DAWのプラグインとしてソフトシンセは使っているけれど、基本的にプリセット音色から気に入ったものを選ぶだけで、音色エディットはほとんどしていない……という人はかなり多いと思います。またホントは自分で音作りをしてみたいけれど、難しそうで手を出せていない、パラメータがいっぱいありすぎて、さっぱり分からない……なんて人も少なくないでしょう。
そうした中、Abletonがシンセの仕組み、シンセの音作りの基本を学べるウェブ上の教材、Learnig Synthsを無償で公開しました。すでに英語版はあったのですが、2月4日から日本語版がリリースされ、誰でもウェブ上で使えるようになったのです。必要なものはブラウザのみ。DAWがなくても、シンセがなくてもOK。誰でも簡単にわかりやすく学べるツールになっています。
すでにご存じの方も多いと思いますが、Ableton Liveを開発するAbletonは、2017年5月に音楽制作チュートリアルサイトのLearning Musicをオープンし、同年9月には日本語対応させています。このLearnig Musicというサイト、アクセスしてみればすぐにわかる通り、ブラウザ上ですべて完結するチュートリアルとなっており、たとえばブラウザの画面上でドラムフレーズを打ち込み、プレイボタンをクリックすればすぐにそのフレーズが鳴るなど、まさにブラウザ上でDAW感覚で曲作りを学べるようになっているのです。
その触りを紹介する「音楽制作を始めよう」からスタートして、「ビートを作成する」、「コードを演奏してみよう」、「メロディーを作成する」、「さまざまな曲構成」……などなど全10章立て、トータル70近いレッスンがあるので、かなりガッツリ勉強することができ、しかも何の準備も不要で、即ブラウザ上で操作して、音を出しながら、演奏しながら楽しく学んでいくことができるというのが大きな特徴です。
これだけのチュートリアルで、しかもインタラクティブな動作をするものとなれば、何万円もするeラーニング教材としてサービスされていてもおかしくないほどのものですが、これをAbletonは無料で公開しているんですよね。しかも、すごいと思うのが、別にAbleton Live講座になっているのではなく、あくまでも一般的な音楽制作手法を学ぶものとなっているという点。つまり、ここで得た知識を元に、どのDAWを使っても十分役立つものとなっているのです。Abletonとしては、まずは音楽制作の世界の面白さを一人でも多くの人に感じてもらいたい、という思いがあるようですね。
そのAbletonがLearning Musicに続く第2弾として打ち出してきたのがLearning Synthsなのです。こちらはその名の通り、シンセサイザーについて学ぶことができるチュートリアル。やはり、これもAbleton Liveに直接結びつくチュートリアルというわけではなく、シンセサイザー一般に通じる知識、ノウハウを身に着けるためのウェブ上のサービスとなっています。
ここで、一つ一つ紹介するよりも、まずはLearning Synthsのページにアクセスするのが早いとは思うのですが、ぜひ、このリンクをクリックして、ブラウザで開いてみてください。Windows、Macはもちろん、iPhone、iPad、AndroidでもOKです。またブラウザもChrome、Safari、Edge、OperaなんでもOK。ただし、Web Audioという仕組みを使っている関係で、InternetExprolerは非対応です。
iPhoneのSafariでも同じようにLearnig Synthsを動かすことができた
アクセスすると「はじめに ~ 音作りを始めよう」というページが開きますが、画面中央に四角い図形が表示されているのが分かると思います。真ん中に小さな〇がありますが、ここをクリックしてみてください。「ボヨヨヨヨヨ~」というパワフルなシンセサイザサウンドが飛び出すと思います。そのままマウスをドラッグして上下左右に動かしてみると、「ボ~ワ~ワ~」、「ビュワォ~」などサウンドが変化していきます。「こんなシンセサウンドを作ってみたい!」と思わせてくれる迫力あるサウンドが飛び出してくるのです。
Learning Synthsの最初の画面を開くと、四角い図形の中に丸いボールが…
これはまさに縦軸と横軸でパラメータを動かしてシンセサウンドを変化させる体験そのもの。もちろん、この時点では何をしているのかさっぱりわかりませんし、四角い図形の中に小さなボールの位置を動かしているだけだから、シンセサイザを操作しているという感覚にはなれないかもしれません。でも、ここから一歩一歩、シンセの世界へと踏み込んでいくのです。
右下の矢印ボタンをクリックすると、「変化をつける ~ アンプリチュード」へとページは進みます。ここには三角の図が現れ、また小さな〇があるので、ここをクリックすると「ブーーー」というサウンドが響きます。ここでドラッグしながら〇を三角の斜面を滑らせていくと音が大きくなったり、小さくなったりを体験することができます。「何これ?ただのボリューム?」と思った方は、基本正解。これこそが、アンプリチュード、つまりアンプのことで音を大きくしたり、小さくしたりするもので、単純な構造ではあるけれど、シンセサイザにおいて非常に重要なパーツなんです。
さらに次のページに進むと「変化をつける ~ ピッチ」となり、縦長の四角内にやはり〇がいます。これをクリックすると「ぽ~~」という気が抜けたような、ホンワカしたサウンドが出てきますが、これを上にドラッグすると高い音に、下にドラッグすると低い音へと連続的に変化していきます。一番下まで下げると、「ゴゴゴゴゴゴ…」というスポーツカーのエンジン音のような音まで下がるのですが、これがピッチというやはり音、シンセサイザにとって、非常に重要な要素になっているのです。
きっと、ここまで誰も難しいと思わず、楽しく進めてこれたと思いますが、「変化をつける」というチャプターの内容は、まだまだシンセサイザの奥の世界へと続いていきます。次のページは「変化をつける ~ アンプリチュードとピッチを操作してみよう」。ここでは、最初のページと同じように四角い図形の中に〇があります。
この中心部分をクリックすると、さっきの「ぽ~~」という音が出てきますが、上にあげると大きな音に、下にさげると小さい音になるアンプリチュードが効き、右に動かすと高い音に、左に動かすと低い音になるピッチが効きます。そしてこれを適当に動かしてみると、お化けでも出てきそうな奇妙なサウンドになるんですよね。実はこれこそがテルミンの世界。テルミンが何であるかの解説は省きますが、この数ページで音を出しながら遊ぶだけで、シンセの原点ともいえるテルミンの世界を身に着けることができるのです。
「変化をつける」のチャプターに続いては
エンベロープ(時間の経過にあわせて変化をつける)
LFO(反復する変化をつける)
オシレーター(シンセから音が鳴る仕組み)
フィルター(音を削る)
と続いていき、それぞれで3~8項目で解説が進められていきます。
さらに
ではシンセサイザの代表的なサウンドづくりとして「はじくベース」、「アメリカのサイレン」、「キックドラム」、「サブベース」、「派手なリードサウンド」……と実例とともに、さまざまなパラメータを動かしながらの音作りを体験できるようになっています。
最後の
では、ついに画面はシンセサイザーそのものに。リズムが鳴りながら動くシーケンサで鳴らす音色をリアルタイムにエディットしながら自由に音作りをすることができます。パラメータとしては、このLearning Synthsで学んだものが出てきているだけですが、これでほぼシンセサイザーがどんなものかを理解できることができるはず。そして、ここで身に着けた知識は、そのままさまざまなDAW上のさまざまなソフトシンセ、そしてもちろんハードシンセにおいても直接役立てることができるのです。
それなりの学習量はあるので、10分、20分ですべてが分かるというようなものではありません。人によっては1日で全部体験し理解できるかもしれないし、ホントに初めての人だと数週間かかるかもしれません。でも、ここでシンセサイザの基礎を学んでしまえば、何にでも応用が利くので絶対にお勧めです。
せっかくAbletonが無料で用意してくれた、このチュートリアル、利用しない手はないと思いますよ!