Steinbergが32bitINTEGER/384kHzの業界最高クラスのオーディオインターフェイス、AXR4Tをリリース

SteinbergURシリーズUR-RTシリーズの上の製品と位置付ける業界最高クラスのオーディオインターフェイス、AXR4Tを発表し、今年春に発売するとアナウンスしました。YAMAHAとSteinbergが共同で開発したAXR4Tは1UラックマウントタイプのThunderbolt2接続のオーディオインターフェイスで、オープンプライス。実売価格は25万円前後になると予想されています。

分解能が32bitINTEGERで、サンプリングレートは384kHzという驚異的なスペックで、PC側から見ると28in/24outという仕様。さらに4つのデジタルとアナログのハイブリッドマイクプリアンプを搭載するとともに、フレキシブルなミキサー機能、DSPエフェクト機能を内蔵するなど、まさにSteinbergのフラグシップ製品となっています。正式発表前に行われたプレス向けの内覧会で見てきたので、まずは速報という形で紹介してみましょう。


Steinbergのオーディオインターフェイスのフラグシップモデル、AXR4T

Steinberg製品としてはUR824以来久々の1UラックマウントタイプのオーディオインターフェイスとなるAXR4T。同じ1Uラックマウントといっても、UR824とはランクが大きく異なるようで、スペック的にも設計的にもAXR4Tのほうが断然上。

AXR4Tは1Uのラックマウントのオーディオインターフェイス

また実物を見ると、同じ1Uラックマウントといっても奥行きもあって高スペック機材の風格を感じさせられます。やはり高スペック機材であるだけに、いろいろな回路が入っている……ということなのだと思いますが、AXR4Tがどんなものなのか、もう少し具体的に見ていきましょう。

実物を見てみると、奥行きがあって、結構大きめだった

まずAXR4Tの最大の特徴というか、ほかのオーディオインターフェイスと決定的に違うのが32bitINTEGER/384kHz対応であるという点です。でも、これは何を意味しているのでしょうか?イメージ的には、この図のようにより解像度が高くなった、ということなのですが、「32bitINTEGERって何?」、「384kHzだと何がいいの?」という方も少なくないと思うので、ごく簡単に解説しておきましょう。

16bit/44.1kHzと32bit/384kHzの違いを表すイメージ図

まずわかりやすいのがサンプリングレートが最高で384kHzであるということについて。URシリーズ、UR-RTシリーズを含め、世の中の多くのオーディオインターフェイスでは最高192kHzとなっています。このサンプリングレートでレコーディングすれば、最高でその半分の96kHzの音まで録ることができることを意味します。もっとも医学的には人間の耳が感知できるのは20kHz程度と言われているので、かなりオーバースペックともいえますが、ハイレゾではそれを遥かに超えるものを実現させているのです。

URシリーズ、UR-RTシリーズと比較したAXR4Tの位置づけ

そしてこのAXR4Tではその倍のサンプリングレートの384kHzだから最大で192kHzの音までレコーディングできてしまうということなのです。

一方の32bitINTEGERとは何なのか?単に32bitというのとどう違うのでしょうか?実は一言で32bitといっても32bitINTEGERと32bitFLOATの2種類があります。INTEGERとは整数、FLOATとは浮動小数を意味しており、整数の場合は文字通りで

0~4,294,967,795

までの数字を表現することができるようになっています。

一方のFLOATのほうは整数部と指数部に分かれており、無限に小さい音から無限に大きい音まで表現できるけれど、音の細かさという意味では23bitに相当するものなのです。詳細については以前、AV Watchで「ハイレゾで注目の「32bit-float」で、オーディオの常識が変わる?」という記事を書いたので、そちらを参考にしていただきたいのですが、AXR4Tは、それだけ細かな音の表現までできるということなんですね。

AXR4Tのリアパネル

もっとも、この性能を活用するには、それに対応したソフトが必要となるわけですが、現行のNuendo 8、Cubase 10、WaveLab 9.5の場合、32bitINTEGERにも対応しているので、AXR4Tの解像度を最大限に引き出すことが可能です。もっともCubaseのサンプリングレートは192kHzまでなので、AXR4Tはその性能を超えるところまでを実現するオーディオインターフェイスというわけなのですが…。

2つ目の特徴となるのがハイブリッドマイクプリアンプです。AXR4Tにはフロントに4つのマイク入力があり、ここには4つ独立したマイクプリアンプが搭載されていいます。これがアナログ部とデジタル部で構成されるという、非常にこだわった設計になっているのです。アナログ部はYAMAHAの理念「ナチュラルサウンドの追求」のもと、アナログ回路のじゅうような要素を慎重に検討し、測定・検証を繰り返し、最終的に社内外のエンジニアで徹底的に評価してサウンドを調整したとのこと。

一方のデジタル部はRupert Neve Designs社のトランスフォーマー(トランスのことですね)とSILKプロセッシングをYAMAHA独自のモデリング技術VCMテクノロジーを使用して正確にモデリングしているとのこと。UR-RTシリーズではトランスフォーマー自体をアナログ回路として、そのまま搭載していたけれど、AXR4TではVCMテクノロジーでモデリングしているんですね。

ちなみにSILKプロセッシングとは必要な倍音成分とトランスフォーマーのサチュレーション効果をコントロールするための回路。このAXR4TではBLUEとREDの2つのモードを持っており、BLUEでは中低域の倍音成分を強調し、REDでは中高域の倍音成分を強調するため、録ったときの音の雰囲気に結構大きな差が出てくるようです。

ちなみにVCMテクノロジーについては、先日YAMAHAのK’s Labに関する連載で3回の記事を掲載しているので、そちらも参考にしてみてください。

さて、前述の通りこのAXR4TはThunderbolt2対応のオーディオインターフェイスであり、PC側からは28in/24outとして見えるのですが、この点についてももう少しチェックしてみましょう。当然、AXR4Tには専用のドライバがあるのですが、リリース当初はMac専用になる模様です。ただ数か月以内にはWindows版も登場するとのことなので、Thunderbolt2またはThunderbolt3を搭載したPCであれば、何でも使えそうですね。

Thunderbolt2で接続するオーディオインターフェイスとなっている

また物理的にアナログの28in/24outの端子が搭載されているわけではないのですが、AXR4T内部にヤマハカスタムメイドのDSPXチップが搭載されており、内部的に28×24マトリックスのミキサーを装備している格好です。これにより入力信号やDAWの出力をミックスバスにルーティングするなど、レイテンシーフリーのシステムが構築できるようになっています。

AXR4Tに内蔵されているDSPXチップ

実際の操作としてはPC側にインストールしたdspMixFx AXRアプリケーションを使うことでミキサー、マトリックスミキサー、メーターなどのウィンドウですべての設定をコントロールし、レベルやルーティング状況を常に把握することが可能。

dspMixFx AXRアプリケーション

そして、これらの設定はシーンごとして保存し、後で自由に呼び出せるようにもなっているのです。

dspMixFxで設定したシーンを保存して管理できる

さらにもう一つの目玉となるのがAXR4Tに搭載される4つのプレミアムDSPエフェクトです。具体的には

・EQUALIZER601
・COMPRESSOR276
・REV-X
・SWEET SPOT MORPHING

のそれぞれ。このうちREV-XおよびSWEET SPOT MORPHINGについては、UR242以上のURシリーズおよびUR-RTシリーズにも搭載されていたリバーブおよびチャンネルストリップです。それに対しEQUALIZER601およびCOMPRESSOR276は、RIVAGE PMシリーズなどのYAMAHAのコンソールで定評のあるEqualizer601やComp276を移植したもの。

EQUALIZER601

EQUALIZER601は70年代から人気のあるイコライザーを再現し、その独特の歪み特性を備えた特徴的なEQ。COMPRESSOR276はレコーディングスタジオなどでよく使用されているアナログスタイルのコンプレッサを再現したもの。いずれもVCMテクノロジーを用いたシステムですね。これらは、AXR4TのDSPで動作するほか、それぞれのVSTプラグインバージョンもバンドルされており、PC内で同様の音作りをすることも可能になっています。

COMPRESSOR276

以上、AXR4Tについて、その発表会での情報を元に紹介してみました。また、実機を使う機会があれば、さらに詳細などをレポートできれば、と思っております。

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