すでにご存じの方も多いと思いますが、BEHRINGER(ベリンガー)が、数多くのアナログシンセサイザを続々と製品化し、リリースしています。昨年から今年にかけて、MiniMOOGを復刻させたMODEL D、RolandのVP-330を復刻版のVC340、さらにRolandのSH-101を復刻版のMS-101などをリリースして、世間を驚かせてきましたが、また11月から一気に数多くの機材を投入してきました。
具体的にはRolandのTR-808クローンのRYTHM DESIGNER RD-8(税抜実売価格:37,600円、12月発売予定)、KORGのMS-20クローンのK-2(37,600円、11月発売予定)、ArpのODYSSEYクローンのODYSSEY(50,150円、10月発売済)、SEQUENCIAL CIRCUITのPRO~ONEクローンのPRO-1(37,600円、12月発売予定)と非常識なまでの低価格。さらにBEHRINGERオリジナルの入門版的アナログシンセのCRAVEも11月発売予定で、税抜で18,850円と2万円を切る価格です。先日、DTMステーションPlus!の番組でも特集しましたが、その番組も振り返りつつ、実際どんな機材なので、DTM、音楽制作においてどう使うべきものなのかなど、紹介してみたいと思います。
BEHRINGERがアナログシンセを超低価格で多数の製品を発売する、という状況について、みなさんはどんな印象を持ちますか? BEHRINGERというメーカーについて、人によってイメージはさまざまだと思いますが、「安物メーカー」と捉えている人も少なくないと思いますし、「ミキサーとかのメーカーだよね」と捉えている人もいると思います。どちらも、間違ってはいないと思いますが、一昔前と比較してBEHRINGERの製品クオリティーは飛躍的に向上しており、チャチさというものはまったくありません。実際、DTMステーションPlus!の番組放送用にBEHRINGERの1202FX XENYXという12ch入力のミキサーも活用していますが、とても頑丈で使い勝手もよく、重宝しています。
一方で「なんでシンセサイザなの?」と不思議に思う方もいると思いますが、BEHRINGERの創始者であり、BEHRINGERの親会社であるMusic Tribeのトップ、Uli Behringer(ウリ・ベリンガー)さんは、学生時代にシンセサイザを自作したところから事業がスタートしており、ウリさん自身が、シンセサイザに非常に強い思い入れを持っているからとのこと。事実、VCOチップであるV3340M、VCFチップであるV3320MなどのアナログICを生産するCoolAudio社もMusic Tribeの傘下に収めていると同時に、イギリス、ドイツ、アメリカ、中国、そして日本とアナログシンセの研究開発への強力な体制を整えているからこそ、すごい製品が続々と登場してきているようです。
そうしたアナログシンセの研究開発体制、ノウハウの蓄積によって、BEHRINGERオリジナルのDeepmindシリーズを出したり、以前DTMステーションでも「このパワフルなサウンドはアナログシンセ特有!?DAWとも連携可能なBehringerのNEUTRONが37,000円!」という記事で取り上げたNEUTRONといったユニークなアナログシンセをリリースしていますが、キャッチーで分かりやすい例として、ビンテージシンセの復刻版をいろいろと出してきているんですね。ここではあえて、オリジナルやソフトシンセなどと比較した、似てる度具合についての評価は避けますが、それぞれ、よく再現していると思うし、一つのアナログシンセと捉えたときに、非常に完成度の高い楽器に仕上がっています。
具体的に紹介していくと、まずODYSSEYは1972年に発売され、シンセサイザの世界に絶大な影響を与えたARP Odysseyを復刻させたもの。デュアルVCO、3ウェイマルチモードVCF、リングモジュレーター、ADおよびADSRのダブルEGを搭載し、37鍵のフルキーボードという部分は、オリジナルを忠実に再現すると同時に、オリジナル機にはない機能も数多く搭載しています。
具体的にはディレイ、コーラス、フランジャー、EQ、トークボックス……。これにより、幅広いサウンドを作り出すことができます。このKlark Teknik FXおよびステップシーケンサはデジタルですが、ODYSSEYとしてのシンセサイザ部分は完全にアナログ。だから、シーケンサのパターンは保存できても、シンセサイザのパラメータなどは、保存はできない、一期一会の音色。その不便さがアナログシンセの面白さともいえるところです。簡単に再現できないからこそ、音作りに真剣に向き合えるし、その瞬間、瞬間を大切にした制作になるというもの。
もう一つオリジナルのArp Odysseyにないのが、MIDI端子とUSB端子。これがあるからこそ、PC上のDAWと簡単に連携させることができ、DTMにおける外部音源としても利用することが可能なのです。ただし、USBで接続しても、ここでやり取りできるのはノート信号のみ。各パラメータを動かした値を送ったり、これらをMIDIコントローラのようにやりとりすることはできないみたいです。
各パラメータに赤、青、黄色、緑…といったLEDが搭載されていて、その明るさをバックパネルのノブで調整できるのですが、実は、このLED、引っ張ると取り外すことが可能で、別のパラメータ用のものと入れ替えて色を変えることができてしまいました。メーカー側は「LEDの抜き差しは推奨しないし、保証対象外になります」と言っていましたが、オリジナルのArp Odysseyも色付きのキャップを交換できるようになっていたので、遊び心から、開発者がこっそりそんな裏ワザを仕込んでいたということじゃないですかね!? LED自体は汎用部品なので、秋葉原などで購入してくれば、全部青にするとか、全く別の色にする……なんてこともできそうです。
ちなみに、オリジナルのArp Odysseyはリリースされた時期によってRev.1、Rev.2、Rev.3とあり、フィルタの特性が異なることから音も若干違っています。これについては切替スイッチによって、どのリビジョンにするかを設定できるようになっています。また、オリジナル機にもあったオシレータシンク機能は忠実に再現できているようで、DTMステーションPlus!に出演してくれた、江夏正晃さんがデモしつつ、説明してくれたので、これを見るとわかりやすいと思います。
・KLARK TEKNIKのFXがついている
・ツマミのLEDがVCO、VCFなど色分けされている
・32ステップシーケンサー搭載
一方で、単純にシンセサイザと呼ぶと、ややニュアンスが違いそうではありますが、多くの方が期待しているのがRoland TR-808を再現するRD-8でしょう。
先ほどのODYSSEYのシーケンサとRD-8をMIDIで接続して同期させながら江夏さんがデモしてくれたので、これを見ると、その雰囲気が分かると思います。
いかがですか? とってもグッとくる感じですよね。キック、スネア、ハイハット、クラップ、タム……とそれぞれパラアウトすることもできるし、クロックの入出力なんかも用意されています。またMIDI端子やUSB端子も用意されているのはODYSSEYと同様。ただしRolandのAIRA TR-8などのように、オーディオの入出力ができるわけではなく、あくまでもMIDIのノート信号およびMIDI Clockを使った同期信号のやりとりだけというシンプルな構造です。
また見てみると、TR-808とはカラーの配色が逆だったり、ネーミングもRYTHM DESIGNER RD-8となっていたりと、違いがありますが、RD-8も単にTR-808クローンというわけではないようなのです。
たとえばそのキック、スネア、タム、カウベル…いずれもアナログの音源ですが、この出力波形をいじってカットオフする機能が用意されています。TR-808のオリジナルのサウンドは比較的柔らかい音ですが、RD-8に搭載されているウェーブシェイパー機能を用いることで、バシッとしたサウンドに仕立てあげることを可能にしています。具体的にはWAVE DESIGNERとANALOG FILTERで構成されており、TR-808では実現できかった、サウンドを実現することを可能にしています。これが37,600円で購入できるようになるというのですから、いい時代ですよね。
・PolyModeでVoiceごとにステップ数を変えられる
・Wave DesignerとAnalog Filter(HPF/LPF)
・レゾナンスを上げてカットオフ
・Analog FilterのCutoffをオートメーション化できる
・Songとして16,Patternとして16保存
(つまり合計256パターン保存できる)
さらにK-2はKORGのMS-20を再現したもの。これはデュアルVCO、リングモジュレーター、外部シグナルプロセッサー、16ボイスポリチェーンという構成で、キーボードなしのアナログ音源です。
そのため、これを演奏するには、やはりMIDIもしくはUSBでノート信号を入れるか、CV/GATEでアナログコントロール信号を入れる必要があるわけですが、番組ではODYSSEYからのMIDI信号をK-2のMIDI INに接続しています。やはり江夏さんが、少し音出しをしてくれているので、ご覧ください。
K-2最大の魅力はMS-20同様、パッチすることで、さまざまなシステム構成にすることができるという点。シンプルなシンセサイザながら、これによってかなり複雑な構成も可能になってきます。またMS-20も前期と後期で、少し音が違ったようですが、その違いもうまく切り替えることもできるようになっているとのことです。
サイズ的にはユーロラックにマウント可能なコンパクトなタイプでデスクトップにそのまま置くことも可能となっています。
ユーロラック対応
MIDI搭載(USB/5DIN)
最大16ポリチェーン
VCFが1世代目、2世代目選択可
鍵盤がない
そのK-2とほぼ同じ大きさ、形状で登場してきたのがPro-OneクローンのPRO-1です。本家Pro-Oneについてご存知ない方のために少しだけ紹介しておくと、これはビンテージアナログシンセの代表の1つ、Prophetー5を開発したSEQUENCIAL CIRCUITが、Prophet-5をモノフォニックかして1981年に出したシンセサイザ。以前「Prophet-5のモノ版ソフトシンセ、u-heのRepro-1がスゴすぎる!」という記事でも触れているので、参照してみてください。
このPRO-1、先日のDTMステーションPlus!の番組を放送した時点では、まだモノが入手できていなかったため、紹介できなかったのですが、以下にBEHRINGERによるビデオがあるので、ご覧ください。
このPRO-1も12月中には国内発売できるとのことですが、これも37,600円というのは、ちょっと信じられない思いですね。もともとオリジナルのPRO-ONEにはステップシーケンサおよびアルペジエーターを搭載していたのですが、このPRO-1にも同様の機能が搭載されています。
PRO-1含め、各機種のMIDI端子の横にMIDIチャンネルを指定するDIPスイッチが搭載されている
また、これまで紹介してきたシンセと同様、MIDIおよびUSB端子経由でMIDIノート信号を受けることができるために、DAWを動かすDTM環境に接続して使うことが可能なわけです。
・ユーロラック対応
・MIDI搭載(USB/5DIN)
・最大16ポリチェーン
・シーケンサーのノート数が多い
・鍵盤がない
ところで、こうやってBEHRINGERが続々と出してくるアナログシンセを見つつも、「ビンテージシンセを復刻したプラグインタイプのソフトシンセはいっぱいあるので、わざわざハードである必要はないのでは……」と思っている方も少なくないと思います。また「これまでアナログシンセは触ったことないけれど、特に必要性を感じたことがない」という人もいるでしょう。もちろん「ソフトシンセなら音色を記録することもできるし、パラメータを動かせばオートメーションとして記憶できるんで、いまさらアナログのハードシンセなんて無意味では?」と疑問に感じる方も多いと思います。
まあ、機能面においては、その通りであって、否定するものではありません。またソフトシンセなら場所も取らないし配線も不要で手軽なのは間違いないし、コントロールサーフェイスがあれば、アナログシンセ同様、複数のパラメータを同時に手で動かすことも可能です。
でも、ぜひ1度、このアナログシンセを触ってみてください。ソフトシンセが出す音と似た音かもしれませんが、実際使ってみると明らかに何かが違うんです。マウスやコントローラで音を作るのとは雰囲気が違うし、一期一会のサウンドに面白さを感じるところでもあって、とにかく面白いんですよ。
価格的に見ても、3~5万円という値段ですから、もはやプラグインと差はないですよね。プラグインを買う感覚で1つ導入してみると、なんで今の時代にアナログシンセに熱狂する人たちがいるのかを実感できるはずです。もっとも、音楽制作に取り入れるためにはアナログシンセの出力をオーディオインターフェイスに入れて、オーディオとしてトラックに取り込む必要あるのですが、そこも含めてこれまでのプラグインとは明らかに違う音作りができるはずです。
まあ「ビンテージ機材にとくに興味がないけど、アナログシンセはちょっと使ってみたい」というのであれば、11月発売予定の2万円以下で入手できるエントリー機材、CRAVEを導入してみるのもいいと思いますよ。こちらはVCO、VCF、VCA、EG、LFO一つずつというシンプルな構成ながら、かなり図太いベースサウンドから、キラキラ光るサウンドまで幅広く作ることができる強力なシンセサイザ。
シンセサイザは初めてという人でも、使うことでシンセサイザの音作りが分かってくると思うし、セミモジュラー式なので、何をどう接続すれば、どんな音になるのかも、遊んでいるうちに理解できると思います。そう、これらアナログシンセを触って慣れることで、これまで理解しにくかったソフトシンセでの音作りもスムーズにできるようになること間違いなしですからね。このCRAVEについても、番組内で取り上げているので、ぜひどんな音が出るのかをチェックしてみてください。
このCRAVE、この安さでありながら、32ステップシーケンサも搭載しているのがすごいところ。こんな機材が1万円台で購入できてしまうのですから、まずアナログシンセを経験するという上でも、役に立つ機材だと思いますし、そのまま音楽制作用途としても十分使える機材です。
【関連情報】
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