マスタリングソフトのOzoneや、音のクリーニングツールのRX、またトラックをカッコよく仕立て上げるNeutronなど、ユニークなソフトを数多く開発している米iZotope。そのiZotopeが昨年、Spire Studioというコンパクトなレコーディング機材を発売し、世界的なヒット商品になっています。その内容については以前「Wi-Fi接続のオーディオインターフェイス!? iZotopeが発売するまったく新しいレコーディングシステム、SPIREが秀逸」で紹介したことがありましたが、コンパクトながらまさに高性能なDAWともいえる機材なんです。
でもDAWの知識がない人、PCが苦手な人でもボタン一つで高品位なレコーディングができ、iPhone/iPad、AndroidとWi-Fi接続し、一体化して使えるのも特徴。マイクプリアンプにはGRACE Design製のものが採用されているなど、5万円以下という価格からは信じられないほどの性能も備わっており、ファームウェアアップデートによる新機能搭載も進んでいます。先日そのiZotopeのChif Product Officer(最高製品責任者)であるGerry Caron(ジェリー・キャロン)さんとSpireのプロダクト・マネジャーのGreg Haungs(グレッグ・ハングス)さんとが来日したので、いろいろとお話を伺ってみました。
iZotopeのSpireはiPhoneやAndroidとWi-Fi接続して使う新世代のレコーディングシステム
--iZotopeはOzoneやRX、Neutronをはじめとするソフトウェアを開発する会社だと、みんな認識していると思いますが、そのソフトウェアメーカーが、なぜ突然ハードウェアを開発するに至ったのですか?
グレッグ:われわれとしては、あまりソフトウェアだ、ハードウェアだという区分けをしておらず、自然な流れではあったんですよ。Spireを開発するキッカケになったのは、iZotopeのCEOであるMark Ethierの発案でした。彼が楽曲のいいアイディアを思い付いた際、いざレコーディングを始めようと思ったら、ケーブルの用意やマイクの用意、PCの立ち上げ、オーディオインターフェイスの準備……とやることが多すぎて、準備が整ったときには思い付いたアイディアを忘れてしまった、と。これはダメなので、もっと簡単な手段を用意しなくては、と考えたのがスタートでした。その後、レコーディングを開始するまでの煩わしさを改善するためにどうしたらいいか考え、近年のテクノロジーを最大限に活かしたものを音楽に当てはめていこうと、みんなでアイディアを出していったんです。たとえば、あらゆる製品がモバイルでスタイリッシュになっていて、ケーブルの要らないワイヤレスになっていたりするので、ワイヤレスで使える製品にしようとか、スマートフォンと連携できるようにしようとか……。
Chif Product OfficerのGerry Caronさん(左)とSpireのプロダクト・マネジャーのGreg Haungsさん(右)
--そうはいってもソフトウェアの会社がいきなりハードウェアを作るのは、かなりハードルが高いようにも感じるのですが……
ジェリー:社内にはハードウェアを開発した経験のあるエンジニアもいるし、私自身も以前はハードウェアメーカーにいたんですよ。ボストン近郊にはハードウェアメーカーも多く、MITの修士課程を終了後、BOSEで6年間マーケティングやセールスに携わり、ルンバのiRobotでも副社長を務めるなどしてきたので、ハードウェア開発に難しさは感じたことはないですね。実際、Spireの肝となるのは中のファームウェアであり、生産自体は外部の工場に委託するので、社内での開発の主要部分はソフトウェアなんですよ。もっともアナログ要素も必要となるマイクやマイクプリアンプなどは簡単に自社開発ということはできないので、GRACE designとパートナーシップを結んだ上で共同開発をしているのです。
Spire Studioには高性能なコンデンサマイクを内蔵するとともに、GRACE Designのマイクプリを搭載
--実際、アイディアを思いついてから、Spireという形になるまでどのぐらいかかったのですか?
ジェリー:やはり初めて手掛ける製品だったこともあり、2、3年はかかりました。レコーディングエンジニアでない人が、どうすれば簡単に高品位なサウンドでレコーディングができるのか、ミュージシャンがどうしたら気持ちよく音楽制作をしていけるのか、リサーチをしながら開発をしていったので……。その中でもも特に時間がかかったものは、録音時のノイズです。ワイヤレス機材なので、電波を用いてレコーディングしたデータを送るなど、スマホと接続して送受信を行うのですが、その電波によってノイズが発生することがあります。これを無くすにはどうすればいいのか、内部構造にも、かなり気を使って開発を行いました。
--レコーディング機材って、四角い形状が多い中、Spire Studioはすごくユニークなデザインです。こんな形にしようというのは、結構早い段階できまっていたのですか?
グレッグ:そうですね。割りと早い段階からSpireの形状は考えていました。感覚的な話になってしまうのですが、円形だとタッチ操作でボリュームを上げるときに自然な感覚で行えるんです。ビジュアル的にも、メカニックな見た目ではなく、なるべく自然で違和感なく、テクノロジーに強くない方でも違和感を感じさせないものを目指しました。
--SpireはDAWとも違うし、いわゆるポータブルリニアPCMレコーダーでもありません。強いて言えば昔のカセットMTRに近いのだと思うけれども、見た目も機能もまったく新しいものです。やはり初の製品は、なかなかユーザーに伝わらないかなとも思うのですが、アメリカ国内での最初の反応はどうだったんですか?
グレッグ:まずは、展示会で実際に試してもらうところからスタートしたのですが、そのときユーザーからは「使ってみたらすごく簡単に操作できた」という、リアクションがあったりしました。実際にアプリの方のデザインにもすごく気を使っていまして、たとえば、iZotopeが得意とするビジュアルフィードバックを多用したUIにしています。これによって、何をすれば何が起こるのか簡単に分かるようになっていたり、特許を取ったサウンドチェックという機能も搭載しています。サウンドチェック機能は、初心者の方でも適正な音量で録音を開始することができる機能で、レコーディングのハードルを大きく下げることが可能です。また、通常のレコーディングで必要なことの多くを自動で行ってくれるので、ユーザーが気にしなくても、ちゃんとレコーディングができるようになっているんです。たとえば、DAWでレコーディングするときには、新規トラックを作って、レコーディングボタンを押して、再生して止めたら、またトラックを作って…と複雑です。でもSpireなら、真ん中のRECボタンを押すだけで、すべて一括で行ってくれる、といった具合です。
Soundcheckボタンを押すだけで、簡単に最適なレコーディング音量に設定してくれる
--iZotope製品のOzoneやNeutronでもAI機能により自動化されていますが、それこそソフトウェアカンパニーとして開発してきた技術がここに集合しているということなんですね。
グレッグ:そうですね。iZotopeの開発の哲学に「人がクリエイティブになるために障壁となる技術を取り払って、クリエイティブな部分にフォーカスする」というものがあります。これはソフトでもハードでも、開発の根本となっているので、たしかにそういったバックグラウンドは共通していますね。この話に関連していうと、最近のファームウェアアップデートで新規に搭載されたエンハンスという機能があります。これはOzoneやNeutronのAssitant機能を移植したものなんです。エンハンスをオンにすると楽曲を自動で分析して、楽曲の音質的なクオリティを上げてくれるというわけなんですよ。
--音質的なクオリティというと具体的にどういうことなのでしょうか?
グレッグ:このエンハンスは基本的にはマスタリングに使用するためのもので、Ozoneで使われているマキシマイザーの技術を搭載しているのと、NeutronにあるダイナミックEQを搭載していて音質を改善してくれます。このエンハンスをマスタリングと呼ばない理由がありまして、それは今後もマスタリング作業以外を含めた楽曲をよくすることは何でもできるようにしていこうと思っているからです。たとえば、RXのノイズリダクションをエンハンス機能の中で行ってくれるなど、将来的に搭載する機能を想定して、エンハンスと呼んでいます。
エンハンスすることによって、音色をよりクリアに、音圧をよりダイナミックに仕立て上げることができる
--今後もこういった機能のアップデートはしていくのですか?
ジェリー:もちろん、今後も開発には力を入れていきます。今の世代の若い方々がレコーディングするときに、ワイヤレスやインターネットの新しい技術を使って、簡単に楽曲制作を行える新世代型のレコーダーを目指していきます。とはいえ、若い世代の方だけでなく、プロの方でも使ってもらえるような機材になれるよう開発し続けていきます。
ファームウェアをアップデートすることで、機能向上を図っていくことができる
--先ほどのアメリカ国内での反応についてお伺いしましたが、ネットで初めて見たという人も多かったと思います。アメリカ国内での売れ行きはどうですか?
ジェリー:幅広くビギナーからプロまで反応はありましたね。ビギナーには記事で見つけてもらえてたり、プロたちからは「小さいのに、こんなにできるのか!」などの声をいただいてます。The Who(ザ・フー)のPete Townshend(ピート・タウンゼント)には「こんな簡単にレコーディングできるのか!」と、すごく気に入ってもらえたり、Chris Shaw(クリス・ショー)という著名なエンジニアでプロデューサーからも「簡単にレコーディングできるし、音がいい!」という声をいただくとともに「Spireは音の録音のジェットパックだ!」なんて発言もありました。ジェットパックというのは背中に背負って空を飛ぶ装置のこと。飛行機に乗るのと違って、手続きをしなくていいし、待つことのない、自分だけでバッと飛べるという感覚だというわけですね。その他多くのプロのエンジニアからもSpireで録ったデータをファイナルで使ってもいい、といった評価をいただいています。
リアにはコンボジャックが2つ搭載され、マイク、ライン、ギターなどの入力も可能
--実際の使い方としては、プリプロで使うものなのか、ちゃんとしたレコーディングで使うものなのか…、みんなどういう扱いでSpireを使っているのでしょうか?
グレッグ:基本的にはプリプロで使って、思いついたアイディアをパッと録音して、忘れないようにする使い方になると思います。その後、何トラックか重ねたものをバンドメンバーに送るなど、デモ作成用にはこれで完結できますね。もちろんSpireで作った続きをDAW上で仕上げていててもいいですし、スタジオで音を差し替えるのもありだと思います。中にはSpireで録ったボーカルを差し替えようと、スタジオで録ったけれど、Spireのほうがよかったので、そちらを採用した、なんてケースも出てるようですよ。
--ちなみに、Spireはパラでデータを書き出すことは可能なんですか?
グレッグ:もちろん可能です。上級者向けの機能として、それぞれのトラックをWAVファイルで書き出して、どこにでも送れる機能がついています。たとえば、DropboxやGoogleDriveなどにUPして、相手に送ってもらえれば、録ったテイクを有効活用できますね。もちろんProToolsなどのDAWに持ってきて、必要に応じて素材を差し替えたり、そのままSpireで録音した素材を使ってもいいと思います。DAWを使っているユーザーは、とりあえず録るという作業についてはSpireで行って、最後ミックス作業はDAWにデータ持っていくという使い方がいいかもしれませんね。
--最後に日本のユーザーに向けて、コメントをお願いします。
ジェリー:Spire StudioはiZotopeのテクノロジーをフルに投入した新世代のレコーディング機材です。とにかく簡単に使えるのが特徴であり、クリエイティブな瞬間を逃すこともありません。いいアイディアを思いついたら、マルチトラックで細かいところまで録ることもできます。iZotopeにとって日本のマーケットについては、非常に大切であり、だからこそいち早く日本語対応も実現させています。今後も日本のユーザーのニーズや必要なことなど学んでいきながら、アップデートを続けていきたいなと思います。
--ありがとうございました。
iZotope Spire キャンペーン情報
「令和」改元記念!iZotope Spire 5000円オフキャンペーンが2019年5月24日~2019年6月7日の期間で実施されています。これはSpire Studio、Spire Road Warrior Bundleどちらも約5000円オフとなるもので、市場想定価格は以下の通りとなっています
■Spire Studio
市場キャンペーン価格:39,990円(税抜) 通常45,000円(税抜)
■Spire Road Warrior Bundle
市場キャンペーン価格:54,990円(税抜) 通常59,900円(税抜)
【価格チェック】
◎Rock oN ⇒ Spire Studio
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◎サウンドハウス ⇒ Spire Studio
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【アプリダウンロード】
◎iOS ⇒ Spire Music Recorder
◎Android ⇒ Spire Music Recorder