっているのですが、その題材を用意するのが大変でした。うまく汎用性を持たせつつ、分かりやすく勉強になる内容にしたかったので、すべてオリジナルで音源を192個用意してあります。執筆も大変でしたが、この教材づくりにもかなり時間がかかりました。

エフェクトの掛かっていない音源とお手本を合わせて192個の音源を用意

--それぞれのユーザーが持っているDAWやプラグインは、人によってみんな違うと思いますが、そういったところは、どのようにしていったのですか?
大鶴:記事内では代表例として一つのDAWを取り上げて画面を見せています。が、各DAW固有の機能にあまり入り込まず、ほかの各DAWでどうなっているのかなども説明しています。さらに同じような機能を持っているフリーウェアや試用版のプラグインなどについても解説することで、誰でも使えるようにしていきました。前半には、エフェクトの説明やハードウェアモデリングの元となった機材の成り立ちなど、実際に音を使いながら解説しています。後半では、実践編としてミックス済みの音源とミックス前の音源を用意しているので、聴き比べながらお手本通りにミックスできるようになっています。お手本ミックスは、フリー版や試用版、付属しているプラグインを使って仕上げているので、実際に同じものをダウンロードすれば、それ通りに作ることが可能です。

フリー版やトライアル版、付属のプラグインを使って再現することが可能

--ミックスに使ったプラグインも記載されているんですね。
大鶴:実際に使ったプラグインとお手本ミックスでのパラメータの位置をすべて記載しています。また、お手本の音源があるので、自分が持っている同系統のプラグインを使っても、効果的に学べる内容となっています。

手順通りにパラメータを設定すれば、お手本通りの音源を作ることができる

--フリー版だと、どういったものを使っているのですか?
大鶴:サチュレーターのSoftube Saturation Knob、ステレオイメージャーのALEX HILTON A1 Stereo Control、マキシマイザーのThomas Mundt Loud Max……などなど、結構フリーウェアを使った、解説を行っています。できるだけフリーウェアを使いたいとは思ったのですが、リバーブやマスタリングでに関してはフリー版で対応しきれなかったのも事実です。そこは試用版のある製品版を取り上げて解説しています。

--その試用版だと、どういったものを使ったのですか?
大鶴:WAVESのプラグインが多いですね。というのも、本の基本的なコンセプトとして、ハードウェアモデリング系の話を主体としているからです。つまりコンプレッサーの成り立ちなど、歴史的な話や基礎的な話を解説するとともに、それを実践する方法を紹介しているので、それに見合ったプラグインを使っているのです。たとえば、どこのレコーディングスタジオに置いてあるコンプレッサの代名詞ともいえる1176の説明などをしているので、それをモデリングするプラグインとしてWAVESのものを使っているのです。

ハードウェアモデリングのコンププラグインについても学べる内容となっている

--読んでいくと1176といったハードウェア機材についての知識も身に付いていくわけですね。
大鶴:コンプレッサー系をメインに、バスコンプやOptoコンプ、1176のようなFETタイプのコンプレッサー、VCAコンプ…など、基本的なコンプレッサーの種類は押さえた内容となっています。またパラメトリックEQ、リニアフェイズEQ、ダイナミックEQ、グラフィックEQなどの使い分け、ディレイ、サチュレーター、トランジェントシェイパー、ステレオイメージャー…などについて書いた上で、サウンドメイキングについても詳しく書いてあります。マスタリングのセクションでは、M/S処理や音圧コントロール、ディザリングといった内容も充実させました。最後の方のページや付属ダウンロードのフォルダの中に、この本で使ったすべてのプラグインの情報やダウンロードURLを載せているので、これも便利に使うことができると思います。

付属音源フォルダの中に、本の中で使用した音源の入手先URL(直リンク対応)が記載されたPDFが入っている

--最後に読者に向けてコメントをお願いします。
大鶴:ミックス/マスタリングは、割と決まった作法や語られてきた通説があるので、基本はそれに乗っかって進めていきます。ですが、さらに深いところにいくと、ミックスする人によっての違いや経験での違いがあるので、それをどれだけ伝えられるか考えました。この本自体は、普遍的な内容をメインに書いてあるので、これから先すごく力になると思います。また今の時代は、WEBでほとんどのことが知れると思います。ですが、情報の多さに惑わされて迷ってしまうこともあります。なので、ぜひDAWミックス/マスタリング基礎大全を読んでいただき、ミックス/マスタリングの指標にしてもらえたらと思います。

【関連情報】
『DAWミックス/マスタリング基礎大全』情報
『Studio One 4.x徹底操作ガイド』情報

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