さまざまなモジュールを自由自在に組み合わせて音作りができるモジュラーシンセ。「面白そうだけど、難しそう」、「モジュールを増やしていくと莫大なお金がかかりそう」……と敬遠している人も少なくないと思います。そうした中、ソフトウェアでモジュラーシンセを実現するツールがいくつか登場してきています。その中で、プリセット音色が膨大にあって初心者でも簡単に使え、音楽制作に大いに活用できそうなのが、米Cherry Audioが開発したVoltage Modularです。
モジュラーシンセだけに、数多くのモジュールがライブラリとして用意されており、そのモジュールをセットにしたパックが何種類か販売されています。そのうち91個のモジュールをセットにしたVoltage Modular Core、それにエレクトリックドラム関連の15個のモジュールをセットにした「Voltage Modular Core + Electro Drums」というものが、日本のDTM系ソフトウェアのダウンロードサイトであるbeatcloudで通常22,000円で発売されています。7月31日までのキャンペーン期間中、ベーシックキットである「Voltage Modular Ignite」(3,200円で44モジュール)を買って、「Voltage Modular Ignite to Voltage Modular Core + Electro Drums アップグレード」(5,400円)でアップグレードすると、8,600円で同等のものが入手でき、1モジュールあたり81円という計算に。まずは、Voltage Modular Igniteから試してみるのでいいと思いますが、実際、どんなものか使ってみたので紹介してみましょう。
このVoltage Modularは、以前Sonic Foundryに在籍し、ACIDやSound Forgeを開発してきたエンジニアや、Cakewalkでビジネス全般を仕切ってきた元副社長、などが集まってできたCherry Audioというベンチャー企業が開発したソフト。そうした背景に関しては記事後半でインタビューをしているので、ぜひご覧いただきたいのですが、DTM用の音源としてみても、かなり使えるし、楽しいソフトなんです。
WindowsでもMacでも動作し、スタンドアロンでもVST3、VST2、AU、AAXのプラグインとしても使えます。つまり、自分のDAWですぐに使える音源が入手できるということなのですが、ほかのソフトウェア音源と大きく異なる点があります。それは、Voltage Modular自体はあくまでも枠組みであり、そこで使える音源の数はある意味無限大ともいえるものなのです。
そうモジュラーシンセは、各モジュール同士を接続して、自分オリジナルの音源を作っていくというシステム。そのモジュールが100個以上もあって、その組み合わせが自由自在にできるのです。これにより数多くの種類のシンセサイザを組み立てることが可能となり、その組み合わせ方により、まったく異なる種類の音源になるというのは面白いところです。
もちろんシンセサイザに慣れていない人だと、何をどう組み合わせればいいか、すぐにはわからないかもしれませんが、膨大なプリセットがあるので、そのプリセットの数だけ異なるシンセサイザを入手できるといっても過言ではないのです。もちろん、プリセットを読み込んだ上で、パラメータを動かしていけば、シンセサイザとして、さざまな音色に変化していきますよ。
では、どうやってそのシンセサイザを組み立てていけばいいのか。まずはちょっぴり試してみました。最低限のシンセサイザとするためにはオシレーター、フィルター、アンプ、エンベロープジェネレーターが必要となってきます。これらを接続すると、シンプルなモノフォニックのシンセサイザができるのですが、慣れていないと、「オシレーターとかフィルターとか、なんとなくわかるけど、どうすればいいか検討もつかない」という状況だと思います。
そこで、ここでは超インスタント・シンセサイザ講座を開いてみたいと思います。順番に組み立てていきますよ。
まず106あるモジュールの中から、その名もOSCILLATORを左のライブラリー一覧から、右側の空スペースへとドラッグします。すると自動的にユーロラックをマウントするキャビネットが現れ、そこにOSCILLATORがビス止めされた形で現れます。
これだけでは何も動きませんが、画面上のI/OパネルにあるCV OUTSのPITCHをクリックしてからドラッグして、OSCLATORのKEYB CVへ持ってくるとケーブルが接続されます。同様にしてOSCLATORの画面下にある5つの波形の内、真ん中の矩形波(パルス波)の出力をMAIN OUTPUTSの1Lへ接続します。すると、オーディオインターフェイスからは「ブー」という音が鳴り始めます。音が鳴りっぱなしで止まらないのが難点ですが、鍵盤を弾くとそれに合わせてピッチが変わることも確認できます。これがもっとも原始的な使い方ですね。
ドラッグ&ドロップでケーブルの配線を2か所行うと音が鳴りだす
ここで接続したCV OUTSというのは、ハードウェアのモジュラーシンセの場合、電圧信号を送る端子を意味しており、PITCHはその名の通り、音程を制御する電圧を送るもの。それをOSCILLATORに送ることで、音程が変化するわけですね。
次に音色を変化させるためのフィルターを追加します。やはりライブラリー一覧からFILTERというものを選んで、キャビネットに配置。ここで、先ほどMAIN OUTSに直接つないでいたケーブルを外して、FILTERのAUDIO INへと接続。そして画面下の左側の端子=ローパスフィルター出力をMAIN OUTSへと接続するのです。
やはり音は鳴りっぱなしのままですが、FILTERのCUTOFFとRESONANCEを調整すると音色が大きく変化することが分かります。
CUTOFF、RESONANCEを動かすと音色が変化する
続いてアンプ=AMPLIFIERをキャビネットに追加しましょう。この際、またMAIN OUTSにつないでいたローパスフィルターの出力をAMPLIFIERのINPUTにつなぎ替えるとともに、OUTPUTをMAIN OUTSに接続。さらにCV OUTSのGATE出力をAMPLIFIERのCV INに接続します。こうすると、やっとキーボードを押すと音が出て、離すと音が止まる形となり、楽器として機能するようになります。
GATEというのは鍵盤を押しているかどうかを判定する信号を出すもので、一般にゲート信号と呼んでいますが、これによって音のON/OFFができるようになったのです。とはいえ、これだとどうにも味気ないところ。そこで、今度はENVELOPE GENERATORというものをキャビネットに追加します。
さらに先ほどAMPLIFIERのCV INに接続したGATE信号をENVELOPE GENERATORのGATE INに接続しなおし、ENV OUTをAMPLIFIERのCV INに接続します。こうすることで、ENVELOPE GENERATORのADSR、つまりアタック、ディケイ、サステイン、リリースが効くようになります。
CV OUTSのGATEをEGのGATE INにつなぎ替え、ENV OUTをAMPのCV INに接続するとシンプルなシンセサイザが完成
シンプルではあるけれど、これでもう立派なシンセサイザ、かなり太い音を出すことができますよ。またパラメータを変えることで、シンセベースを作ったり、ブラスサウンドを作ったり、ストリングスサウンドを作ったり……と自由自在。まさに楽器を1つ作ったことになるわけです。
たった4つのモジュールだけで、これだけ楽しめるのに106ものモジュールがあるのですから、楽器作り、サウンドづくりの可能性は無限大。モジュールとしてはLFOやサンプル&ホールドといったシンセの基本となるものはもちろん、ドラム用オシレーターやサンプラー、またディレイやフェイザーなどのエフェクト、シーケンサやアルペジエーター…など、本当にさまざま。
またUniversal Audioのapollo twinや、先日紹介したNative InstrumentsのKOMPLETE AUDIO 6 MK2などDCカップリングに対応したオーディオインターフェイスがあれば、Voltage Modularを、ハードウェアのシンセサイザにCV/GATEで接続するということまで可能なのです。
7月31日までのbeatcloudでのキャンペーン期間中に入手してみてはいかがでしょうか?
Cherry Audio副社長インタビュー
このVoltage Modularを開発したCherry Audioの副社長、Anthony Conte(アンソニー・コンテ)さんにメールでインタビュしてみました。
--Voltage Modularを開発しようとしたキッカケを教えてください。
アンソニー:Voltage ModularのベースはCherry AudioのCTO、Dan Goldstein(ダン・ゴールドスタイン)が考えたものです。ダンは2004年にVoltage Modularのプロトタイプを作成し、それ以来、このプロジェクトについて進めてきました。彼はモジュラー合成のために情熱を注いできており、彼自身、モジュラーシンセや各種ハードウェアシンセなどを持つコレクターで、Moog,、Oberheim,、ARP、Rol、KORG、YAMAHASequential Circuit……など、数多くのビンテージ機材をそろえています。
またダンは、以前はSonic FoundryやAcousticaに在籍。ここで数多くの音楽ソフトウェア製品の開発に数十年にわたって携わってきました。具体的にはACID、Sound Forge、Vegas、さらにはMixcraftなど著名なソフトの開発を行ってきたのです。そのダンがVoltage Modularのアイディアを思いついたのは、ある意味、自然というか、当然の流れでもあったのです。
ーーSoftube Modularなど、いくつか競合があると思いますが、Voltage Modularの強みはどんな点ですか?
アンソニー:Cherry Audioは、インテリジェントなユーザーインターフェイスを構築する専門集団でもあるのです。そのためVoltage Modularは、とても簡単で分かりやすいモジュラーシンセサイザに仕上がっています。モジュールを再配置してコピーすることもとても簡単にできますし、キャビネット全体をシングルクリックでコピーすることもでき、すべてのジャックには、同時に6つまでのケーブルを差し込むことができるようになっていてます。ライブラリ内のモジュールの検索は非常に簡単で、すべてのモジュールは、カテゴリごとに分類されているのも特徴です。
Voltage Modular自体は、スタンドアロンで実行することができるほか、VST、VST3、AU、およびAAXのプラグイン形式でも提供されているので、DAW環境に統合することができます。そのうえ、Voltage Modularは非常に軽く、CPUの負荷も少なく動作させることが可能なのです。
Voltage Modularの最大の強みはVoltage Module Designerを使うことで、オリジナルのモジュールを作ることができることでしょう。開発自体も非常にわかりやすく簡単に行うことができ、しかも出来上がったモジュールは自動的にクロスプラットフォームになるのです。つまりWindowsでもMacでも利用することが可能となっているのです。
ーー元Cakewalkの社長が作った会社だと聞きました。どんな人たちが集まってできた会社なのでしょうか?
アンソニー:Cherry Audioの前に、私は19年間Cakewalkにいました。そのうち12年以上にわたって営業担当の副社長として勤めてきました。またCakewalkをローランド株式会社に売却をする際、私が当時のローランドの社長であった梯郁太郎さんとの交渉役を務めました。梯さんは、私がとても尊敬する人物であり、音楽業界・楽器業界の中でどのようにビジネスをしていけばいいのか、仕事をし、生活をしていけばいいのか、数多くのことを教えてくれました。Cakewalk社の後、私はAcousticaの副社長を経て、現在Cherry Audioの副社長です。
Cherry AudioにはSonic Foundry、Cakewalk、BIAS、Acousticaなどの音楽ソフトウェアメーカー、さらにはKeyboard Magazineなどからベテランのメンバーが集まった新しいタイプの会社です。そしてVoltage Modularは、オーディオおよびDSPソフトウェアを開発できる有能なエンジニアが集まって構築されています。
ーー今後Voltage Modularはまだ進化していくのでしょうか?どのように進化するのか、方向性だけでも教えていただけますか?
アンソニー:いまVoltage Modularのモジュールを開発したいという、新しいサードパーティーがどんどん増えてきています。それに加え、もちろんCherry Audio自身でも革新的な新しいモジュールを次々と生み出しています。たとえば非常にパワフルなOctagon Sequencer、また新しいHex Phaser、またいま非常に人気のあるMS Vintage Bundleなどです。またPSP AudiowareやVultなど、著名な会社もVoltage Modular用に驚くほど強力なフィルタ、エフェクト、およびプロセッサを構築してきました。こうしたことによりVoltage Modularのエコシステムが成長し続けるとで、多くの革新的でエキサイティングな新しいモジュールを次々と出すことができると考えています。そして現在も新しいモジュールの数十があります。
このVoltage Module Designerは、ダウンロードすればすぐに使えるようになっており、個人的な利用であれば、誰でも無料で使うことが可能なんです。
ーー最後に、日本のユーザーのみなさんへ、一言お願いします
アンソニー:Cherry Audioの本部はアメリカのカリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園の麓にあります。社員はソフトウェアのプログラマー、ミュージシャン、プロデューサー、学校の先生など、さまざまなジャンルの人たちが集まっています。でも従業員のみんながここに出勤するわけではなく、カリフォルニア州、ネバダ州、ウィスコンシン州、ミシガン州とマサチューセッツ州など、米国全土にわたって散らばっているのも面白いところです。でも社員みんなが密なコミュニケーションをとっても、お互い仲良くやってますね。
私たちは、お客さまと直接コミュニケーションできる小さな会社であることを誇りに思っています。製品を作る開発者やCherry Audioのビジネスを実行幹部ある従業員は、顧客がトレードショーで会う同じ従業員が、顧客サービスおよび技術サポートにに話し、そしてソーシャルメディアフォーラムで。これは、Cherry Audioの大きな強みです。
【関連情報】
Voltage Modular Core + Electro Drums製品情報
【価格チェック&購入】
◎beatcloud ⇒ Voltage Modular Ignite
◎beatcloud ⇒ Voltage Modular Ignite to Voltage Modular Core + Electro Drums アップグレード