声優の小岩井ことりさん、ついに念願かなってVOCALOIDに!ダブルボイスの鳴花ヒメ、ミコト、3月30日発売

作詞、作曲、編曲、レコーディングと何でもこなし、MIDI検定1級の保持者でもある、ハイパーDTMerの声優・小岩井ことりさん。以前から「ボカロになりたい!」って、VOCALOID関係者に合うたびに話していましたが、ついに彼女の念願がかない、小岩井ことりさんをCVとして起用したVOCALOID 5対応製品、「VOCALOID 鳴花(めいか)ヒメ、ミコト」が3月30日にガイノイドから発売されることになりました。さらに、AITalkのエンジンを使った言葉を喋らせるソフト、「ガイノイドTalk 鳴花ヒメ、ミコト」も同時発売となります。

カワイイ声のヒメと、ちょっと低いトーンのミコトのダブル女性ボイスは、ともに小岩井ことりさんによる声をベースにしたもの。VOCALOIDの公式デモソングのうちの1曲は、前代未聞の中の人による作品。つまり小岩井さん自身が作詞・作曲・編曲した、気合の入った楽曲なんですよね。どういう経緯で、小岩井さんがVOCALOIDになれたのか、実際の収録はどうだったのかなど、お話を伺ってみました。


ついに小岩井ことりさんがボカロに!プロデューサのM氏とともに収録スタジオでインタビューに答えてくれました

鳴花ヒメ、ミコトをリリースするガイノイドは、ボーカロイドを中心とした次世代アーティストの発掘育成を行うレーベルとのことで、これまでにロックに特化したキレのあるパワフルな女性ボイスの「v4 flower」、中国語と日本語で歌うことができる台湾発のVOCALOID「心華(シンファ)」を企画・開発してきました。そのガイノイドの第3弾製品としてリリースされるのが鳴花ヒメ、ミコトというわけなのです。


鳴花ヒメ(左)と鳴花ミコト(右)

まずはその小岩井さん自身による鳴花ヒメ、ミコトのデモ曲を聴いてみてください。

いかがですか?小岩井さんの世界観がすごく出た作品だなと思います。今回、小岩井ことりさん、そして鳴花ヒメ、ミコトの企画からレコーディング、そしてVOCALOIDの編集も手掛けたプロデューサーでエンジニアのM氏にも話を伺ってみました。

--小岩井さん、だいぶ以前から「ボカロになりたい!」って言ってましたが、ようやく実現したわけですね!おめでとうございます。でも、いつごろからボカロになりたいと?
小岩井:まだ声優としてデビューする以前からです。ニコニコ動画が流行りだしたころに、初音ミクの歌を聴いて、感銘を受けたんですよ。同人音楽を聴くのが大好きでした。その当時、打ち込みも今ほど音源が充実していなかったから、打ち込みだな…ってわかるものが多かったように思います。だからこそ、生演奏とは違う無機質さがいい面もあった。そこに登場したVOCALOIDは、歌詞を純粋に歌うわけで、感情によって歌が変わってしまうことはない。まさに偶像、アイドルの究極系だな、って思ったんですよ。声がライブラリとして残ることに興味を持って、いつかボカロになれたらいいなぁ…って思うようになりました。

ーーそういえば、小岩井さん、VOCALOIDの一般公募に参加したことがあったとか……。
小岩井:どこからそんな話を(笑)。そうですね、だいぶ以前ですがVOCALOIDの中の人公募というのがあり、ニコニコ動画にアカペラで声を入れて応募する形になっていたんです。そのときの動画はもう消えてしまいましたけどね。でも、それ以降もずっとやりたいと思っていて、機会があれば、いろいろな人に言ってきた結果、ようやく実現することができました!


ガイノイドの社内スタジオでVOCALOID版の収録が行われた

ーー改めて、この鳴花ヒメ、ミコトというのはどんな経緯で生まれたもので、どうして小岩井さんを起用することになったのですか?
M:僕自身は、これまでいくつかのVOCALOIDの制作を経験してきたのですが、ガイノイドに参加したのは2年ほど前からです。ウチの偉い人から「梅をモチーフにしたVOCALOIDを作りたい」という話が2017年末ごろに飛び出してきたのですが、そこで真っ先に思い浮かんだのが小岩井ことりさんでした。以前、ガイノイドとは全く関係ない仕事で、小岩井さんにお会いしたとき「ボーカロイドになりたいんです!」って話していたのがすごく印象に残っていて……。また、小岩井さんはDTMが趣味というのも聞いていたので、すごく親和性が高いな、と。話している印象でも「VOCALOID向きの声だ」と思っていました。だから、いつか機会があれば、小岩井さんのVOCALOIDを作りたいな、ってずっと思っていたんですよ。それで、すぐに事務所に声を掛けさせてもらいました。
VOCALOID版の「鳴花ヒメ、ミコト」のパッケージ

--小岩井さんは、その話を初めて聞いたとき、どうでしたか?
小岩井:ちょうど1年ほど前に第一報を事務所から聞いて、「ヤッター!本当に!?」とウキウキでしたよ(笑)。もっともその時点では、どんなキャラクタなのか、まったく分かってませんでした。ただ、自分の周りにもボカロ好きな人はすごく多いし、VOCALOIDを使って曲を作る人もいっぱい。みんなが「活舌がよくないとダメ」、「音質、音程がしっかりしてないと使いにくい」って言う話をよく聞かされていたので「とにかくいいものを作りたい、絶対作る!」という思いを持ちました。DTMで音楽制作する人を手助けするソフトなので、使いやすいものを作らなくちゃいけないなって思いで頑張りました!

ーー実際のVOCALOIDの収録の状況などについてお伺いしたいのですが、どんな感じだったんですか?
M:これまでVOCALOIDの収録現場では、みんな収録が大変そうで……。楽しそうに歌うか、苦痛そうに歌うか、そうした雰囲気はなんだかんだ製品にも反映されてしまうんですよ。だから、可能な限り楽しくやってもらいたい、精神的な負荷がなるべくないように収録したいと、伴奏をリズミカルで楽しいものにしたり、いろいろ工夫しました。
小岩井:これまでボカロをやった人に、収録について聞いたことがあったのですが、みんな「大変だった」というのが第一に出てきたんです。だから、さぞかし大変なんだろうな…と思っていました。だから覚悟しつつ、「いつ大変なのが来るのかな、いつかな、いつかな…」と思いながら収録してたのですが、「あれ?来なかった、終わっちゃった!」って(笑)。超楽しかったですよ、めちゃ面白い!声の音ゲーっていう感じ!

音ゲー感覚で楽しく収録したと話す小岩井さん。マイクはNeumann U87Ai

ーー声の音ゲー??
小岩井:「アーイマイー」みたいな言葉を定められたピッチで、しっかり活舌よく、タイミングを合わせて歌うんですが、これってまさに声でやる音ゲーみたいじゃないですか。集中してゲームに熱中してたら、すぐ終わっちゃった。たぶん、私に向いてる作業なんですよ!
M:収録は2キャラ合わせて3日間ほどになりましたが、小岩井さん、終始笑顔で、すごく楽しそうに歌ってくれたので、こちらとしてもとってもやりやすかったし、何よりもいい声で収録することができて最高でした。この「楽しそうな声」は、製品版でも感じられると思いますので、楽しみにしていてください。また、予想以上に順調に進んで時間があったこともあり、小岩井さんから「もっと録りましょうよ!」という提案をいただいたんです。それが想定外の大成功になって……。


小岩井さんの声の収録にはCubaseが用いられた

--想定外の大成功とはどういうことですか?
M:VOCALOIDの収録では、いくつかの音程で録音するのですが、最初はヒメの声から収録していき、今回もいつも通りの音程で録っていきました。ところが、小岩井さんから「もっと高い声出せます。もっと高い声のほうがかえって安定します」って。実際に歌ってもらうと、ファルセットではなく、地声のまま、より高い音が出る。普通の女性では出せない音域の歌声ですね。結果として、高音域まで音が崩れずに出せる。ほかのVOCALOIDと比較してもかなり上の音域までキレイに出せますね。

--ちなみに収録の時点では、どんなキャラクタなのか決まっていたんですか?
M:録るのと、ほぼ同時進行でキャラクタデザインをしていました。デザインはv4 flowerと同じ、△○□×(ミワシイバ)さんにお願いしました。「中の人は小岩井ことりさんですよ」と△○□×さんに伝えたところ、小岩井さんが演じている役柄などを元にしてイメージしてくれたようで、ちょうど収録直前のタイミングでラフが上がってきました。それを参考にしつつ、声のイメージを固めていきました。
小岩井:もともと2つのキャラクタだという話は伺ってみました。収録の何日か前に、キャラクタのラフを見せてもらい、片方はボーイッシュ、もう片方は女の子、という感じ、できるだけクッキリ分けたほうがいいなと思って臨みました。その時点ではまだ名前が決まっておらず、収録時はキュートとクールという名前で行っていたんですよ。

--そのラフのデザインから、すぐに声の雰囲気は確定したんですか?
M:その場、あーでもない、こーでもない、どのくらいの年齢にしようか…と、初日はほぼ声づくりに終始した感じでした。その初日に、声の雰囲気を確定させ、参考資料として、そのキャラクタの声を録音。以降はその声を聴いて、合わせていく形でレコーディングしていきました。トークのほうも、これに合わせて録音しましたよ。ちなみにトークのレコーディングはエーアイさん側のノウハウで行うため、別のスタジオで、エーアイさんのディレクターが担当する形で別途行っています。そちらも3日で終わっていて、担当の方も「小岩井さん、収録がとてもスムーズで早く終わった」と驚いていましたよ。

--実際できあがったVOCALOID 5の鳴花ヒメ、ミコト、どんな特徴があるのでしょうか?
M:ヒメはとにかく使いやすいVOCALOIDだと思います。先ほどお話した通り、高い声でも声質が変わらず、活舌もよく、誰にでも扱いやすい音源になっています。小岩井ことりさんの雰囲気がすごくよく出ているVOCALOIDだと思いますよ。一方のミコトのほうは、あえてクセのあるVOCALOIDにしようと思って作ったこともあり、使いこなすには慣れも必要かもしれません。ただ、せっかくペアのVOCALOIDなので、明らかに違う声にしたかったので、その点ではすごくうまく行っていると思いますし、ボーイッシュな声がオケから抜けて、聴き取りやすく、またヒメとの相性も抜群だと思いますよ。最近のボカロPさん達も、曲との相性を考えて、どのVOCALOIDを使うか選ぶので、これによってバリエーションも大きく広がると思います。
小岩井:曲調的にはロックな曲が合いそうですよ。収録の際、すごい変な歌い方もしたんです。しゃくり上げをしながら歌ったり、頭にアクセントを強くして歌うなど、従来のボカロの収録ではやらないという手法をいっぱい。最終日の収録では、頭とお尻の音ばっかり録っていた(笑)。


鳴花ヒメ、ミコトはVOCALOID 5の新機能をフル活用できる仕様になっている
M:実はこれ、VOCALOID 5の新機能、「アタック&リリース エフェクト」を制作するための収録だったんですよ。このアタック&リリースエフェクトは、VOCALOID5の新機能の目玉で、ヤマハさん以外のサードパーティがこのアタック&リリース エフェクトをキャラ専用に組み込むのは、ヒメ・ミコトが初めてとなります。VOCALOID5標準搭載のアタック&リリース エフェクトは、全キャラ共通で使用できるよう、歌声に反映させるパラメータに制限があるのですが、ヒメ・ミコト専用のアタック&リリース エフェクトでは、さらに小岩井さんの声質までVOCALOIDに反映させることができます。そのため、今回はUpDownなどの分かりやすいピッチ変化に加えて、我々がToneと呼んでいる、VOCALOIDの歌声に生声のニュアンスを付加するための、ピッチ変化のないアタック&リリース エフェクトを搭載しています。試しに、一曲通してヒメのCute_ToneNormal_Toneを適用してみてください。結構ビックリすると思いますよ。VOCALOID5で、これまでのVOCALOIDではできなかったさまざまな表現ができるようになっているので、ぜひ、みなさんに使っていただきたいですね。

--そのほかにも、効果音としての声の素材集も販売するんですよね。AHSさんで言うところのexVoiceに相当するものを。
M:はい、ボイスパックと呼んでいますが、1キャラクタあたり900語程度なので全部で1,800ファイルくらいをWAVファイルとして収録しています。これは、こちら側から投げたワードを、声優である小岩井さんがうまく料理してくれたほか、ちょっとDTM的なネタであったり、ネットスラング的なものもいろいろ入っているので楽しいですよ。単体販売版のほかに、VOCALOID版にはこの中から抜粋した300~400ワードくらいが、ヒメ・ミコトそれぞれに収録されています。
小岩井:たとえば「進捗どうですか?」なんていうのは、表現の違うものをいろいろ入れています。だって、こんなこと聞く時って、進捗がよくないから言っているわけで、怒っていることが多いじゃないですか!DTM的な言葉は私からもいろいろ提案させてもらいましたが、たとえば「音圧低い!」、「ミックス弱すぎ……」、「マスタリング進んでる?」、「音、硬くない?」、「ケロケロしてない?」などなど。そういえば「落ちたー!」なんてのも入ってますよ(笑)。キャラクタによって違った表現にしているんですが、ヒメは可愛いけど毒舌系でハチャメチャ。一方のミコトのほうはクールだけど少し人見知りな感じ。カッコいいけど、恥ずかしがり屋さんという感じですね。

--ところで、この鳴花ヒメ、ミコトによって、ある意味、小岩井さんの分身のようなものができるわけですよね。小岩井さんの声で、歌ったり、喋ったりさせることを誰もが可能になる。これって声優さんにとって競合を作り出すことになるのでは…とも思いますが、その点、どのように捉えているのですか?
小岩井:私はこれを自分の競合、声優の競合だとはまったく思っていません。私の声の音色が出る楽器が誕生したと捉えているんですよ。声優にとって重要なのは表現力であり、その表現性、演技性に対価をもらうお仕事だと考えています。「こういう演奏してください!」というのに対してのスタジオミュージシャンみたいなもの。だから私よりも上手に表現できる人がいれば、超えられちゃう可能はありますが、私も声優として負けないように頑張っていきますよ。


公式デモソングは小岩井さんのほかに左から、れるりりさん、seeeeecunさん、かいりきベアさんが制作している

ーー最後に、今回のデモ曲の制作についてお伺いしたいのですが?
小岩井:実はもともと温めていた曲があって、イメージ的にも鳴花ヒメ、ミコトに合うなと思いから作りこんでみました。ちょっと和な感じもあって、いいんじゃないかな、と。せっかく自分の声のVOCALOIDなので、コーラス部分は人間の私が歌うのもいいかなと思って重ねてみました。今後は、みんなが作った曲を歌うライブなんかができたらいいな…と夢見ているところです。ぜひ、多くのみなさんに使っていただければと思っています。

【関連情報】
ガイノイドWebサイト
VOCALOID版製品ページ
ガイノイドTalk版製品ページ
【価格チェック&購入】
●パッケージ版
◎Amazon ⇒ VOCALOID 鳴花ヒメ・ミコト
◎Amazon ⇒ ガイノイドTALK 鳴花ヒメ・ミコト
●ダウンロード版
◎Amazon ⇒ VOCALOID 鳴花ヒメ・ミコト
◎Amazon ⇒ ガイノイドTALK 鳴花ヒメ・ミコト
◎Amazon ⇒ 鳴花ヒメ・ミコト ボイスパック

※2019.4.1追記

DTMステーションPlus!第127回特集「VOCALOID™️鳴花ヒメ・ミコト」

4月9日放送のDTMステーションPlus!では、小岩井ことりさんをゲストに鳴花ヒメ・ミコトを特集します。ぜひご覧ください。
4月9日 20:30~22:30
【ニコ生】https://live.nicovideo.jp/gate/lv319255607
【YouTubeLive】https://youtu.be/LW05qsgTPmQ

 

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