チップチューンの定番音源として幅広く使われているファミコン風のUIを持つフリーウェアのファミシンセII。そのファミシンセIIがver.3.0にバージョンアップするとともに、これまでのWindowsのVST2 32bit環境だけでなく、WindowsのVST3 64bit版が登場。さらにMac OSのAudio Unitsにも対応となりました。
作者であるmu-stationことKiyoshi Murai(@mu_station)さんは、このファミシンセの新バージョンと同時に、Minimoog風のnanoogの新バージョン、さらにパイプオルガンの音の音源ながら、1オクターブ上の音に達すると、元の音に戻ってしまう不思議な無限音階音源、mu-GENも発表。いずれもWindowsおよびMac環境で動くフリーウェアとなっているのです。mu-stationさんのWebサイトのリニューアルに合わせての公開とのことですが、実際どんなものなのか簡単に紹介してみたいと思います。
ファミシンセII、nanoogの新バージョンとmu-GENの3つの音源がすべて無料で公開に
実はゲーム系音楽家としても知られるmu-stationさんが開発したファミシンセは、チップチューン音源として日本国内はもちろん海外でも幅広く使われてきました。UIがファミコン風で、いわゆる8bitサウンドをいろいろ変化させて鳴らせる音源。しかもフリーウェアとしてリリースされていただけに、アマチュアからプロまで、世界中多くの人に使われてきたのです。
海外のレビューサイトが2011年に作っていた2分のビデオがあるので、これをご覧になると、どんな音が出る音源であるのか分かると思います。
このビデオでは、いろいろなパラメータを動かしていましたが、ファミシンセIIが多くの人に受け入れられていたのは、こうしたパラメータを動かさなくてもプリセットを選ぶだけで、さまざまな音を簡単に使えてしまう、という点。さまざまといったって8bitサウンドなので、限られた音しか作れないのですが、それでも当時のテクニックを駆使した音を簡単に再現できるというも多くの人に受け入れられていたポイントでした。
プリセットでさまざまな音色に簡単に切り替えられるのも魅力のひとつ
そのファミシンセIIが今回久しぶりにバージョンアップしてver.3.0になり、これまでのWindows専用のVST 32bit音源から、現行DAWで使える音源へと進化したのです。具体的にいうと
・Windows用 VST3対応64bit版
・Mac用 Audio Units版
・Windows用 VST2対応64bit版
・Windows用 VST2対応32bit版
のそれぞれ。メインとなるのは上記2つであり、VST2版については、SteinbergのVST2終了宣言があったことから2018年12月までの暫定公開とのことです。またMac版は普通に動作していましたが、試験的なリリースであるとのことです。
新たに搭載されたPAGEボタンを使うことで細かな音色エディットも可能に
それぞれのインストール方法についてはmu-stationさんのサイトに詳しく書かれているので、ここでは割愛しますたが、今回のバージョンアップでは、このように新しいDAW環境で使えるようになったことのほかに、新たに追加されたPAGEボタンを押すと、サウンドをより細かく編集できる機能が追加されています。
Windows版のファミシンセIIは普通にインストールすると、グレー画面のUIになってしまう
が、ひとつ困ったことがあります。それがWindows版においてファミシンセIIを起動すると、グレーUIの画面になるんですよね。そう、これは海外版のファミコン、いわゆるNESをイメージするものとなっています。従来のファミシンセIIでは、ファミコン風のFAMスキンとNESスキンの切り替え機能があったのですが、それがなくなってしまい、NESスキンしか出てこないのです。
※2018.11.21追記
作者のmu-stationによると、ver.3.0公開時のバージョンにおいて初期状態でNESスキンになるのはミスだったとのこと。現在ダウンロードできるバージョンでは、FAMスキンで起動する形になっています。
一方、MacのAU版をStudio Oneで起動してみたところ、こちらはFAMスキンで出てくるのでWindows版だけがNESスキンとなっているんですよね。mu-stationサイトを見ると「一方、これまであったFAMスキンとNESスキンの切り替えはできなくなっています。 (しかし、裏技アリマス!)」と書かれています。ん、裏技ってなんだ?と思ってインストーラーを見てみたら、すぐに分かりました! このインストーラーには
_famisynth__background.png
famisynth__background.png
というファイルが入っていて、これらがFAMスキンとNESスキンとなっているんですね。そして、famisynth__background.pngというほうが起動時に使われるようになっており、__famisynth__background.pngは無視されてしまうのです。
ファイル名をリネームすることで、FAMスキンとNESスキンを入れ替えることができた
つまり、Windowsの「名前の変更」機能を用いて、このファイル名を逆にしてしまえばいいわけです。まあ、逆にするのが難しいようなら、いったん、famisynth__background.pngを適当な違うファイル名に変更してしまい、_famisynth__background.pngをfamisynth__background.pngとすればいいわけです。こうすることで、ちゃんとWindowsでもFAMスキンで表示されるようになりますよ。
※2018.11.21追記
11月21日に公開されたバージョンでは、標準のfamisynth__background.pngのほかにFAMスキンのFAM_famisynth__background.pngおよびNESスキンのNES_famisynth__background.pngが同梱されているので、必要に応じてリネームすることで使うことができまるようになっています。
さて、このファミシンセIIと同時にver.3.0にバージョンアップしてWindowsのVST3 64bit対応、MacのAudio Units対応したのが、nanoogというシンセサイザ。これを見るとわかる通り、Minimoog風のものなのですが、Minimoogよりもパラメータが少なく、より誰でも簡単に使えるアナログシンセ・エミュレータとなっています。
ファミシンセIIとともにver.3.0にバージョンアップしたnanoog
これもプリセットで音色が選べるし、シンセベースなどは結構ずぶといサウンドが出せるので、なかなか使えます。また今回のバージョンアップではエフェクト機能が強化されて、ロゴプレートを押すと、フランジャー、コーラス/ディレイ画面に切り替わるようになっています。
nanoogと書かれたプレートをクリックするとエフェクト画面が現れる
さらに、このタイミングでもう一つ新たに登場したのが無限音階オルガン、その名もmu-GENというもの。みなさんは無限音階ってご存知ですか?これは実際に、このオルガンを弾いてみるとわかりますが、人間の錯覚を利用した(?)不思議な音源なんです。
そう、「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」と弾いていって、次に最初に引いた「ド」を鳴らしても違和感なく高い「ド」のように聴こえてしまう……というもの。だから鍵盤は1オクターブ分しかないんですが、それで事足りてしまうんですね。倍音構成をうまく調整することで、そんな不思議なことを実現しているんですね。これもWindows、Macともに利用できるようになっているので、ぜひ試してみてください。
ちなみにmu-stationさんによると、今回VST3版やMacのAU版をリリースした背景には、これらを作るのに利用したフリーウェアの開発ツール、SynthEditがVST3やAUに対応したことがあるとのこと。そのSynthEditのAU版がまだベータ的な扱いであるから、ファミシンセIIなども試験的リリースという扱いのようですね。
とはいえ、とくに問題なく使えていますし、何よりmu-stationさんが無料で公開してくれているソフトですから、ぜひ、みんなでありがたく使わせていただきましょう!
【関連情報】
mu-stationさんサイト