ヨーロッパのレコーディング機材メーカー、Antelope Audio(アンテロープ・オーディオ)が、先日、AMÁRI(アマリ)という、超高性能なUSB3.1(Gen.1)対応のオーディオインターフェイスを発売しました。正確にはUSBオーディオインターフェイスでありつつ、S/PDIFコアキシャル、S/PDIFオプティカル(TOSLINK)、AES/EBU、アナログの相互変換が可能なA/Dであり、D/AでありD/D。実売価格が36万円程度というこのAMÁRIはマスタリング用途に特化した高精細・高音質な機材であると同時に、ハイエンドなオーディオファンにも向けた製品となっています。
最大で24bit/384kHzに対応するとともにDSD 256(11.2MHz)に対応するAMÁRIには、世界トップクラスのクロックジェネレーターメーカーとして知られるAntelopeのクロック技術が採用されるとともに、8DACアーキテクチャというユニークな技術も取り入れられています。今回、そのAMÁRIを試してみましたが、高性能・高音質というだけでなく、ヘッドホン端子のインピーダンスを自由に調整できるとか、ヘッドホン出力をバランスとアンバランスの切り替えができるなど、ハイエンドなヘッドホン環境を目指す人にとっても魅力的なシステム。どんな機材なのか、紹介してみましょう。
Antelope Audioは高性能な業務用クロックジェネレーターのメーカーとして広く知られ、世界中のレコーディングスタジオやマスタリングスタジオで採用されている一方、最近はFPGA搭載のオーディオインターフェイスのメーカーとしても注目を集めています。
これまでもDTMステーションで、Discrete 4やDiscrete 8、Orion StudioやZen Tourなど、高性能でユニークな特徴を持つFPGA搭載のオーディオインターフェイスを紹介してきましたが、今回のAMÁRIはそれらとはだいぶ趣向の異なる製品です。
USB接続した際、PCからは2IN/2OUTのデバイスとして見えるシンプルな機材で、FPGAによるエフェクトなどもありません。しかし、これでもか、というほど、音にこだわった機材になっているのです。順に見ていきましょう。
オレンジ色のフロントパネルのAMÁRIは2Uの高さを持つボディーで、中央に大きな液晶ディスプレイが搭載されています。実は、これ、タッチディスプレイとなっていて、ここでさまざまな設定ができるようになっています。
フロント左に2つ並んでいるコンボジャックを見て、入力ジャックかなと思ったら、これは2つ独立して調整が可能なヘッドホン出力となっています。
デフォルトではアンバランスなので、普通のヘッドホンが接続できるわけですが、HP1のほうの設定でバランスにすると、2つの端子を両方使い、バランス型のヘッドホンを接続できるようになるという仕様です。
また、ヘッドホンはモノによってインピーダンスが異なります。そのインピーダンスによって出力できるパワー・特性が変わってきます。一番いい音でヘッドホンを鳴らすためにはヘッドホン出力のインピーダンスと同じになるのがいいので、その調整(インピーダンスマッチング)ができればいいわけですが、そんなことができる機材はほとんどありません。しかし、このAMÁRIは液晶ディスプレイで操作することで、-4.6 〜 85.3Ωの範囲で調整ができるんです。どこに設定するかはヘッドホンによって異なるわけですが、どこが最適かは、ヘッドホンのスペックを見て調べておくのが良さそうです。もちろん、実際に音を聴きながらチェックしてみるのも面白いところです。
このインピーダンスマッチングやバランス・アンバランスの切り替えはPC側のコントロールソフト側からも調整可能。このコントロールソフト、機能的にはシンプルですが、大きなレベルメーターも搭載されていて、カッコイイんですよね。
リアを見てみると、2IN/2OUTのオーディオインターフェイスなのに、ずいぶん多くの端子が用意されています。ここがAMÁRIをAD/DAと呼ぶ理由でもあるわけですが、右側から順に見ていくと、一番右がアナログのTRS出力で、その左がアナログのXLR出力。モニタースピーカーにはこのいずれかを接続します。
その左にある2つのコンボジャックが、アナログ入力です。AMÁRIはマスタリング用の出力を主眼とした機材ではあるものの、この入力にもかなり力を入れているので、外部のアナログ機材からのレコーディングには大きな威力を発揮してくれそうです。ただし、マイクプリアンプは搭載していないのでマイクと直接接続することはできず、もちろんファンタム電源も備えていません。あくまでもラインレベルの信号を接続のためのものになっているわけです。
そのもう一つ左の上下に並ぶLRという金色のRCA端子も同じくアナログ入力ですが、これはフロントの液晶ディスプレイで操作し、どちらを使うか切り替える形です。
さらに、その下に2つ並ぶ金色の端子はS/PDIFのコアキシャルの入出力。最高で192kHzまでに対応。その下のオプティカル(TOSLINK)の入出力端子もS/PDIFで、こちらは最高96kHzまで対応となっています。その両脇にあるのがAES/EBU。業務用機器とのデジタル接続であれば、これを使うわけですね。
それぞれ、どの端子に入ってきた信号を、どの端子に出力するかは、液晶パネルの操作もしくは、コントロールソフトの操作で自由自在に変更することができます。前述の通り、USBオーディオインターフェイスとして捉えれば2IN/2OUTではありますが、たとえばUSBからアナログのメイン出力へ信号を送りつつ、S/PDIFのコアキシャルに入ってきた信号は、ヘッドホン1へ、AES/EBUに入ってきた信号はヘッドホン2へ……という具合に設定次第で、同時にさまざまなルーティングができるようにもなっているのです。
そして1番左にある2つのBNC端子は、AMÁRIというマスタリンググレード機材だからこその部分。上は通常のワードクロック入力なのに対し、下は10M Atomic Clock Inputとあります。そう、こちらはルビジウムの10MHzの高精度クロックを入力する端子。音に極めるなら、ここにルビジウムを繋げ、ということですね。
ではAMÁRIの内蔵クロックはどうなっているのか…。実は、ここにはOven (Thermal-controlled oscillator)というものが搭載されています。温度変化によりクロック精度が変化するのを防ぐために恒温槽を用意して安定動作するようになっているんですね。Oven=オーブンで一定温度に熱しているわけです。
そして、このクロックをベースにAntelopeの第4世代、64-bit AFC(Acoustically Focused Clocking)ジッター管理テクノロジーで音を制御しているのです。つまり、超高性能なワードクロックジェネレーターを内包しているのがAMÁRIというという機材なのです。もちろん必要に応じて、クロックをUSB、ワードクロック、AES/EBU、S/PDIF、TOSLINKなどに切り替えることも可能ではあります。
さて、ここからちょっと難しい話になりますが、AMÁRIの最大の特徴ともいえる、8 DACアーキテクチャ構造というものについて紹介してみましょう。一般的にオーディオインターフェイスやUSB-DACなどと呼ばれる機材には、デジタル信号をアナログ信号に変換するための電子部品として、DACチップなるICを搭載しています。そして通常は、1つのICでステレオ2chを処理するようになっており、ほとんどのオーディオインターフェイスが、その構造です。
中にはデュアルDAC構造といって、LとRそれぞれに同じDACチップを搭載し、高音質を実現する高級機があるのですが、このAMÁRIでは、なんとステレオ2ch出力のために8つのDACチップを採用するというユニークなシステムとなっているのです。どのような接続になっているのかは公開されていないのでよくわかりませんが、これにより、音像のステレオイメージが向上し、奥行き感が広がり、ダイナミックレンジが138dBを達成しているのだとか……。ぜひ、この音のすごさは実際に聴いて体験してみてください。
このようにAMÁRIは、最高な音でモニタリングをするために作られたマスタリング用の機材。最大で24bit/384kHzのPCMサウンドを入出力できるとともに、DSD=1ビットオーディオにおいても最大で11.2MHzの出力(入力はDSD非対応)ができるので、ハイレゾサウンドの制作用としてみても、最高の環境を構築できる機材なのです。
値段が値段だけに、簡単にポンと購入できるものではありませんが、Rock oNなどに展示されており、試聴も可能なので、チェックしてみてはいかがでしょうか?
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