Ozoneとはどう違う?人工知能を使ったマスタリングツール、Elevate Bundleの実力

マスタリング用のプラグインというと、iZotopeのOzoneが定番です。Ozoneが人工知能を使ったマスタリングを行っていることは、以前にも何度か記事で紹介していますが、その対抗馬ともいえるのがEventide(イーブンタイド)が扱う、Elevate Bundle(エレベート・バンドル)というツールです。Elevate BundleはElevateをはじめとする、4つのマスタリングソフトをセットにしたもので、Ozone同様、人工知能を使ったツールであることをアピールしています。

税込み22,000円とそもそも手ごろな価格のソフトなので実際どんなのものなのか試してみました。結論からいうと、Ozoneが積極的に音作りをしていくマスタリングツールであるのに対し、Elavateはいかに音質を変えずにパワフルに効くマキシマイザーであるかを追求するマスタリングといういう印象で、Ozoneともまた違った効果を出してくれます。実際どんなものなのか紹介してみましょう。

人工知能技術を用いてマスタリングを行うEventideのElavate

70年代、80年代に開発し、世界中の著名ミュージシャンに使われたた各種エフェクトを自らの手でソフトウェアのプラグインとして復刻させているEventide。DTMステーションでも「デヴィッド・ボウイのHeroesのボーカルサウンドを忠実に再現するTverb」、「Time after TimeやAshes to Ashesのサウンドを作ったFlanger、トッド・ラングレン愛用のPhaserを開発元のEventideがプラグイン化」といった記事でも紹介していました。

ただ今回取り上げるElevate BundleはEventideが扱う製品ではあるものの、ほかとは位置づけがちょっと異なるようです。これはEventideのDSPエンジニアであるDaniel Gillespieさんという人が入社前に立ち上げたNewfangled Audioというブランドにおいて開発したソフト。それをEventideが自社事業として繰り上げて流通させているんですね。。Eventideのブログに、Danielさんのインタビューがありましたが、面白い風土の感謝なんだな、と。

さて、本題。Elevate Bundleは

Elevate:総合マスタリングツール
EQuivocate:グラフィックEQ
Saturate:トランジェントシェイパー
Punctuate:スペクトルクリッパー

の4つで構成されています。いずれもWindows/Mac双方で使えるプラグインで、VST2/VST3、AudioUnits、AAXのプラグイン環境で使えるものです。

中心となるのがElaveteというソフトであり、iZotopeでいうところのOzone本体に匹敵するもの。中身的には

FILTERBANK
LIMITER/EQ
TRANSIENT
SPECTRAL CLIPPER

という4つの要素から構成されています。まずは、プリセットが数多く用意されているので、これを少し試してみるのが分かりやすそうです。

パラメータはそれぞれ個別に細かく調整できる一方、MAIN PARAMETERSでその大枠を調整できるようになっています。適当に調整しても、やや無理やりな形で調整しても、内部的に自動判断調整をしてくれることで、ダイナミクスを維持しながら、ミックスのトーンバランスを改善してくれるのがElavateの特徴です。

ElavateのMAINPARAMETERS=中心的なパラメータ

簡単に中を見ていくとFILTERBANKというのはElavateの一番の要となる部分で、人間の耳・脳からモデル化された最大26の周波数帯域に分割されるフィルター。私も全然知らなかったのですが、1930年代にベル研究所の物理学者Harvey Fletcher(ハーヴェイ・フィッチャー)氏が人間の聴覚システムを研究し、1933 年に『Loudness, Its Definition,Measurement and Calculation』という論文において、人間の聴覚における臨界帯域の概念について発表しています。この研究で

人間の可聴範囲である20 Hz~20 kHzまでを26の臨界帯域に分割することができ、各臨界帯域において人間は一度にひとつの音しか知覚することができない

ということ分かったのだとか……。また、

同時に再生される2つの周波数に特定の差がある場合、人間は片方の周波数しか知覚することができない

とも書かれています。ホントなんだろうか…とも疑問に思うところではありますが、こうした研究を元にFILTERBANKの26周波数帯もできており、その区分などをAI的に自動で調整してくれるようです。

最大26帯域まで設定できるFILTERBANKの設定画面

LIMITER/EQは各帯域ごとにゲインが調整できるものとなっており、その帯域数はFILTERBANKで設定した帯域数に応じます。極端な話、帯域数を1にしておけば、ごく通常のリミッターとなるわけです。

LIMITER/EQの設定画面

TRANSIENTはトランジェントをどれだけ強調するか設定するもの。MAIN PARAMETERSにおいては強調したい量やADAPTIVEのON/OFFだけで簡単に設定できますが、TRANSIENT画面では各帯域ごとに設定できるようになっています。その設定した結果をうまくAIが処理してキレイな感じにまとめてくれるのです。ある意味、各トラックを作っていく上でコンプをかけすぎた音などを、これで少し自然な感じにすることもできそうですね。

TRANSIENTの設定画面

そしてSPECTARL CLIPPERはサチュレーションさせて、ドライブ感をつけるディストーション的な機能。MAIN PARAMETERSにおいて、DRIVEとCLIPPER SHAPEというパラメーターを設定するだけで、かなり大きな効果をえることができます。といっても、変に歪むというのではなく、とっても音楽的に気持ちいい歪み方をさせることが可能です。

SPECTARL CLIPPERの設定画面

こうした機能を見ても分かる通り、同じAIを使っているといってもOzoneのすべてお任せのMaster Assistantとは異なり、自分で音作りをしながら、そこをいい具合に調整してくれるのがElavateという感じでしょうか。もちろんOzoneでもAIを使わずに細かく調整できるわけですが、AIの使い方が違う印象ですね。

前述の通り、Elavate BundleにはElevateだけでなく、ほかにも3つのプラグインがセットで入っています。ただ、Elavateとセットで使う機能というより、Elavateから切り出した機能という形になっています。そのためEQだけ使いたいときは、EQuivocateを使う、といった利用法がいいのかもしれません。

Elavate Bundleには4つのプラグインがセットになっている

それぞれごく簡単に紹介するとEQuivocateは、先ほどの26帯域に分けられる人間の耳をモデルにしたフィルターを使用するグラフィックEQです。グラフィックEQでありつつ、パラメトリックEQ、コンプレッサ、ゲート、ソフトサチュレーション、トランスエミュレーション、マイクロピッチシフト、ステレオディレイなどの機能も搭載されています。

グラフィックイコライザのEQuivocate

PunctuateもやはりAIを搭載したトランジェントシェイパーとなっています。各音の立ち上がりや余韻を自由に調整することができ、やはり6の帯域に分けて個別に調整できるとともに、その処理をAIが円滑に行ってくれます。

トランジェントシェイパーのPunctuate

そして4つ目のSaturateはElavateのSPECTRAL CLIPPERを切り出したようなサチュレーション系のエフェクトで、無理なく気持ちいい歪みを演出してくれるもの。基本的にはマスタートラックで使うエフェクトではあるもの、トラックで使ってもよさそうです。

SPECTRAL CLIPPERを切り出したSaturate

以上、簡単にElevate Bundleについて紹介してみました。Ozoneなど、ほかのマスタリングソフトを持っていたとしても、方向性が異なるマキシマイザー、リミッターなのでいろいろと活用法はありそうです。マスタリング時に後少し何かしたいけど、どうしたら効果的なのか分からない……といったとき、試してみるのにも良さそうです。

【関連情報】
Elavate Bundle製品情報
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