1月30日~3月1日までの期間、東京・日本橋で行われているデジタルアート展、「FLOWERS BY NAKED 2020 −桜−」というイベントが開催されています。「五感で楽しむ体感型庭園」と題されたFLOWERS BY NAKEDは、一人の女性が少女から大人に成長していく過程を9つの庭園で表現し、その名の通り花をテーマに視覚、聴覚、嗅覚などを刺激するユニークなイベント。会場内では庭園ごとに異なる花の香りが楽しめると同時に、気持ちのいい音楽、サウンドが鳴り響く、不思議な空間になっています。
このFLOWERS BY NAKEDを企画、演出しているのは日本のクリエイティブカンパニーであるNAKED Inc.(株式会社ネイキッド)。同社は映像制作・デザインを中心とした会社として24年前にスタートし、現在は100名以上の社員スタッフを抱え、多方面で活動しているクリエイティブカンパニーです。これまでに通算50万人を動員しているというこのFLOWERS BY NAKEDは、日本橋での開催が今年5年目となるNAKEDの代表的なイベントにもなっています。そして、ここで流れる音楽や効果音はすべてNAKEDのサウンドチーム「NAKED VOX」によって制作されているとのこと。さらにエイベックスとの共同プロジェクトである、会場の様子に合わせてAIが楽曲を構成するHUMANOID DJも登場するなど、見所がいっぱい。そのNAKED VOXのメンバーである堤聖志さん、下見智さんに、会場を案内してもらうとともに、制作に関する話を伺ってみたので、紹介していきます。
まずは、そのFLOWERS BY NAKEDの会場内の様子をビデオ撮影してみたので、ご覧になってみてください。
立体的なサウンド、香りなどもあるので、ビデオだけでは、なかなか伝わらない面も多いのですが、その雰囲気は何となく感じていただけるのではないでしょうか?デジタルアート展というだけあって、インタラクティブな仕掛けもいっぱい。
たとえば、大きなタンポポの種の前に立って、息を大きく吹きかけてみるとそれを感知した上で、グラフィックが動き出すと同時に効果音が響き、新しい世界が現れるといった具合で、そこかしこに楽しい仕掛けが施されているのです。
さらに、FLOWESの目玉の一つであるのがヒューマノイドDJ。以下のビデオをご覧ください。
このHUMANOID DJは、エイベックスが持つシステムを利用しつつ、NAKED VOXが作った素材を元に曲を構成しているとのことですが、来場者の人数や感情、性別、年齢などをカメラが読み取り、AIが分析した上でリアルタイムに楽曲を作り上げているのだとか……。
花がテーマということもあり、来場者は女性が中心のようですが、ゆっくり楽しめるテーマパーク的なものになっています。オープニングセレモニーには、FLOWERS BY NAKED総合演出でNAKED代表の村松亮太郎さんとともに、タレント・モデルの紗栄子さんがトークショーを行い、テレビや雑誌などの報道も詰め掛けるなど、すごい賑わいになっていました。
このFLOWERS BY NAKEDのサウンドを制作したNAKED VOXから代表してお二人にお話しを伺いました。
ーー改めてNAKEDとはどんな会社、どんな集団なんですか?
堤:NAKEDは代表の村松が立ち上げた今年24年目になる会社で、もともとは映像制作・デザインを中心とした会社として運営してきました。早い時期からデジタル技術を取り入れて映画制作を行っていたのですが、こうしたデジタル技術は映画以外にもさまざまなエンターテインメントの世界で展開できるという考えから、さまざまなイベントを企画したり、制作を行ったりしています。現在、われわれのいるサウンドチームは7名で、楽曲を制作したり、効果音などの制作に携わったり、また音響プランニングもテクニカルチームと連携して行っています。
ーー堤さん、下見さんは、ずっと音楽畑でお仕事をされているのですか?
堤:DTMに触れたのは中学生のときですが、その後ギター/ボーカルとしてバンド活動をしていました。ただ大学卒業後、2年間寿司屋に就職して職人をやっていたんですよ(笑)。その間、渡米したりもしていましたが、日本に戻ってきてから、やはりサウンドの仕事に就きたいとフリーで活動を始めたところ、NAKEDの募集があるのをみかけて入りました。これがNAKEDのサウンドチームのスタートでもありました。
下見:私も中学生くらいからバンド活動や吹奏楽部で音楽に触れ、徐々にクラブミュージックにも傾倒していきました。大学は情報工学の勉強をしていましたが、NAKEDでバイトをしていたこともあり、ぜひここで仕事をしたいと思うようになって就職しました。今年4年目ですが、ずっとサウンドチームで制作を担当しています。
--FLOWERS BY NAKED、先ほど中を見せていただいて、さまざまな効果音があると同時に、音楽が心地よく鳴り響いていました。また一方で、ダンスも絡めたショータイムでは独特のストーリーを感じる音楽が鳴っており、足を止める人も多かったですね。これらすべてNAKED VOXで制作したとのことですが、やはりこうした音楽制作、一般的な曲作りとはだいぶ違うのですか?
堤:フローとしては映画の音楽制作などには近いところがあると思います。ただ、私たちの戦場はリアルな場が多いのでそこがポイントになりそうです。求められている演出、生み出したい空気感をイメージして、その場にふさわしい音楽は何かという答えを見つけ出さないといけません。今回の「OUSAI Garden」のように飲食しながら、あえて起承転結を抑えて時間を忘れるような心地よさを生む、心が弾むようにテンポ感を持たせる、美しい花の雰囲気に合う神秘的なメロディを作る、などを意識しました。また一方で今回のHUMANOID DJパフォーマンス時のようにしっかりと心に刺さる音楽が必要なときもあります。一音目からハッとさせるような音色づくりをすること、ショーのストーリーやパフォーマンスと相乗効果を生めるようにメロディや構成を作り込むことを重視しました。さらに別の例としてインタラクティブな作品では、遊んでいてノッてくる、楽しくなる、ということを追求しています。全体的に、その場その場での体験をどこまで深化させることができるか、ということを日々試行錯誤しながら取り組んでいます。
下見:たとえば今回のFLOWERS BY NAKEDでは楽曲同士のキーを親和性のあるものに揃えています。NAKED VOXのこだわりとして、隣の庭園(=空間)と曲が混ざったとしても気持ち悪い印象を与えないようにしているんです。加えて効果音についても、たとえば花が咲く音はバイオリンとアルミを使って音作りをしていますが、そういった音のキーも音楽に合わせています。
ーーこの音楽制作にともなってアルバムを出しているんですよね?
堤:はい、映画でいうところのサウンドトラックに相当するもので、毎年、FLOWERS BY NAKEDの開催に合わせてNAKED VOXという名義でリリースしています。昨年まではCDでも出していましたが、今年からはデジタル配信アルバムのみにしました。全5曲となっており、1曲目は毎回、入り口にある大きな本「BIG BOOK」でのテーマ曲を入れることにしているため、新曲は4曲ですね。また、このアルバムとは別に、HUMANOID DJが構築する楽曲も毎日リリースしていきます。AIが作った曲が数多くリリースされるのも今年のFLOWERS BY NAKEDの大きな特徴です。
ーーそのHUMANOID DJについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
堤:これまでもエイベックスさんとコラボしながら、さまざまな展開をしてきたのですが、今年は1つのコンテンツを一緒に作っていこうということで、HUMANOID DJとわれわれの音楽を融合させ、インタラクティブな楽曲生成を行っています。「OUSAI Garden」エリアでは、会場に設置されたカメラで人を検知し、人数や性別、男女、感情を読み取っています。これをビックデータとして扱ってリアルタイムにDJ的な楽曲生成しているのです。その元となるのは、今回のアルバムの新曲の1つですが、その曲のSTEMデータなどを元に作っているのです。
ーーDAWや音源など、お二人の制作環境はどのようなものを使っているのですか?
下見:サウンドチームメンバーは、基本的に全員がCubaseを使っており、これが共通言語的なものになっています。Cubaseはサウンドデザインの面でも扱いやすいし、当初は映像を読み込めるDAWがあまりなかったことからCubaseを採用したという経緯があります。さらに作業内容に合わせて、Protools、Nuendoも併用しています。音源については、いろいろですが、たとえば今回だと、ソロストリングスが非常にいいためSpitfire Audioのライブラリを使っています。またSpectrasonicsのOmnisphere 2もよく使っているほか、SERUM、Output社製のシンセなんかもよく使いますね。他にも、アフリカ地方の民族音楽から壮大なオーケストラまで多彩なジャンルの音楽を求められるので、マニアックなもの含めて種類は豊富にあると思います。
堤:そうですね、またソフト音源だけでなく、生楽器のレコーディングなども行っています。今回は弦楽四重奏を入れたり、男女のボーカルを入れたり、子供の歌声も欲しかったのでそうしたレコーディングも行っています。また歌のレコーディングの合間に子供たちのしゃべり声をSE用に収録するなど、効率的に制作を行っています。
--ところで、この会場内を回るとさまざまな音が出ていますが、すごく立体的なサウンドになっています。これはサラウンドシステムなどを使っているのですか?
堤:いいえ、作品によってスピーカーの数も2ch,4ch,6chとバラバラであるため、規格化されたサラウンドシステムを使うことは難しいです。実際にはキスソニックス社という独自の3Dサウンドシステム開発とサウンドデザインを展開している企業に頼んで、効果音や音楽の3D化を実現してもらっています。4ch,6chはもちろんステレオの音源ですら立体的に鳴らせる技術なので、どの作品の音も非常に立体的に聴こえるようになっているのです。
ーーNAKEDのサウンドチームとしては、今後どんな展開をしていくのでしょうか?
堤:サウンドチームが単独で活動するというわけではないですが、NAKEDとしてさまざまなアートイベントを行っていきます。イベントでのサウンドは外注するというところも多い中、NAKEDは社内で制作しているというだけでなく、企画段階から演出家と同じラインで考えながら一緒に作っているというのが大きな特徴です。NAKEDの仕事はかなりボーダーレスでもあり、国内外問わず、いろいろな場で活動し、今回のFLOWERS BY NAKEDで草月さんとコラボしているように、伝統的な方々と組むこともあれば、最新テクノロジーを取り入れることもあります。今後も積極的に多方面の方々とコラボするなどして、すごいものをつくることで、新しいシーンを生み出していきます。
ーーありがとうございました。
【関連情報】
FLOWERS BY NAKED2020 −桜−オフィシャルサイト
NAKED Inc.オフィシャルサイト
NAKED VOX楽曲配信サイト
HUMANOID DJオフィシャルサイト