9月5日、ローランドが2019年秋の新製品として、数多くのシンセサイザなどを発表しました。具体的にはJUPITER-XおよびJUPITER-Xm、FANTOM-6/7/8、MC-707、MC-101、JU-06Aのそれぞれ。FANTOMに関してはFANTOMーG以来10年ぶり、GROOVEBOXシリーズもMC-808以来13年ぶりとなる新製品で、ローランドとしてもかなり気合の入った新製品投入のようです。
製品によって、即発売となるもの、来年春くらいになるものなど、いろいろあるようですが、今回の新製品発表に先駆けて、それぞれどんなものなのか、実機によるデモなど見ることができました。DTM観点で見ても、即買いたくなる製品、とても興味深い仕様の製品などいろいろ。じっくり触ったわけではないので、まずはファーストインプレッションとして、各機材について簡単にレポートしてみたいと思います。
ローランドが秋の新製品として数多くの機材を発表
いろいろあるので順番に紹介していきましょう。まずは、シンセサイザとして非常に面白い設計となっているJUPITERから。61鍵のフルキーボードタイプのJUPITER-X(25万円程度)とコンパクト鍵盤のJUPITER-Xm(15万円程度)という大きさの異なる2種類が発表されましたが、中身的には完全に同じとのこと。ただ、JUPITER-Xmは11月発売予定なのに対し、JUPITER-Xは来春発売とのことで、今回見ることができたのはXmのほうのみでした。
11月に発売が予定されているJUPITER-Xm
この新しいJUPITERの最大の特徴は、往年の名機であるJUPITER-8、JUNO-106、JX-8P、SH-101といったシンセサイザを再現するMODEL BANKが搭載されていること。ローランド自らが再現した音源であるため、まさにホンモノのサウンドが出せるわけです。実際ちょっとJUPITER-8のサウンドを鳴らしてもらったのがこちらです。
なかなかの再現具合ですよね。しかも、このシンセのシステムをなんと4パート持っているとのこと。つまりJUPITER-8の異なる音色を4つレイヤーして鳴らすこともできれば、JUPITER-8とJUNO-106を重ねて鳴らすこと、さらにはスプリットして左手にSH-101のシンセベースをアサインする……なんてことも可能になっているのです。
さらにビンテージのアナログシンセをモデリングするだけでなく、XV-5080やRDシリーズなど、デジタルシンセの名機も搭載されているので、まさに歴代のシンセ全部入りのシンセサイザといえそうです。でも、さらに驚きなのは、このモデリングした音源が今後増えていくということ。復刻してほしいシンセもいろいろあるので、楽しみなところです。
マイク入力も備えたJUPITER-Xmのリアパネル
さらに、このJUPITER-XおよびJUPITER-XmにはAIを使ったアルペジオ機能、I-ARPEGGIOなるものが搭載されているとのこと。押鍵間隔やボイシングなど、の演奏情報を解析し、アルペジオ機能と組み合わせたことで、プレイヤーの演奏に呼応して演奏が変化する即興の作曲ツールとして活躍する…とのことですが、言葉で言われてもイメージが付かないので、実際にちょっとI-ARPEGGIOを使ってもらったところを撮影してみました。
これは、とっても楽しそうですよね。このJUPITER-Xmが新開発のハイ・クォリティなコンパクト鍵盤であるのに対し、JUPITER-Xのほうも新開発のハイエンド・セミ・ウェイテッド鍵盤とのこと。いずれもスピーカーを内蔵しており、結構いい音質で鳴ってくれていました。
次に紹介するのは10年ぶりのFAMTOMとなるFANTOM-6/7/8。FANTOMはもちろん、Rolandの最高峰のミュージックワークステーションとして位置づけられるシンセサイザで、音楽制作にもライブパフォーマンスにも活用できるもの。3機種とも鍵盤以外すべて同等の機能、性能を持っており、FANTOM-6が61鍵盤、FANTOM-7が76鍵盤、FAMTOM-8が88鍵盤となっています。このうちFANTOM-6および7は新規開発のハイエンド・セミウェイテッド鍵盤を採用、FANTOM-8はハイブリッド構造のピアノタッチ鍵盤となっています。
FANTOM-6(上)とFANTOM-8(下)
音源部にはVirtual AnalogとPCMを兼ね備える「ZEN-Core」なるものを搭載しているのが大きなポイント。実は前述のJUPITER-X/XmにもZEN-Core音源が搭載されているのですが、これは1つのトーンが4つのパーシャルで構成されていて、その1つのパーシャルが1つのシンセサイザとなっています。この1つのパーシャルにおいてVirtual Analogのシンセサイザとして機能すると同時に、PCMの波形も鳴らすことが可能となっているのです。これら4つのパーシャルを同時に出力することができるのはもちろん、2つずつ組み合わせてシンクロさせたり、クロスモジュレーションをさせることができるなど、かなり複雑な音作りまでできるようになっています。
さらに各パーシャルには独立したEQが搭載されているほか、LFOも2系統装備。また、16のTONEパートの最終段、マスターの手前にアナログのフィルターが置かれています。これはステレオ1系統ではありますが、かなり強烈な音作りが可能になっています。
またちょっとマニアックなところでいうと、STEP LFOなるユニークなLFOも搭載されています。これは最大16ステップに対し35種類のカーブから設定できるというもの。実際そのLFOもビデオで撮ったのでご覧ください。
このZEN-Coreとは別にV-Pianoテクノロジー音源も搭載しています。アコースティックピアノをPCMではなく、物理モデリングによってリアルに再現することができるV-Pianoは、既存のピアノ音源だけでなく、現実には存在しえないアコースティックピアノのサウンドを表現できるなど、先進的なサウンドを出すことが可能になっています。
そんな音源部を持つFANTOMですが、このFANTOMの最大の特徴ともいえるのは、モードの概念がないということ。ワークステーションというと、機能はいろいろあるけれど、操作が複雑で……という印象がありますが、この新FANTOMでは、音色やパターン、シーケンスといったレイアウトはすべてSCENEと呼ばれるスペースで管理されているとのこと。このSCENEは16パートの楽器を持ち、外部コントロールの設定、パターンによる曲の管理もすべてSCINEで管理されるようになっています。そのため、曲の制作時や呼び出し時に、音色のアサインをきにすることなく、SCENEを呼び出すだけで完結。しかもSCENE間の切り替え時も音が途切れることがないそうです。
もちろん、FANTOMにはシーケンス機能も装備しているのですが、従来のワークステーションのシーケンス機能とはちょっと異なるものになっていました。誤解を恐れずに言うなら、Ableton Liveみたいなパターンベースのシーケンサ。ドラム、ベースライン、ピアノなどをループパターンとして録音し、クリップのように個別でトリガーさせることができるようになっているのです。こんな感じですね。
入力の方法としては、TR-808など昔ながらのTR-REC方式のパターンシーケンサ、ピアノロールによるステップREC、そして鍵盤の演奏をそのまま捉えるリアルタイムRECと3つがあるので、これらを組み合わせつつ、スケッチするような感覚でSONGを構築していくわけです。
そしてDTMステーション的に注目したいのは、FANTOMとPCとの連携機能です。MIDI、オーディオで連携させることができるのはもちろんなのですが、スマートコントロールというものに対応させたことで、PCとより有機的な連携を実現できるようになっています。具体的にはFANTOMのタッチスクリーンから直接PC側のソフトのパラメータを操作することが可能になり、PCの画面を確認することなく操作可能になっています。
またソフトシンセのサウンドをFANTOMの16ステレオin/3ステレオoutのオーディオインターフェイスを使用して、内蔵サウンドにレイヤーしたり、アナログフィルターにルーティングしてプレイする……といったことも可能になっています。FANTOMのタッチスクリーンからパラメーターをコントロールできるのは、現在MacのLogic Pro X、Garage Band、そしてMainStageの3つのみとなっていますが、ローランドによると、今後対応するDAWを増やしていきたい、とのことでした。
次に紹介するのはRoland Boutiqueの新製品、JU-06Aです。個人的には以前JUNO-106を復刻したJU-06が発売されてすぐに購入して使っているので、ちょっと悔しい気がしないでもないですが、そのJU-06の上位バージョン?というか新バージョンです。
新製品のJU-06A(上)と従来からあるJU-06
見た目のデザインもJU-06とはちょっと違いっていて、あれ?と思ったのですが、これは1982年にリリースされたアナログシンセ、JUNO-60をモチーフに復刻したシンセサイザ。これまでのBoutiqueシリーズと同様、当時のシンセのアナログ回路を忠実に再現するACB=Analog Circuit Behaviorで忠実に再現したものとなっています。そのサウンドをビデオで紹介しますね。
このビデオにもある通り、JUNO独特のあのコーラスもしっかり使えますね。でも「それならJUNO-60であって、JUNO-106は関係ないのでは?」と思う方もいいると思いますが、実はこのJU-06Aは、モード切替によって、JUNO-60にもJUNO-106にもなる仕様になっているのです。ちなみに、最大同時発音数は、私の持っているJU-06と同様、4音。その点では実機であるJUNO-106を超えるものではないのですが、見た目的にもサウンド的にも、ローランド本家が復刻してくれるというのは嬉しいところですよね。
JU-06AにはJUNO-60モードとJUNO-106モードの切り替えスイッチがある
最後に紹介するのはAIRAシリーズの新製品として登場するGROOVEBOX MC-707およびそのエントリー版であるMC-101です。
MC-303やMC-808など、大ヒット製品であるGROOVEBOXを継承するMC-707には8トラックのシーケンサが搭載されており、16個のPadを使ってドラムパートをリアルタイムに打ち込んだり、NOTE MODEに切り替えてベースやメロディをポリフォニックで入力ができるシステムとなっています。作成したクリップはノートデータの再生だけでなく、ノブやスライダーの動きも記憶して、再生可能となっています。
AIRAシリーズとして登場したGROOVEBOX MC-707
さらにMC-707には、リアルタイムサンプリングを可能にする強力なオーディオルーパー機能が搭載されています。これはリアルタイム・タイムストレッチにも対応しているので、BPMを変化させても、それに追従させることが可能で、外部と同期させた状態においても、有効となります。
FANTOMとも近い、パターンベースのシーケンサを搭載
さらにエレクトロニック・ミュージックに最適なエフェクトが数多く搭載されているのもMC-707の特徴で、パッドサウンドに広がりをつけるChorus、繊細なシーケンスに壮大な空間演出のためのDelay、さらには歪み系としてDistortion、Overdriver、Amp Simulator、またLPF/HPF、Bit Crusher、Compressor……。そしてAIRAシリーズの特徴でもあるSCATTERはMC-707のために新規開発してあり、MC-707ならではの効果が出せるようになっています。
SCATTERは今回新たに開発したものが搭載されている
そのMC-707をコンパクトなボディーに凝縮したのがMC-101。ここにはMC-707と同等のサウンドエンジン、シーケンサ、オーディオルーパー、エフェクトを装備しつつ、単3電池x4本で最大4.5時間の使用を可能としています。
MC-707と機能的な大きな違いはトラック数。MC-707が8トラックであるのに対し、MC-101は4トラック。4トラックで事足りるのであれば、コンパクトなMC-101を選択するのもよさそうです。
コンパクトなサイズのMC-101
MC-707もMC-101もAIRAシリーズであるためPCとUSB接続した場合、24bit/96kHzでの接続が可能となり、Master Outからの信号をPCに取り込めるだけでなく、各トラックからの音をパラで取り込むことが可能。反対にDAWからの音をMC-707やMC-101にサンプリングするといったことも可能です。さらに、MC-707やMC-101に外部MIDIキーボードコントローラを接続し、ここから細かくデータを入力していくことができたり、MIDIクロックを用いてAIRAシリーズと同期させるなど、外部機器との連携においては非常に柔軟性の高い設計となっています。
以上、ローランドの新製品について、ざっと紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?いろいろありすぎて、私自身、まだ理解しきれていない部分もいろいろあるのが実情です。また、製品を入手できたら、より突っ込んだ紹介もできればと思っているところです。
なお、9月6日に発売となるFANTOMについては、9月10日のニコニコ生放送、YouTube Liveで放送するDTMステーションPlus!でじっくりと紹介する予定です。実際どんな音で鳴るのか、その操作性や演奏性はどうなっているのか、そしてPCとの連携機能がどうなっているのかなどじっくりお見せするので、ご期待ください。
【関連情報】
JUPITER X製品情報
JUPITER Xm製品情報
FANTOM-6/7/8製品情報
JU-06A製品情報
GROOVEBOX MC-707製品情報
GROOVEBOX MC-101製品情報
【第136回 DTMステーションPlus!】
2019年9月10日(火) 20:30~22:30
ニコニコ生放送 https://live.nicovideo.jp/watch/lv321682427
YouTube Live https://www.youtube.com/watch?v=F8P1iGEDDG4